1周年記念SS ランキング作成人の平凡な日常

(頭痛い……)

朝、目が覚めて真っ先に脳裏に浮かんだ言葉がそれだった。
昨日はたしか、黒井先生に誘われて飲みに行って……。どれだけ飲んだんだっけ?
5杯から先は覚えてないや。まあ、ちゃんと家に帰ってきたのはおぼろげながら覚えてるんだけど。

「おい、そろそろ起きないと会社やばいんじゃねえの?」

ベッドの上で悶えていると、ドアを開けて学ランを着た少年が部屋に入ってきた。
俺の同居人の一人、杉田空気王だ。

「ほら、これ飲め」
「あ、ありがと」

空気王が渡してくれたのは、二日酔いの薬だった。早速ふたを開け、一気に飲み干す。

「飯はNIKUが用意していったから。俺は部活の朝練なんで、もう出るぜ」
「わかった……って、ちょっと待て。お前文芸部だろ。なんで朝練なんてあるんだよ」
「あー、うちの部は本気でプロの物書き目指してるから。偉大なる菫川先輩に続け、ってね」
「なんという体育会系文化部……」
「まあそんなわけで、先に行くぜ。遅刻するなよ」

そう言い残し、空気王は部屋を出て行った。さて、俺も朝の準備を整えないとな。
俺は布団から出て、空気王を追うように部屋を出る。そしてリビングに向かうと、そこにはまだほんのりと熱を放つ牛丼が置かれていた。

「朝から牛丼……。ヘビーだな……」


◇ ◇ ◇


飯を食べ終え、服を着替えて家を出る。よし、どうにかいつも通りの時間に出勤できそうだ。

「やふー。サクさん、おはよー」

バス停でバスが来るのを待っていると、セーラー服に身を包んだちっこい女の子が挨拶してきた。
彼女は泉こなたちゃん。近所に住んでいる女の子で、こう見えても高校生だ。

「いやー、昨日はうちの黒井先生が飲ませ過ぎちゃったみたいでごめんねー」
「え? なんでこなたちゃんがそんなこと知ってるの?」
「昨日の夜、先生がぐでんぐでんに酔っぱらってネトゲにログインしてきてさー。
 明日も学校なんだから早く休みなさい、って説得してすぐにログアウトさせたんだけどね」

何やってるんだよ、黒井先生……。生徒に説得されるなんて……。

「で、昨日はなんかフラグの進展あった?」
「は?」
「だから、二人っきりで飲んだんだから何かイベントでも発生しなかったのかなー、と」
「……こなたちゃん、現実とギャルゲを一緒にするのはよくないよ」
「まあ、それはそうなんだけどねー。けど、いい年頃の男女が二人きりだよ?
 何もないほうが不思議じゃない?」
「何もないって」
「本当かなー?」
「あ、バス来たよ」

ふう、正直助かった。俺は逃げるようにして、バスに乗り込むのだった。


◇ ◇ ◇


「それで、臭くってさー」
「うんうん、臭いよねー」

バスの中。こなたちゃんは途中で乗ってきた友達とおしゃべりに夢中になっている。
俺はというと、先日買った「孤城の主」という小説を読んでいた。
うーん、さすがはベテラン作家「地球破壊爆弾」の作品。ついつい引き込まれてしまう。
そんなわけで読書に集中していた俺だが、突然かけられた急ブレーキで現実に引き戻されてしまう。
いや、突然じゃなければそれは急ブレーキではないのだが。まあ、それはどうでもいい。

「なんだ?」

思わず、間抜けな声が口から漏れる。バスのフロントガラス越しに前を見ると、そこには路上に設置された「緊急事態につき通行禁止」の看板があった。
それを囲むようにして、十字架をあしらったヘルメットが特徴的な重装備のお兄さんたちが立っている。
あのヘルメット、たしか特殊部隊「SPIRITS」の装備……。なんで超がつく精鋭部隊が、こんな町中に出張ってるんだ?
なんかとんでもない事件でも起きてるんじゃ……。
そんなことを考えていると、SPIRITSの隊員が一人バスに乗り込んできた。
彼の説明によると、研究用に日本に持ち込まれた「赤ヨッシー」という珍獣が逃げ出して暴れ回っているそうで。
説明が終わるとほぼ同時に、「でっていうーっ!」という奇妙な鳴き声と、人間の悲鳴がバスの中まで届く。

「滝隊長! 負傷者20人越えました! そうとう強いですよ、あいつ!」

少しすると別の隊員がやってきて、どうやら隊長だったらしい最初からいた隊員に報告した。
あのSPIRITSが苦戦するなんて……。本当にすごい生物らしいな。

「ちっ、何やってやがるんだよ、天下のSPIRITSが!」
「そうはいったって、僕ら猛獣の捕獲は専門外ですよ。殺していいなら今すぐにでも片づきますけど、生け捕りは慣れてませんから……」
「言い訳は後で聞く! いいか、ギャバンもこっち向かってる! 自分たちでケリ付けられないなら、せめてそれまでは保たせろ!
 死んでも民間人には被害出すんじゃねえぞ!」

部下を怒鳴りつけながら、隊長はバスを降りていった。
こういう人たちの努力で、我々の平和な生活は守られているんだよなあ……。感謝しないとね。


◇ ◇ ◇


結局、俺は会社に遅刻してしまった。ただ珍獣脱走のニュースはすでに会社にも届いていたようで、軽く事情を説明したらお咎め無しで済ませてくれた。
ルイージ係長への報告を終えて自分のデスクにつくと、隣の席の長門さんが話しかけてきた。

「朝からお疲れ様」
「いや、別に俺が何かした訳じゃないし……って、あれ?」

そこでふと、俺はあることに気づいた。

「長門さん、メガネ変えた?」
「それに何か不都合でも?」
「いや、そういう訳じゃないけど……。けど、いつも顔合わせてる人の様子が変わったら気になるじゃない」
「……いつものメガネは、涼子が壊してしまった。修理は容易だが、たまには気分転換にいいかと思って今日はスペアのメガネをかけてきた」
「奥さんに? 夫婦げんかでもした?」

珍しいな、夫婦仲いいのに。しかしここの夫婦げんかって、すごいことになりそうだなあ。
などと考えていた俺だが、長門さんから返ってきた答えはまったく想定外のものだった。

「いや、昨夜寝室で涼子に押し倒されて……。その拍子に……」
「そ、そう……」

一気に、その場の空気が気まずくなる。……仕事しよう、うん。


◇ ◇ ◇


昼休み。俺は同僚の6/と二人で、昼食を摂るために街をぶらついていた。

「で、どこで食べる?」
「言峰亭でいいんじゃねえか?」
「いや、あそこは辛すぎて……。俺は別に辛党じゃないんで」
「そうか、じゃあ衛宮食堂にしておくか?」
「それでいいよ」

というわけで、会社の近くの大衆食堂にやってきたのだ。
さすがに、昼飯時とあって店内に人が多い。ツナギを着たいい男やら、全身黒ずくめの怪しい紳士やら、客層も様々だ。

「セイバー! 客に出す料理をつまみ食いするなって、何度言ったらわかるんだ!」
「そうはいっても士郎、お腹が空きました」
「お前の分は別に作ってやってるだろ! お客の分に手を出すんじゃない!」

料理人と店員のいつもの会話を聞き流しながら、幸いなことに空いていた席に腰を下ろす。
店内に置かれたテレビに何気なく視線を向けると、「南夏奈・相羽シンヤ結婚か!?」などというニュースが流れていた。
仮面のコメンテーターが「それも私だ」とコメントし、となりのバb……美女に「意味わからないでしょ」とつっこまれている。
正直、あまり興味がないのでさっさと意識を切り替えることにする。

「何喰う?」
「そうだな……。日替わり定食にしておこう」
「じゃあ俺は、鯖のみそ煮定食にしよう。すいませーん」
「ほら、注文取ってこい、セイバー」
「まだお腹がいっぱいになってません」
「後にしろ!」

渋い顔で注文を取りに来る店員に、俺たちは注文を告げる。そして料理が来るまでの間、当然のように雑談をかわすことになった。

「そういや6/って、結婚してるんだよな? 愛妻弁当とか作ってもらわないの?」
「うーん、作ってもらえれば嬉しいんだけどな……。うちの奥さん、学生と主婦の両立やってるからな。
 できる限り負担は減らしてやりたいんだよ」
「あー、そうか。奥さん高校生だっけ。よく結婚なんて決意したな」
「まあ、それだけお互いの愛が深かったってことさ」
「はいはい、飯食う前にのろけ話でお腹いっぱいにしないでくれよ」
「そういうお前は、いい相手とかいないのか? 昨日、女と二人で歩いてるのを見たって話を聞いたけど」
「い、いや、あの人はただの友達だから……」
「お待たせしました、日替わり定食と鯖のみそ煮定食です」

ふう、助かった。いいところで料理が来てくれた。それじゃあ、いただき……あれ?

「なんか……ご飯の量が妙に少なくないか?」
「店員さん……。そのほっぺたについてるご飯粒は……」
「これは……ファッションです」


◇ ◇ ◇


夕方。なんとか無事に仕事を終わらせ、帰路につく。珍獣騒動は一応解決したようで、通行止めになっていた道は普通に通れるようになっていた。
SPIRITSの皆さん、ご苦労様です。なんか「赤ヨッシーは私が倒した」とか言っている銀色の肌の人がいたが、無視しておいた。

「お帰りなさい。今日も一日、お仕事お疲れ様です」

家の玄関をくぐると、ピンク髪巨乳の女の子が俺にねぎらいの言葉をかけてくれた。

「空気王か……。未だに慣れないな、お前の変身には」
「こういう体質なんですから、仕方ありませんよ。確かに、自分の意思で変化をコントロールできないのはちょっと大変ですけどね」
「ちょっとなのか……? まあいいや。それより、もう晩ご飯作ってるのか? いい匂いするけど」
「ええ、僕がカレーを作りました」

そう言いながら、奥からエプロンを付けたさわやかな青年がやってきた。
こいつがもう一人の同居人、29NIKUマニアだ。

「おお、そうか。悪いな、NIKU。お前も疲れてるだろうに」
「いえ、お気になさらずに。もうできてますんで、早速夕食にしましょうか」
「ああ、ちょっと待ってくれ。着替えてくるから」
「わかりました」

というわけで、数分後。私服に着替えた俺は、二人と一緒に食卓を囲んだ。

「へー、イチローがランニングホームラン2本か。さすがだな」
「これでも全盛期には及ばないというのですから、恐ろしいお方ですね」
「何せボール一つでアンチ=スパイラルを倒したそうですからね……」
「あくまで噂だけど、プロスポーツ界を裏から支配しようとしてたなんとか団って組織を一人で壊滅させたって話もあるからなあ」

ニュースを見ながら、俺たちは雑談をかわす。うん、すごく平和な時間だ。
今日も一日、無事に過ごせたなあ……。まあ、事件に巻き込まれかけはしたが。
いちおう自分に実害はなかったし。
明日も明後日も、こんな平凡な日々が続くことを願おう。


……え、オチ? いやだなあ、そんなものあるわけないじゃないですか。
あくまでこれは、平凡な日常なんですから。

END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年04月27日 22:20
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。