ここはパロロワ学園の生徒会役員室。
毎日放課後になると生徒会の役員が集まって雑事をこなしたりただ単にだべったりしている。
ここの副会長である僕は、今日も副会長席に腰掛けてキノコをかじりながら会長席に座った眼鏡をかけたツンデレっぽい顔をした男子生徒と、僕の向かいに座ったツインテールのどう見てもツンデレなもう一人の副会長が書類に目を通すのを眺めていた。
「……つーか、根本的な疑問なんだが」
会長席に腰掛けた男、すなわちこの学校の生徒会長であるところの6/が書類から顔を上げて嘆くように言う。
「なんで俺がここの生徒会長なんかやってるんだ?」
「そりゃあ、うちの生徒会はクロススレで出番が多かった上位のキャラが入る仕組みだからよ」
副会長のニコかがみが答える。
「なんだそのどっかのラノベみたいなシステムは」
「私だってそりゃ面倒だけど、そうなってるんだから仕方ないでしょ。それより今日中にこの書類全部目を通してよね。あとで生徒会顧問の先生先生に報告しないといけないんだから」
「設定上仕方ないとはいえ、その『先生先生』って呼び方もどうにかならんのか?」
軽くため息をついて再び書類に目を落とす6/。
「ところで、今お二人は何の書類を見ているんですか?」
書記席に座ったつるぺったん……失礼、
岩崎みなみが口を開いた。
そういえばそれは僕も気になるところだ。かじりかけのキノコを机の上に置いて机の上に身を乗り出す。
「これはうちの学校の各部活からの生徒会への嘆願書よ。生徒数が多いだけに部活の数も半端じゃないわね……読むだけで日が暮れそう……」
「全くな。どこもかしこも勝手なことばっかり書いてるし。そっちの書類には何の部活が何を書いてるんだ?」
6/がニコかがみに問いかけた。
「ああ、じゃあ一つずつ読んでいくわね。まずは野球部から。『練習時間をもっと確保したいので、グラウンドを早朝だけでなく放課後も使えるようにしてください。なお、この要求が受け入れられなければ地球を滅亡させます』」
「あそこの部長は本当にやりかねんからな……なんとかしよう。全人類のために」
6/はホワイトボードに走り書きのようにメモしていく。本来そんなのは書記の役目なのだが、この会長は岩崎さんにはやたらと甘いのだ。
「次はカラオケ同好会から。『もっと大声で歌わせろ!!というか、昼休みは俺たちに放送室を貸し出して、俺たちの歌声を学校中の生徒が聞けるようにしな!!』」
「却☆下」
即決だった。
「あそこにどんな連中が集まってるかは説明するまでも無いだろう」
「まあね。じゃあ次、犯罪研究会から。『今回俺たちが狙うお宝はバビロニアに眠る英雄王の秘宝だ。ひいては資金としてほんの数百万ほどを部費として計上させて欲しい』」
「通るかそんなもん!! つーか、犯罪研究会って実際の犯罪者の集まりかよ!!」
「なおこの嘆願書の裏にはこんなことが書かれているわね。『我の宝に雑種如きが手を触れようとは言語道断。生徒会としてこの雑種どもをなんとしても食い止めよ』」
「あんたは自分で止めに行ったほうが早いだろ、と言っといてくれ」
「続いて料理研究会。『人肉入りCHANKOの材料を買うためのBUHIを増やして欲しい』」
「一体どこに買い付けに行く気だよあんたは!! つーかあんたは相撲部に入れよ!!」
「これは空気部から。『存在感をください』」
「知るか。そもそもなんでその部活存在を認められてるんだよ」
「いや、うちには他にも結構珍しい部活あるわよ。柊姓の生徒ばかりが集まる柊部とか」
「それ、今日で解散な」
「あと王ばかりが集まる王様部、不死者ばかりが集まるゾンビーズ、説明不用の
ズガン部に女装部に支給品部」
「カオスだ……」
僕としてはなんでゾンビーズだけ他とちょっと違う名前の付け方なのか気になったが、6/会長はもはや個々の突っ込み所には突っ込まずにホワイトボードを前にして唸っている。
これはあまり良くない兆候だ。この会長が真面目に考えてアイデアを出して、それで事態が好転した試など無い。
むしろすることが全て裏目裏目に出る男、それが6/クオリティ!!
「あの……」
そんな不穏な空気を感じ取ったのか、書記の岩崎さんが手を上げる。
「良かったら、私にも書類を見せてくれませんか? きっと、手分けしたほうが早く終わります」
それは確かにいい案だ。
「あ、じゃあ僕も手伝いますよ」
そう言って椅子から立ち上がろうとした時、誰かが生徒会室の扉を叩いた。
「すいません、郵便なのですよ~☆」
配達係(うちの学校はとにかく広いため、郵便物は一旦学校に届けられたあとでそれぞれのあて先の生徒や先生のもとへ直接運ばれるのだ)の梨花ちゃんが運んできてくれたものを見て、生徒会室の一同は目を疑う。
量にしてダンボール三箱分。
しかも代引きだった。
しかもしかも、その料金は生徒会の予算から支払われていたことが梨花ちゃんの証言により判明した。
「で、だ」
会長が今にも覚醒しそうなヤバイ目で全員を見渡す。
そう、生徒会室に届けられたということはこれらを頼んだのは生徒会の誰かということになるだろう。
しかし僕にはもちろん心当たりは無いし、他のメンバーも同じようだった。
そもそも、こんなことをしそうな役員で心当たりがあるのは……そして、生徒会の金を自由に使える、つまり『会計』という立場にいる人間といえば……
全員の予想が一致したのだろう。僕たちは目配せで互いの想像が自分のものと同じであることを確認する。
そして完全に意思が統一されたタイミングを見計らうかのように、生徒会室の扉が開いて五人目の役員が入ってきた。
「おーっすみんなー!! あれ、なんかあった……の……」
生徒会会計カオスかがみは、そのダンボール箱を前にして笑顔を凍りつかせた。
その後、カオスかがみは6/・ニコかがみ・みなみの三人に囲まれて床に正座させられた。
その後頭部を上履きで踏みつけながら6/が、今にも螺旋力に目覚めそうな気迫で静かに声を絞り出す。
「ほーお? つまりこの荷物はお前が注文したもので間違いなんだな? つまり、お前は生徒たちから集金した生徒会の金を使って、とらの○なの通販でエロ同人をこんなに大量に買い漁ったわけだな?」
「は、はい、おっしゃるとおりで……」
明らかに形勢がヤバイのを自覚しているのだろう、カオスかがみはさっきから平身低頭である。
ちなみに僕はというと、そんな模様を第三者として観察していたほうが楽しいので副会長席に戻ってキノコをかじりながら成り行きを見ている。
「しかもその内訳は半数がこなかが本、残りはつかかがとみさかが本、およびかがみ総受け!! どこまで変態なんだお前!!」
「ホント、自分が出てるエロ同人を買い漁るなんてどこまで頭おかしいのよ」
ニコかがみは特に怒り心頭のご様子である。
「そ、それは……なかなか実現できない妄想をせめて同人誌で楽しもうと……」
「「「死ねばいいのに」」」
「ぐはあああああああああああああ!!」
三人から一斉口撃を受けて流石にヘコむカオスかがみ。
「で、でもでも自分のためだけじゃないのよ!! ちゃんと6すら……いや、会長のことも考えて!!」
カオスかがみはヨロヨロと立ち上がると、机の上に山のように詰まれた同人誌から一冊を取り出して6/に手渡した。
その表紙を見た6/の顔が見る間に変わっていく。
「こ、これは、いまやレア物になったみなみのエロ同人誌!! なんでこんなものが……」
「あの、たまたま中古同人のコーナーで見つけて……前に会長が欲しがってたのを思い出して、それで、その……」
顔を真っ赤にしながら、どこか恥らうようにつぶやくカオスかがみ。こんな状況じゃなかったらそれなりに萌えると思うのだが……
一方の6/のほうはというと……カオスかがみ以上に顔を真っ赤にすると、腰に手を当ててそっぽを向きながら言った。
「ま、まあ今回だけは許してやろう。こ、今回だけだからな!!」
「ちょっと、そんなことで許すのかよ!!」
ニコかがみが抗議の声を上げるが、
「うるさいうるさいうるさい!! 今回の件は不問とする。あ、あと、俺を呼ぶときは『会長』じゃなくてちゃんと『6/』って呼べよな。俺が呼べって言ってるんだから!!///」
6/だってあんたの本名じゃないだろ、と思わなくも無かったが、会長裁量により今回はカオスかがみにはお咎めなしとなったようだ。
これにて一件落着……と言いたいところだが。
「あのさあ6/会長。あんまり本人がいる前でエロ同人を広げて見ないほうがいいわよ……ってもう遅いわね」
そう、会長が気が付いたときにはすでにその背後にみなみが立っていた。
「会長……少し二人だけでお話しましょうか……」
「ま、待て、これにはだな……おいお前ら、見てないで助けろって!! 特にカオスかがみ!! って……い、イヤぁぁぁぁぁぁぁ!!」
みなみに引き摺られるようにして生徒会室を出て行った6/を見送って、俺とニコかがみは顔を見合わせて嘆息した。
ともあれ、今日も我がパロロワ学園は平和である。
最終更新:2009年04月19日 17:22