とある司令官の戦闘記録

「行くのか」

目の前を歩いていた少女に一声かける。
立ち止まった彼女は姉譲りの長髪を揺らして振り返った。

「行くけどそれがどうしたんだよ」

頭の上に乗ったホイップが揺れた。
この戦いが始まってからというものの、彼女はいつも前線へと駆りだされているのだ。
いつも一緒にいた身からすれば、彼女の仕草が見れなくなってしまうことには抵抗がある。

「なんとか言えよ、こっちは急いでいるんだ」

銀髪の少年は少女と共にいると自然と気分が高揚した。
アドレナリンの分泌が加速し、考えるという作業自体に楽しいという感情を覚えてしまう。
その感覚が当分味わえなくなってしまうのは禁煙に似たようなものだ。

「いや、なんでもない」

だが分けるべきところは分けなければならない。
自分達のプライベートはここまで。
以後は軍のため、隊の勝利のための時間だ。
少年は司令室のドアに向いてドアノブに手をかけようとするが、その手に少年よりも白く、小さな手が添えられる。

「心配しなくても終わったらすぐ帰ってくるって。
お前は心配しすぎなんだよバカ野郎」

少女は手を離し、入り口へ向かって歩いていく。
今すぐにでも追いかけてしまいたいが、生憎自分に課せられた役割は司令官。
兵隊である彼女とはいるべきところが違う。
やかましく鳴り続ける基地の警報音をBGMにして持ち場につくことにした。


「葉隠覚悟、そこの周辺にほとんど敵は残ってはいない。
そこから3時方向にて交戦しているゴエモン(レゲーロワ)に加勢してやれ」
『承知した!』

電子画面の多数の光点を見て、そこから戦況を判断して指示を出していく。
赤い光点は敵の印、それが味方の青い光点をぶつかり合っては双方消えていく。
消えた青い光点はゴエモンのものだ。 どうやら間に合わなかったらしい。

突如、青い光点の一つが停止する。
取り囲むのは複数の赤い光点だ。 他の光点よりも一回り大きいそれらは彼らが強者である証だ。
もっとも青い光点もそれらに劣らない大きさなのであるはずなのだが、そこが数の暴力。
単体の力量で互角なのならば、複数で勝てぬ道理がない。

「こいつはまさか」

点滅している青い光点にカーソルを合わせ、詳細情報を導き出す。
所属:らき☆ロワ 年齢:小学5年 性別:女 種族:マムクート 名前・・・・・・

「っ!」

出てきたデータに添えられた顔写真を見た瞬間、赤木は舌打ちする。
劣勢の自軍に置いて、残っている戦力としては優秀な方であり、ここで失ってしまうのは惜しい。
そして彼女らの周囲の状況を確認するために盤面に覗き込んだ。
生命反応は低く、戦闘は愚か移動すらできないであろう。 故に彼女に数分以内に駆けつけられそうな自軍兵士が必要だ。

「こいつは駄目だな」

真っ先に候補に挙がったのは位置的に最も近い位置にいた10/だが、彼は除外される。
光点の大きさは赤い光点より下回り、なにより彼自身が満身創痍の状態だ。

(この状況に置いて最も必要とされるべきは半端な戦闘能力ではないッ・・・・・・
何者よりも先手を取れるだけの行動力、そして最小限の時間で彼女を助け出せるだけの最小の手・・・・・・ッ!
そう・・・・・・圧倒的なスピードッ! 速さ、そして早さを持って初めてこのミッションは成功する・・・・・・ッ!)

そして目をかけたのが、彼女より3キロメートル離れたところにいる3人の戦士だ。
彼らのデータを見て、その特性を生かす方法を考える。
一つは単純な戦闘能力に気の把握によって瞬時に移動できる武道家。
一つはチートチートと有名で、3つの形態を使いこなす仮面の戦士。
最後に、白いローブを身に纏った戦闘教官だ。

「孫悟空、南光太郎高町なのは、聞こえるか?」
『どうしたんだアカギ?』
『まさかクライシス帝国が基地に・・・・・・!?』
「いやそれはない」
『それだとゴルゴムの仕業だ! 己ゴルゴム! 司令官だけの基地に突入して暗殺しようだなんてなんて卑劣なやつらだ!』
『おかしいなぁ・・・どうしちゃったのかな。 頑張っているのわかるけど、戦争は喧嘩じゃないんだよ。
人が話をしているときに聞く姿勢とらないと話の意味、ないじゃない。 ちゃんと話を聞こうよ。
ねぇ、私の言ってること、私のお話、そんなに間違っている?』

『君は正気を失ってしまったのか!?』
「いいから話を聞け!」
『すまねえアカギ・・・・・・』

無線の奥で静まり返る声が聞こえる。 我ながら見っとも無い声を上げてしまったが、うるさいやつらにはこうでもしないとまともにとりあってさえくれないだろう。
何故か孫悟空から謝罪の声が出たが、生憎それに返してやる暇はない。

「いいか、そこから9時の3キロ先に危機に陥っている仲間がいる」
『じゃあこの気はまさか・・・・・・!?いけねえ! 早く行かねえと!』
「いいやこっちに策があるから聞いてくれ。 まず孫悟空と南光太郎には瞬間移動で彼女の元に行ってもらう」
『そして私がここから援護射撃ってわけだね』
「話が早くて助かる」
『ちょっと待ってください。 俺が瞬間移動ってことは悟空さんにつれていってもらうことですよね』
『確かにオラ以外のやつ瞬間移動で一緒に連れていくことができるけど、
その分疲れちまうぞ。 まあアカギがそういうなら行くっきゃないけどな!』
「それは問題ない。 南光太郎、お前はバイオライダーになって孫悟空の細胞に融合しろ」
『融合・・・・・・あれはあまり使いたくないのですがこの場合仕方ありませんね』
「ああ、一刻を争う事態だ。 だが敵はどれも強者、うまくいけば彼女を救出するだけではなく敵軍の戦力を大幅に削ることができるだろう」
『そっか、わかった。 いくぞ光太郎、フュージョン・・・・・・』
『『ハ!』』
『合体した・・・・・・って誰ッ!?』

無線を切ると二つの青い点が一つの巨大な点となって瞬時に敵軍に囲まれている自軍の兵士の元に現れる。
そして目論見通り2,3個の赤い点とその後方にいた複数の赤い点が消滅。
残った赤い点が青い点と戦っている内に、援護砲撃をしていた高町なのはが瀕死の自軍兵士の救助に成功した。


☆ ☆ ☆


「ふぅ・・・・・・アカギ隊長、さっきはすごい戦闘でしたね」

この戦闘における自軍の被害は壊滅的であり、スパロワ勢やテイルズ勢、さらには葉隠覚悟を中心とした一部の漫画ロワ勢も倒されてしまった。
それでもジャンプロワ勢やカオス、ニコの一部の強者が残っただけでも吉報だといえるだろう。

「いや敵軍も相当被害受けたんだからいいんじゃない? まだまだいけるって」

残りの戦力はやはり敵軍の方が優位。 何せテラカオスを保有しているということが一番の問題だ。
自軍敵軍関係なく、いるだけで死者の魂を吸って強化されていく最悪の器。
やつらは最終決戦に置いてアレを出してくるに違いない。

「今回は怪我していたから駄目だったけど、次の戦闘では頑張って目立つから大丈夫よ!」

チートオブチートのネコミミストがいればまだ戦況を立て直せる可能性は出てくるが、
現状では自軍を整えるだけで精一杯だ。
しかしこのまま消耗戦を続けていればいつかはやつらのド壷にはまるのは確実である。

「この峰岸あやの(カオス7)に任せておけばマーダーの一人や二人なんて・・・・・・」

部屋の外から喧騒が聞こえてくる。
聞こえてくるのは悲鳴や怒声といったものばかりで、凱旋というには随分と荒れている。
今回の死傷者は確か一般市民を含めて753名(大体がカオス)・・・・・・

「そろそろあいつが帰ってくるころか!」

席を立った衝撃で椅子が揺れるが関係ない。
司令室の扉を空け、廊下に飛び出す。
入り口方角から向かってくるのはタンカを抱えた救急員達だ。
タンカのシーツから出たホイップクリームの髪型は、弱弱しく揺れていた。


「医師をやるライダーは俺一人でいい・・・・・・!」

医療室に入った瞬間、医師の木野(ライダーロワ)に振り向かれる。
彼の座っている机の横にあるのは大量の薬草だ。 エリクサーといった高価なものはもう軍に残ってはいない。
そして木野自体も連日の医療作業のせいか、かなりやつれてしまっている。
単に医療といっても、衛生兵が少ない現状では一人で傷の手当てから手術まで幅広く行っていかなければならないので、
必然的に元々医師の資格を持っている彼に負担がかかるのだ。

「千秋はどうした?」
「幸い致命傷は負っていない、当分安静にしていれば彼女は助かるだろう」
「そうか」

木野が指したところは部屋の奥の方にあるカーテンだ。
シーツ一枚隔てた先に、重傷者の眠るベッドがある。
部屋の左側のカーテンの郡から聴こえる呻き声も怪我人のものなのだろう。
その右端にあるカーテンをめくると、頭と身体を包帯に包んだ少女がベッドの中から顔を覗かせる。
隣にいる女性は彼女の姉だ。

「おう、アカギか・・・・・・」

千秋は柔弱な言葉だが、自分を迎え入れてくれている。
姉の春香も特に止めようとする様子はない。

「あれだけ偉そうなこと言った結果がこれだよ、っ!」
「大丈夫千秋!?」

千秋が腕を上げようとした瞬間、彼女の顔が歪む。
処置は施したもののロクに身体を動かせる状態ですら無く、
姉が彼女の身体を支えてフォローする。

「そうだアカギ、私を助けるように優先してくれたのはお前のおかげなんだってな・・・・・・」
「ああした方がいいと思っただけだ。 それより今は傷を治すことに専念しろ」
「そうか」

千秋の口元が吊り上がり、頬が僅かに緩んだ。
苦痛の中にさえ浮かび上がる微笑は彼女の精一杯の感謝の現れなのだろう。

「春香姉さま」
「どうしたの?」
「大変恐縮なのですが、少し席を外してもらいますか?」

一瞬動揺する表情を見せた春香であったが、数秒後、己を見つめ続ける千秋の目を見つめ直す。
見つめ合うことすること数秒、春香は笑みを見せた。

「いいわよ。 じゃあアカギくん、千秋をよろしくね」
「ああ」

春香が椅子を立ってカーテンを潜った。
これでこの場にいるのは自分と千秋だけになったのだ。

「こんなこと姉さまのいる前じゃ恥ずかしくて言えないからな」
「何がいいたい?」

前置きを置いてじらす千秋に言及をしてみる。
すると千秋の耳が赤く染まりだす。 気づけば弱弱しかった口調はいつの間にかおどおどしたものになっていた。

「その・・・・・・なんだ・・・・・・抱いてくれ」

一瞬耳を疑った。
彼女の口から放たれた言葉はあまりにも意外すぎる願望だ。
少なくとも彼女は、身内以外の人間のに甘えを求める人間ではなかった。

「毛布じゃまだ寒いんだ」
「じゃあ春香さんにでも抱いてもらえばいいだろう」
「春香姉さまも連日の戦闘でお疲れなんだ!」

千秋の負傷が酷かったため目が回らなかったが、
春香にもいくつか治療の跡が施されていたことを思い出す。

「まったく仕方ないな・・・・・・」

両手を千秋の背中に回し、傷を刺激しないように肉体全体で包み込む。
体勢的にきついのでベッドに入り込んでしまっているのは仕方ないだろう。

「あ!?」

耳だけに留まっていた赤色は、彼女の顔全体に広がった。
見た目は死人に近かったが、身体が触れた瞬間伝わってきた体温がそれを否定する。
胸同士が重なり合って心臓の音色が聴こえてくる。 これは彼女自身にも聴こえているのだろう。

「暖かい・・・・・・アカギ、ありがとう」

両目を閉じた千秋はそのまま眠りに落ちていった。
次に彼女が目を覚ましたときは戦場ではなく平和な日常であることを願おう。


【南千秋 戦線離脱確認】



らきアカギ19「とまあ、糞ガキがこんなことやっている間に戦争終わってしまったがな」
らき春香「水を差すようなこと言わないの!」

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最終更新:2009年08月30日 22:06
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