パロロワ戦記
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BR暦230年、新緑の季節。
陽を迎える東の青い海。陽を見送る西の白い砂漠。針山の様に天を突く北の黒い森。薄黄色の穂が揺れる南の地。
そして、それらに囲まれる緑の広大な平原。それを切り分ける大小の丘と河。
広い広いパロロワの大陸は、前年度に終着した大戦争がまるで幻だったかと思える様な静かな春を過ごしていた。
切欠は不明……しかし、数十年に渡って続いた大戦争。俗に――「乱立戦争」と呼ばれる群雄割拠の時代。
大国は落ち、または別れ、野望を持った人間達が幾多の国。勢力を起こし、大陸の覇を目指して長く長く争いあった。
乱をよしとする者に加え、乱を認めぬ者も乱に加わり、大陸の隅々までが闘争の炎に炙られた。
人々の心が疲弊し枯れた時代が続き、しかしなお野望を捨てない者が地獄の底で少ない火を奪い合う時代が過ぎた。
しかし……枯れた穂が頭を垂れ種を落とす様に。人が子を生して新しい者に道を譲るように。
少しずつではあるが暗雲を払うための――英雄と呼ばれる人間。
それが、夜天に輝く星の様に密やかに、しかし強く、現れ集まり、形を作り――そして、戦乱は終結した。
古の時代には三国で治められていたと言う大陸は、現在30程の大小の国・自治区によって平静を保たれている。
大乱の爪跡も新しく、一部に遺恨も残ってはいたが春の日差しの下であくびが出来るほどには平和となっていた。
空色の中を一羽の鳥が渡ってゆく。緑の風を切り、静かに、悠々と――……。
戦争は終わった――はずだった。
しかし、誰も気付いていない場所で、それは静かに……静かではあるが確実に……進んでいた。
後に、「英雄戦争」と呼ばれるパロロワ大陸を焼き尽くす一大戦争。
それが間近にまで迫っていた。
(BR230/05/phase:00) アニロワ王国
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パロロワ大陸の一角に、アニロワ王国と言う新興ではあるが大国と呼ばれる一つの国がある。
元々は、戦乱の最中ににエニロ・バレンシアという商人が起こした一つの自由都市にすぎなかったが、
戦乱の末期に、後に英雄。そして魔王とまで呼ばれる男――LXが剣を掲げ、この都市に武力をもたらした。
周囲の国は、歴史もなく民族もないエニロの都市を軽視していたが、その間にLXは着々と力を蓄えてゆく。
祖であるエニロが商人であったのは先に述べたが、何故都市を建てたかと言えば、やはり商売の為であった。
故に、歴史は浅く定住者が少なくとも人や物の出入りは多い。
通りすがりの武芸者や騎士、策士、工作人……LXは彼らを引きとめ次々と自らの戦力に加える。
周辺国がその実態に気付いた時にはもう遅く、LXは都市を一つの国とし戦乱の中へと鋭く切り込んで往く。
この時、エニロの都市はその名前を、祖であるエニロの名と縁のある守り神の名を合わせ変更。
――アニロワ国と定める。 (※正式には「エイニ・ロ・オー」古代神語にて、英雄が集う円の意味)
アニロワ国は英雄であるLXと、彼に率いられる猛将達により数々の国を撃破、平定し、その領土を日に日に増していく。
落とした国に対しては決して無碍な扱いはせず、身分に関係なく人を徴用し、平民はその日から自国の民とした。
そうやって小さかった国を雪だるまを転がすように戦の度に大きくし、またその力で先へと進む。
アニロワ国が歴史上に現れたのはここ数年のことであるが、そうやってこの国は大陸に名を轟かせる一国と成り上がったのだ。
そして、大乱終着の後、英雄であるLXが初代王として戴冠。
正式な王国としてアニロワ王国が建立された。
(BR230/05/phase:01) アニロワ王国
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王都アニロワ――現アニロワ王国の中枢にして、旧エニロ自由都市のあった場所。
紅い幹に真緑の葉。力強く木々が生い茂る山の中腹に、青灰色の一つの城がある。
華美ではないが流麗。しかしながら頑強。気高い印象を抱かせる、まるで戦乙女を思わせる様なそんな城であった。
そして、その城が見下ろすのはこれもまた青灰色の塀に囲まれた、扇の形に広がっている市街だ。
昼時故に、そして貿易都市であるが故に、小さな無数の人影や荷車が右に左にへと行き交う姿が見える。
目を凝らせば、その中に早馬を走らせる一人の将軍の姿が見えた。
避ける群衆の間を真っ直ぐに進むと、その人影はそのまま山を登り城の中へと入ってゆく――……。
王城の奥。真っ赤なビロードが敷かれ、朱に塗られた柱が立ち並ぶ、紅い部屋――玉座の間。
その部屋の真ん中に、床へと直に座り盤上の戦を嗜む二人の軍師がいた。
その片方。白い駒を繰るのは、したらば孔明。
淡い色の髪に短躯の姿。姫の様な出で立ち……と、童女の様にも見えるが、こう見えても歴戦の兵である。
今現在は一線から遠ざかっているが、一度戦場へと出るならば鉄火騎士の具足を身につけ鬼と振舞う猛将である。
先の大乱では先駆けの鬼と呼ばれて、敵兵からは避けられず追えずと恐れられ、
「踏歌稜(トウカリョウ)の早口歌が聞こえたならば敗北は必至」……そんな言葉も残るほどであった。
そしてもう一方。黒い駒を繰るのは、マスク・ザ・ドS。
顔の上半分を血色の仮面で隠し真黒なざんばら髪を肩に流す、一見すれば優男。
洋シャツの上に着物と袴と来れば本棚の間が似合いそうではあるが、彼もまた兵の一人である。
元々は流れの地図職人にて素性は不明。
また理由も不明ながらに戦陣へと加わり、奇策の数々を以ってアニロワ国の一策士として力を振るった。
大乱終結の締結会合に「地球破壊爆弾」を持ち込んだことから、他国では「爆弾」の名で知られ、
敵味方のどちらに対しても容赦がないことから自国では「ドS」と呼ばれ――つまりは未だに本名は不明である。
二人の軍師。白い駒を繰る方は市政を、黒い駒を繰る方は軍政を、それぞれに請け負っている。
大乱終結後の忙しない時期もようやく過ぎ去ろうという今。この様に駒遊びをする機会も少しずつ増えていた。
――と、静かなな部屋に扉を開け放つ派手な音が響き渡る。
観音開きの両扉を跳ね開けて玉座の間に飛び込んでくるのは、先ほど馬を走らせていた人影。
黒い短髪の上に同じ色の猫耳を乗せた精悍な顔つきの若武者――衝撃のネコミミストであった。
アニロワ国には歳のいった者からまだ若い者まで幅広い武将が在籍しているが、
ネコミミは若い武将の中でも取り分け若く、そして実力のある武将であった。
大乱最後の年、BR229。高遠河・水上戦。
この河上での船舶同士による大合戦にて、ネコミミは配下の猫耳隊を率い闇夜に乗じて敵船舶内に侵入。
一人五殺を成し遂げ、船団同士がぶつかる前に敵船舶を全て「無人」へと変えてしまった。
この働きにより彼は、「夜天の昴星」や「赤龍の死神」「這い寄る黒猫」等々、いくつもの異名で呼ばれることとなる。
|現代の諺に「沈む船から鼠は逃げ出す」というものがあるが、これがこの故事に由来することは紛れもない。
|天敵(猫耳)が現れると知れば誰もが逃げ出すという意味である。 (民明書房刊-『ネコミミ☆モード』より)
「いかがなされましたか? ネコミミ将軍」
何事かと二人の軍師は顔を上げ、そしてドSが若い将軍にそれを尋ねる。
「――漫画国がギャルゲロワ王国に進行を開始したと聞きました」
ネコミミの口から飛び出してきたのはあまりにも不穏な言葉であった……が、しかしそれに驚く者はいなかった。
「……存じ上げていますよ。それで、なんでしょうか?」
再び口を開いたドS、そしてその隣りの孔明も平静なままだ。焦りを浮かべているのはネコミミのみ。
「し、知っていたのならば何か対策をっ! ギャルゲロワ王国は同盟国ですよ?」
口角より泡を飛ばすネコミミではあったが、やはり二人の軍師は静か。そして諌める様に口を利く。
「ネコミミ様が焦る気持ちも解らぬではありませぬけど、ギャルゲロワ王国とてもう立派な一国。
.心配には及びますまいことでしてよ?」
孔明が珠のような声を転がしネコミミの心を撫ぜる。
しかし、それでも釈然とせぬ表情でネコミミは彼らを睨み、そして次に玉座を見上げた。
「……王は……王は何処に? もしや――!」
「考えているとおりですよ」
空の玉座に憤るネコミミに、ドSがクスリと息を漏らす。
そこに居るべきである王。大乱の大英雄であるLXは今一体どこにいるのであろうか……?
「なんでも、またパヤパヤとか……困ったものですこと」
孔明の言葉にネコミミはクと息を吐く。
パヤパヤ――つまりは女人同士の……と、それを求めたのならばLXは何処に向かったのか。
そう、それは件のギャルゲロワ王国であった。
ギャルゲロワ王国。
アニロワ王国よりは些か歴史が古く、しかし同じ様な道筋を辿って都市より王国へと発展した国である。
現在その地を治めるのは、未だ年若きながらも国民から「お姉さま」と慕われる王女。
そして、その王女を支えるのが「右の紅蟹公」と「左の狗武者姫」という、どちらもまたうら若き女騎士。
居城は華やかな紅色。国樹は桜――と、どこを取っても華やかなで見目麗しい国であった。
アニロワ国との親交は長く、
それは、エニロの時代から市長を務めていた鬼軍曹と、同じ市長のツキノとの交流にまで遡る。
戦乱の間より同盟国として互いに協力し合い、それぞれが国家と独立する際にも多大な援助をし合った。
そして……パヤパヤとLXについてではあるが……。
戦乱を平らげ天下泰平となったと知るやいなや、かつての英雄王は剣を捨て放蕩三昧。
度々ギャルゲロワ王国まで足を伸ばしては、麗しき乙女を見てパヤパヤなどと……アニロワ国としては頭の痛い問題であった。
本人としては変装してばれていないつもりらしいのだが、最早公然の秘密状態であり両国にそれを知らぬものはいない。
ちなみに何故ばれてしまうのかと言うと、LXが常に嵌めている銀の首輪がその一因。
彼がそれをいつから嵌めていたのかは定かではないが、時に首輪の王と呼ばれるぐらいにそれは広く認知されていた。
そしてそれと、それを撫ぜる癖だけは決して隠さない為に、彼が彼であることが周りの者には判ってしまうのだ。
695 名前:パロロワ戦記[sage] 投稿日:2008/05/16(金) 03:55:00 ID:???0
「しかしながら、知っておられたというのに何も手を打たずとは……」
ネコミミの言葉にドSは扇子の下でふぅむと唸る。
元よりこの報せ一番先に知ったのはこのドSであった。
彼が密かに囲い諜報活動に走らせている隠密部隊――「絶望可憐少女達」
その内の一人、黒魂の曜(クロタマノヨウ)。
ギャルゲロワ王国に忍ばせていた彼女からの報せにより、ドSは誰よりも先にこれを知っていたのだ。
だが――。
「乱戦も終わったばかり……というのに、ここで三国が諍い合うなどとなっては、他への影響も大。
.未だ小競り合いというのならば静観が吉。いよいよとなってから一気に叩き潰すが上策ですよ」
と言う訳で彼はこれを見送った。
勿論、王にも隣の孔明にも承諾は得ている。
最も、この二人にしか伝えてはいなかった故に、若き将軍が飛び込んでくるとそうなった訳だが……、
つまりは、小競り合いもそろそろ規模を増してきたということなのであろう。
漫画国。
アニロワ国とギャルゲロワ王国の両方と隣り合っている、新興の軍事国家。
いや、実態は軍事国家というよりかは統制された野党の群れ、または海の王者バイキングなどと言う方が近い。
とかく荒っぽい雄共の集団である。
アニロワ国が打ち破った国を味方につけて成長したと言うならば、漫画国はとにかく「喰って」成長した国である。
最初に国を起こしたのが誰なのかは定かではないが、気付いた時には軍隊蟻の様な統制の取れた国家となっており、
見る見る間にその圧倒的な武力で周辺国を平らげていってしまった。
腹が膨れ、国が巨大化してからは随分と沈静化していたはずだったが、元より荒くれ者共の集まりのせいか、
治世の時代は長く続かずまたその腹を空かしてきた模様である。
そして、漫画国にはこんな言葉がある――、
――雌は歳若きを以って由とする。
その歯牙が、お姉さまを筆頭として若き娘満ち溢れるギャルゲロワ王国に向くのもまた道理であろう。
「……それでも相手は漫画国。ここで手を拱いているのは、納得できませぬ」
なおも食い下がるネコミミ。
その血気逸る様子に、ドSと孔明はニンマリと口を歪ませ、歌うように口を利き始めた。
「こんな噂を知っていますかな、孔明殿?」
「さてさて、それはどんなものでしょう?」
「なんでも騎乗士の国に、ここ最近猫の仮面を被った者が現れるそうな――」
「――あぁ。それはなんともたいそう大暴れしてると噂の?」
「やはり存じ上げておられましたか?」
「えぇ、もう知らぬ者はおらぬというほどに有名でしてよ♪」
ニヤニヤとする二人の軍師の前ではネコミミがその顔を赤らめて尻からぶら下げた長い尾を震わせている。
最早言うまでもないが、ここ最近騎乗士の国で暴れる猫仮面というのはアニロワのネコミミのことである。
戦乱が終わってからのアニロワ国は平和そのもので、ネコミミがその腕を振るえる場所というのは全く見当たらない。
して、少し背を伸ばして辺りを窺えば、何やら騎乗士の国からきな臭い匂いがネコミミの鼻へと届いた。
そこは一人の将軍が統制する軍事国家であったが、新政権に移っても内紛の種は尽きず、デモ・テロと大童のご様子。
そして、悪逆の徒と言うのならば誰が討っても構うまいとネコミミは仮面を被り馬をそこへと走らせたのであった。
騎乗士の国で反逆者の前に現れる謎の猫仮面。
それは一体誰なのか……いや、これも先のパヤパヤ魔王と同じく周囲にはバレバレなのであった。
気付かれておらぬと自由に羽を伸ばしていたのは当の本人のみである。
赤く震えるネコミミを前にドSは座を崩し、珍しく優しい目で……先生の様に諭し始める
「よいですかネコミミ殿。若さを持て余すのはよいですが、戦とは若さではなく――……」
「あ。詰みましたわ」
はい? と、唐突な宣言にドSがネコミミから孔明へと振り返る。
悪戯げな表情の彼女から盤上へと視線を落とすと、白と黒の戦争は何時の間にかに終着していた。
(BR230/05/phase:02) アニロワ王国
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「戦争をしましょうか。一心不乱の大戦争を……フフフ」
はぁ? と、目を丸くする二人の前でドSは不穏な気配を漂わせ不気味な笑い声を零し始める。
爆弾とは突付けば爆発するもの。爆発することしか出来ぬもの。そして彼は爆弾であり、それ以外の何者でもなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! こんな事で決心されては困ります。
.子供ではないのですから……そう、待った。待ったもありにしますわ。なので、ここは穏便に――……」
見た目相応のしぐさで慌てふためく孔明を前に、ドSはやはりドSな薄笑いを浮かべて声を洩らし続ける。
遊戯に負けたぐらいで戦争を始めようなどと、そんなやけっぱちで子供じみた開戦が今迄あっただろうか?
いや、多分あっただろう……戦争とは、人と人の争いとは突き詰めればこんなものなのだから。
「さーて、さてさて忙しくなりますよ。大戦争です! 大陸統一の覇を賭けての大戦争!」
号砲は今鳴らしました。と、ドSは一人で自分勝手に宣言。
――こうして、後に「英雄戦争」と呼ばれる一大戦争は始まった……らしい…………。
(BR230/05/phase:03) アニロワ王国
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「――とは言え、いきなり討って出る、なんてことはしません。孔明殿?」
思いつきの戦争ではあったが、そこは策士。
そうすると決めたならばカチリと頭を切り替え、勝利への道程を導き、提示してゆく。
「LS国におられる鬼軍曹殿とはまだ連絡がつきますか?」
「はぁ……まぁ、つきますけど、召還するのですか?」
孔明の問いにドSはいえいえと首を振り、そしてまたニヤリとドSな笑みを浮かべる。
「彼にはただ……爆弾が戦争を仕掛けると……それだけお伝えください。それで十分」
それは……と、聞かされた孔明の顔が青褪める。彼女が推測したドSの策謀。それが推測通りならば――。
「ええ、勿論ですよ。協力なんてとんでもない。四方八方、全ての国を巻き込む大戦争をしましょう♪」
つまりはそういうことであった。
火種を巻き、揺さぶりをかけて全ての国を臨戦態勢に、全ての国が隣国を警戒せざるを得ないような状態。
誰と誰が敵で、誰と誰が味方か確かには判別できない混沌とした状態。そう――。
「――バトルロワイアル!」
楽しくなるぞ。と、ドSは笑う。
アニロワ国だけが勇み足を踏めば、出る杭は打たれるの言葉通りに悪役として討たれてしまうだろう。
しかし、暗躍し、各地から火の手を上げてしまえばその心配はない。
適度においしい所を摘まみ、危険を避け、面倒を押し付け、恩を売り、感謝を奪い、最後の一人になる。
そしてなによりも混沌とした闘争を楽しむ――それが爆弾が戦陣に加わった理由であり彼の生き様であった。
「さて、次はネコミミ将軍」
パタパタと足音を鳴らして退室していった孔明を見送ると、今度はネコミミへとドSは命令を下す。
しかし、彼を見つめるネコミミの顔は不満げであった。
ネコミミは戦好きであっても、戦争が好きなのではない。無辜の民が犠牲になるのは好きではないのだ。
「ドS殿。私は大戦争などというものには賛成できませぬ。
.やっと勝ち得た平穏だと言うのに、それを民から奪うなどとは……しかも、他国をも巻き込んでなどと」
「黙らっしゃい!
.平穏がよく、騒乱が悪いと誰が決めたのですか。私はちょっとそれを面白くしてやろうと、それだけですよ。
.黙って従っているならば幸も不幸も千変万化に見せてあげるというのに!」
傲慢な! と、ネコミミの手が腰に佩いた剣へと伸びる。が――。
「殿中ですよ。ネコミミ殿……」
と言いながら一人の男が柱の影より姿を現し、静かな声で激昂するネコミミを制した。
「カレーボンバー殿。いつからここに……?」
振り返り問いかけるネコミミの前に立つのは、真っ白なスーツに身を包んだ物静かそうな青年だ。
ただしそれは一見の印象に過ぎない。
前髪に隠された彼の目を、なみなみと狂気の湛えられたその眼を見ればその印象は全く別のものに変わるだろう。
「そんなことはどうでも……いやしかし、面白い話ですね。大戦争とは……」
ギャルゲロワ王国よりの客将であるカレーボンバーは、不敵で暗い笑みを顔に浮かべる。
客将である彼にとっては、祖国が襲撃を受けている事も、今いる国が戦争を仕掛けようとしている事も一大事のはずであったが、
それを微塵たりとも感じていないかの様な静かな笑みであった。
「して、いかがなさいますか?」
ここに残ってアニロワの将として戦うか、それともギャルゲロワ王国へと帰るか……それをドSは彼に尋ねる。
この場面。帰ると答えれば、捉えられ処分されてもおかしくはないが……しかし、彼は迷うことなく答えを返した。
ギャルゲロワ王国へ帰り、アニロワ国へ対抗すると。
「そっちの方が面白いでしょう?」
私も、あなたも……と、今度は彼がドSに問いかける。そして、勿論ですと、ドSはそれを肯定した。
二人は同じ様な笑みを浮かべ、しばらく睨みあい、何かに満足したのかカレーボンバーは踵を返し部屋を出てゆく。
次は戦場で敵同士として相見えましょう――と、約束の言葉だけを残して。
「……よかったのでしょうか?」
先程よりお預けを喰らってばかりのネコミミが尻尾を揺らしながらドSに問う。
何時の間にかいて、そして勝手に去っていったカレーボンバー……とても油断ならぬ存在である。
それをみすみす見逃してしまってよいのか、と。
「まぁ……まだ正式に宣戦布告をした訳でもありませんし、彼を拘束する理由も、処分する理由もありませんよ。
.むしろ、そんな事をしてしまえばこっちが悪役じゃあないですか。
.覇を目指すものとしては正義と大儀の存在でありたいですから……そういう意味でも――……」
彼がこっち側にいない方が都合はよいですね。と、ドSはネコミミの前で笑う。
静かな物腰と理知に溢れた頭脳で、無益な争いを諫める一人の戦場交渉人であるカレーボンバー。
しかしその実態は表向きとは真逆の平定を忌む破壊者。平穏の象徴に爆発物を仕込むテロリストであった。
そのどちらの仕事に対しても有能であった故に、彼は重宝され……そして忌み嫌われている。
現状。手駒として置くよりも、相手側に預けておいた方が有用と、そうドSは一人の策士として判断した。
「……で、ネコミミ殿」
機先を制され宙ぶらりんとなっていたネコミミにドSは、改めてアニロワの策士として任務を命じる。
ものによってはやはりここで反逆を。と、構えるネコミミに対して彼が命じたのは――……。
(BR230/05/phase:04) アニロワ王国
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「あら。ボンさんではありやせンか?」
一度、宛がわれていた部屋に戻り、荷物を片手に廊下を歩いていたカレーボンバー。
彼に声をかけたのは、同じギャルゲロワ王国出身であり今現在はアニロワへと腰を落ち着けているツー(tu4)であった。
派手な模様の踊る艶やかな振袖、歯の長い道中下駄、頭の上に星を降らせる無数のかんざし。
薄い紫煙を棚引かせる煙管、毒々しい真赤な唇、気だるげでいてかつ蠱惑的な眼差し――……。
アニロワにおいてはエロスの鐘などと呼ばれる、煽情的な気配を持つ一人の女武将の姿がそこにあった。
彼女は、ギャルゲロワ王国においてその設立当初より尽力し、政治に軍事にと多大な功績を残した将軍である。
戦乱の末期において一足早く一線より引き、同盟国であるアニロワへと移り、アニロワ国が王制へとなる為に協力。
王国となった後もそのまま留まり、いまやアニロワの国においても信頼の厚く欠かせない将軍の一人ととなっている。
……ただ、男癖が悪いのが難だという話もある。
噂によれば一人で空の鍋を掻き回していただの、鉈を持って徘徊してただの、男の家の前で腹を切っただの……。
不気味な噂は後を断たず、ギャルゲロワ王国よりアニロワへと移ったのもそのせいではなどと言われている。
「これはまた、相変わらず見目麗しく――……」
「――わっちは世辞はすかん」
透けて見えよるわ。と、鼻を曲げるツーにカレーボンバーはそんなつもりはと苦笑する。
もっとも社交辞令であることには変わりはありませんがと心中で呟きながら。
「そんな荷物を持ってどこに行くでありンすか? どこぞの娘にでも恨みを買われたかや?」
唇の端から煙を零しながら冗談を言うツーに、カレーボンバーは笑みを浮かべゆるりと首を振る。
「いえ、国に帰るだけです。
.仮面の軍師殿が戦争を起こす。など言われましたのでね。
.私としては祖国の側に立っていたい――と、貴女もどうですかご一緒に?」
だが、ツーもその言葉にゆるりと首を振った。
「旦那がすると言うたら本当にそうなるンやろうけど……しかし、あそこに戻る気はありやせん」
ニヤリと、しかしそれは決してにこやかではなく攻撃的で恐ろしい笑みを浮かべてツーは続ける……。
「わっちは、あの小娘どもがすかん。
.してもって、その小娘に鼻を伸ばしておるまわりの男共もすかんし、
.衆道にかまけておる者などもっての他じゃ」
つまりはみんなすかん。と、そうツーは断言する。
挙げられたどれにも該当しないカレーボンバーからの感想としては、ただの行き遅れの嫉妬ではないかと思うのだが、
そんなことを言って怒らせても益はないので黙っていた。
それに嫌いと言うのならば、目の前のいる様な派手な女こそカレーボンバーのもっとも嫌うタイプなのである。
その後、2,3の無難な言葉を交わしカレーボンバーはツーと別れ正門へと向かった。
甘く濃い香りの残る廊下を歩きながら、やはり化粧の濃い女は嫌いだと再確認しながら――……。
(BR230/05/phase:05) アニロワ王国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「さっさとおきいや! このボンクラどもがっ!」
豪華? いや、ふしだらと表現するのが相応しい、艶かしく淫らに散らかりきった部屋に怒声が響き渡る。
リンリンと使用人を呼びつけるためのベルを激しく打ち鳴らし、それを目覚ましに使用人らを起こしているのは
カレーボンバーと別れ自室へと帰ってきたツーだ。
「揃いも揃うて、かむろの癖にご主人様より寝坊とはどういう了見だいっ!
.わっちはまだ朝飯にもありつけとらん。飢え死にさせたら、お前等の給金も出んようなることをわかっとらんのか!」
ついには手を振るだけでなく足をも出して、ツーは次々とベッドの上で惰眠を貪る使用人たちを叩き落してゆく。
その周りからは姫などと呼ばれている主人の半分程しか年を喰ってない女達は、ようやく目覚めたのかのそりと動き出す。
主人からの罵声も慣れたものなのか、ほとんどが半裸で残りは全裸の少女たちはあくまでマイペース。
彼女たちが揃いのメイド服に着替え終わり、ツーが茶にありつけるまでに一時間。
遅い昼食と一緒に午後の菓子を食べれるまでにはそれより倍の時間がかかり。
出鱈目に散らかりきって女の匂いが満ちた部屋が片付いた頃にはもう窓の外はオレンジ色になっていた。
「――何を熱心にお書きになられているのですか?」
机に噛り付き熱心に書をしたためるツーにそう聞くのは、窓の外と同じ色の髪をした一人のメイドだ。
彼女が淹れたこれもまた同じ色の紅茶で乾いた口を湿らせると、ツーは禍々しい笑みを顔に浮かべる。
「キヒヒヒ! そりゃあ決まっておろうが。あの小生意気な小娘共に泡を吹かせる算段よ」
そんなケタケタと笑い、また夢中になって筆を走らせる主人に溜息をつくと、メイドはそっとその場を離れた。
ツーはそれに全く気付くこともなく、時折背筋の凍るような薄気味悪い声を洩らしながらただただ筆を走らせている――。
(BR230/05/phase:06) アニロワ王国
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アニロワ王国の端を一頭の馬が駆けていた。
その上に跨るのは猫の仮面を被った騎士――勿論、衝撃のネコミミストである。
アニロワの王城を離れ、領地を駆け抜け、向かう先は騎乗士の国――ライダーの国であった。
しかしネコミミはアニロワを離反したという訳ではない。また、いつもの様な正義の味方ごっこという訳でもない。
これはドSよりの勅命であった。その内容とは――。
「ネコミミ殿。あなたは猫仮面としてライダーの国に仕官してください」
はい? と、ネコミミは意味不明な命令に猫耳の乗った頭をかしげる。
それもそうだろう。自国の有力な将軍に向かって、他国に仕官してくださいなどとは理解しがたい命令だ。
「ライダーの国が内政の不安定さに悩んでいるのは、足しげくあそこに通うあなたならよく知っているでしょう?
.ならば影でコソコソなどとは言わずに、堂々と力を貸してあげてください」
それは願ったり叶ったりですが……と、口から零れるもののやはり釈然としない。
ネコミミが眉根を寄せて、表情で疑問を呈しているのを見てドSはニンマリと笑い話を続ける。
「なぁに、ようはみんなと同じ舞台に立ってほしいと……そういうことなのですよ。
.篝火に放り込む薪は生乾きのものよりも乾いた質のよいものを……と、ね♪」
つまりは、それは大戦争の為にはそれなりの役者が必要だと、そういう事に他ならなかった。
705 名前:パロロワ戦記[sage] 投稿日:2008/05/16(金) 04:04:01 ID:???0
自分に課せられた任務。そこに込められた意味を覚り、ネコミミの心にまたドSへの怒りが沸いて来る。
それは正義の怒りだ。
ネコミミにとって戦いとは何かを勝ち取る為のもの。大切な何かを守り抜く為のものに他ならない。
その為ならばどれだけ手を汚そうとも構わないし、実際に大戦の中ではそうしてきた。
だが、ドSは全く違う。彼にとっては闘争こそが目的なのだ。楽しい闘争――それこそが至上命題。
楽しければきっと他人の人生など、そして自分の人生すらもどうでもよいのだろう。
自由とは、自ら心を縛らないことである。
そして自由には二種類ある。善の自由と、悪の自由。
ネコミミはドSを悪の自由を持った人間だと判断する。何もかもを省みない刹那的な快楽主義者だと。
故に、ネコミミはドSを討つと決心する。
ライダーの国に赴き助勢するのは彼の命だが、それ以降はネコミミの自由だ。
ネコミミは己の中にある善なる自由に誓う。
ライダーの国の力――正義の力で以って速やかにドSを討ち、大乱を未然に防いでみせると。
――しかし、それこそがドSの姦計であることにネコミミは気付かない。
自分が、彼が倒したドミノの最初の一枚であることに。開戦の喇叭を高らかに吹く騎乗士であることに――……。
(BR230/05/phase:07) アニロワ王国
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「立派なものです…………もう、動くのですか”コレ”は?」
”ソレ”を見上げるドSがいるのは深い闇の中であった。
おおよそ、縦横高さ共に1キロメートルはあるという巨大な空間――アニロワ城・地下格納庫である。
アニロワ城は山の中腹に建てられた城……と、一見にはそう思えるが、その実山全体が一個の城なのである。
そのほとんどがこの地下格納庫になるわけだが、それを除いても城の8割程が山の中にあった。
表に見えている部分は、通常の城に例えればいわゆる天守閣と言ったところである。
そしてその地下格納庫。何が収められているかと言えばそれは勿論、兵器であった。断じて宝物庫ではないのだ。
そこには先の大乱において実際に使われたありとあらゆる兵器が保管されている。
小さな物から言えば一冊の本。大きな物で言えば人を模して、しかし人よりかは遥かに巨大な戦人形。
そしてそして……この広い格納庫の大部分を閉める最も巨大な兵器。ドSが今見上げているのが”ソレ”だ。
――大怪球 フランケン・フォン・フォーグラー。
全長300メートルに及ぶ、赤い瞳を持った超巨大な漆黒の大目玉である。
ドSと視線を交わすその姿はあまりにも禍々しく、正対するだけで押し潰されるような重圧を浴びせかけてくる。
「――はい。……でも、まだ完全では……もうちょっとだけ、時間がかかります」
ドSの隣りに立ち、彼からの最初の質問に答えたのは、大怪球とは真逆の小さな小さな女の子であった。
10を過ぎた頃の様にしか見えぬ幼い体躯。その体躯に見合った愛らしい顔。赤みがかった髪の毛。
この様な闇の中などはとても似合いそうにない容姿――だが、その見てくれとは裏腹に彼女には闇が似合っていた。
暗い暗い暗い、辺りを包む闇よりもなお暗い表情を持つ彼女の名前は、黒珠の優(クロタマノユウ)。
ドSが擁する絶望可憐少女達の内の、最も新しく、最も幼い少女である。
ドSの直参である絶望可憐少女達であるが、いかにして彼女達をドSが得たかというとそれは一人一人事情が異なる。
ある者は兵として働いていたところより引き上げたり、または捕虜より、または没落した貴族の娘であったり……。
そして、最も新しい黒珠の優をドSがどこで見つけたかというと、それは黒煙の燻ぶる戦場の真っ只中であった。
赤茶けた土の上で煤に塗れ、襤褸を着て餓えに震えていた小さく儚げな命。
通常ならば、ただ見捨てるだけの命。
だが、彼女に限ってドSは見逃さす自らの庇護の下に置いた。しかも、極秘裏に……。
それは何故か? 彼女に特別な力は備わってはいない。能力はどれも並以下で、体力にも乏しい。
最低限の訓練は受けたが、それでも並の人間に足りるかどうかといったところだ。つまり、能力的には無価値。
ならばどこに価値があったのかと言うと――それは、容姿であった。それだけが、その一点が極めて稀少だったのだ。
なにもそれはドSが慰みものにしようと考えたからではない。
彼女は……似ているのである。まさしく瓜二つと言えるぐらいに……ギャルゲロワ王国の王女――お姉さまに。
覆う煤の下にそれがあると気付いた時、ドSは速やかに彼女を拾い、自らの手駒の一つに加えた。
「戦争が始まれば、会えるかも知れませんね。あなたの……”お姉さま”に……」
そしてドSは、衰弱していた彼女を洗脳した。
彼女に自分が”お姉さまの生き別れの妹”だと徹底的に刷り込んだ。
「別に……嬉しくなんかありませんよ。そんな……どうでもいいです」
零れる言葉だけを拾えば彼女にかけた洗脳の効果もさほどないように感じるかもしれない。
だが、どこまでも暗くそして何よりも静かな激情を封じ込めた彼女の微笑みを見れば……それは成功したと確信できるだろう。
今まで闇の中に閉じ込められ、だた鬱屈した時を過ごすしかなかった少女は、目前の予感に笑う。
大怪球を用いてギャルゲロワ王国に暗黒の太陽を齎し、「自分から陽の光を奪ったお姉さま」に成り代わるその時を想って。
そして、ドSは音を洩らさずに独りで笑う。
誰も彼もに過ちを犯させる。気付いた時には手遅れで。その咎を拭う為に人はまた過ちを犯すだろう。
そして最後に気付く。誰もがそれに――絶望に気付く。
その時を思い、ドSは独り今は密やかに闇の中で笑い続ける――……。
最終更新:2009年04月24日 18:59