(BR230/05/phase:00) 神聖LS教団
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パロロワ大陸の一角。そこには、他の国々とは異質な勢力が根を下ろしていた。
その名を、神聖LS教団と言う。
その由来は神話の時代にまで遡るというが――国家としての歴史は、思いのほか浅い。
太古の昔、数多の煩悩に迷える人々を導いたという、幼き聖女『ロリータ』。そして短きズボンの少年聖者『ショータロー』。
その2大聖者の名を冠した『LS教団』が『サブ=カル』の地に教会を築いたのは、ほんの数年前のこと。
建造当初は、周辺諸国もその存在を軽く見、いずれ戦乱に飲み込まれて消えるだろうとたかをくくっていたのだが……
大方の予想に反し、教団は急成長。
それどころか周辺諸国をも次々と飲み込み、事実上の支配下に組み込んでゆく。
力が全てを支配するこの大陸において、「宗教による統一」を果たしていく。
もちろん、教団の拡張の過程では、数多の血が流された。戦闘にもなった。戦争と呼んで良い規模の争いもあった。
だがしかし、その度ごとに教団の勢力は増していって。
特筆すべきは、その思慮遠謀。
武勇に秀でた名将に恵まれているわけでもない。兵力に勝っているわけでもない。むしろ教団の戦力そのものは弱い方だ。
それでも、勝つ。戦わずして勝つ。戦わせずに勝つ。
策を巡らせ策を弄び、策に策を重ねて策で勝つ。
多重に仕掛けられる罠。蟻地獄の如き計略。
心の闇に精通した教団の聖職者たちは、その1人1人が大国の軍師術師にも匹敵して。
やがて、ひとつの評判が誰からともなく囁かれるようになる。
曰く――LS教団の『サディスト聖人』たちとは、出来れば事を構えたくない。
彼らと戦うことを考えただけで『鬱』になる、と。
……そのLS教団、正確には『神聖LS教団』。
形態としては数多の都市国家群の寄せ集めであり、教団そのものは世俗の権力とは別、という「建前」になっている。
雑多な国々が雑多なまま、たった1つの信念で寄り集まっている形。多様なジャンルの寄せ集め。
ただ、実際にその国々を支配しているのは教団であり、教皇であり大司教であり枢機卿であり信者であり。
ゆえに、最近ではその勢力圏を丸ごとひっくるめ、「LS国」と簡単に呼ばれることも多い。
逆に言えば……「外」から見れば「1つの国として安定している」ように見えるほどに、その勢力の拡大は止まっていたのだ。
もちろん、外部から侵攻をかけようという者もいない。誰が好き好んで虎の尾を踏むものか。
かくして訪れた嵐の前の静けさ。しばしの平穏。あるいは、一時の停滞。
だが、そんなことがあるものか。「あの」策士たちが、「あの」サディスト聖人たちが大人しくしていられるものか。
見かけは静かでも、その内実は……!
(BR230/05/phase:03) 神聖LS教団
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煌く朝の日差しが、大聖堂のステンドグラスを美しく輝かせる。
少年少女によって構成される聖歌隊の歌声が、遠くから微かに聞こえてくる。
神聖LS教団の中心、宗教都市『ロリショタ』――無論この名も、LS教団の元となった2大聖者の名に由来する。
ロリータとショータロー、この2大聖者を崇めるこの教団では、彼らにちなんで見目麗しい少年少女を聖なるものとして扱う。
聖歌隊もそうだし……大聖堂を掃き清めている、奉仕隊もそう。
黙々と朝の掃除を続ける人影の1人1人が美少年であり美少女である。
なぜかたまに坊主頭の小僧や、栗のような頭をしたブサイクな少年が混じってたりもするが……それはともかく。
荘厳な雰囲気漂う大聖堂を、足早に歩く人物がいた。
小柄な体躯。蒼い庭師の服に蒼いシルクハット。短い髪の、パッと見には性別不詳な美少年――もしくは美少女。
正式な儀礼用の礼服こそ身に纏っていないものの、胸元の聖印の形状から司祭位に位置する聖職者であると分かる。
彼、あるいは彼女の名は、『鬼軍曹』。
かつてアニロワ国で勇名を馳せた武将であり……しかし、LS教団はあくまで表向きは宗教組織。
教義を認め洗礼を受ければ誰でも受け入れる建前であり、そこに過去の経緯や肩書きは関係ない。
ゆえに、このような「異国の英雄にして教団の高位聖職者」などという存在がありうるのだが……ま、それはともかく。
誰かを探しているかのような彼(彼女?)の背に、声をかける者があった。
「……誰か、探してるの……?」
「あ、温泉少女大司教! いえ、大司教位の方々ならどなたでも良いのですが、先ほどアニロワ国から……」
「……対外的なことなら他の人探して。専門外。」
淡々と答えたのは、何故か浴衣を身に纏った少女。
教団のトップに君臨する大司教が1人、「温泉少女」――内政に長けた神聖LS教団の柱の1人である。
彼女が得意とするのは、治水工事に農業振興、商業振興に税収の確保。治安の維持に人心の安定。
最近の特筆すべき業績としては、市民の憩いの場、兼、兵士の湯治の場として国中の温泉を整備したことが挙げられる。
自己主張は少ないながら、国家の運営に必要不可欠な才能の持ち主。
同じく内政に長けた『深淵大司教』と共に、この国には無くてはならない存在である。
そんな彼女は、鬼軍曹の慌てた様子にも興味が無い様子でつぅ、と指を指す。
「ほら……そっちにもっと適任がいるから。あの人に言って」
「おやおや、どうしたのかな、鬼軍曹氏? 何かニュースでも?」
「あっ、枢機卿殿!」
2人の視線の先には……燕尾服に丸眼鏡の少年、いや少女。太い三つ編みにされた長いお下げが揺れる。
「地獄の紳士」「派手好み」などの異名を取る枢機卿、『666』。
数多の戦いを勝ち抜いた猛将であり、呪符(スペルカード)を使いこなす術師であり、教団を率いる首脳の1人であり。
なにより、奇想天外な策を使いこなす策士であり。
言うなれば、パロロワ大陸の他国の者たちが考える「神聖LS教団」そのものを具現化したような存在だった。
外見こそまだ若く見えるものの、彼女の姿形は何年経っても変わることはなく……
一説によれば、邪法に手を染め自らを吸血鬼と化し、永遠の若さを得ているのだという。
そんな黒い噂にまみれながらもしっかり「枢機卿」という地位を獲得しているあたりだけ見ても、只者ではない。
温泉少女はそのまま無言でその場を立ち去る。後に残されたのは鬼軍曹と枢機卿・666のみ。
鬼軍曹は、意を決して「自らが得た情報」を口にする。
「アニロワ国が……戦争を仕掛けるそうです」
「ふぅん……それはもしかして、漫画国が動いたせいかな? つい先日、ギャルゲ国に侵攻したそうだしね。
大方それは、その情報を聞いた地図……否、マスク・ザ・ドS氏が『意図して流した』情報か。
なるほど、やってくれるものだ」
何気ない呟き。
鬼軍曹とて歴戦の将だ。情報の大切さは身に染みて知っている。
だからこそ……驚く。その反応の素早さ、状況を見抜く判断の早さに驚く。
鬼軍曹はただ「戦争を仕掛ける」としか言っていない。なのに、この推測の正確さと言ったらどうだ。
さすがは知恵者揃いのLS教団。脂汗を浮かべる鬼軍曹に、枢機卿666はしかし、フッと微笑みかける。
「それで……貴方はどうするのかな」
「どうする、と言われますと?」
「このまま我が教団のために戦うのか……それとも、故郷に戻るのか。たぶん、決断できるのは今しかないよ」
「…………!」
確かに、その通り。
いざ本格的な戦争が始まってからでは、国の行き来すらも難しい。間者との疑いも受けやすくなる。
下手をすればアニロワ国と神聖LS教団がぶつかり合う可能性もある現在、決断は早めに下さねばならない。
だが……信仰と、かつての戦友との絆。どちらか1つを選べと言われても、難しい。
「まあ、我々としては『どっちでもいい』んだけどね。君が帰るというのなら、止めはしないよ」
困惑する鬼軍曹を前に、666は哂う。
どこまでも底の知れない笑顔で、笑う。
鬼軍曹は思う。
いっそ、「命令」してくれれば楽なのに。
枢機卿という立場から、司祭という立場に命令してくれれば楽なのに。
それとも、鬼軍曹など戦力外だということなのか? 居てもいなくても同じだというのか?
いやひょっとして、そう思わせておいて奮起を期待している?
あるいはその悩みさえも策のうちなのか。思い悩むことさえも計算のうちなのか。
そういえばアニロワ国からの便りも、別に鬼軍曹に帰還を命じるものではなかった。ただ戦争の開始を告げるだけ。
これも、狙いは同じということなのか。
なら……自分はいったい、どうすればいい?
煌く朝の日差しが、大聖堂のステンドグラスを美しく輝かせる。
少年少女によって構成される聖歌隊の歌声が、遠くから微かに聞こえてくる。
神聖LS教団の聖都・ロリショタ。
その救いの都で、鬼軍曹は1人、揺れ続ける……。
(BR230/05/phase:02) 神聖LS教団
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[タ・バサ大聖堂における子供たちへの説法会からの抜粋]
よい子のみなさん、こんにちわー!
(こんにちわー!)
はーい、いいお返事ですねー。
わたしは、『深淵』大司教といいま~す。
しってるひとは、こんにちわー。はじめてのひとは、はじめましてー。
きょうは、『悪魔』とよばれた、伝説上の聖人のおはなしをしたいと思います。
そう、悪魔です。悪魔ってよばれたのに、聖人なんです。おかしいですね。
でも、それには深くて悲しいわけがあるのです。
その聖人の名は、「なのはさん」といいます。
なのはさんは、もともとはどこにでもいる、優しいおんなのこでした。
けれども、あるとき……(以下略)
[報告書]
『深淵』より『教皇』へ
聖人召喚の大魔法の準備、計画通りに進行中。
LS教団における、伝説の5聖女1聖者――
「悪魔なのは」「教祖タバサ」「偽悪のエヴァ」「誤殺のトリエラ」「性悪ヴィクトリア」そして「誤解の一休」。
彼ら伝説上の聖人の召喚に成功すれば、これより始まるであろう大戦争において優位を得られるのは間違いない。
説法の場を利用し、純粋無垢なる少年少女のエネルギーを収集。
同時に、依り代たる『ミニ八卦炉』の調整も完了。
聖人『なのはさん』の召喚、秘奇蹟『全力全開ファイナルスパーク』発動、共にいつでも使用可能。
想定されるその威力は、他国の巨大兵器にも十分対抗しうるものだと思われる。
ただし現状では1発撃つのが限界とも見られ、使用に際しては慎重な判断が求められる。
引き続き説法を通じて少年少女の思念を収集し、召喚回数の増加、他聖人の召喚の準備などを進める予定。
聖人『タバサさん』の依り代となる『バルディッシュ・アサルト』の調整進行状況、現在80%……(以下略)
(BR230/05/phase:01) 神聖LS教団
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――それは、鬼軍曹司教が枢機卿666に「アニロワ国からの伝言」を伝えた朝から遡って2日前の夜のこと。
昼間は絢爛豪華な大聖堂も、陽が落ちてしまえば人を寄せ付けぬ雰囲気を醸し出し。
子供たちが大司教の「ありがたいお話」を聞くための講堂も、不気味な静けさに満ちている。
教会内に並ぶ聖人たちの像も、まるで悪夢から抜け出した怪物のような影を投げかけている。
闇。
それが、神聖LS教団の裏の面。
未来への希望に光り輝く子供たちを讃え敬う「表の顔」とは180度異なる、教団の闇の側面(ダークサイド)。
いやむしろ、この教団の実情を詳しく知る者から見れば、こちらこそが主体に見えるかもしれない。
可愛らしさと美しさの裏に潜んだ、深く冥い『闇』――それこそが、他国から恐れられるこの国の本質なのだった。
そんな、闇に覆われた大聖堂に、ふらりと入ってくる影が1つ。
女だった。
大人の、女だった。
1歩進むごとに匂い立つような大人の色気を撒き散らすその姿は、とうてい神聖LS教団に相応しき存在ではない。
これが昼間なら、少年少女からなる護衛隊につまみ出されているところだろう。
礼拝に来ること自体は拒まぬが、それ相応の格好をしてこいと叱られていたところだろう。
にも拘らず、彼女は平然と歩く。大聖堂の奥の奥、高位の聖職者にしか許されぬ領域に足を進める。
「……おや、お帰りでしたか」
「あらァん、ジェイちゃんじゃない。わざわざお出迎え?」
「たまたま私も用があっただけです。それより、その不快な格好はいい加減やめて下さい。教会が穢れます」
不愉快な表情を隠そうともせず、女に声をかけたのは大司教の1人。
JZART。ハンマーや金属バットなどの鈍器の扱いに長けた武人であり、もちろん心の闇に精通した策士でもある。
桃色のツインテールを揺らす彼女に、女はニヤリと笑って。
「そうねぇ……そろそろ元に戻そうかしらん。『トリップヘンコウ』ッ!」
女の小さな囁きと共にボンッ、と小さな煙があがって――
煙が晴れた時、そこに居たのは黒いローブをまとった、Jと同じくらいの体躯の人物だった。
幻術、『トリップヘンコウ』。
己が正体を偽る術の中でも基本中の基本とされる術であり、それだけに、見破るのは容易ではない。
妖艶な女の姿を取っていたその人物は、そして一転して明るい声で。
「ということで……ただいま。いやー、楽しかったー♪」
「首尾はどうでしたか、『エロ師匠』……いや、『ボマー』教皇」
教皇ボマー。
一応は教団のトップであり……しかしその立場も、決して他の聖職者を支配し押さえつけるようなものではなく。
むしろ平気で教団の勢力圏外に「お忍びで」出かけ、遊んでくるような存在。
漫画国から久しぶりに帰ってきた教皇は、そして楽しそうに報告する。
「『宣教活動』のつもりもあって遊びに行ったんだけど、そっちはちょっと失敗だったかな~。
ロリコン気味な人は結構いたけど、『リアル』に手を出すなら私たちとは相容れないし。
ただね……」
ボマーは1つの目的だけのために行動することはない。
常にそこには二重、三重の意味がある。
そしてボマーが『ボマー(爆弾魔)』と呼ばれる、その一番の理由は。
「特大の『爆弾』、仕掛けてきたから。
上手くすれば、あの2国だけじゃなくて……アニロワ国あたりにも引火するかな?
ドS氏あたりは、こっちの思惑が『分かっていても』乗るタチだろうしねぇ……!」
そう……策士に溢れるこの国において、教皇ボマーが最も得意とするのが『爆弾設置』。
呼吸するように爆弾を仕掛け、呼吸するように策を仕掛ける。
漫画国に身分を偽って潜入したボマーは、そして恐るべき爆弾を、言霊を仕掛けた。
曰く――雌は歳若きをもって由とする。
後から気付いても、もう遅い。『エロ師匠』と『ボマー』が同一人物と勘付いても、もう遅い。
そのときにはもう、賽は投げられているのだ。
仕掛けられた爆弾は、爆発しているのだ。
「我々LS教団は、兵力そのものは他国に比べてもやや劣る……だからこそ!
戦乱を、起こす。
他国同士で、潰しあってもらう。
そして最後には――楽してズルして頂きなのかしら~☆」
闇に覆われた絢爛豪華な大聖堂に、軽やかな笑い声が響く。
立ち並ぶ柱を間を駆け抜ける風が、幼い少女の悲鳴のような音を立てる。
――漫画国がギャルゲ国に進行を開始したのは、その翌日のことだった。
最終更新:2009年04月24日 19:28