(BR230/05/phase:00) 騎乗士の国
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BR暦230年
落ちる夕陽が大地を赤く染め上げて、広がる荒野に風が舞う。
からからと砂埃が舞い、不毛な大地の様子を露にしていた。
山を分けるように川が流れ、かかる大橋には人がぽつぽつと城門へと向かっていった。
あちこち焼け焦げ、所々修繕が追いついていない門を潜り、少年は不思議に思う。
彼の両親は行商人。アニロワ国に向かうには、騎乗士の国――ライダーの国を通らねばならない。
少年の故郷では騎乗士の国は恐れられていた。
かつて、この国は荒れていた。
産地も期待できない、水も豊富でない、鉱産も取れない、不毛な大地でこの国は産声を上げた。
一説によれば、巨人の国――スパロワ国の名士がお遊びで建国したという。
しかし、かの男はすぐ立ち去った。
スパロワ国のこともあったからだ。残された民は戸惑うばかり。
その国に住まう国民をどうにかしようと立ち上がった武将が二人現れる。
ザ・ファーストと呼ばれ、冷静かつ時には熱く、時には丁寧に外敵を倒していった知性将。
AIと呼ばれ、その流麗な剣捌きから人々を惹きつけた華麗なる将。
並み居る外敵から彼らは剣を振るい、ただただ騎乗士の国とその民を守り続けていた。
ザ・ファーストはその身を黒と『ハート』と呼ばれる紋章を刻み付けた銘鎧『カリス』を纏い、生まれて間もない騎乗士の国の内政を進めた。
AIはその身に蜂を模した黄の鎧『ザビー』を纏い、俊足移動法(クロックアップという俗称もある)を操り、両の剣裁きで敵を打ち倒していた。
しかし、かの名将も程なくして姿を消した。
理由は何か? 内乱である。
かつて、彼らと同じく将の末席にいたものが自国の村を荒らした。それに異を唱えたのが二人の将。
ザ・ファースト曰く、「もっと穏便に進めねば、人心は離れてしまいます」
AI曰く、「美しくない」
その二人に反発した名も伝わらない将は野に降り、前々から将軍たちに不満を抱いていた野党を取り込み、内乱を仕掛けた。
疲弊していく国内に、AIは行方が知れなくなる。
ザ・ファーストも責を感じ、将軍の座を明け渡した。
そして、名もつたわらない将はただ二人に仕返しをすれば満足なだけであった。
この国に終わりが近付く。
―― そこに、闇を切り裂き光をもたらすものあり。
内政を纏め上げ、行動の早い王、まとめキング。
将として君臨し、君主の座を進められるもの、「私はNO.2でこそ輝く」の一言で退いたまさに名将。
その手腕でたちまち不毛な光景の広がる騎乗士の国に緑がまばらに生え、商売が繁盛し、人が行き通うようになった。
武人としても凄まじく、金の不死者を模した鎧、『コーカサスビートルアンデッド』を着込み、戦場を右に左へと自在に駆け回った。
また、その特殊能力、『超展開』により、望みの状況を生み出す神の業も会得している。
彼の馬車、『ライドロン』は時の流れをも支配する神具だという噂もあった。
過去や未来から、自分を連れてくることも可能だとか。
まさに、向かうところ敵のない男。それがまとめキングであった。
その隣に並び立つ、同時期に現れた武将、仮面ライダー書き手。
並み居る敵を薙ぎ払い、その一振りは山をも二つに分けたという逸話すらもある。
まとめキングが内政を整えたのなら、秩序を維持したのは彼だ。
仮面ライダー書き手は治安維持部隊を纏め上げ、テロリストを一掃し、したらばと呼ばれる法廷場を司った。
秘密警察を率い、内部の反乱者を処分。
それでも根絶しないテロリストに疲弊しながらも、先の大戦はその異常な武力で勝利を収めたのだ。
その手には、呪われた、しかし絶大な力を持つ妖鎧『カイザ』を召還するフォンなるアイテムが握られていた。
最後の決戦、『最終回』も縦横無尽の活躍をした男。
まさに無敗。それが仮面ライダー書き手であった。
若きカリスマ、漆黒姫。
可憐な容姿で国民を宥め、未熟ながらもその身を懸命に駆使して敵と立ち向かう姿に兵の士気が上がる。
彼の立ち向かう先には、常に味方となる男たちで溢れていた。
彼女の華奢な身体を包む鎧は、漆黒の龍を模した鎧、『リュウガ』だ。
彼女の傍には常につき従う、黒き竜の姿があった。
仮面ライダー書き手と並ぶ冷徹な処刑人、欝のエル。
冷静沈着、チェスの運びのような戦闘の進め方はまとめキングに一目置かれるほど。
その暗殺者のごとく敵を始末する様子は仮面ライダー書き手をも唸らせるほど、武力を持つ。
静かなる将。彼の身体を包む鎧は『水のエル』と呼ばれる、水と念動力を司る宝具。
冷徹な処刑人に相応しく、彼の通った道には冷たい水しか存在していなかった。
月夜に現れる、銀の武将、影の繋ぎ師。
圧倒的な迫力は、月を背にしたとき、あらゆる兵を縛り付ける鎖となる。
振るう赤の剣と光の剣で、切り伏せられた敵将は数知れず。
右手に光の剣『リボルケイン』
左手に赤の剣『サタンサーベル』
銀の鎧『シャドームーン』を常にきている無口な彼に、各武将たちもただ見守るだけ。
しかし、戦いに飢えている彼は噂では漫画ロワ国に仮面ライダー書き手と共に出向いたとか。
新顔ながら、騎乗士の国の中枢まで昇りあがり、名将たちに並ぶ軍師。ギャグ将軍。
彼―― 一説では彼女だが ――は奇策をもって騎乗士の国を補佐していた。
マイペースながら豊富な知識、そして場を和ませる冗談の達人に武将たちも彼女に信頼を寄せていた。
彼女は戦場に出ることは滅多にないが、常に黄金の鎧、『ジャークミドラ』を纏っている。
しかし、一旦脱ぐと場が混沌するとかしないとか。
彼ら名将は、それぞれ戦場を駆け抜け、幾多の敵を倒してきた。
もっとも、まとめキングや仮面ライダー書き手以外は動けぬ時期が長かったものも多い。
それでも、彼らは力を合わせ、外敵を、内部の反乱者を始末していった。
彼らは騎馬民族。乗り物なら何者でも乗り回し、また、戦闘力も異常であった。
その速さ、武力で無理矢理国内を治め、敵を叩き潰した。
決戦を仮面ライダー書き手を軸に迎え、同時に内乱も収める。
かくして、騎乗士の国は平穏が訪れた。
いや、はずだった。
平和も訪れ、仮面ライダー書き手が荒れる国を治めるために暫定的についていた君主の座を降り、政権交代を告げたときに事件は起こった。
その座を狙おうと、元テロリストと思わしき男が政権ののっとりを画策したのだ。
もっとも、その稚拙な動きでは国民どころか犬一匹騙せず、そのまま崩れ落ちるのも時間の問題だった。
しかし、歴戦の武将が留守の隙に、男が政権の決定を動かす。
無辜なる民の声を無視し、または粛清して欲を満たすために推し進める。
それを察知したのが、唯一他国へ渡ったことのないギャグ将軍だった。
彼女の手腕により、城と法廷『したらば』を奪い返し、無辜の民が踏みにじられることを事前に阻止した。
だが、話はそれで終わりではない。
政権に追われた男のスパイがもぐりこみ、内部から崩そうと計画される。
それすらも、将軍へと手を貸した多くの武将の力もあり、阻止されると見ると、ついに無辜の民を無差別に襲い始めた。
ゆえに、商人はこの国を訪れるのを恐怖する。
少年の両親も、そんな行商人の一人だった。
(BR230/05/phase:02) 騎乗士の国
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からからと行商人が橋を通り、騎乗士の国へと侵入する。
少年の乗る馬車も傷んでおり、両親は騎乗士の国へと来たのだから、整備をしたいと談笑をしていた。
ここ、騎乗士の国は名前の通り、馬だろうが馬車だろうが戦車だろうが乗り物に関する操作技術、製造技術が発達している。
疾風のごとくの侵略で敵国の兵を蹴散らしていたのだ。
その技術は遠くに聞こえ、馬車を修繕に危険を乗り越える人間もいるとか。
確かに訪れたのなら、尻が痛くなる馬車の乗り心地を改善して欲しい、と少年はぼやく。
それを受けて父親は頭を乱暴になで、こんどの商売が成功したらな、と答えた。
もう子供じゃない。そう呟いて手をどかそうとするが、父親の太く強い腕はどかない。
そんな親子の微笑ましいやり取りを母親は見ながら、会計の計算をやめない。
一家で行う行商の旅。
少年に同年代の友達はできにくかったが、それでもよかった。
この旅には頭をなでてくれる父がいる。
その父を支え、店を切り盛りする母親がいる。
いつか父の後を継ぎ、大陸中で商売をして、大国アニロワ国で店を構えたいというのは少年のささやかな夢だ。
その店には、老後を楽に暮らす両親がいて――そこまで考えて少年は頭を振るう。
気が早すぎる。父親に言えば、気を使いすぎだ、馬鹿者、と言われて拳固をくらうのが落ちだ。
それに、母に聞かれるのはどこか気恥ずかしい。
いつか胸を張っていえる男になりたい。
少年は並ぶ商材を見つめ、空を見上げた。青空が広がり、まさに晴天。
あの青空に誇れる日が来ることを夢想して、彼は振り返る。
とたん――
(お父さんが光っ――――)
爆発が起き、閃光が満ちて、衝撃が少年を貫く。
最後に見たのは、五体がバラバラになる父親の姿だった。
「フハハハ、うまくいったぞ!」
牙を生やした、古代にサーベルタイガーと呼ばれた生物と人間を二で割ったような怪人が成功を仲間に告げる。
原始タイガーへと身を改造したテロリストである。
民であろうが、現政府だろうが狙う相手を選ばない様は、理想などない。
ただ、己の欲を満たすためだけの存在と化していた。
なのに、彼らは自分たちの行動が理想を目指していると信じて疑わない。
まさに、狂人なのだ。
そんな原始タイガーに、サイの肉体を持つサイダンプが話しかける。
下卑た笑い。人に嫌悪感を抱かせる嫌な笑いだった。
「くくく、これで現政府との戦う金が手に入ったな」
「ああ、この金も武器も俺たちが理想のために使ってやるから、ありがたく思いな」
カニ怪人、ワシカマキリ、蜘蛛男が現れ、そろえて高笑いをする。
彼らはテロリスト。騎乗士の国を荒らす野党の群れ。
黒服の全身タイツの男たちがイーイーと鳴きながら大量に現れる。
「お……とうさん……」
「ん? ガキがまだ生きていたぞ」
「はは、健気だね」
ワシカマキリはサディストな表情のまま、バラバラな父親に必死に手を伸ばす少年を見下ろす。
ずりずりと這う少年には、ワシカマキリは見えていないようだ。
くく……とワシカマキリは笑い、父親の頭部に鎌をさす。
声にならない悲鳴が少年よりあがり、ワシカマキリは顎を蹴る。少年の目には絶望があった。
「たまらね~」
彼がこういうのに、理由はない。
いや、必要でない、が正しい。いたぶることに快楽を覚えるのがなぜいけないのか、彼は知らない。
考える気もない。ただ楽しんでいるだけだ。その結果自分が報復を受けることも考えていない。
目先の快楽を満たすほうが何倍も楽しい。
ただ彼らはそれだけが存在理由だ。他人の不幸など、知ったことではない。
少年もついでに殺そう。ワシカマキリが首に向かって鎌を振り下ろした。
しかし、少年の首が切れない。それもそのはず。
「お、俺の右手、どこいった~~!!」
ワシカマキリが叫ぶと同時に、黒タイツの構成員が吹き飛ぶ。
恐る恐る振り向くと、少年を抱えた少女が一人。
「よくも……我が国を……無実の人を……」
漆黒の名を持って、死神隼人の異名を片手に踊る少女が怒りに燃える瞳をワシカマキリに向ける。
黒龍ドラグブラッカーが彼女の傍に並び立つ。
茶髪のセミロングの髪。意志の強そうな鳶色の瞳に正義の炎が宿る。
華奢な腕が黒い四角の箱を掲げて、鏡に映す。
銀のVバックルが彼女の細いウェストに巻きついた。
右腕を真っ直ぐ右方向へと伸ばし。
足幅は肩幅まで広げて。
怒りを胸に、深呼吸しながら。
「変身ッ!!」
溢れんばかりの正義と共に吐き出す。
鏡より飛び出した、黒い仮面と共に漆黒の鎧が彼女の身体に回りつく。
漆黒。
そう呼ばれる若き姫。彼女は正義と共に、仮面ライダーと呼ばれる宝具を見にまとう。
「あなた達は、僕が倒す!!」
その手に、青龍刀を握って、敵陣へと飛び込む。
正義の怒りが、炸裂をした。
『リュウガ』と呼ばれる鎧をまとう漆黒の身体は何倍にも強化をされ、戦陣を駆け抜ける。
ワシカマキリの左腕から繰り出される鎌をくぐり抜け、斬り裂く。
無防備となったワシカマキリの腹に膝蹴りを一閃。
せめて残った足でと言わんばかりに、ワシカマキリが前蹴りを繰り出す。
漆黒は腕で受け止め、胸に右ストレートを打ち込んだ。
怯むワシカマキリをドロップキックで吹き飛ばし、カードをバックルから引き抜く。
後退したワシカマキリに漆黒は狙いをつけて、ドラグバイザーにカードを読み込ませた。
―― FINAL VENT ――
ドラグブラッカーが漆黒の周囲に踊るように舞い上る。
漆黒は両腕を振るいながら天へと跳躍。
身を捻り右脚をワシカマキリへと向けて、ドラグブラッカーの黒い火炎弾を身体に受ける。
火炎をまとう蹴撃が逃げ惑うワシカマキリへと迫る。
必死に生きようとする姿に漆黒は僅かに同情するが、振り払って蹴りを叩き込む。
爆発をくぐり抜け、膝をつく漆黒へと蜘蛛男が迫る。
「危ない!!」
若い声と共に、蜘蛛男が吹き飛んでいく。
漆黒が振り向くと、息を荒くした猫の仮面をかぶるとし若人。
「ね、猫仮面様!!」
荒れ果てた騎乗士の国にて、正義を働く猫の仮面あり。
民の味方、悪の敵、ネコミミ仮面が助けに入ったのだ。
「無防備すぎますよ、姫」
テロリスト相手に正義をぶつける漆黒と、ネコミミ仮面は顔見知りだ。
もっとも、漆黒は彼がアニロワ国の武将だとは気づいていないが。
「大丈夫ですよ、ネコミミ仮面様。今回は強い味方を連れてきたのですから」
頭に疑問符を浮かべるネコミミ仮面の前に、バラバラになって吹き飛んでくるカニ怪人の頭部が眼に入る。
呆気にとられていると、這い出していく複数の黒タイツの構成員が姿を現せた。
―― EXCEED CHARGE ――
重い男性の電子音が聞こえ、ネコミミ仮面が振り向くと、タイツの構成員を踏みにじる影が現れた。
その姿にネコミミ仮面は戦慄する。
―― X字の仮面に、紫のバイザー。
―― 黒の強化スーツが身体をおおい。
―― 身体を走る黄のライン。
―― 黒銀の鎧をその身に着て。
ゆらりと、幽鬼のごとく彼は現れた。
武将としてネコミミ仮面はかなりの実力があるために、気づく。
アレは、戦闘力なら……いや、それ以外でもアニロワ国の武将たちに引けをとらない、怪物領域に達した書き手だと。
それはそうだ。なぜなら、漫画ロワ国出身、最古の四人の一人、ドットーレでもあるのだから。
自分でも勝てる相手かどうか――
「く、くそ!」
原始タイガーが苦し紛れに彼に襲う。無駄だ。彼の運命は決まったものだと、ネコミミ仮面は悟る。
原始タイガーの右ストレートを彼は―― ネコミミ仮面は、それが『カイザ』なる呪具だとしっている ――捌いて、顎に一撃を入れる。
敵が怯んだ好きに、カイザはあっさりと光る右拳を鳩尾へと叩き込んだ。
瞬間、原始タイガーが爆ぜ、光のX字が中へと浮かび、灰へと変わって崩れ落ちる。
カイザを着込んだ武将はそれを無視して、ネコミミ仮面の首筋へと刃を向けた。
(まずい)
ネコミミ仮面は冷や汗を流し、カイザの紫の瞳を見つめる。
殺される気はないが、それでも今から仕官しようとしている国の要人に手を出すわけにはいかない。
何とか説得できないか、思考を続けるネコミミに助け舟が渡る。
「待ってください。仮面ライダー書き手さん……じゃなかった。カイザさん。
ネコミミ仮面様は味方です!」
「ん? ああ、そうか。アニロワ国、こっちもか」
「こっちも……?」
「気にする……ん?」
カイザが振り向き、訝しげに見つめる。
その視線の先には、母親らしき女性を人質にとる、サイダンプの姿が。
「こ、この人質を死なせたくなければ、俺を……見逃せ!」
カッと、ネコミミ仮面の身体が熱くなる。
何たる非道。
民を人質にとって、何が理想か。前々から相手にしていたが、あらためてその下種さにネコミミ仮面は反吐を吐きたくなった。
ドサッ。
人が崩れる音に気づき、振り返ると漆黒をカイザは優しく降ろしている。
そのまま、右手でベルトのボタンを押した。
―― EXCEED CHARGE ――
カイザはベルトよりエネルギーを脚部に移動させ、右足から黄金の光を飛ばす。
三角錐のエネルギーが女性とサイタンクを縫い付ける。
動けぬ二人の姿を認め、ネコミミ仮面は嫌な予感が這い上がり、カイザを見つめた。
刹那、カイザは跳躍して、両の足をサイタンクへとむける。
ネコミミ仮面が止める暇もなく、母親ごとカイザはサイタンクを始末した。
ネコミミ仮面が手を前に出すが、虚しく握って開く。
風と共に、女性のつけていた。布が燃えネコミミ仮面の手の平で灰になった。
悔しさで震えるネコミミ仮面は、カイザの前に躍り出る。
「どういうつもりですか……」
「騎乗士の国に有利な選択を取っただけだ」
「有利な選択ッ……! 民を見殺しに……その手にかけることがですかッ!?」
「くだらんな。あのままあいつを逃がせばより多くの民が死ぬ。
ここで一人死なすか、それとも逃がして被害を拡大させるか、どちらが正しいか明白だろ?」
カイザは呆れたようにネコミミ仮面へ返し、ベルトに装着しているカイザフォンをとる。
同時にカイザの身体が光に包まれ、黒い強化スーツは霧散していった。
姿を見せたのは、オールバックの若い男。
ドットーレとして大陸に名を轟かせた男そのものだった。
「あなたほどの実力なら、あの人を救って悪漢を倒せたはず! 民は国の宝。……なのにッ!!」
「違うな。より多くのテロリストを殺すことこそが、この国のためだ。
外敵だろうが反乱者だろうが、力ですべて捻じ伏せる! それこそが真理!」
「そのために民を見捨てるとでも言うのですか!!」
「……世の中は弱肉強食。強いものが生き残り、弱いものが死ぬ。
あいつは弱かったから死んだ。テロリストもな」
「ッ!? あなたという人は……! 仮面ライダー書き手さん!!」
「違うな。今の俺は『カイザ』だ。それ以上でもそれ以下でもない」
呪われた宝具の名を、自分の名だと彼は告げる。
なぜその名を名乗るのか、ネコミミ仮面は疑問を持つが、それでもカイザのすることに賛成はできない。
「強者だから……強いから……ギャルゲロワ国も巻き込む気なんですか? ドットーレさん……」
「その件に関してはボイちゃんに聞け。戦となれば加わるが、向こうでは必要なときにしか内政には関わっていないしな」
言い捨て、カイザは気絶している漆黒を抱えた。
正面を向きながら、ネコミミ仮面へと告げる。
「ドSから話は聞いている。ギャグ将軍の所に来い。ネコミミ将軍」
そのままカイザは振り向かず、歩みを進めた。
その場に残されたのは、悔しそうに拳を握り締めるネコミミだけだった。
(BR230/05/phase:03) 騎乗士の国
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テラスに降り注ぐ太陽が、彼女の鎧に反射され、きらきらと輝いている。
広い敷地に、テーブルと大型の日よけ傘の下、ハワイコナを嗜む将が一人。
彼女は―― 見た目だけなら完全に男だが ――ハワイコナの香りと味を嗜みながら、一旦コーヒーカップを置く。
黒い液体から湯気が立ち昇り、コーヒーブレイクの優雅さを演出していた。
「うむ。本日も我が国の名物の味は変わらず」
「のんびりしているな」
声に気づいて彼女―― 名高き、ギャグ将軍である ――が振り向くと、カイザが呆れた様子で見つめていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
「…………その姿で言っても寒いだけだろ、常考。しかも何だ、その文字色は? 茶色いぞ」
「余に脱げと申したか。長男よ、覚悟はいいか!?」
「いいわけあるかぁぁぁぁ!!!」
ぜいぜいと息を荒くして、先ほどのシリアスはどこへと、カイザは将軍にツッコミを入れる。
この二人は揃うとどっちががボケに走り、どっちががツッコミに回る、不思議な関係だ。
余談だが、将軍が脱ぐと城中触手に塗れ、後始末が面倒らしい。
「まあ、仕事は済んだ。今はクライシス帝国名物、コーヒーブレイクを満喫中だ」
「いや、クライシス帝国にコーヒー自体あるのか?」
「それで、どうした? 漆黒のをお守りを終えたら、漫画ロワ国へ向かうのではなかったのか?
それに、つい先日もロボロワ国にいたわけだ。身体を休めねば、いずれ壊れるぞ? おぬし」
「もとより戦いの匂いがあれば、俺は駆けつける。戦いこそが、俺の安寧の場だからな」
「ゆえに傭兵将軍などという、わけの分からない地位を得ているというわけか。ま、おかげで漫画ロワ国の脅威を気にする必要が減るが。
おお、そうだ。余を見習って、コーヒー将軍にでもなるがいい、王子よ」
「空気化フラグじゃねーか。まあ、それはおいといてだ。ドSの知らせ通り、ネコミミが来たぞ」
「来るもの拒まずだ。だいたい、今更策略など気にするようなおぬしでなかろう」
「べつにそのことで不満はない。客将だろうがなんだろうが、ここには必要だから。より多くの、『力』が」
力、と言葉にした瞬間、カイザの目が爛々と輝く。
その光を認め、ギャグ将軍はコーヒーを口に運んだ。
「弱肉強食か……おぬしには真理、だったな」
「ああ、そうだ。戦いこそ、強者と弱者が別れる瞬間こそ、俺の心が躍る瞬間!
ただ俺の拳を受け止めて、ただ俺の力に対抗する相手が存在することこそ、俺の望み。
ドSが何を企んでいるかは知らん。だが、戦争を行うというのなら都合がいい。
俺は戦う。『力』こそが俺のすべてだ!」
告げて、カイザは踵を返す。
そろそろ騎乗士の国の客将であり、漫画ロワ国の君主エースが迎えに来るからだ。
「しばらくここは任せる。俺はいくぜ、将軍」
「うん、行っておいでー。ドトーレ。えへへー」
背中をペシペシと触手で叩き、カイザからツッコミがないことにギャグ将軍はちょっと肩を落とす。
マジモードになりやがって、と呟いて、コーヒーをもう一度口に含んだ。
カイザの姿が消え、見えなくなったと同時にギャグ将軍は寂しげに呟いた。
「けどね、あなたにとっては『真理』でも、世の中には戦い以外に価値を見出す人間も多いのよ。ドットーレ君」
ま、分かって言っているんでしょうけど、そう思いながらギャグ将軍はコーヒーをすべて飲み干した。
「それにしても、ギャルゲロワ国か。我が娘もおるな。
武勇はこの辺境にも届いておるし……まあ、我が娘ならあやつにも引けはとらんだろ。
む? 書き手? あやつは殺しても死なん」
ギャグ将軍は誰ともなく、一人ごちる。
まるで、ネタ師のごとく。
792 名前:
パロロワ戦記 ライダーロワ編[sage] 投稿日:2008/05/17(土) 15:03:47 ID:???0
気絶した少年を抱え、傷心のネコミミは立ち尽くす。
このまま、騎乗士の国についていいのだろうか?
その疑問が、彼の行動を鈍らせていた。
「ネコミミさん、こっちです」
「え? あ、はい。漆黒姫」
カイザが消えた後、目を覚ました漆黒は先ほどの戦いの被害者、少年を孤児院『流星塾』へと案内をかってでたのだ。
カイザと顔をあわせたくないネコミミには願ってもいない提案だ。
それに、カイザの方針が彼女にまで浸透しているのか、確かめたい。
意を決して、ネコミミは漆黒に問いただす。
「漆黒姫、つかぬ事をうかがいますが……姫も力こそがすべて、と考えていますか?」
「……何を言うんですか? ネコミミさん。そんな物騒な」
ネコミミはホッと安堵して、彼女の瞳を見つめる。
鳶色の瞳には純真な光しかなく、信じるには充分だった。
「いったい誰がそんなことを……ああ、カイザさんですね」
「ええ! あの人は……!」
ネコミミが怒りを露にすると、漆黒はシュンとうなだれる。
悲しそうな姿に、ついネコミミの胸に罪悪感が訪れた。
「あの人は……以前の大戦ではそうではありませんでした。
第一、力こそすべてなら、僕が真っ先に切り捨てられたはずですし」
「けど!?」
「……あの人が先の大戦で何を悟ったか僕たちに知る手段はありません。
将軍ならあるいは知っているかもしれません。けど、彼はいつも最前線で両拳を赤く染めていました。
この国の民に彼がなんといわれているか知っています? 『金の悪魔』
騎乗士の国で『カイザ』と意味する呪われた言葉。
彼が人のために、この国のために戦って、得た称号です」
悪魔が称号? おかしな話だとネコミミは思う。
英雄につけるには、物騒だ。
「この国の内情はご存知でしょう? 先の大戦をくぐり抜けようが、武功を上げようが、一部の欲深い者にはむしろ邪魔にしか思わなかったのです。
政権が交代した機にしばらくは少しだけ解消しましたが……今度はテロ行為が活発。
今の状況に至ります」
はあ、と漆黒がため息を突き、国を憂いる。
しかし、ネコミミは納得がいかない。
「彼がどんな目にあったかは知りません。けど、私は彼のやり方を肯定するわけには行かない。
姫、私がこの国を変えてみせます。私の力を使ってください!」
その言葉を受け、漆黒はキョトンとする。
彼女にまだ、ネコミミが他国の武将であることは届いていない。
とはいえ、知っていたとしても彼女の反応は変わらなかっただろう。
「よろこんで。僕たちと共に、戦ってください!」
満面の笑顔で、ネコミミを迎えた。
(BR230/05/phase:04) 騎乗士の国
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鉄騎が収納されている格納庫に、カイザは足を運ぶ。
そこにいたのは、新しく仲間に加わった武将、流されと、すでにカイザと組んで長いエースがいた。
流されは真面目な男を絵に描いたような青年だ。
曰く、木場と呼ばれることも少なくない。流されは宝具『ファイズ』と宝具『ホースオルフェノク』を使うとされているが……
実は、『ホースオルフェノク』は宝具でもなんでもない。
鎧、とされているが流されの変身能力である。
騎乗士の国には、己が身を変え、脅威的な力を振るうことができる能力を持つものがいる。
先の大戦で、鎧、と偽っていたが、まとめキングもその能力を使った一人。
鎧、と偽っているのはこの国の風潮にある。
単純に、無能だがケチをつけることには天才的な駄民に付け入る隙を与えないためだ。
かくいうカイザも、ロボロワに向かう際にはその身を変える。
その力は謎に包まれ、ロボロワ共和国の人間しか目撃をしていないらしい。
ひとまず、格納庫に訪れたカイザを、流されは挨拶をする。
堅苦しいことは苦手のため、せいぜいカイザは会釈をするだけだ。
「今度は漫画ロワ国ですか?」
「まあな。しばらくは任せる」
「……任せてください。俺たちが決して、この国を滅ぼしたりしませんよ」
「…………頼む」
カイザは呟いて、書き手ロワ国より購入したサイドバッシャーなる鉄騎に跨った。
隣に、エースと呼ばれる男が並ぶ。彼の鉄騎はビートチェイサーと呼ばれていた。
「それでは、行きましょう。ドットーレさん」
「ここではカイザだ。あくまでな」
二人はエンジン音を格納庫に響かせ、アクセルグリップを捻る。
やがて、格納庫には流されがやれやれ、といった視線をカイザへと向けていた。
(BR230/05/phase:04) 騎乗士の国
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荒野を走る鉄騎が二つ。
二人の男は漫画ロワ国で出会い、また騎乗士の国でも力をあわせた。
ゆえに、カイザは彼に疑問を持っている。
「エース、お前はネコミミと一緒だと思ったんだがな」
「…………まあ、前大戦は見ているだけしかできませんでしたし」
ぽりぽりと後頭部を書くエースに、カイザはため息を吐く。
エースの外見は二十歳になるかならないか。
外見は純朴を絵に描いたような男だ。やさではなく、かといって荒々しさも見えない。
この男が、漫画ロワ国で最古の四人と同等の……いや、それ以上の力を持つと言われていると、誰が思うのだろうか?
「しかし、ドットーレさんは頑張っていますよ。常に騎乗士の国のことを考えていますし。
それに、漫画ロワ国の実績もあります」
「さあ……てな」
はぐらかすようにカイザは告げて、正面を見つめる。
黒い影が現れた。
刹那、光がカイザの視界を覆う。
「やったぜ!」
「これで、騎乗士の国は俺たちのものだ!!」
サボテンを模した怪人と、蝙蝠を模した怪人が歓声をあげる。
現れる無数の黒タイツの構成員。
彼らの狙いは無差別だ。しかし、彼らはカイザがここを通ると情報をえた。ゆえに、襲撃を開始したのだ。
「ほう、そうか。よかったな」
冷たい声に、サボテンの怪人サボテグロンはギギギ……と後ろを振り返った。
無傷な姿で並び立つ、エースとカイザ。
余裕綽々な態度の二人には理由がある。二人の通る道を漏らしたのは、カイザ自身。
漫画ロワ国に帰るついでに、ゴミの掃除をしようと考えたのだ。
そのえげつなさにエースは少しだけ、呆気に取られた。
「ふん、エース。やるぞ。そいつを使え」
「ガタックのベルトですね。行きますよ、テロリストたち!」
二人の怪物領域の書き手たち。
変身アイテムを持った二人に、テロリストは身体を震わせる。
敵が多い。
そんなの、漫画ロワ国にいたころから、騎乗士の国の前大戦から、カイザは経験済みだ。
(まとめキング。あなたはいずこかに去ってしまった。
しかし、俺の隣はまだエースや将軍、アニジャがいます。俺は戦う。仲間という『力』俺自身の『力』
全てを賭けて、何もかも俺が『力』で支配します。かつてはあなたと俺でダブルライダーでした。今は……)
覚悟は決めた。
エースやネコミミのような『正義』がいるのなら、国を治めるために、騎乗士の国を救うために、『悪』となる。
カイザの称号、つけたければ好きにすればいい。自分は悪だ。
国を救うためなら、故郷である騎乗士の国を救うためなら、そんな称号痛くも痒くもない。
ゆえに、全てを利用する。隣に肩を並べる、相棒すらも。
「エース、行くぞ。今日は俺とお前で……」
「ダブルライダーですね。了解です!」
待機音を奏でる二つの変身アイテムを、二人はそれぞれ掲げた。
漫画ロワ国の武将、力の象徴、強さの証。
オーバーテクノロジーの固まり、宝具をベルトの中央へと収める。
「「変身」」
二つの声と、二つのロワをまたぐ二人の声が重なり合う。
その宿命(さだめ)を負う者。
二人はまさに、戦場でこそ、力を、心を発揮する戦士であった。
(BR230/05/phase:05) 騎乗士の国
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春風も弱まり、夏の訪れを予感させる太陽のもと、騎乗士の国はネコミミを客将として迎え入れることを決定する。
ネコミミは内乱へ向け、カイザとは違う方向性を示すために、その剣を掲げた。
彼に漆黒姫は近寄り、騎乗士の国に伝わる宝具をネコミミへと送る。
こうして、ネコミミの騎乗士の国での戦いは始まった。
なお、余談だがネコミミと親しくなった漆黒姫が、
「僕……本当は男の子なんだ…………」
といったかどうか定かではない。
ちなみに、少年のような姿をしているが、ネコミミはれっきとした少女であった。
最終更新:2009年04月24日 19:32