『ん…んぅ…』
目を覚ますと、そこは旧校舎の廃墟だった。
私はどうして…こんなところに…
『…!』
私の頭の中に、先程までの記憶が瞬時に思い出される。
「よお、お目覚めか?」
前方から声がし目を向けると、さっきまで私と対峙していた男、御堂とか言ったか…、とその何人かの手下が
私を見下ろしていた。
「まだ死んでいないとはバンパイアのタフさには呆れたぜ。だが、とっさに致命傷は避けたとはいえ、俺の全
力の一撃を喰らったんだ。もう殆ど体力は残っていまい」
『く…!お前!…っつあ!』
反射的に体を力を入れて動かそうとするが、その時体に激痛がはしる。
『か…かふっ!』
それと同時に襲ってきた嘔吐感を我慢できずに、吐血した。
どうやら、内臓が損傷しているらしい。
そうだ…さっき私は、この男の攻撃を避けようとしたが、水のせいで体が上手く動かず、避けきれなかったんだ。
それでダメージを受けて、気絶してしまっていたのか…。
「無理はしない方がいいぜ。いくらバンパイアとはいえ、本来なら生きているのが不思議なくらいだからな」
『ち…なんだこれは…放せ!』
そしてそこで私は初めて、自分がさっき表のモカがされていたように後ろ手で柱にくくりつけられていることに気づく。
「いや、単に保険だよ。用心にはこしたことないんでな。まあ、さっきみたいにブチ破ってもいいんだぜ?そ
んな力が残っているもんならな」
『…!こ、の…!』
渾身の力を込めて戒めを解こうとするが、手を縛める鎖はビクともしない。
もう殆ど力が残っていなかった。
設置されていたシャワーはもう止まっているようだったが、これではもう、勝機は殆どないといっていいだろう…。
「無理みたいだな」
勝ち誇ったように言う御堂に、私は思わず歯を食いしばった。
『私を…殺すのか?』
「それもいいと思ったんだがな。もっと楽しいことを思いついた」
『楽しいこと、だと…?』
私がそう問うと、御堂はそれには答えず、忌々しいといった目でこちらを睨んだ。
「お前…さっき、また俺達の事を見下しやがったよな…?はぐれ妖「ごとき」ってな」
『…フン。本当の事を言ったまでだ。お前達が私を人質にして月音を誘い出すようなクズだから…。…!?』
そう言えば辺りに月音の姿が見当たらない…。
私の背中に嫌な汗が流れ落ちた。
『おい…月音をどうした…?あいつをどこにやったんだ!?』
そこまで言った時、目の前の男、御堂の腕がぶれたかと思うと、右の頬に鈍痛がはしった。
ゴッ!
『あぐっ…!』
「言葉に気をつけろよ?お前は今、そのクズに命を握られているんだぜ?」
『くっ…。月音を、どうしたかと訊いてるんだ…!』
殴られたことなんかに怯んでいる場合ではなかった。
今はとにかく月音の安否が知りたくて仕方が無かった。
そんな私を見て、御堂が面白そうに顔を歪める。
「いや…あいつにはうちの奴が世話になったからな…。まあ、下っ端の下っ端だが
とりあえず、落とし前は付けさせて貰ったぜ」
御堂が首で近くの手下に合図をすると、少しして旧校舎の入り口から別の手下達が入ってきた。
そのうちの一人が、手に何かを引きずりながら。
『なっ…!月、音…。月音ぇえええ!』
手下に引きずられていたもの…それはぐったりとして動かなくなった月音だった。
服も泥まみれで、さっきまでの面影は無く、まるでぼろ雑巾のようになっている
月音の変わり果てた姿を見て、私は全身の血液が沸騰するような錯覚に陥った。
『貴様ぁ!!殺してやる!!』
怒りで我を忘れて御堂に飛び掛ろうとするが、両手を拘束されているため、それは叶わなかった。
それでも、どうにかして鎖を引きちぎろうと、悲鳴をあげる体にムチを打って、何回も何回も体に力をいれる。
しかし何度やっても結果は変わらず、鎖が千切れることはなかった。
『くそ…!くっそお!!どうして…!どうしてこんなものも壊せないんだ!』
あのお人よしの月音、表のモカの想い人である月音、そして…私にとっても特別な存在である月音…。
その月音が殺されてしまったというのに、何もできない。
そんな自分に、私は気が狂いそうな程腹がたった。
そして、月音を殺した張本人である目の前の男にも。
私はありったけの憎悪を込めて御堂を睨んだ。
「おお、怖い怖い。眼力だけで殺されそうだぜ。だが落ち着けよ。こいつはまだ死んでない」
『な、何…本当か!?』
「ああ。それなりに痛めつけたが、まだ息をするのはやめちゃいない」
月音が生きている…。
そんな、ついさっきまで当たり前だった事実に、自分でも滑稽と思うほど救われている私がいた。
しかし、そんな喜びも束の間、次の瞬間には私の心に暗雲が立ち込めることになる。
「だが、これからコイツが生きるか死ぬかはお前次第、ということになるがな」
『私次第…だと?』
「さっきの話に戻すぞ?お前はまた俺達をクズ扱いしやがった。
俺達をクズ扱いした純種のお前をこの俺が殺してやるのも爽快だと思ったが…せっかく生きていたんだ。
それもそんな鎖も千切れないほど弱った状態でな…。なら別にすることがあると思ってな…」
そう言うと、御堂が舐め回すように私の体を見た。
『…?何を、言ってるんだ?』
その視線に悪寒を感じながら、御堂に問う。
すると御堂は呆れたようにして言った。
「鈍い奴だな。お前はこれから俺に犯されるんだよ」
『…な…』
一瞬耳を疑った。
女が戦いに敗れた末路としてこういう事が起こりえるというのは知っていたが
まさか自分にもそのような時が来るとは思わなかったからだ。
しかし、私はそんな結末を享受するつもりはさらさらなかった。
『ふざけるな!誰がお前のような奴に体を許すか!』
「許さなくてもいいぜ。俺が決めたことだから、お前の意思なんか関係ない」
『フン…みくびるなよ?例え力がなくなったって、お前のような奴に辱めを受けるくらいなら、私は死を選ぶ。
舌を噛み切ってでも…』
「いいのか?月音が死ぬことになるぞ?」
『な…なん、だと…?』
月音が死ぬ…?何を、言ってるんだコイツは…?
「その為にこいつを生かしておいたんだ。お前なら必ずそういうと思ってな」
『お、お前の目的は私だろう!さっさと月音は解放しろ!』
「わかってないみたいだな。俺達には月音を生かしておく理由がないんだぜ?
力のないお前がこいつを守るには、黙って俺の言う通りにするしかないんだよ」
『嘗めるな…!どうして私が…』
「もっとも、こいつのことがどうなってもいいというんなら好きにすればいい。
後からこいつもあの世に送ってやる」
『…ッ!』
私はぎゅっと口をつぐんだ。
もし私がここで自害したなら、月音を殺すだと…?
ハッタリだ…。
私が死んだ後にコイツ等が月音を殺したところでなんのメリットも無いはずだ。
コイツはこう言って、私をいいように扱おうとしているだけだ。
…だが確かに、さっきコイツが言ったように、このはぐれ妖達が月音を生かしておく理由は何もない。
むしろ私を弄べなかった憂さ晴らしを月音でするかもしれない。
この連中なら、それくらい平気でやる…。
…駄目だ、やはり。
月音は何があっても無事人間界に帰さなければいけない。
私には、最初から選択肢など無かった。
『…私がお前の言う通りにしたら、月音の事は助けるんだな?』
「ああ、そうしてやる。俺もそこまで鬼じゃないからな」
『わかった…。私はお前の言う通りにする。だから月音は殺すな…』
「くく、よっぽどこの使い魔の事が大事みたいだな。いいだろう。
お前ら、月音から離れろ」
御堂が満足そうに笑い、手下に命令する。
すると、月音の周りにいた連中は一斉に月音から離れた。
「そしてお前、この女の鎖を解いてやれ」
「い、いいんですか?御堂さん」
「ああ、この女に力が殆ど残っちゃいないのはさっき証明されたからな。
元がいくら強くても、今はどう転んでも俺には勝てない」
そして手下の一人が私の手の鎖を外す。
くっ…!
忌々しいがこの男の言う通りだった。
今の私では、その辺のはぐれ妖に勝てるかどうかすら怪しい…。
私は観念して御堂の前に立った。
最終更新:2008年12月22日 21:31