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「表と裏のふたりのモカに揺れるつくね」

『ハァ・・・』
またため息が出てしまう。
ここは陽海学園の屋上で、今は昼休み。
いつもなら新聞部の仲間たちと賑やかな昼食を
とるのだが、今日はそんな気分になれなかった。
午前中の授業の内容は完全にうわの空。
俺は今、猛烈に悩んでいるのです。

俺を悩ませる原因―――。
それは自分がこの学園で唯一の人間だということでも(通常、
陽海学園の存在を知った人間は殺される)、
自分がバンパイア化しかけていることでもない。
何を隠そう、それは恋の悩みである。

俺には好きな人がふたりいるのだ。
あ、ちょっと待ってださい。
だからといって複数の女の子を好きっていうわけではなくて。
つまり、俺の好きな人は"ひとりでふたり"なわけで。
すいません、何言ってるかわからないですよね。
でも、俺の気は確かです。

その女の子の名前は赤夜萌香。
高校受験に失敗した俺が通うことになった
陽海学園で出会った、とびっきりの美少女。
美少女にして、バンパイア。
そしてバンパイアにして、(バンパイアゆえの、が正しいか?)二重人格―――。

もう一度言いますが、俺の気は確かですよ!
陽海学園は妖怪の学園。人間の常識など通用しないのです、はい。


俺が妖怪だらけのこの学園で何とかやってこれたのは
モカさんのおかげだ。
もちろん胡夢ちゃんや、紫ちゃん、みぞれさんや瑠妃さんにも
感謝してる(ギン先輩にはそんなでもないけど・・・)。
でも、俺にとってモカさんは、やっぱり特別なんだ。

『モカさん・・・』
無意識に彼女の名をつぶやく。
出逢ってすぐに、俺を魅了したモカさん。
闘うことで俺を守ってくれたモカさん。
俺を大好きだと言ってくれたモカさん。
俺の命を助けてくれたモカさん。
みんなみんなモカさんなのに。

『俺はどうしたらいいんだろう』
表と裏、ふたりの"モカさん"を同時に好きになってしまった俺は。

(ふたり同時に好きになっていいはずがない。必ずどちらかを、
いや、かなりの確率で両方を傷つけてしまうだろう。
そうなったら彼女の心は壊れてしまうかもしれない。
でもだからといって、ふたりに優劣などつけられるわけがない。)


つくねは悩んでいる。ふたりのモカは切り離しようがないのだから、
自分の胸のうちを正直に告げるしかないのだが。
誰よりも優しくて、そして誰よりもふたりのモカを想うが故に、
つくねはどうしていいかわからない。
何一つ口にしないまま、
膝を抱え込んだ体育座りの体勢のまま、昼休みが過ぎていった。






一方、学園の庭の円形テーブルにて・・・
「つくね遅いね~」
「どうしたんですかねえ? モカさん何か知りませんか?」
紫が問いかけるが、
「・・・」
モカの反応がない。
「モカ? どうしたの?」
「えっ!? あ、なんでもないよ」
「本当ですかぁ?」
「いつも言ってるケド、つくね関係で隠し事したら怒るよ!」
くるむが身を乗り出してくる。
「ホントになんでもないの、ただ・・・」
「ただ?」
「つくね、朝からずっと元気ないの。
それに私、避けられてるみたいで」
モカが寂しそうにうつむく。
「つくねさんがモカさんを避けることなんてありえないですよ」
紫がフォローを入れるがモカは落ちたままだ。
「・・・」
「・・・」
いつもの新聞部の昼休みではありえない沈黙。
確かにつくねに関してはライバルではあるが、
今では女子それぞれの絆も着実に深まっている。
それでも、つくねが不在で、さらにくるむをはじめ
皆が最大のライバルと目しているモカまで落ちていると
張り合いもなく、さすがにこうなってしまう。

「つくねなら階段の方へ歩いていったぞ」
そしてその沈黙は意外なところから破られた。
モカが座っている椅子の、背後の草むらから。
「みぞれちゃん!!」
「いつからいたんですか!?」
「いつからって、最初から・・・」
そういってクリームパンをパクつく。
どうやらみぞれはつくねが階段の方へ向かうのを
目撃した後、庭へと来たらしい。
彼女ならつくねの後を尾行しかねないが、
庭へと来たのはつくねもすぐ来ると考えたからか。
あるいはお腹が空いていたからか。
恐らくは両方であろう。
「そんな大事なこと、どうしてさっさと
言わないのよ! 無口にもほどがあるわ!」
「そんなのは私の勝手だ・・・」
みぞれの中では、抜け駆けするかしまいかという
葛藤があったのだろう。
抜け駆けしなかったのは、やはりモカの落ちっぷりを
見てしまったからか。
くるむ同様みぞれも、モカにはつくねを巡る
"強敵"であってほしいという気持ちが、
どこかにあるのかもしれない。
困難であればあるほど燃えるのが恋心ってか。
いや、みぞれの場合、燃えちゃまずいのだが。


「私、つくねを探しにいく!」
「私も行くです!」

くるむが宣言し、紫が続く。
彼女らが走り出そうとしたそのとき、
バァン!!!
木のテーブルを叩いたとは思えないほど
かん高い音が辺りに響いた。
「私が行くから! 皆はここで待ってて!!」
テーブルくんは無事なのだろうか。
いや、今はいいか。そんなことは。
モカがいつの間にか立ち上がっていた。
その瞳に強い光を湛えて。
(ビビッててどうするの!
もっとつくねと向き合わなきゃ!)
あっけにとられている周囲をよそに、
モカは屋上へと走り出していた。

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最終更新:2009年03月16日 16:17
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