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「あなたを呼ぶ」六話 - (2006/05/11 (木) 20:22:57) の1つ前との変更点
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水銀燈が泣いていた。<br>
僕は、彼女のあんな顔みたくない。<br>
僕がせめてできること。水銀燈が壊した人形を直すことくらいなものか。<br>
“こんなもの”なんていってたけど、ずっと大切にしていたものだ。<br>
今頃、後悔しているはず。<br>
僕は水銀燈の部屋に戻り、人形を直し始めた。<br>
しばらくして、このくんくんの人形に違和感を覚えた。<br>
この人形は、なにか違う。<br>
なにかがよく分からないんだけど……<br>
僕は、直し終わったくんくんの人形を眺める。<br>
僕の記憶をたどりつつ、<br>
前後、上下左右、色々な角度からじっくり見てみる。<br>
僕はようやく違和感の正体に気がついた。<br>
水銀燈に伝えないと………、<br>
彼女を慰めることができるはず。<br>
けれど、彼女の行方はわからない。<br>
手ぶらで外に出たし、そんな遠くへはいけないよな。<br>
待ってたら部屋に戻ってくるはず。<br>
入れ違いになるのは、避けたいし、水銀燈の部屋で待とうか。<br>
<br>
午前2時ごろ、扉の開く音が聞こえた。<br>
ジ「………よう、心配したぞ。」<br>
水銀燈は、少し驚いたようなそぶりを見せたあと、口を開いた。<br>
銀「なんで、私の部屋にいるのよ。<br>
放っておいてっていったじゃない………。」<br>
ジ「いやだね。そんなこと、僕が聞くと思ってるのか?」<br>
銀「もういや、放っておいて、私を一人にして!<br>
私なんて、誰からも必要とされない壊れた子なのよ。」<br>
ジ「僕には必要だ!僕には、水銀燈が必要だ!!」<br>
銀「え?」<br>
ジ「お前は、キライかもしれないけど、<br>
僕は、水銀燈の髪、好きだ。すごい綺麗だと思う。<br>
僕の淹れた紅茶をおいしそうに飲んでくれるのが好きだ。<br>
僕は、水銀燈が僕の部屋に尋ねてくれることを楽しみにしてる。」<br>
銀「ジュン………」<br>
水銀燈は、少し黙り込んだ。<br>
ジ「……水銀燈……コレ。」<br>
僕は、直した人形を差し出す。<br>
銀「え、………直してくれたの?」<br>
少し嬉しそうに見えた。<br>
やっぱり、彼女はオヤジさんのことが好きなんだ。<br>
ジ「あぁ、まったく同じってわけではないけど、<br>
……大切なものだからな。」<br>
銀「……でも、こんなの持ってたって、お父様は……」<br>
表情が曇る。<br>
違う。僕がみたいのは、こんな顔じゃない。<br>
ジ「こんなのっていうなよ。<br>
せっかくの手作りのぬいぐるみなんだしさ。」<br>
銀「え、手作り………?」<br>
ジ「そう、タグもないし……。それにしっぽの先が色ついていないしな。<br>
本当なら、尻尾の先も茶色のはずなんだ。<br>
僕も昔作ったことがあったから分かった。<br>
オヤジさんは、TVで見たくんくんを元に作ったんだと思う。<br>
あんまり、TVで後ろ姿はでてこないし。」<br>
銀「そんな、お父様が……」<br>
ジ「来れない理由は分からないけど、<br>
オヤジさんは、水銀燈のこと嫌ってなんかいない。<br>
それがなによりの証拠だ。」<br>
銀「お父様……」<br>
水銀燈は、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。<br>
銀「……ジュン、ほんとに、ほんとに、ありがとう。」<br>
彼女は、泣きながらだけど、少し笑ってくれた。<br>
<br>
数日後、水銀燈が、僕の部屋を訪れた。<br>
銀「あの時は、ほんとにありがと。<br>
ジュン、紅茶好きでしょ?<br>
これ、シャングリラって紅茶の葉なんだけど、よかったら貰って。」<br>
ジ「おぉ、ありがとう。<br>
シャングリラか。<br>
よくこんなの手に入ったな。<br>
ただでさえ、生産量すくないし、<br>
日本には、ほとんど出回らないのに。<br>
どこで手に入れたんだ?<br>
高かっただろ?<br>
……あー、ごめん、なんか一人で盛り上がっちゃって」<br>
銀「ふふっ、かまわないわよぉ、<br>
すっごい嬉しそうだもの。」<br>
ジ「とりあえず、一緒に飲まないか?」<br>
銀「でも、あなたにプレゼントしたものだし、<br>
私が飲むのも……」<br>
ジ「紅茶は、おいしく飲めればそれでいいと思うんだ。<br>
僕は、水銀燈がおいしそうに飲んでくれるのが嬉しいから、<br>
ひとりで飲むより水銀燈がいるとおいしく感じれるから、<br>
だから一緒に飲みたいんだ。ダメか?」<br>
銀「ふふっ、そこまで言うなら、一緒に飲んであげるわぁ。」<br>
その後、二人で飲んだ紅茶は<br>
昔飲んだ、僕がずっと飲みたかったあの紅茶の味に近いような気がした。<br>
<br>
きっと、誰もが、誰かを呼びたがっているし、呼ばれたがっている。<br>
<br>
呼びかける声の内容は、変わるかもしれない。<br>
<br>
呼びかける声が届きづらくなるかもしれない。<br>
<br>
時には、その声が重荷になるかもしれない。<br>
<br>
けれども、きっと、どんなになっても、<br>
呼ぶ声は絶えないし、呼びかけてくれる声もまた絶えない。<br>
<br>
だから、精一杯の思いを込めて、<br>
<br>
<br>
あなたを呼ぶ<br>