アットウィキロゴ
水銀燈が泣いていた。
僕は、彼女のあんな顔みたくない。
僕がせめてできること。水銀燈が壊した人形を直すことくらいなものか。
“こんなもの”なんていってたけど、ずっと大切にしていたものだ。
今頃、後悔しているはず。
僕は水銀燈の部屋に戻り、人形を直し始めた。
しばらくして、このくんくんの人形に違和感を覚えた。
この人形は、なにか違う。
なにかがよく分からないんだけど……
僕は、直し終わったくんくんの人形を眺める。
僕の記憶をたどりつつ、
前後、上下左右、色々な角度からじっくり見てみる。
僕はようやく違和感の正体に気がついた。
水銀燈に伝えないと………、
彼女を慰めることができるはず。
けれど、彼女の行方はわからない。
手ぶらで外に出たし、そんな遠くへはいけないよな。
待ってたら部屋に戻ってくるはず。
入れ違いになるのは、避けたいし、水銀燈の部屋で待とうか。
 
午前2時ごろ、扉の開く音が聞こえた。
ジ「………よう、心配したぞ。」
水銀燈は、少し驚いたようなそぶりを見せたあと、口を開いた。
銀「なんで、私の部屋にいるのよ。
  放っておいてっていったじゃない………。」
ジ「いやだね。そんなこと、僕が聞くと思ってるのか?」
銀「もういや、放っておいて、私を一人にして!
  私なんて、誰からも必要とされない壊れた子なのよ。」
ジ「僕には必要だ!僕には、水銀燈が必要だ!!」
銀「え?」
ジ「お前は、キライかもしれないけど、
  僕は、水銀燈の髪、好きだ。すごい綺麗だと思う。
  僕の淹れた紅茶をおいしそうに飲んでくれるのが好きだ。
  僕は、水銀燈が僕の部屋に尋ねてくれることを楽しみにしてる。」
銀「ジュン………」
水銀燈は、少し黙り込んだ。
ジ「……水銀燈……コレ。」
僕は、直した人形を差し出す。
銀「え、………直してくれたの?」
少し嬉しそうに見えた。
やっぱり、彼女はオヤジさんのことが好きなんだ。
ジ「あぁ、まったく同じってわけではないけど、
  ……大切なものだからな。」
銀「……でも、こんなの持ってたって、お父様は……」
表情が曇る。
違う。僕がみたいのは、こんな顔じゃない。
ジ「こんなのっていうなよ。
  せっかくの手作りのぬいぐるみなんだしさ。」
銀「え、手作り………?」
ジ「そう、タグもないし……。それにしっぽの先が色ついていないしな。
  本当なら、尻尾の先も茶色のはずなんだ。
  僕も昔作ったことがあったから分かった。
  オヤジさんは、TVで見たくんくんを元に作ったんだと思う。
  あんまり、TVで後ろ姿はでてこないし。」
銀「そんな、お父様が……」
ジ「来れない理由は分からないけど、
  オヤジさんは、水銀燈のこと嫌ってなんかいない。
  それがなによりの証拠だ。」
銀「お父様……」
水銀燈は、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
銀「……ジュン、ほんとに、ほんとに、ありがとう。」
彼女は、泣きながらだけど、少し笑ってくれた。
 
数日後、水銀燈が、僕の部屋を訪れた。
銀「あの時は、ほんとにありがと。
  ジュン、紅茶好きでしょ?
  これ、シャングリラって紅茶の葉なんだけど、よかったら貰って。」
ジ「おぉ、ありがとう。
  シャングリラか。
  よくこんなの手に入ったな。
  ただでさえ、生産量すくないし、
  日本には、ほとんど出回らないのに。
  どこで手に入れたんだ?
  高かっただろ?
  ……あー、ごめん、なんか一人で盛り上がっちゃって」
銀「ふふっ、かまわないわよぉ、
  すっごい嬉しそうだもの。」
ジ「とりあえず、一緒に飲まないか?」
銀「でも、あなたにプレゼントしたものだし、
  私が飲むのも……」
ジ「紅茶は、おいしく飲めればそれでいいと思うんだ。
  僕は、水銀燈がおいしそうに飲んでくれるのが嬉しいから、
  ひとりで飲むより水銀燈がいるとおいしく感じれるから、
  だから一緒に飲みたいんだ。ダメか?」
銀「ふふっ、そこまで言うなら、一緒に飲んであげるわぁ。」
その後、二人で飲んだ紅茶は
昔飲んだ、僕がずっと飲みたかったあの紅茶の味に近いような気がした。
 
きっと、誰もが、誰かを呼びたがっているし、呼ばれたがっている。
 
呼びかける声の内容は、変わるかもしれない。
 
呼びかける声が届きづらくなるかもしれない。
 
時には、その声が重荷になるかもしれない。
 
けれども、きっと、どんなになっても、
呼ぶ声は絶えないし、呼びかけてくれる声もまた絶えない。
 
だから、精一杯の思いを込めて、
 
 
       あなたを呼ぶ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2006年05月11日 20:22