母「さ。蒼星石!翠星石!行くから準備して~」
朝。
ジュンから連絡があったので、すぐに車を出すことになったです。
お父様が1階の洋室で、水銀燈が2階の自分の部屋で寝ているのを除けば、
家族全員がリビングにいるです。
雪「私たちは…?」
きらきーが雛苺とお互い手を繋ぎながら不満そうに聞きやがるです──
母「先にジュンくんの家に行ってて」
金「何で連れて行ってくれないのかしら?」
母「大人数で行っても向こうで時間がかかるからよ。
今から退院なんだから早く帰ってくるし。
明日退院だったら今日はお見舞いとして連れて行くつもりだったけど」
そうです。お前らが普段やかましいから連れてってもらえないんです!
お母様も、もっとズバズバっと言ってくれてもいいですのに…
紅「私は…水銀燈が起きた時に家に1人にさせたら嫌な予感がするから、
ここに残っておくわ」
金「そんなの、お父様が居るんだし大丈夫じゃない?」
紅「お父様が居ても、他のみんながいないと仲間外れにされた気分になるでしょ?
家の中では“孤高の番長”に見える水銀燈でも、
そういう事されると鬱になるくらい怒る時があるから気をつけなさい…」
金「怒るって…どんな風に?」
紅「そうね…翠星石と逆の怒り方ね」
ムッ…
翠「あぁ?何か言ったですかっ!?」
薔「そんなんじゃわかんないし~」
紅「…例えば、無視するとか…とにかく、冷たくされるのよ
最初は殴ったり蹴ったりしない。心を傷つけてくるの」
む、無視ですか!?
…きぃぃぃぃ!!
薔「じゃあ、無視し返したらいいんだよ」
紅「そんな事しても余計酷くなるだけ。一緒よ。
お互い漸増する精神的苦痛に喘ぎながら暮らしてゆくの…
そしたら今度は部屋の荒らし合いが始まるの。
私たちは同じ部屋だからそんな事簡単なのだわ…
あなた達の気づかないところで物を壊したり隠したり…
それでもお互い気が済まないから、次は自転車の壊し合いが始まるの。
もうここまで来れば、さながら第一次世界大戦の西部戦線における
塹壕の掘り合いと一緒なのだわ。
そして、ありとあらゆる事をやり尽くすと、
最後には殴り合い蹴り合いのホンモノの喧嘩が始まるのよ!
あぁもう思い出したくもないわ!」
──どんどん早口になり、ヒステリック気味になっていく真紅…
薔「じゃあ、真紅はそうやって水銀燈と喧嘩したってこと?」
紅「…」
金「で~もぉ、その喧嘩、吹っかけた方は真紅だったりして?」
紅「これ以上は聞かないで頂戴!」
ビクッ…
…ふぅ、不覚にもビビッてしまったですぅ。
金「い…いきなり怒鳴らないでほしいかしら!」
薔「自分から語り始めたくせに…ボソ」
ふん。
じゃあさりげなく聞いてやるですか…
翠「ちょっと真紅。それで聞くですけど…
…お前が一番無視してるじゃないですか?…“誰かを”!」
紅「──別にそんなつもりはないけど。誰を無視したのかしら…?」
翠「…何でもないです」
紅「だからあなたたち…姉妹は仲良く、いつも気遣いが出来るような仲じゃないとダメなのだわ」
金「わ、わかったかしら…」
薔「…うん」
そうですね。
ここに寂しい思いをしてる1人の乙女がいる事を忘れてはならないですよ…?
~~~~~
病院へ車で北上していくです。
途中で巴を拾って…
巴「ありがとうございます…」
母「いいのいいの。気にしない気にしない」
このあたりからは、病院まで5分くらいですかねぇ。
蒼「ジュン君、どんだけ痩せてるのかな…」
翠「結構“もやし”になってましたよ?」
蒼「やっぱりそうなるんだろうなぁ…入院するとね」
巴「それに病人食ってマズそうだもんね…見たことあるけど、あれは食欲をそそらない…」
母「翠星石も蒼星石も、料理出来るようになりなさいよ~」
翠「クッキーなら焼けるんですけどねぇ…」
蒼「僕も…皿洗い程度なら…」
母「巴ちゃんは出来るの?」
巴「多少は…」
うぅ…闘志に火がついたですぅ…
翠「じゃあ勝負するです!」
巴「へ?」
蒼「え?w」
翠「料理で勝負するです!…まぁ、ジュンの引き篭もりの問題が片付いて…
いや…あぁ…高校受験が終わってから料理を学び始めたいと思いますが…」
母「何それ…w」
翠「ま、そういうわけで、ここに挑戦状を叩きつけるです!」
巴「いいよ。いつでもどうぞ」
へんっ。
クッキーが作れるんですから、普通の料理だってちょ~っと練習すればちょろいはずです~
一週間もあれば即上達しますよぉ~…ねっ?
~~~~~
さて、
病院に着いて、玄関をくぐれば、待合ロビーの座席に…
…ジュンが座ってるです!
きゃはっ♪…これでやっといつもの生活に戻れるんですね!
ジュンがこっちに気づいたです…
こっちに向かって来るです…
ガシッ!
蒼「ジュン君…良かった。元気になって」
蒼星石がジュンと握手を交わし…
パシッ!
巴「おめでと、桜田君。この時を待ってた」
巴がジュンとハイタッチ…ですか。
じゃあ翠星石はその上を目指すです~
──とぉっ!
ムギュ-ッ!
翠「やっと退院ですねぇ~ジュン~♪」
あぁジュン…
お前の胸の暖かさがこっちにもしっかり伝ってくるです。
あれ?
…変な気配がするです…。
──まっ、周りに一般人が…!
わわ…翠星石を見て笑ってやがるですぅ…!
翠「きゃっ」
ジュンを突き放して…な…何事も無かったかのように振舞えです…
落ち着けです…落ち着けですぅ…
ここは病院の受付前の待合ロビーですぅ。
蒼星石、巴、お母様…みんな一般人に混じって笑ってやがるですぅ…
ジュン、お…お前、何かフォローしやがれです!
──お…お前まで笑うなです!
うぅ…恥ずかしさMAXですぅ…!
翠「このチビ人間がぁ~!」
ジ「何でいつも僕に当たるんだよw」
だって恥ずかしいんですよぉ…
仕方ないじゃないですかぁ。
…うぅ。
蒼(『…前よりもっと甘えん坊になってない?』)
ハッ…
──蒼星石!?
~~~~~
…帰りの車の中。
頭の中で昨日の晩に言われたあの言葉が繰り返されるですぅ…
蒼(『…前よりもっと甘えん坊になってない?』)
ハァ…
やっぱり、そうなんですかねぇ。
ジ「すみません…今回は迷惑をおかけして…」
母「いいのよ。ジュンくんの御両親が帰って来るまでは私がお母さんの代わりなんだから」
おとうさんだって同じこと言うと思うわ」
──ジュンはお母様公認で甘えさせてもらってやがるです。
まぁ、些かニュアンスが違う気がするですが。
ジ「そういや、みんな…明日は学校なんですよね」
母「そうよ。だからジュンくんも頑張らないとね」
ジ「そうですね…」
──じゃ、じゃあ…翠星石が甘えんぼだとして、
もし翠星石が突然ジュンに甘えることをやめたら、ジュンはどう感じるですかねぇ。
蒼「ジュン君のいない学校生活なんて…何か物足りないし…」
巴「面白みに欠けるし…」
翠「これから“あいつら”徹底的に叩き潰してやりますよぉ~ウヒヒ…」
──いや、今のジュンのヒッキーな状態から考えると、翠星石がジュンに甘えることで、
ジュンも翠星石に甘え出して、どうしようもないヘタレ人間になることも有り得なくは…
母「イジメについてはこっちからも学校と相談してるから、心配することないわ。
いつでも復帰できるように勉強頑張りなさいよ」
ジ「はい…」
──でも…ここでジュンを精神的に突き放すような事はしたくないですし…
…でもでも、将来的には翠星石をリードしてくれるような奴になって欲しいですし…♪
う~ん…心苦しいですねぇ。
~~~~~
病院を出発してから大体10分くらい…
ジュンの家に着いたです。
ジ「ありがとうございました…」
巴「ありがとうございました」
母「あぁ~いいのいいの。じゃ、一旦帰るわね」
さてさて、先に着いてる妹たちは何をやらかすですかねぇ…ヒヒヒ
ガチャ…
ジ「…ん?」
パーン!パーン!
薔「退院おめでとー」
雪「退院おめでとー」
雛「ジュンが帰ってきたのー!」
金「まったく、待ちくたびれたわぁ」
何か唐突にクラッカーですぅw
小学生の頃の誕生日パーティーみたいな盛り上がりですw
ジ「お、おぉ…」
ジュンの野郎、リアクション薄いですねえ…
もっと面白い人間になったらいいですのに!
~~~~~
さ、ジュンみたいに風邪なんかで入院しないように手洗いうがいを済ませてぇ~…
2階のジュンの部屋に突撃~
学ランが壁に掛けられてますね。
まぁ…お前が学校で遭った事は運が悪かっただけの話なんです。
裁縫が得意だからイジメられてるなんて理不尽な話ですし、
考えるだけでもムカっ腹が立つのですけどぉ…!!
──ん?
ジュンの奴、ポカンと口あけて何を固まってやがるんですかね?
蒼「──ジュン君、ジュン君!」
ジ「…あっ」
ぼーっとし過ぎです…w
巴「学ラン眺めてぼーっとしてたでしょ?」
ジ「ん…まぁ。ちょっと思い出してた」
蒼「何をだい?」
ジ「入学前に制服姿を見せ合いっこした時のこと…」
翠「…あぁ、ありましたねえ…そんなこと」
ドキッとして、また一方でヒヤリとしたですぅ…
巴「あの時、桜田君が持論を展開してたよね。今でも覚えてるよ。
好みの服装が分かっちゃったぁ~ってw」
ジ「その話は…!」
巴「そうだったよねぇ~?翠星石ぃ~」
やっぱり振ってくるですか!
翠「…なっ…なな…何でこっちに振ってくるですかっ!」
蒼「w」
あぁ~もう~…
ジュンのあの発言も参考にして普段から服を買ってるなんて言えたもんじゃねぇです…
~~~~~
1階のリビングに全員集…あれ?
のりがいないですね…。
翠「ちょっと翠星石…のりがいないですよ?」
蒼「それ、僕も思ってたんだ…どうしたんだろう」
蒼星石も知らないんですかぁ…
今日は記念すべきジュンの退院の日だというのに、どこへ行ったんですかねぇ。
──そんなことお構いなしに今日もジュンに登ってるですね。チビ苺…。
雛「ジュンのぼりぃ~♪」
はぁ。
蒼「登りたいの?」
翠「えぇっ?」
蒼(『…前よりもっと甘えん坊になってない?』)
翠「──そ~んなこと…無いですよぉ」
うぅ…
ジュンと関わるたびに昨日の蒼星石の発言が頭に響くです…
神経も擦り減ってくるです…
蒼「ほら、ジュン君…翠星石見て構えてるよw」
翠「…」
蒼(『…前よりもっと甘えん坊になってない?』)
──嫌あぁぁぁですぅ!
もう思い出したくないですぅ!
そんな…前にも増して甘えんぼになってるかと聞かれましても…
…その…す、翠星石は…甘えてなんかないです?
ジュン登りぃ~だなんて、近いうちには卒業するつもりです?
その証拠を見せてやるです。
ふん!
翠「こっち見たってそっちには行きませんよぉだ!です…ボソ」
蒼「いやいや、何でそっぽを向くのさ…」
翠「知るかです!」
何か言葉に出来ない葛藤が翠星石を苦しめるですぅ…
涙が零れ落ちそうですぅ…
ジ「なぁ、蒼星石。水銀燈と真紅は?」
──ジュンが翠星石を呼ばないです…
きっと翠星石が無視したせいです…
鬱です…。
…もうどうすりゃいいのか判んねぇです!
蒼「水銀燈はまだ寝てると思う。
昨日部活が一日中あったらしくて疲れてるんだって。
真紅は『水銀燈が起きた時に家に1人にさせたら嫌な予感がする』
って言って家にとどまってる」
金「のりはジュンが来る直前に『ちょっと寝てくる』
…って言って自分の部屋に寝に行ったわ…
『昨日の部活はしんどかった』って…」
──おやおや?
チビカナの奴、興味深い情報を持ってやがるですね。
翠星石たちが来る前にそんなことがあったんですか?
蒼「それじゃあ昨日の水銀燈と一緒だ…」
水銀燈はともかく、のりが昼寝っていうのは…あまり聞かないですね…
ラクロス部も大会が近いんでしょうねぇ。
~~~~~
ピーンポーン
の「おはよう」
翠「あっ、のり!おはようです…ていうかもう夕方ですよ?w」
インターホンのが鳴ってすぐに降りてきたから
後ろから客が来たのかと思ったですw
のりでしたか。
の「ふふ…そうね」
そういや蒼星石も昨日の水銀燈みたいにクタクタになって帰って来たことが時々ありましたね。
運動部って大変ですぅ…
~~~~~
夕飯はお母様がこの家で作ることになったです。
さっき水銀燈と真紅、お父様まで来て、ジュンの家も大賑わいですぅ。
母「別に気にしなくていいのよ。
ジュンくんにものりちゃんにも巴ちゃんにも、みんないつもお世話になってるんだし」
の「すみません…いつも御迷惑お掛けして…」
ジ「今日なんて、わざわざ僕の家で作っていただいて…」
巴「私も…ご馳走になってばかりで何も出来なくて…」
翠「そんなこと気にするなです。いつも通り食べやがれです」
蒼「それ、翠星石が言うところ?w」
──みんな一気に笑い出しやがりました…。
うぅ…またしても恥ずかしいですぅ…。
別にそんなつもりで言ったわけではないですのにぃ…。
…でも、何か不思議ですねえ。
すぐに恥ずかしさなんて吹き飛んでいっちまったです…。
不思議と…一緒になって笑ってるです──
何か…楽しいです。
“この場”に居ることが楽しいです。
この雰囲気の中に包まれていることが、すっごく楽しいです──
何やかんやで五月蝿い姉や妹たち、お父様とお母様、
巴、のり、ジュン…みんな大好きです。
そして、この“大家族”は世界でいちばんの大家族です!
──ねっ!ジュン?