水銀燈達のアジトの一角…
『作戦会議室』とかかれたプレートのかかった部屋…
中からバンッと何かを叩く音がして…
扉に張られたプレートが落っこちた。
白衣を着て眼鏡をかけた蒼星石がホワイトボードを叩く。
「…なんで蒼星石はあんな格好をしてるのかしら?」
「……作戦のプレゼンする時の伝統…私が考えた…」
「ちょっとそこ!静かにする!」
こそこそ話す金糸雀と薔薇水晶を、蒼星石が注意する。
それにしてもこの蒼星石、ノリノリである。
コホン、と小さく咳払いをして、蒼星石が作戦概要を伝える。
「つまり、先行してるであろう、3人組のチームに対する遅れを取り戻す為にも、
僕達は最短ルートで施設跡に向かう。
道中での補給が無いから、各自、準備はしっかりしといてね」
5.右目で見る夢
目標の施設跡地までの最短距離を、ガタゴトと馬車でひた走る。
時々馬を止め、地図を確認する。
夕日が沈むまで馬を駆り…
星が明るくなり、焚き火を囲む。
銀ちゃんと私は明日に備え、銃の手入れをする。
「さーさー、お待たせですぅ!翠星石特製の○○入りシチューですよ!」
毎度の事ながら何が入っているのかはよく分からないが…彼女の料理はとても美味しい。
ただ時々、食後に眩暈がする。多分、何かの薬の実験を兼ねてるのだろう。
…勘弁してほしい。…美味しいけど。
正直、銀ちゃんの事は好きだけど…ヤクルト鍋やヤクルト煮は……。
そう考えながら翠星石の作ったシチューを食べる。
いつの間にか頬が緩んでる自分に気付いた。
お腹もいっぱいになり、のんびりと辺りを見渡す。
銀ちゃんは、食後の一服中。
…うん。やっぱり、銀ちゃんはカッコイイ。素敵だ。
蒼星石は、周囲の見回りを買って出てくれた。
やっぱり彼女は頼りになる。
翠星石は、晩御飯の片付けを終え、薬を調合しながら黒い笑顔を浮かべている。
…時々、黒いけど…でも、彼女の作る医薬品に何度助けられた事か。
金糸雀が、すやすやと寝息を立ててる。
そのあどけない寝顔は、とっても可愛らしい。…多分、銀ちゃんの次くらいに。
銃の手入れもすっかり終え、その場でうんっと身体を伸ばす。
「薔薇水晶も、見張りの時間まで少し休んでおきなさぁい」
銀ちゃんが言ってくれた通り、少し休む事にする。
その場でころんと横になる。
―※―※―※―※―
仲間に囲まれ…眠りに落ちる…。
眠りに落ちて…夢を見る。
とっても昔の夢。
とっても幸せな夢。
とっても…孤独な夢。
…
… …
… … …
~~~~~
私は放射能に汚染された場所でこの世に生を受けた。戦後生まれとしては、珍しくも無い。
放射能濃度の高い地域で生まれた子供は…
特異な成長が見られることがまれにあった。
それはプラスにもマイナスにも…もっとも、多くはマイナス要素だったが…。
私はそう考えると、とても運が良かった。
ちゃんと人間の形をして生まれてこれた。
病気もハンデも無く、育ってこれた。
だけど、私は皆とは違っていた。
私は目が良かった。
どんなに暗い夜道でも、私が道を見失う事は無かった。
どんなに遠くの、どんなに小さな動物も、私にはその細部まで見えた。
周囲には気味悪がる者もいたが…
お父様はやさしかった。
お父様が注いでくれる愛情が、何より嬉しかった。
そのお父様が、幼い私に突然告げた。
「薔薇水晶、紹介しよう。新しい家族だ…」
お父様はそう言いながら、一人の少女を連れてきた。
「君の…お姉ちゃんになる人だよ…」
彼女は雪華綺晶という名前だった。
遠縁にあたる人物で、孤児となる所をお父様が引き取った、という事だった。
お父様は言う。
「この子は…君と同じで、少し特別な子なんだ…」
この頃の私は…雪華綺晶が嫌いだった。
お父様の愛を奪っていかれる気がして…。
そして…
何より、雪華綺晶が怖かった。
…
やんちゃだった私は…
よく、壊れたライフルを使って、チャンバラゴッコをしていた。
そんなある日…
遊んでた私は、壊れたライフルを棒のように振り回し…
皿を一枚、割ってしまった。
すると、大人しく読書をしていた雪華綺晶は本をパタンと閉じると、私に近づき、
「こんなものふりまわしたらあぶないよ?ばらしーちゃん」
そう言うと…
素手でライフルを…まるで飴細工でもそうするかのように…へし折った。
私は雪華綺晶のその見た目にそぐわぬ怪力より…彼女の心が怖かった。
私にとって雪華綺晶は、私の大切なものを平然と奪っていく存在にしか映らなかった。
彼女が直接何かしてきた事は無い。全て、私の一方的な思い込み。
だが…幼かった私には、雪華綺晶を嫌う十分な理由だった。
でも…あれは…あの事は…
今でも、はっきりと覚えてる。
お父様と…雪華綺晶とで、大掃除をした日。
庭の小さな焼却炉の中に、いらない物を片っ端から放り込んだ。
雪華綺晶が苦手だった私は…
多分、何も考えず、早く終わらせようとしか考えてなかったのだろう。
だから、私は気付かずに『アレ』も焼却炉に投げ込もうとした。
「ばらしーちゃん!」
雪華綺晶の突然の叫びに、私は驚いて振り返った。
その動きがやけにスローモーションに見えたのを覚えている。
そして…
私の手から滑るように、それは焼却炉の中に入っていった。
町一番の『技術屋(マエストロ)』だった、父の作った…弾丸を詰め込んだ箱。
…
気が付くと私は、病院のベッドに横たわっていた。
体中に激痛が走った。
でも、それ以上に、視界が今までとは違う事に違和感を持った。
左側が、何も見えなかった。
やって来た医者が、私に鏡を見せて言う。
私の左目が失明した事…
雪華綺晶が突き飛ばしてくれなければ、目どころか命さえ危なかった事…
そして…
雪華綺晶の右目は光を失うどころか…それ自体を失ったという事…
私は意味も無く雪華綺晶を恐れた自分を呪った。
そして…
その日から、私と雪華綺晶は、心からの姉妹になった。
…
私達は、二人でいる時間が多くなった。
私達は、その特別な力で、お父様を守りたいと思った。
腕のいい『技術屋』を我が手にと考える賊は、掃いて捨てる程いる。
でも…
雪華綺晶の、誰にも防げない強力な一撃。
私の、絶対に外さない狙撃。
誰も私達に敵う者など無かった。
でも…そんな日々も唐突に終わりを告げた。
私も雪華綺晶も大きくなったある日、お父様に突然一枚の手紙が届いた。
その日から、お父様は部屋から出てくる時間が減り、目に見えて元気が無くなっていった。
私と雪華綺晶が理由を聞いても、
「大丈夫…何も心配する事はないよ…」
と、優しく頭をなでるだけだった。
そして…
ある日突然…お父様はどこかに行ってしまった。
お父様の部屋に入ると…
私の名前、雪華綺晶の名前、そして…『愛してる』とだけ書かれた手紙が置いてあった。
私は泣いた。何日も無き続けた。
お父様を思い、延々と泣き続けた。
雪華綺晶は一人、食事の時以外、お父様の部屋で難しい本を読み続けていた。
…
そして…
私が16歳になり数ヶ月たった日…
突然、お父様と同じように、雪華綺晶までいなくなった。
全ての家族を失った。
その絶望が、私の心を支配した。
…私は…一人ぼっちになってしまった…。
ある日突然、何者かが襲撃してきた。あるいは、お父様がまだここに居ると思った盗賊だろうか…。
私は一人で、それでも銃を取った。
戦う理由もなく、ただ応戦するだけ…。
守る者など、誰もいないのに…。
たった一人の狙撃手に何が出来ただろう。
敵はこれまでに無く統率されていて…
孤独な私は、ジリジリと追い詰められた。
そして…
家に火が放たれ…私は逃げ出した。
わき目も振らず、ひたすらに走った。
あても無く、逃げ続ける。
お父様の…雪華綺晶の事を思い出すと、涙があふれてくる。
思い出の詰まった家は焼けてしまった。
孤独感に胸が締め付けられる。
泣きながら、荒野を一人で逃げ続けた。
…
気が付いたら、小さな町をさ迷っていた。
服はボロボロ。財産も家と共に燃えた。
生きる術は、無い。
もう…体を売るしか…
一瞬そう思うも、即座に頭を振って否定する。
そして…
私は別のものを売る事にした。
私は、私の持っている技術を売る事にした。
その日から私は…殺し屋になった。