アットウィキロゴ


例えば、いつもより早く家を出てみる。
たったそれだけで、朝の時間なんて随分と違って見える。

きらきらと輝く太陽が地面を暖めるが、それでもまだ肌寒く…だが、それが逆に心地良い。
まだ人通りの少ない通学路では、小鳥たちが爽やかなメロディーを口ずさんでいる。

(ああ…アイツと…水銀燈と登校の時間をずらすだけで、なんって素敵な朝になるんだろう…)
僕はついついニヤケる自分の顔を抑えられない。
「ふふ…うふふふふ…」
それどころか、笑みさえ漏れてくる。

そして、そんな朝早い時間だからこそ、見れるものも有った。
例えば…
校庭の隅。花壇の近くで、草木を慈しんでいる青と緑のジャージ姿の女の子。
やっぱり女の子はあんな風に、おしとやかな感じがする方が断然良いね!

僕はそんな二人の女の子の姿を、視かn……より脳に焼き付ける為に、何気ない感じを装いながら近づき…
いつの間にか二人が、一瞬で消えた事に気がつかなかった。

「抵抗しないでもらえるかな?……これも、君の為を思って言ってるんだよ…?」
いつの間にか、青のジャージの女の子がいつの間にか僕の背後に回り、そう小さく声をかけてきた。
僕は、振り向かない。ってか、振り向けない。だって……


ああ、自己紹介が遅れたね。

僕は桜田ジュン。

見知らぬ青ジャージの子に、首元にいきなり鋏を突きつけられた…可哀想な高校生です。
  

「…桜田ジュン君…こんな方法で接触をしといて何だけど…僕達は、君の味方だよ…」
青ジャージの女の子が、僕の耳元で囁く。

オーケー、オーケー。味方なのは分かったから、僕の首に当ててる鋏をどけよう?な?

何とかして、その言葉を伝えたいが…
青ジャージの子の吐息が耳にかかり、鋏が僕の首をチクチクする。
その快感……じゃない、恐怖に、僕の足はガクガク震え、緊張のせいで荒い呼吸しか返せない。

そんな僕の様子に業を煮やしたのか…
緑のジャージを着た女の子が、スッと僕の前に立った。

「…ちんたらして見つかったら、元も子も無いですぅ。……ここは、多少強引ですが…!」
そう言い、僕の口元にハンカチを押し付けてきた。

おいおい。確かに、僕は匂いフェチでもあるんだぜ?
それに、強引なのも嫌いじゃあないけど…
だからと言って…いきなり男子に、ハンカチに染み付いた自分の匂いを嗅がせるかね?
……
いいだろう!嗅いでやろうじゃないか!

僕はクワッと目を見開き、深呼吸をする。
すると、あら不思議。
僕の意識は溶けるように、眠るように、薄くなり……

完全に眠りに落ちる直前、僕は気がついた。

(…なん…だと?…クロロホルム?……彼女は…匂いフェチじゃなかったのか…!
それは…予想してなかったな………僕とした事が………不…覚………――― zzz)
  

 
~~~~~


(むにゃむにゃ……あぁ…そんなにキツく縛らないで……僕…もう…ああ……アッーー!!)
「ーーッ!!!」
僕は、体に食い込む縄の感覚で目を覚ました。
なんって素敵な目覚めだろう。

いや、これ、皮肉ですよ?変態じゃないんだから…縛られるのが好きとか、ありえませんから。

とにかく、目を覚ましたそこは……
ここはどこだろう?部屋のつくりからして、学校には間違い無さそうだけど…
僕は一体、どれ位の時間眠っていたのだろう?

暫く、椅子に縛られたまま周囲を観察すると…チャイムの音が聞こえた。
うん。やっぱり僕は冴えてる。学校に間違いない。
それに校庭から聞こえる喧騒は、きっと昼休みのものだ。

そして…
こんな冴えてる僕を、アッサリと捕まえた青と緑のジャージの二人…
間違いなく、目的は僕の天才的な頭脳だろう。

何の根拠も無いけど、そう確信する。

(だけど…見張りも付けずなんて、僕も甘く見られたもんだな!)
僕は簀巻きにされたまま、ピョンピョンと地面を跳ねる。

疲れただけだった。
  

 
(…こんな所で無駄に体力を消費してもダメだ。何とか助かる方法を考えないと…)
僕は床にグッタリしながら、何とか考えを巡らし…

と、不意に扉がガラガラと開き、二人の女の子が部屋に入ってきた。
制服に着替えているけど、間違いなく、今朝のジャージ二人組みだった。

「(クスクス)……でも、クロロホルムはやりすぎだったね」
「大丈夫ですぅ!漫画でもよく有る、常套手段、ってヤツですよ!」
「ふふ…でも、実際に漫画みたいな使い方を素人がしたら、最悪の場合、一生意識が戻らないって言うよ?」
「え゛!?…マジ…ですか…?」
「ふふ…もしそうなったら、花壇に埋めちゃおうよ?きっと来年の今頃には、綺麗な花が咲くよ?」
「……じょ…冗談…ですよね…?」
「ふふふ…もちろん、冗談だよ?」


いやぁ、見目麗しい女子達が、にこやかに会話してるのって、見てるだけで楽しくなるね。
内容は酷かったけどさ!

とにかく僕は、埋められたくない一心で、二人に声をかける。
「…あの…起きてるんだけど…」
 
僕の声に驚いたように二人は体をビクッとさせ……あぁ…良いよ…今の表情……フヒヒ…
  

 
「ちょ…ちょっと待ってろです!」
ロングヘアーの方の女の子がそう言うと同時に、二人は部屋の隅に置いてあるダンボール箱に飛びつき――

そして、ショートヘアーの子が鋏。ロングヘアーが如雨露を持つと、
二人はその先端を『キン』と合わせながら叫んだ。

「普段は、緑を愛する園芸部!」
「ですが!その真の姿は!!」
「生徒会副会長・蒼星石!」
「生徒会会長・翠星石!」
「僕達!」
「私達は!」
「「学園の平和を守ると誓います(ですぅ)!!」」

「………」
何だこいつら?
『それにしてもこの二人、ノリノリである。』なんてナレーションが聞こえる気がする。
そんな呆然とする僕に気がついて…
二人――蒼星石と翠星石というらしい――は、なにやら小声でゴニョゴニョ相談し始めた。

「…おかしいですよ…タイミングはバッチリでしたのに…」
「…ちょっとセンスが良すぎて、彼には理解できなかったみたいだね…」
「そうです!このジュンとか言う野郎のセンスに問題有りなだけですぅ!」
「うん。翠星石が徹夜で考えたセリフだもんね。変なわけが無いよ」

なるほど。僕のセンスの問題だったのか。
まあ、百歩譲って、それを認めてやっても良いが…ちょっとは疑問を持てよ。特に青いの。


~~~~~ 


「…とにかく、水銀燈に見つからずに君と接触する為には、仕方ない事だったんだ…」
とりあえず、逃げない事を条件に縄を解いてもらい、僕は蒼星石から一連の流れの理由を教えてもらった。

何でも、僕が水銀燈の魔の手から逃れる為の手助けをしてくれるらしい。

「で…その為に、僕が水銀燈を拒絶する必要が有る…って事か?」
実に分かりやすいまとめで、僕が聞き返す。

「そうです。基本的に生徒会は、生徒個人個人の意思には干渉しないですぅ」
「だけど…個人の意思とは関係無く、力による主従関係。それが立証されれば…」
「私達が、力になれるです!」

「なるほど。よく分かった。…僕にとっても、非常にありがたい提案だよ」
僕は手を差し出し、翠星石と蒼星石の二人と熱く握手を交わす。
当分、この手は洗わないつもりだ。

「どうやら話はまとまったみたいだし……」
「善は急げですぅ!早速、突撃ですぅ!!」
「…へ?」
流れが理解できない僕を引っ張りながら、二人が教室の出口に向かう。

「ちょ…一体どこへ……!」
「もちろん!直接対決ですよ!」
「ふふ…正義の一撃を振り下ろすんだよ…ゾクゾクするなあ…」

ちょっと待て。それは聞いてない。

  
~~~~~


あれよあれよと言う間に、僕は屋上まで連れて来られ…
そこで破壊の天使・水銀燈が降臨するのを待っていた。

「いや…いくらなんでも、マズイだろ!」
僕はそう抗議するが…
「大丈夫、僕たちがついてるから」
「てめぇには指一本触れさせないですぅ!」
すっかりぶっ飛んだ二人を前に、何の結果も出せないでいた……

それでも…

僕の事を、こんなに考えてくれる人が居る…

その事実が……なんだろう…僕の心に不思議な勇気をくれる。

(……ありがとう翠星石、蒼星石…僕は……)
負けない。
絶対に、二度と…水銀燈に屈したりしない!

怯えきった羊の目から、戦う決意をした男の目に変わっていくのが、自分でも分かる。

僕は、水銀燈がやってくるであろう扉。その先を射抜くように睨み続け…――

やがて、その扉がゆっくり…まるで地獄の門のように開いた……

  

背中に浮かぶ背景を、怒りのオーラで歪ませながら、水銀燈が姿を現す。

100人いたら、99人が「怒ってる」と答えるであろう、彼女の姿――
ああ、ちにみに残りの一人は「僕が昼食を奢らなかったから怒ってる」って答えるんだけどね。

僕は、後ろに立つ翠星石と蒼星石の方を振り返り…そして…
強張っていたけど、精一杯の笑みを浮かべながら、搾り出すように言う。
「無理だ。逃げよう」

「ちょ!何言ってるですか!ここまで来て、そんなのありえないです!」
「そうだよジュン君!正義は僕たちに有るんだ!」
二人が僕の背中を、グイグイと押す。
いや!やめて!死んじゃう!マジで!

水銀燈は相変わらず、恐ろしげな雰囲気を纏いながら近づき……そして、ピタリと立ち止まった。
「…下僕のくせに、ご主人様の昼食を忘れるなんて……良い度胸してるわねぇ…」

ああ、これはマズイ。
200パー殺される。
殺して、蘇生させて、また殺してで、200パーセントだ。

完全に足がガクガク震える僕。
そんな僕に……生徒会の二人が助けを出してくれた。

二人は僕と水銀燈の間に立ち塞がり、勢いよく啖呵を切る。

「やめるんだ!彼は君の下僕なんかじゃない!」
「そうです!自分の意思を持った…大切な生徒です!!」
  

突然飛び出した、二人の女の子。
水銀燈はその姿をまじまじと眺めると…僕に視線を向けてきた。

「ですってぇ……ふふふ…いいわぁ……だったらジュン…あなたが決めなさぁい…
女の子の背中に隠れながらガタガタ震えるか……
私の前に跪いて、忠誠を誓うか……」


蒼星石が、僕を庇うようにバッと両手を広げる。
「…立ち向かうんだ……大丈夫…僕たちがついてるから…」
翠星石も、水銀燈に挑むような視線を向けながら、激励してくれる。
「……ジュンは……私が守るですよ…」

僕は…僕は、そんな二人の背中がとっても眩しく見え…何だか泣きそうになってくる。
頑張ろう。
この二人の期待に答える為にも…!

「ありがとう…二人とも……僕は…もう負けない!」
  

 
二人が顔をパッと明るくして、振り返る―――
だが……すぐにその表情も、暗いものに変わってしまった。
「…ジュン…君…?」
「てめぇ…何してるですか…」
「??」
二人の蔑むような視線にゾクゾク……いや、不思議に思い、僕は自分自身に視線を向ける…―――

…土下座してました。


(い…いつの間に!?
あ…ありのままに今起こった事を話すぜ!『立ち向かおう』と思ったら『土下座してました』
何を言ってるのか分からないと思うけど、僕にも分からなかった!
超スピードとか催眠術とか、そんなチャチなもんじゃねえ!もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……)


愕然とした僕の耳に、どこか遠い感じがする声が聞こえる。
「……帰ろうか…」
「…完全に、しらけちまったですぅ…」

ああ!待って!違うんだ!置いてかないで!
スタスタと遠ざかる二つの足音に、僕は精一杯手を伸ばし―――

その手を水銀燈に踏まれた。

  

 
視線を上げると……引き攣った笑みを浮かべながら、僕を見下ろす水銀燈が。
…さよなら、ねーちゃん。僕、多分死ぬわ。


「……とんだ茶番につき合わせてくれたわねぇ……」
そう言い、僕の手をグリグリと踏んでくる。

「…とりあえず、そぉねぇ…再教育の前に……」
水銀燈が、意地悪く口の端に笑みを浮かべる。

「ふふふ……跪いたまま…私の靴に口付けなさぁい…」


ドS全開の視線が、僕に向けられる。僕は思わず、ゾクゾク……いや、何でもない。



 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年06月22日 12:28