「………ダルイわぁ…… 」
「…そうね……私も規則正しい生活を送っていたつもりだけど…しっかり休みボケしてしまってるのだわ… 」
「…あ、ごめんなさぁい……途中から聞いてなかったわぁ……はぁ…… 」
「……怒るのも面倒だし、構わないわ……はぁ…… 」
完全にダルダルな雰囲気で、真紅と水銀燈が靴箱に向かう。
誰がどう見ても、重度の休みボケ。
それもまあ、夏休み明け初日では仕方の無い事でもあった。
幸い今日は、始業式と宿題の提出だけ。
それも終わった今、あとは家に帰って、のんびりできる。
二人はダルそうにため息を吐きながら、自分の下駄箱を開けた…。
◇ ◇ ◇
「………はぁ…… 」
休み明けのせいで、いつになくしんどい体を引き摺りながら…蒼星石も下校の為に靴箱へと向かっていた。
すると…そこで出会ったのは、ドンヨリとした表情の真紅と水銀燈。
「……やあ。二人とも、どうしたんだい? 」
靴箱を開けながら何気無くそう尋ねようとして……蒼星石は言葉に詰まった。
無いのだ。
朝来るときに履いていた、自分の靴が。
そして靴の変わりに置かれていたのは、一枚の手紙。
「まさか…! 」
嫌な予感に蒼星石が振り返ると……
ドンヨリとした表情で、真紅と水銀燈も、自分の靴箱から一枚の手紙を取り出した……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ この町大好き ☆ 増刊号18 ☆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
―――『 親愛なる蒼星石、真紅、水銀燈へ
私の名前は怪盗ペロリーナ男爵ですぅ!
諸君らの靴は、この私が預かったですぅ。
返して欲しければ、今から私のゲームに付き合ってもらうですぅ!! 』
何度読み返しても、明らかに翠星石の筆跡。
それ以前に、こんな事をしそうな心当たりは一人しかいないのだが。
「……何でこんな事になるのよぉ…… 」
3人で手紙を囲みながら、水銀燈がうんざりとした声を上げた。
「…翠星石の奇行はいつもの事だけど……休み明け初日のテンションとは思えないわね…… 」
諦めにも似た深いため息と共に、真紅が呟く。
「…うん……ごめんね……。
翠星石ってさ…長い休みの後は、皆に会えるから、って張り切っちゃうんだ…… 」
遠い目であらぬ方向を見つめ、そう話す蒼星石に……真紅と水銀燈は、ちょっぴり同情した。
◇ ◇ ◇
その頃、翠星石は…
「ヒーッヒッヒ!!あいつの休みボケでたるんだ精神を叩きなおしてやるですぅ! 」
両手に3人分の靴を大事そうに抱えながら、廊下を走っていた。
別に、走るほど急ぐ訳ではないのだが…
久々の学園生活でテンションが上がりきった彼女には、歩くという選択肢は存在してない。
すれ違う生徒や先生をヒラリヒラリと避けながら、翠星石は満面の笑みで疾走していた。
◇ ◇ ◇
『まず始めに…教室へ行ってみやがれですぅ!』
翠星石の筆跡でそう書かれた、差出人不明…の手紙。
それを片手に、うんざりとした表情の3人が話し合っていた。
「……とりあえず…翠星石の言うとおり、一回教室に行ってみようか 」
「…私は嫌よぉ。何でわざわざ、罠が仕掛けられてそうな所に行かないといけないのよぉ… 」
「そうね。翠星石の性格を考えると…ロクでもない『何か』が有ると見て間違いないわね 」
夏休みの間に、知らずの内に鈍っていた翠星石に対する心構え。
それを取戻し、段々と本調子に戻ってきた水銀燈と真紅。
「おそらく…散々探し回らせてから、最後は部室にでも集めて
『何で部活もせずに帰るんだー』とでも言うつもりでしょうね 」
「……翠星石ならありえるわねぇ… 」
何故そんなに、無意味に元気なのか、問い詰めたい。小一時間、問い詰めたい。
そんな表情でピリピリとしだした二人。
死んだ魚みたいに濁っていた目も、ギラギラと輝きだしてきた…
「そうとなれば…いきなり本拠地の部室に向かうとしましょう 」
「ふふふ…この私をおちょくった事…たぁっぷり後悔させてあげるわぁ…! 」
蒼星石は、心の中で…『逃げてー!姉さん逃げてー!』と叫んだとか叫ばなかったとか…。
◇ ◇ ◇
「ふぃ~ひと段落ですぅ~… 」
やけにテカテカの表情で、翠星石は『いい仕事したですぅ!』とでも言いたげに額の汗を拭った。
おバカな3人(真紅と水銀燈と蒼星石)を、最初は教室へ向かわせ、それから理科室、音楽室、保健室とさんざん走らせてから…
最後は部室に呼び寄せて「なーに部活もせずに帰るつもりですか! 」
と、部長の威厳たっぷりに説教する計画。
「…まさか怪盗の正体がこの私だとは…あいつら、夢にも思ってないですよ……ふふふ… 」
バレバレだとは夢にも思わず、翠星石は一人でニヤニヤ。
楽しそうにスキップしながら、計画の最終地点である部室へと入っていった。
◇ ◇ ◇
「行くわよ。準備は良い? 」
真紅が小声でそう言い、辿り着いた部室の扉に手をかける。
水銀燈と蒼星石が頷くのと同時に…真紅は勢い良く部室の扉を開いた!
「ひゃぁ!? 」
部室の中では、突然の事態にビックリした翠星石が、
いつもの演出(部屋を薄暗くし、ワイングラスにファンタを入れての雰囲気作り)の途中のままで固まっていた。
「今よ! 」
真紅が号令を飛ばすと同時に、水銀燈と蒼星石が部室の中に飛び込む!
「相手が君でも…容赦しないよ! 」
蒼星石がそう言い、キュッとロープを取り出す。
「ふふふ…無駄無駄ぁ!チェスや将棋で言う、チェックメイトってヤツよぉ! 」
ロープの片端を掴んだ水銀燈が、翠星石に襲い掛かる!
「ちょ!テメーら!何しやがるですか!止めやがれですぅ!! 」
抵抗も虚しく……
数秒後には、綺麗に簀巻きにされた誰かさんは、ジタバタと地面を転がっていた。
◇ ◇ ◇
「こんなに早くここに来れる訳が無いですぅ!さては何かズルしやがったですね! 」
簀巻きにされた翠星石が、抗議の声を発しながらピョンピョンはねる。
対する真紅に水銀燈、蒼星石は…途方に暮れていた。
ほっぺたをつねったり、鼻をつまんでやったり、無理やり目薬をさしてみたり、黒板を爪で引っかいたり……
靴のありかを白状させる為に、様々な手段を講じてみたものの…
翠星石は「ズルするヤツには教えてやらんですぅ! 」の一点張り。
これ以上の方法となると……想像するのもブルーになるような、エゲツナイ事をするしかない…
いい加減、どうしたものかと困り始めていた……
と、そんな時……
ドSな彼女は、恐るべきアイディアを思いついた。
「ふふふ……ねぇ蒼星石ぃ……ちょっとこっちに来なさいよぉ… 」
妖しい笑みを浮かべ、水銀燈は蒼星石に声をかける。
「どうかしたの? 」
蒼星石は…夏休みの間に鈍っていた感覚は、もう戻っている。そう過信していた。
それ故、水銀燈が後ろ手に何かを隠している事にも気付かず、誘われるがまま、一歩、また一歩と足を進め……
「え!?ちょ!何で僕が!?待ってよ!ねえ!! 」
数秒後には、地面に転がる簀巻きの数が二つになってた。
◇ ◇ ◇
真紅は先ほどから、部室の自分の机にすわり、紅茶を飲みながら我関せずといった表情をしている。
そんな真紅には気を払わず…水銀燈は、地面でピョンピョンとはねる双子の簀巻きを見下ろしていた。
「ふふふ…ねぇ翠星石……これから私が何するか……あなたに分かるかしらぁ…? 」
サディスティックな笑みを浮かべ、水銀燈が自分の鞄から小さな容器を取り出す。
「そ…それは…!やめるですぅ!!蒼星石に変な事するのはやめやがれですぅ! 」
小さな容器 ――― ヤクルトを見た翠星石は、これから起こりうる恐怖を思い、叫ぶ。
「ふふふ…だったら…さっさと白状しちゃいなさぁい……さもないと…… 」
水銀燈はヤクルトのフタを開け、蒼星石の顔の上で少しだけ傾けた。
「うわ!ちょっと水銀燈!やめてよ! 」
蒼星石は簀巻きのまま、ピョンピョンと避けようとするが……
その顔に、ポタポタとヤクルトが………
「やめろですぅ!!いや、もっとやりやが……やめやがれですぅ!! 」
ハァハァ呼吸を荒くしながら、翠星石は叫んだ。
「ふふふ…だったら…早く白状しちゃいなさいよぉ…… 」
水銀燈はなおも妖しい笑みを浮かべながら、蒼星石へ白濁液(ヤクルト)をぶっかける。
「やめるですぅ!!おぉ!蒼星石良い表情ですよ!こっちを向k……蒼星石に変な事をするのはやめるですぅ!! 」
水銀燈がサディスティックな笑みを浮かべる。
蒼星石は涙目になりながら、顔中をベトベトにされている。
翠星石がエキサイトしながら、ハァハァ叫ぶ。
真紅の紅茶は、すでに二杯目。
何だかカオスな空間が、部室の中には広がっていた。