サァ、と雨が降る。
私は校舎の入り口で、それを忌々しげに眺めていた。
何が忌々しいって、持ってきていた筈の私の傘が、何処かの誰かに盗られてしまった事。
お陰で私は、濡れて帰るのも嫌なので、こうして雨が弱くなるのを待つしかなかった。
だけれど、どれだけ待ってみても、どんなに雨雲を睨みつけても、雨は一向に止む気配は無い。
苛立ちと諦めが入り混じったため息を付いてから、私は雨の中を歩いて帰る事にした。
サァ、と雨が降る校庭を横切り、歩く。
だけれど、校庭の半分も渡らない内に、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「待ってよー、水銀燈」
めぐだった。
傘をさしながら、こっちに向かって走ってくる。
私は彼女の姿を一瞥すると、そのまま雨の中を歩く。
「もう!待ってくれたっていいじゃない」
私に追いついためぐはそう言いながら、私の頭上に傘を差し出してきた。
小さな傘に、私とめぐ。
「二人とも肩は濡れちゃうけれど、無いよりマシでしょ?」
めぐはそう言い、少し楽しそうに微笑んでみせた。
「それとも、余計なお世話だった?」
私の顔を覗き込むようにして、めぐはさらに続けてくる。
「ええ。いい迷惑ねぇ」
私は見栄や虚勢ではなく、本心からそう答えた。
余計なお節介も、同情されるのも、手を差し伸べられるのも。
全部、嫌い。
だけれど、そんな嫌いなものの中でも、めぐのは幾らかマシな方だと思う。
「ふふふ……ごめんね」
めぐは言葉ではそう言うものの、私から離れる様子は全く無い。
「……肩が濡れちゃうでしょ」
私はそう言って、傘を持つめぐの手ごと、彼女の体を自分のほうに引き寄せた。
小さい傘でも、こうして寄り添って歩けば、濡れずにすむ。
二人で並んで歩きながら、私は考える。
馴れ合いも、人と寄り添うのも、友情ごっこも。
全部、大嫌い。
大嫌いだけど、そんな中でもめぐは、幾らかマシな方だと思う。
「……悪くはないわね」
誰にも聞こえない声で、小さく呟いた。