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Story  ID:zBKd3qVI0 氏(276th take)
「声でワイングラスを割る」
アメリカの番組「怪しい伝説(ミスバスターズ)」で行なわれた企画。
結局、とあるロックバンドの男声ボーカルによって成功した。
なお、共振・・・音叉の振動と同じ原理が原因。要するに、物体が最もたわみやすくなる音と言うものが存在するのである(巨大な橋がこれ一発で倒壊した事もある)。



「で、これをライブのパフォーマンスでやると言うの?」

真紅がやる気のない声を返す。

「きっと雛苺ならできるのかしらー!」

金糸雀。ローゼンメイデンの敏腕マネージャー。
ただ、こういう突拍子も無い発想を任せると、あっという間にコケる傾向にある。
何と言うか、ロックバンドのライブなのにSeptemberを演奏してディスコ状態にしてしまったりするといった感じである。

「・・・言わせて頂戴。
 何か・・・ステージ上で手品やるのと対して変わらない気がするのだわ」
「あ」
今回も、例に漏れず。
「音もグラスにマイクを向けたりしない限り聴こえないし、遠くで何か起こった程度にしか見えないと思うのだわ。
 演奏の腕に依存する訳だからそこは評価出来るけど」
「・・・うーん・・・」
「いっそ、ダメならグラス100個用意したりしたらいいじゃなぁい」

しかし。
プラスαが入れば、そのようなジンクスを壊すのは案外容易となるものだ。

「・・・100個!?」
「ま、極端な話よねぇ・・・そんな子供っぽい発想で上手く行ったら苦労はしないわよぉ?」
「・・・意外とアリかと思ってしまったのだわ」

「えぇ!?」

そのプラスαが呆れたような声を上げる。
 ・・・ただ、真紅自身もまだ言うまでもなく「不可能」と言う結論を下してはいた。

そして、それよりも前の問題がある事に気付いた。

「それ以前に、そもそも割れたとしても喉を痛めたら元も子も・・・あらあら」

水銀燈の言葉は相変わらず手厳しい。既に企画の失敗を半ば前提にしている。

「いや、まだまだ!また今度改良して持ってくるのかしら!」

それを指摘され、手帳を取り出して何か(敗戦記録?)を書きながらドアへ向かって行く。
 ・・・前見ろ。戸にぶつかるぞ。

「・・・今調べたけど、僕たちがよく見かけるのはバンドの男声ボーカルがやってるシーンだけど、実際は女性の声の周波数だったらもっと楽みたい」

事故りそうだった金糸雀が、蒼星石の一言で足を止めた。

「よーし、やってみるなのー!」

とりあえず、雛苺を防音室に入れ、目の前にワイングラスを置いてみた。
苺大福で釣ろうかとも思ったが、自腹で練習後の楽しみにと買った分が防音室の隅の機材の上に置いてある。
そもそも企画自体にノリノリであるため、追加は無くても十分だと言われた。

「それにしても、まさか苺大福要らないとは思わなかったわぁ」
「・・・うにゅーはヒナを構成する大切な要素だけど、うにゅーだけじゃないなのよう」

ぷんぷん!と言う言葉でも似合いそうな感じで雛苺が憤慨する。

「そう?意外ねぇ」

「・・・水銀燈」

横から、心霊写真のように薔薇水晶の声が湧き出てくる。

「何よ?」
「いくらなんでも、雛苺がうにゅー族の末裔みたいな言い方はちょっと・・・」
「あらぁ?私は曽祖父が乳酸菌でも意外と本望だけど」
「へ!?」
「ちょwwwwwwwwww」
「暴論来たですぅーーーーーー!!!」

気を取り直して。

「とは言っても、本当に行けるのかなぁ?楽って確かに言ったけど、決して簡単ではないと思うんだ。当たり前の事だけど」

 ・・やたら高く、リズムのいい音が聴こえてくる。

「・・・グラスが破損したらまた条件が変わってくるらしいから、止めて」

蒼星石がそう言って、無駄に上手いワイングラスドラムを静止させた。
ひび割れたグラスだと必要な振動周波数が変わったりする・・・と思う。

「へ?それは失礼したですぅ」
「・・・カクテルなのにカロリーオフ、でも完全なオフなんて幻影・・・」
「薔薇水晶、いいから自分のパートの練習するのだわ。最も人の事は言えないけど」

何故か、パソコンに向かっている薔薇水晶に一応自分のギターを抱えている真紅が声を掛ける。

 ・・・ばらしーはDTMやったっけ?
音楽系のソフトがモニターに並んでいる。
「・・・最適な周波数の計測とか?」
「うん」
「YouTubeの音声データじゃせいぜいビットレート48、22050Hzくらいだろうから参考にならないと思うよ。多分」
「あ」

一同、進まない。まぁ、内容がこれでは真剣味もどうやったって薄れるのだろうが。

 ・・・とにかく、わざわざ調べるのも面倒なので、実践一発勝負でテストする事にした。
試してダメならもうお流れにしようと言う発想。それだけ非現実的な内容だった。
現に、このワイングラスを借りた時、スタッフは多分それ以外の要因で割れて帰ってくるだろうと思い込んでいた。
それでも実践に至るのは、聞きなれた脅威のシャウトがどこまで通用するかと言う議題に一同興味を隠せなかったからである。

 ・・・一同、耳栓をする。
「まぁ、同じステージに立ってるみんなは慣れてそうだけど一応ね・・・あと、のど飴も買ってきたのかしらー」

のど飴。普段舐めてると気休めな気もするが、雛苺にはそれを通り越して効きそうだ。

「わーい!・・・でもフルーツごちゃ混ぜのど飴、レモンと巨峰といちごとピーチ・・・4分の1しかないなのー・・・」
「こういうのは統一して欲しいわよねぇ・・・」

すぅ・・・。
(・・・来る!)

次の瞬間。
金切り声のような、と言うか金切り声がけたたましく響く。

「ギャー!身を切られる!身を切られるのかしらぁーーー!」
「『カナ切り声』だからって駄洒落言ってる場合じゃないって!」
「駄洒落じゃないのかしらあぁぁぁー!」

 ・・・そうこうしてる間に、1呼吸分終了。台風一過の心境だった。

「・・・駄目なのー?」
「グラスが震えてはいたのだわ」

このパフォーマンスは、グラスが震えると言うのが兆候。

「じゃあ成功は近いのかしらー!」
「・・・でも今一つ足りなくなぁい?」

そもそも、デス声と言ってもこの技では声量よりも声の高さが重要。
実際、基本的にこういうのは女性ではオペラ歌手がやる例が多い。
だから、声量は声の高さによる関門をやや押し下げる・・・程度のものかもしれない。

「・・・うゆー、もう少しやってみるのー」
「・・・漫画とかだったら、防音室に『ビリビリ』って擬音が入って壁にヒビが入ってる所だけど・・・」

薔薇水晶があるあるネタを持ち出す。
ただ、この中に漫画をそこまで読む人いないので反応が薄い。

「・・・漫画?」

少し遅れて、蒼星石がベースを構えて呟いた。

「だったら、こう言うシーンは、大抵・・・」
「・・・何をやらかす気?蒼星石」

何をやるのか全く想像が付かない真紅が尋ねる。

「みんな、後は頼むよ!」

そう言うなり、派手にスラップを多用してベースを弾き始めた。

「・・・了解ですぅ!」

それに合わせて、翠星石がドラムを叩きだした。

「・・・え?2人揃って何を・・・」

ベース音がメインを無理に出そうと変則的になっていたが、双子の姉じゃなくともこの曲は分かる。自分のバンドの曲だ。
でも、意図が・・・。

バァン、と衝撃波が走ったような気がした。
さっきのと段違いの声量が響き渡る。

「・・・ライブの状況の再現!?」

よく使う手だ。しかし、この状況で持ち込むと言う発想は出なかった。

「あらあら・・・やるじゃないの!?」

叫びを皮切りにして、水銀燈が思いっきり真紅のメインパートを弾き始める。
それを見て、蒼星石が元のベーススタイルに戻す。完全にライブの時のそれだ。

「ちょっと、水銀燈!?」
「こういうのは先手必勝よぉ!?」
「ノリノリなのー!」

息継ぎの箇所でもわざわざセリフを入れ、再度派手に叫び出す。

「な、何と言う無駄遣い級のステージクオリティかしらあぁぁぁ!(普段舞台袖にいる人)」

もう、どれで割れてもおかしくなさそうな勢いだ。
 ・・・最終段階。

「はいアドリブで思いっ切り高く!何叫んでも本番じゃないから行けっ!」

蒼星石が間奏直前に、一気にテンションに任せて叫ぶ。

「うにゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「結局それじゃないのぉーッ!!!」


パァンン!

凄まじい音がエコーを掛けた様に響いた。

「わ、割れた!?」

台の上に置かれたグラスが激しい音を立てて崩れ落ちた。

「・・・いえいいえいっ!なのー」
「せ、成功かしらー!」

一同、感心しきった目でグラスを、そして歓声を上げた雛苺を見つめた。

「何か割れる音が変だった気が心なしか・・・いや、でも流石なのだわ」
「ま、こんなんじゃライブでは使えないでしょうけどねぇ」

 ・・・流石水銀燈だ、色々キツイぜ。

しかし。
そんなもの、巨大な翼を持った者が羽ばたいていったかのように吹き飛んでしまった。



雛苺が防音室の隅に置いていた紙袋が破裂していた。

「何があったですぅーーー!?」
「天狗だ!天狗の仕業だ!」
「・・・雛苺の声がうにゅーを割ったんだ」
「誰もが最初はそう考えるだろうけど普通は口に出さないわよ!?」

「・・・うにゅうー・・・」

原因も分からぬまま、苺大福の残骸が残されている。
メンバーの中心で、涙目になった雛苺がゆらゆら揺れながら突っ立っていた。

その後。
紙袋を置いていた場所が機材の上だったため、機材の加熱で苺大福のパッケージが熱膨張で破裂したのでは無いかと言う結論に達した。
この仮説でも無理が有るが、これが一番もっともらしいと言う事で結論付けることにした。
これ以上検証する事は、雛苺の古傷・・・今回の事件を掘り起こすであろうと言う結論にはあっさりと辿り着いたからである。




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最終更新:2008年01月08日 02:13