Story ID:pz4MtBGm0 氏(276th take)
激しいドラムがライブ会場を揺さぶる。重厚なベースがこだまする。
テクニカルなギターが吼える。透明でいて力強い声が広がっていく。
ローゼンメイデンのライブでは各々のパートにあったソロ演奏が設けられている。
ファンもそれが楽しみで足を運ぶ人も多くいるのだ。
だが、メンバーの中で薔薇水晶だけがまだソロを経験していなかった。
「……私、今日こそやるもんッ!!」
各自ソロ演奏の持ち時間を決めている際に薔薇水晶はさっそうと手を挙げて言い放つ。
当初は何をやろうとしているのか分からなかったメンバーだが、どうやら薔薇水晶が初めて自らの意思でソロ演奏をしようと言っているのが分かったのだ。
メンバーは驚きつつも喜びを隠せない。しかし相手は薔薇水晶だ、一抹の不安もある。
「どんなソロをやるかしらぁ?」
「…ビックリするような…ソロ」
「どういう感じでビックリさすのぉ~?」
「…あっ…とさす」
「もちろんキーボードだよね?」
「…うん…」
「ソロの練習はしているですかぁ?」
「…昨日…した」
「じゃ、今夜のソロはばらしーで決まりなのだわ」
「…私…がんばる…」
発表するたびに驚異的なメガヒットを連発するローゼンメイデンのレパートリーは多くのオーディエンスを熱狂させる。
激しい曲では会場はまさに直下型の地震に見舞われたかのようだ。
その反面、静かなバラードは歌に自分を重ねた観客が涙ぐむ一場面も見られた。
そんなライブが進行していく中ついに薔薇水晶初のソロタイムが始まった。
「そろそろ始まるわよぉ~」
「あっ、照明がついたの~」
ステージの端、観客からは見えない位置でメンバーは薔薇水晶を見守る。
照明が落とされ、真っ暗なステージは中央だけが丸く淡い光で照らされていた。
そこには薔薇水晶愛用のキーボードがある。
あれは何だ??
その幻想的に浮かび上がるキーボードの上に何やら見たことのある物体が乗っている。
いや、置かれているといったほうがこの場合なら的確な表現だろう。
メンバー全員がキーボードに置かれた物体に目をやっていると、薔薇水晶が現れた。
そして静まり返る観客に向かって1回ペコリと頭を下げる。いよいよ初のソロが始まるのだ。
ズッ、ズズズズズ~~……ごっくん……ズズズズズ~~~もぐもぐ…ごっくん
目を疑うとはこの事だろうか?言葉を無くすとはこの事だろうか?
本来、人は驚くと何がしろアクションを入れる。
「あっ」と言ってみたり、ビクッと体を震わせてみたり、しかし真に驚くと人は身動きどころか声すら出ないらしい。
今まさにメンバーだけでなく会場全員がそうであった。
ズズズズ~~~~、はふはふ……ズッ、ズズズズ~~ごっくん
目を見開いたメンバーの視線をよそに薔薇水晶は額に汗をかきながら自ら志願したソロタイムを確実なものにしようと必死で「どんべえ」を食している!!
しかもどんべえを食す薔薇水晶の目がより真剣な表情を作る。
そう、強敵がきたのだ。
熱く沸騰した汁をふんだんに含んだ「揚げ」である。
あのキツネ色に染まった悪魔と対決する瞬間がやってきたのだ。
薔薇水晶いわく「今までのライブ経験の中であの瞬間が最も緊張した」らしい。
震えるハシで悪魔を摘み上げる。ゴクリと鳴る喉。
一気に息を吹きかけ、温度を下げにかかる!!
ふぅ~~~ッ……ふぅぅぅ~~~~ッ………ぱっ、ぱくん………ッッ!!
熱い、まだ完全に温度は下がってなかったのだ。
ここで「熱い」の一言を漏らしてしまえば今まで進行してきたライブが水の泡になってしまう。
翠星石の迫力あるバスドラムの音、蒼星石の軽やかでいてミスのないチョッパー、そして水銀燈のアクロバティックなタッピング、真紅、雛苺の歌声が台無しになってしまう。
意を決した薔薇水晶は死に物狂いで揚げを噛む!噛む!噛む!
もぐもぐもぐもぐもぐ…………ごっくん…………ふぅ~~
ついにやったのだ、薔薇水晶はついにどんべえを完食したのである。
この瞬間、薔薇水晶はロックバンドの、いやロックミュージックの偉大さを知った。
心の中を一陣のそよ風にも似た優しい感覚がわいてきた。思わず目頭が熱くなる。
しかしここで泣いてはダメだ、ロックミュージシャンたる者、そう簡単に涙を見せてはいけない、しっかり自分を応援してくれるオーディエンスに挨拶をしなければ。
薔薇水晶はマイクに向かってこう言った。
「…ご馳走様………ベイベ~!!」
かくしてローゼンメイデン初の薔薇水晶のソロタイムは幕を下ろしたのであった。
ちなみにメンバーは薔薇水晶を諭す言葉さえ見つからなかったのは言うまでもない。
最終更新:2008年01月08日 22:33