Story ID:S/2SaDgI0 氏(282nd take)
発端はある日のライブのリハーサル。
真紅が出した不協和音だった。
「別に、気にするほどでも無いのだわ」
「どこがなのォ!?」
真紅に向かって、水銀燈の怒号が響き渡る。
要するにミスを無視しているのだ、それに向けての激しい批判である。
それは、どちらかと言うと、周りの僅かに顔をしかめた面々の代弁のような叫びだった。
「どう考えたってあれで演奏崩れたじゃないの!」
「私はいつも通りにするだけよ。それが最善なのだわ、私はそう信じてる」
そう言って、彼女はギターを抱え、無言で舞台袖へと歩いていく。
どうも、一人で神経を落ち着かせたいらしい。
しかし、周りは今の部分をやり直せと言いたさげな目線を向けている。
「・・・やっぱ、何か違うですぅ。2人は」
不意に、翠星石が呟いた。
「何よぉ?そりゃあ、私と真紅が一緒だったら困るわよぉ」
即座に水銀燈が返しを入れていた。否が応にも、対抗心をむき出しにしたくなる現状では仕方の無い事だった。
「・・・そうじゃなくて」
これに、蒼星石がフォローを入れた。立ち止まった真紅を含めて、他の面々は黙って聞いている。
真紅は、違和感を感じていた。
何故か、唐突に。
さっきの不協和音が、頭に反響するような。
「・・・」
無言で、目を閉じてギターを抱えた真紅が座っている。
精神統一と言うより、眠り姫のようにそれは見えた。
「ちょ、ちょっと!本番まであと13分なのかしらー!」
「3分で起こして。単なる気休めなのだわ」
「・・・あ、悪かったのかしらー」
金糸雀が小声で返す。
「・・・」
狸寝入りの真紅の頭の中で、さっきの会話がリピートされる。
(世の中にはポジティブな人間とネガティブな人間がいる。
翠星石はそれを言いたかったんだよね?かたや自分の道を後ろを振り返らずに進む事で上へと登る真紅、
かたや自らの道を酸いも甘いも振り返って、それを翼にして飛ぶ水銀燈)
(それですぅ、それ!でも・・・違うけど・・・)
(まさしくそれだ。違うけど・・・でも、どっちも上手いんだよね)
(だったら、私の道を進ませて頂戴)
(・・・真紅ッ!!!
別にそれは勝手だけど、周りの意見くらい気にしなさいよぉッ!?)
(いつも通りやれば上手く行く。それに、そのために普段の練習には力を・・・)
(・・・本当に、ジャンクにでもなっちゃえばいいんじゃなぁい?)
(ちょっと・・・水銀燈!)
別に、気にするほどではない。
今までの私なら本番では上手く行く。日頃の練習はそのためにやっているんだ。
しかし。
真紅の頭の中で、さっきの不協和音が鳴り響く。
しかも、単にリピートされるだけではなく輪唱されるように。
3時間後。
そんな事は忘れたかのように、凄まじい演奏を繰り広げているロックバンドがいた。
「さぁ、ジャンクになるまで聴きなさぁい!?」
多少のわだかまりはライブそのものが吹き飛ばしてくれる。
ローゼンメイデンとは、そんなバンドだった。
ただ、一つを除いては。
「・・・」
この日は、一つだけ違った。
不協和音。
「・・・っ」
また一曲終わった。
しかし、ライブ会場のボルテージにも勝るとも劣らない勢いで頭の不協和音が大きくなっていく。
「どうしたの・・・?100円落としたみたいな顔をして」
メインのMCに被らないように、小声で後ろのキーボード担当から声が飛んでくる。
「何でもないのだわ」
「何でもないって、いや、大丈夫?100円どころじゃなくなって来てない?まさか、吐き気でも」
「・・・黙って・・・!」
周りも、徐々に気付き始めていたのかもしれない。
しかし、薔薇水晶が「黙って」の一言で圧倒されたのを見て、誰も何も言えなくなっていた。
それ以前に、ギタープレイはいつも以上に魂が入っているように見える。問題はなさそうだ。
しかし。
本人には、その魂の入ったプレイが掴めなくなっていた。
不協和音によって。
「・・・何・・・?」
徐々に、頭の中の不協和音が大きくなって音が割れ始める。
その割れた音は、ノイズがより耳に障るようになり、そして蓄積されていく。
何かが、徐々に崩れていくように。
次の瞬間、不協和音が途切れると同時に物音がした。
慌てて、「音の主」の方向を見上げた。
会場の照明機材が、軋むような音と共にどんどん近付いていく。
目が覚めた。
自分はベッドの中。目の前には、見慣れた光景。見慣れた人。
「ジュン?どうしたの、こんな真っ昼間から」
「いや、真っ昼間も何も・・・。
・・・あ、そうだ。水銀燈さんから伝言が・・・」
「伝言?」
「もしかしたら、私が『ジャンクになれ』って本気で言ったのがいけなかったのかな、みたいな・・・。
だから一応謝っといて、って言われた。多分、口喧嘩だよね?別に気にするほどじゃないんじゃあ・・・とも思うけど」
・・・自分はベッドの中。見ると、足に白い布が巻かれている。
目の前には、水銀燈の付き添いでメンバーがよく行かされた病室の風景。
照明機材の落下で怪我した足は直ぐに歩けるまでに直ると言われた。最もギタリストには体力低下の面でそれなりにリハビリが必要となりそうだが。
「・・・因果応報、なのだわ。きっと」
「え?真紅、口論くらいでそんな・・・」
「少しは周りも見た方がいいみたいなのだわ、上に行く人間は。
私も、上に行き過ぎたのなら、無視した周りの人間の数も多過ぎるのかもね。もしかしたら」
最終更新:2008年01月30日 22:37