Story ID:TgiOzBaR0 氏(16th take)
季節は春。
暖かい地方であれば桜の花が満開を迎えている時期だろう。
私は真紅。
この春大学四年生になったばかりだ。
長くもあり短くもあった学生生活も、残りは後一年弱。
大学に入学した時には遥か先のように感じた四年間も、
様々な出来事があったせいか駆け足のようにすぎさっていった。
翠「というわけで、真紅。飲みに行くです。」
紅「……何が『というわけ』なのかさっぱりなのだわ。」
翠「最近真紅とも深い話をしてませんからねぇ……ヒッヒッヒッ。」
紅「何か裏がある気がするけど……まあいいわ。いつにする?」
翠「いつがいいですか?明日とかあいてます?」
紅「問題ないわ。でわまた明日学校で。」
翠「はーい。おやすみですう。」
というわけで、明日翠星石と放課後飲みに行くことになった。
紅「何か聞きたがってる感じがしたけれど…大丈夫かしら。」
まぁ明日になれば嫌でも学校で顔を合わせるわけなのだから問題ないだろう。
紅「……誰かとお酒を飲みに行くなんて久し振りね。」
ベッドから天井を見上げて一人呟く。
明日も朝から講義がある。
あまり夜更かしをするわけにもいかないだろう。
ベッドに横になると意外にあっさりと眠気が訪れた。
*
翠「それでですね、蒼星石ってばまた告白されてですね!もう姉として我慢ならんのですぅ!」
紅「そうね。蒼星石は同性からみても魅力的だもの。それに姉として、ではないでしょう?。」
翠「あ、やっぱりわかります?」
次の日、講義を終えた私は翠星石と待ち合わせをして近くの居酒屋に向かった。
居酒屋といっても店内の雰囲気が女性向けに作られている為に、
友人達の間ではよく使われる馴染みのお店の一つである。
翠「真紅はなにか最近面白い話はないんですか?」
紅「そうね……。私は最近そういう話に縁はないわね。」
翠「そ、それ本気でいってるですか!?」
紅「勿論。今は歌っている方が楽しいもの。」
翠「打ち込める趣味があるって羨ましいです……。」
紅「私から言わせてもらえば貴女達姉妹のガーデニングの方が凄いと思うけれど?」
ここでいう翠星石の「面白い話」というのはやはり恋愛についての事だろう。
もともと噂話の類が大好きな翠星石の事だ。そうに違いない。
翠「気になる相手とかもいないのですか?」
紅「そうね……、残念ながら私の目に留まるような素敵な人は近くにいないわ。」
翠「はぁ……、キャンパス500人の真紅ファンが聞いたら悲しむですぅ。」
紅「何よ、その具体的な数字は……。」
翠星石がいうように、私は学校ではそれなりに人気があるらしい。
もっとも直接私に声をかけてくるような人はごく一部だけれど。
紅「誤解しないでほしいけど、私だって全く興味がないわけでもないのよ?」
翠「おぉ!そのへん詳しくですぅぅ!!」
紅「別に今更詳しく話をするような事じゃあ無いわ。」
翠「それでもそれでも!」
私は頼んであったお酒を一口飲む。
そして昔を懐かしむように静かに話を進める。
紅「―もう一年前の事だし忘れてしまったわ。」
それを聞いた途端に翠星石の顔色が変わる。
翠「あぅ…、ごめんです……。」
紅「いいのよ、翠星石。私が勝手に言い出した事だもの。」
翠「あ、あの……、よければあの時何があったか聞かせて欲しいです……。」
普段の姿からは想像も出来ない態度で私の顔色を伺う翠星石。
今まで気がつかなかったが、どうやらこの話はタブーだったようだ。
私としても余り思い出したくない事なのは間違いない。
紅「そうね。自分の話をする事はあまり好きではないのだけれど。」
翠「べ、べつに無理には……。」
紅「大丈夫よ。それなりに自分の中で整理はつけてあるわ。」
翠「じ、じゃあ。」
意を決したように口を開く翠星石。
かなり緊張しているのだろう。
唇が少し震えているのがわかる。
翠「去年のあの時期、真紅と水銀燈になにがあったのですか?」
紅「そうね、この話をするにはまずジュンの話から始めないと駄目だわ。」
翠「ジュン……?」
紅「ええ。私が昔付き合っていた人よ。」
翠「は、初耳です……。」
紅「そうね、蒼星石と薔薇水晶以外には誰にも言わなかったもの。」
翠「薔薇水晶に……?」
桜田ジュン。
私がまだ幼い頃からずっと側にいてくれた忘れられない幼馴染み。
紅「ジュンとは高校生の時から大学二年生の夏まで付き合っていたわ。」
翠「そうだったのですか……。」
紅「今はデザイナーになる夢を叶える為に欧州に留学してしまっているけれど。」
翠「それが原因で……?」
紅「ええ、そうね。」
紅「これは今年始めのジュンと一緒にとった写真よ。」
私は携帯電話に保存してある写真を開いて翠星石に手渡す。
年末にジュンが日本に帰って来た時に二人で撮った写真だ。
翠「なんか……、わかるきがします。」
紅「どういう事?」
翠「真紅がこの人を選んだ理由です。」
紅「どんな感じかしら?」
翠「とても優しそうでしっかりしてるイメージです。」
そういってジュンの写真と私の顔を交互に見比べる翠星石。
私はこういった翠星石の『人を判断する目』がとても羨ましい。
何故なら翠星石がいったジュンのイメージというものは―。
翠「それに二人とも、とても綺麗な表情です。」
翠「心の底からお互い信頼しあえてるように見えるです。」
―私が好きになったジュン、そのままだったから。
紅「貴女は時々凄い鋭さを見せるわね。」
翠「『時々』は余計です!!」
そういって二人で穏やかに笑いあう。
改めて私はいい友人を持つ事ができたのだと思った。
翠「写真見る限りじゃ現在進行系で熟年夫婦ですけど?」
紅「私の方がジュンが傍にいてくれない事に耐え切れなくなって別れてしまったわ。」
翠「真紅が!?い、意外です……。」
紅「……貴女は一言多いのよ?」
翠「こ、怖いです……。」
翠「それでジュンと別れてからはどうなったですか?」
紅「水銀燈と仲良くなったのは二年生の冬かしら。あの子も似たような経験をしていてね。」
翠「水銀燈がですか……。」
紅「お互い同じ傷を持っていたせいかすぐに仲良くなったわ。」
あの頃の水銀燈との話を誰かにするのはどれくらいぶりだろう。
あれからもう一年がたってしまったと思うとなんだか複雑な気分になる。
紅「それからはあっという間。去年の今頃の私達を思い出せば解るでしょう?」
翠「今だから言いますけど、あの時の真紅達にはかなり気を使ったですよ?」
紅「あらどうして?」
翠「何をやるにも二人一緒だったです。だからなるべく一緒にしてあげないとみたいに。」
紅「確かに一日のうち二十時間は一緒にいたわね。」
紅「貸し別荘にいったのを覚えてるかしら?」
翠「覚えてるですよ。五月の最初に皆でいったやつです。懐かしいですねぇ。」
紅「あの時、水銀燈からあの子の気持ちを聞かせて貰ったわ。」
翠「それってもしかして……?」
紅「多分想像通りね。」
翠「真紅はなんて答えたですか?」
紅「……断ったわ。」
翠「なんでですか!?」
紅「私の中にはまだジュンが残っていたから。」
紅「私は二人を同時に好きになる事なんて出来なかった。……ただそれだけよ。」
翠「真紅……。」
紅「それから一ヶ月位後ね。私の誕生日が過ぎてから薔薇水晶に言われたわ。」
翠「なんてですか?」
紅「『…銀ちゃんから話聞いたよ。私は真紅を許さないから。』ってね。」
翠「なんで薔薇水晶がそんな事を??」
紅「薔薇水晶は私よりずっとずっと前から水銀燈の事が好きだったのよ。」
翠「だから……?」
紅「あの子は私と水銀燈が幸せならそれでいいと言っていたの。」
紅「でも私は水銀燈からの告白を断った。それででしょうね。」
翠「大変だったのですね……。」
紅「水銀燈もだけど薔薇水晶と仲直りするのが一番大変だったわ。」
私はいつの間にか飲み終わってしまっていたお酒を再度注文する。
翠星石にもすすめたけれど、まだ大丈夫らしい。
紅「水銀燈と薔薇水晶が今のような関係になったのが七月よ。」
翠「その時期から真紅は……。」
紅「貴女と蒼星石には本当に迷惑かけてしまったわね。」
翠「べ、別に今更気にするなですよ。」
紅「ふふ、有難う。」
翠「これからはどうするですか?」
紅「そうね。気長にジュンの帰りを待つわ。」
翠「ジュンはあと何年位でこっちに帰ってくるのですか?」
紅「数年かしらね。ジュンが日本に帰って来たらまず私の衣装を作らせるの。」
翠「衣装?なんの衣装を作って貰うんですか?」
紅「そうね―。」
紅「今の私には二つの夢があるわ。」
紅「一つ目はジュンの作ってくれた真っ赤な衣装を着て大きな舞台に上がる事。」
紅「そして二つ目は―。」
紅「雪のような真っ白なドレスを着せて貰う事かしらね―。」
*
Epilogue
空席が目立っていた店内も時間がたつにつれて大分混み合って来た。
翠「それから水銀燈と薔薇水晶とはどうなったです?今は大丈夫そうですけど。」
紅「そうね。最初は見ていてとても辛かったわ。でもそれでは駄目だと思った。」
紅「だから頑張って少しずつ少しずつ元通りになれるようにしたのよ。」
翠「今でも水銀燈の事、好きですか?」
紅「当然よ。勿論薔薇水晶もそうだし、翠星石も蒼星石もね。」
私の返事を聞いて満足そうに頷く翠星石。
翠「うんうん。よかったですね。二人とも?」
紅「え?ふたり?」
??「よかったわぁ。安心したわね、薔薇水晶。」
??「…よかった。真紅、私も好きだよ。」
紅「な、え?ええ!?」
銀「はぁい、真紅。お昼振りねぇ。」
薔「…ぐっといぶにんぐ真紅。」
そこにはいつの間にか水銀燈と薔薇水晶が立っていた。
紅「あ、貴女達なんでここに?」
銀「たまたま学校でギターの練習してたらそこの双子さんからメールが来てねぇ。」
薔「…だからおじゃましてます。」
紅「そう。じゃあ偶然ね?」
翠「そうですぅ。やっぱり仲良しです!」
紅「ところで翠星石?」
翠「なんですか?」
紅「……後で話があるのだけれど?」
翠「う……。」
銀「南無だわぁ……。」
紅「全くもう……。」
銀「ああ、そうそうねぇ真紅ぅ。」
紅「なにかしら?今のは何かお願い事がある時の言い方だったと思うけど?」
銀「さすが私が大好きだった真紅だわぁ。それでお願いなんだけどぉ。」
紅「私でよければ聞くわよ?」
私がそういうと水銀燈は嬉しそうに目を細めてこういった。
銀「―――。」
紅「勿論よ。夢は世界なのだわ。」
おわり&つづく。
<Appendix>
Story ID:7uv5pgqm0 氏(19th take)
Illust ID:7uv5pgqm0 氏(19th take)
「真紅、君を想って作ったこの純白ドレス、着てくれるかい?」
「ジュン…」
真紅はそのドレスを受け取り、ゆっくりと袖を通す――。
――その後、ジュンの姿を見たものはいない。
最終更新:2006年04月26日 09:14