「・・・なんか初めて逢った時みたいだね」
「私も・・・そう思った」
少しの沈黙の後、私たちは―――――笑い出した。
「「・・・・・・プッ、アハッ!アハハハハハハハッ!!」」
笑った。思い切り笑ってやった。
さっきまであった胸のわだかまりなんてもう忘れた。
ああ、わかった。私はずっとめぐとこうしていたいんだ。
それは、時々はケンカや意見が合わない時もあるだろうけど・・・でも!
今は、この瞬間だけでもこうしていたい―――二人で手を取り合って笑い合いたい。
素直にそう思えた。
めぐはひとしきり笑って落ち着いたのか、「いやぁ~私たち青春してるね~。恥ずかし!」など言う。
「さっきの私のセリフ聞いた?あれはないよね~。三文小説以下だってゼッタイ」
「言った本人がそういうこと普通言う?それで感動した私はなんなのよぉ」
「ん~?その小説の大ファン。で、好き過ぎて末期症状。本当にありがとうございました」
最後に一礼をして締めた―――――だ、断言した!
これは・・・さすがに開いた口がふさがらない・・・。
思わず額に手を当て考えてしまう。天然気味―――いや"純"天然のめぐとの付き合い方というものを。
「どしたの」
「ううん、何でもないの・・・ただ何か私の悩みとかって・・・実はたいしたことじゃないんじゃない?って思えて」
「前向きな考えはとてもいいと思う。水銀燈の内部が改革されていくのは素晴らしいわ!」
「うん・・・そうね」
思わず気のない返事をしたが、すぐに考えを改めた―――これはこれでめぐの魅力なんだから素直に受け入れればいいじゃない、と。
ああ・・・こうやって私は自分に対してどんどん嘘が上手になっていくのね・・・・・・。
「ねぇ水銀燈」
そんなことを考えながらも思考の切り替えは速やかに行われた。
「なぁに」
「さっき時計見たんだけど、もう結構な時間だよ。どうする、お家まで送ろうか?」
そう言われて私も腕時計を見ると――――12時を過ぎていた。
「ヤバイ・・・全然連絡してないわぁ」
今から家に帰ると、パパとママの鬼の形相を見ることに―――今度は私の顔が白くなる番だったとは・・・。
あたふたと困っていた私を見かねてか、めぐは事も無げにあっさりとこう言った。
「今夜は泊まってけばいいじゃない」
突然の提案に一瞬、時間が止まった。
―――――――そしてまた、時は動き出す。
「―――はい?」
思わず聞き返してしまった。
「もう遅いし女の子ひとりで帰るのはちょっと危険だから、今日のところは私の家に泊まってゆきなさい!そう言ったの」
さっきより少し長くなったような気がするけど、それはどうでもいい。
肝心なのは、今めぐは何といったのか――それが問題なのだ。
「ね、ねぇ。さっき何て言ったのぉ?ごめんね、ちょっとぉよく聞こえなかったみたい」
「だからぁ、今日という日はもう終わりました。すでに深夜です。こんな時間は何が起こるかわかりません。
もし、カワイイ水銀燈の身に何かしらの危険が迫ったとしたら・・・・・・ダメよ、めぐ!ダメ!!
そんなこと、考えちゃダメ!友達が目出し帽で顔を隠した変質者に"陵辱"されてしまうかもなんて―――でも、私はそんなになってしまった彼女も受け入れる覚悟はできているわ・・・・・・主にベットの中で。
ああ、友達の水銀燈に対してこんな不潔かつ不純なことを考えるなんて・・・私・・・悪い子・・・。だからね、水銀燈!」
ガシッ!
めぐの両腕が私の肩を強く掴む。
ギュ~ゥ!!
イタタッ―――この細身にどうして・・・こんなに力が・・・!
それにさっきの発言はところどころおかしくなかったか?
「ねぇ・・・めぐ、さっき―――「水銀燈!」」
真剣な顔―――もう何も言えない。
「だから今日は私の家に泊まっていきなさい。というか泊まってけって言ってんだよ、コノヤロー」
―――命令形ッスか・・・しかも最後はどっかの万屋の天然パーマみたいな口調になってるよ!キャラクターのベクトルが真逆もいいとこだよ!!
「・・・わかったからぁ・・・とりあえず手、離して。肩・・・痛くなってきたみたい・・・だから」
「え?あ、ああ、ごめんなさい!えへ、ちょっと取り乱しちゃった」
あれがちょっとなのか・・・・・・。
「わかったわぁ。今日はめぐの家でお世話になります・・・・・・よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。
「うんうん、全部私に任されちゃってー!」
こちらは腕を組んで感慨深そうにうなずいている。
私はふとこう思った――――なんだろう、このショートコント・・・。
「じゃあこれ、ハイ」
と言ってめぐが差し出したのは何のへんてつもない―――携帯電話。
「ご両親にちゃんと連絡しなきゃ・・・ね?」
こう言われるとしないわけにはいかない。私はめぐから携帯電話を借り、家に電話をした。
――――プルル・・・プルル・・・プル・・・ガチャッ―――あっ、ママ?
・・・うん、私・・・・・・ごめんなさい、連絡が遅れて・・・うん、今お友達といるの・・・それでね、今日はもう遅いからその子が泊まっていったらって言ってくれたの
・・・うん、そう・・・・・・ママいいかな?・・・うん、わかってる・・・明日はパパの大目玉かぁ・・・はぁい、甘んじて受けます・・・じゃあいいのね?
・・・ありがとう、ママ・・・パパにオヤスミナサイって伝えてね・・・うん、わかった。明日ちゃんと話すわぁ。
それじゃあそろそろ・・・オヤスミナサイ、ママ・・・・・・・プチッ、プープープー・・・・・・――――
「・・・・・・はい、ありがとぉ」
借りた電話をめぐに返す。思いのほかスムーズに事が流れたのは幸いだった。しかし、明日家に帰ると・・・・・・うぅ。
「で、どうだったの」
「いいって。相手のご両親に失礼のないように気をつけなさいね、だってぇ」
「結構寛容なご両親じゃない」
「私に友達が出来たって言ったら、すごくビックリしてたわぁ・・・当たり前か」
「かもね」
「・・・・・・さりげにひどくなぁい?その言い方」
一瞬ジロリ!とにらむ―――けど、まぁいいかという気分にすぐになった。
「・・・・・・さぁ早く帰りましょうよぉ」
私はめぐに右手を差し出す。
めぐはそれを見て微笑み、左手を重ねる。
私たちは手を繋いで帰った。
その帰り道は何も話さなかった。淡々と帰路を辿った。
ただ、掌から伝わってくる―――めぐの温もりが何だか妙に嬉しかった。
「エヘヘ・・・」
「なぁに、急に笑っちゃって」
「なぁんでもなぁい!」
「おかしな水銀燈ね」
「いい~の、笑いたいから笑ったんだからぁ」
嬉しくて繋いだ手をブンブン振り回した。
「いたいいたい!いたいよぉ水銀燈・・・」
「ゴメン、でもぉ・・・なんか嬉しくって」
「やっぱり変な水銀燈」
めぐも笑ったから、私もまた笑う―――何か満たされた気が、した。
*
家に着いたら午前一時を回っていたので、二人とも素早くシャワーを浴び眠ることになった、のだが――――
「・・・・・・やっぱり、私が床で寝るわよぉ」
ベットの上でぼやく私。
「だ~め。お客さんはベットで寝るって――いうのが――古来から――のしきた――りぃ~・・・・・・なの・・・よっ!」
ドスンッ!ドガッ!バサバサバサバサ・・・・・
押入れから布団を取り出そうとして早十分――今、その闘いが終わった(決まり手:布団とエトセトラーズによる押し潰し)。
「めぐぅ・・・ちゃんと整理しなさぁい・・・」
「むぅ・・・」
布団(とよく判らないもの)の中から出てきためぐは少しホコリっぽくなっていた。
「う~ゲホゲホ・・・」
しきりにむせるので背中を撫でてあげた。
「ありがとね。さてと・・・・・・うん、これで良し!」
白いリノリウムの床に見事なまでに和テイストな布団がそこに姿を現した。
「何ていうか・・・和洋折衷?」
「実際の病院でもあるわよ。家族用の布団とか」
「嘘ッ!?」
「本当だって。私見たことあるもの―――ていうか入院したことあるからねー」
「―――そうなの・・・?」
「うん、ちょっとした病気で・・・・・・今は大丈夫よ?」
「本当に?」
「本当に大丈夫だって!さぁ、もう寝ましょ。電気消すねー」
―――パチン
壁のスイッチを押した音が響く。
その音が耳に届く前に世界は暗くなった。暗闇の中、ガサガサと音がする。
めぐが布団に潜り込んでいるのだろう。
私もしょうがないのでタオルケットを身体に掛けてベッドに横になった。
「水銀燈ーおやすみー」
「・・・おやすみぃ」
言い終えたら目を閉じる―――早く眠りにつくために。
けれど今日の私はとことんおかしいらしい―――寝つけない、眠れない―――
基本的には寝つきはいい方なのに・・・どうして?と考えながら寝返りを打ったら―――何故かめぐと目が合った。
「・・・・・・なにしてるの」
「水銀燈を見てたの」
「・・・私見ても面白くないよ」
「眠れないの?」
「ちょっとね。まぁ・・・他人の家に泊まるなんて初めてだから緊張してるのかも・・・」
「・・・・・・ねぇ、よかったらコッチ・・・来る?」
と言ってめぐは掛け布団を上げた。
「い―ーいいわよぉ、一人で寝れるわぁ!」
私はタオルケットを身体に巻きつけ、反対側を向いた。
「そう・・・残念ね」
耳に入ってきたのは落胆しためぐの声。
―――胸の中が、ドキドキしてる。これじゃあ余計に眠れやしない・・・・・・こうなったら!
私は枕を両手で抱えて、めぐの枕元に座った。
「・・・ね、ねぇ。めぐ・・・まだ起きてるぅ?」
「―――なぁに」
めぐがこっちを向いた―――ニヤニヤしてる・・・イジワル・・・。
「やっぱり・・・一緒に・・・寝たいなって・・・思って・・・」
「(ニヤニヤ)うん、だから?」
「(う~イジワルぅ・・・)だからぁ・・・一緒に寝てください・・・ダメ?」
「素直でよろしい。はい、どーぞ」
めぐは布団を上げてくれた。私は「・・・失礼します」と言ってそのスキマに潜り込んだ。
布団の中では十センチも離れていない、そんな近くにめぐがいる。
「あったかぁい・・・なんかイイ匂い・・・」
「こらぁ、恥ずかしいでしょ!良い子は早く寝なさい」
「はぁい」
「・・・それと水銀燈、明日からしばらくの間用事があるの。だから当分会えない・・・ゴメンね、言うの忘れてた」
「・・・・・・そんなぁ?一週間後、一緒にギター取りに行けないの?」
「わかんないなぁ・・・どれくらいかかるのか」
「・・・・・そう」
沈んだトーンで返事をすると――――――グシャグシャ!!
いきなりめぐが私の髪を乱暴にかきむしった。
「な、なにするのよぉ!?」
「そんな暗い顔しないの。奇麗な顔が台無しになっちゃう」
めぐはとても優しい声でそう言ってくれた・・・・・・恥ずかしい。
「恥ずかしいセリフは禁止ッ!」
「・・・照れるから?」
「うるさいッ!もう早く寝なさいって言ったのは誰よぉ」
「ウフフ。そうね、もう寝なきゃ。じゃあ・・・ハイ」
と言って手を出す。
「帰り道みたいに手を繋いで寝ましょ」
そう言って浮かべたのは、暗闇の中でもわかる素敵で太陽みたいに暖かい―――笑顔。
私は・・・返事代わりに黙ってその手を握った。
心臓が―――ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・―――緩やかになってゆく。
やっぱりめぐにはかなわないわぁ・・・そう思いながら私はゆっくりと目をつぶり、
今日という日に終わりを告げた――――――左手に大切な人の温もりを感じながら。
最終更新:2006年04月19日 01:36