Story ID:OfT5DUy+0 氏(308th take)
「あーーっ!!」
翠星石、蒼星石、水銀燈の三人は双子宅で曲作りを行っていたのだが、急に翠星石が大声を上げて立ち上がった。
「な、何よぉ翠星石」
「急に声上げてどうしたの?」
「一時から雛苺と映画見に行く予定だったの、すっかり忘れてたですぅ!」
「一時からって…もうあんまり時間無いよ?」
「どこで待ち合わせなのぉ?」
「○×駅前…」
時計を見てみると一時までもう三十分も無い。
ここから待ち合わせ場所まで行くには最低でも三十分くらい掛かる。タクシーもすぐつかまるかどうかも分からない。
「こーしちゃいられねぇです! すぐに行ってくるですぅ!」
部屋に一旦戻ってバッグを持ってくるとダッシュで家を飛び出す翠星石。
それを水銀燈は追い駆けて引き止めた。
「ちょっと待ちなさぁい翠星石」
「何ですか、急いでるですよ!」
「私が送ってってあげるわぁ。」
「え、本当ですか水銀燈!?」
水銀燈のその言葉を聞いて翠星石の顔がパァっと明るくなった。
「えぇ、だから早く乗りなさぁい」
「恩に着るです、水銀燈!」
水銀燈に礼を言い、二人は赤いスポーツカーに乗り込んだ。
エンジンを入れると外車特有の振動が体に来る。
「シートベルトは締めた? それじゃぁ行くわよぉ」
「はいですぅ!」
翠星石の返事を聞いて、水銀燈はアクセルを一気に踏み込んだ。
ギャギャギャとフィクションでしか聞けない様な音を出して車は急発進して彼方へ消えて行く。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ……!!」
「…姉さん大丈夫かな…?」
タイヤ跡を残して消えていった車を見送りながら、蒼星石はボソリと呟いた。
「すすす水銀燈、いくらなんでもスピード出し過ぎですぅ!!」
「何言ってるのよぉ、急いでるんでしょう?」
「だからってこれは早すぎですぅ! 他の車が止まって見えるですよ!」
先ほどとは別の理由で焦る翠星石とは対照的に不適な笑みを浮かべて車を運転する水銀燈。
スピードメータを見てみると公道の法定規則を思いっきりオーバーしている。
「スピード落とせですよー!」
「まだまだこんなのウォーミングアップにもならないわぁ!」
「ああああ事故る、事故るですぅ!!」
「大丈夫よぉ、私にまかせなさぁい!」
「蒼星石、雛苺、助けてぇ~!」
「やっと温まってきたわぁ~、フンフンフ~ンヘイヘイへーイ♪(例の歌声)」
「ぐあぁぁぁ歌を歌うなですぅ~!! 吐く、吐くですうああぁ~!」
その頃。
「翠星石遅いの~…早くしないと映画始まっちゃうのよ…」
腕時計と辺りを交互に見ながら不安げに雛苺は呟いた。
映画が始まるまであと五分も無い。このままでは始まってしまう。
はぁ、と溜息を付いたと同時に、一台の赤いスポーツカーがこっちに向かって来てるのに気が付いた。
「あれ、あれは水銀燈の車…?」
それは雛苺の前までまで来ると停止してドアが開いた。
「ひ、雛苺…待たせたですぅ…」
中から現れたのは、顔面蒼白でよろよろの翠星石。
翠星石はそのまま崩れ落ちるように雛苺にもたれ掛かった。
「翠星石!? どーしたの!?」
車から今度は水銀燈が車から出てきた。
「送ってあげたんだけど、ちょっと酔っちゃったみたいねぇ。後はよろしくねぇ」
「う…うゆ…」
それだけ言うと水銀燈は車に戻り、急発進してそのまま彼方へ見えなくなってしまった。
タイヤの焦げた匂いが鼻を突く。
「…ひ、雛苺…」
「翠星石、大丈夫なの?」
「…す、水銀燈の車には絶対乗っちゃダメです…下手なジェットコースターより怖いですよ…」
「わ、分かったの…」
薔薇水晶が酔ったわけを身を持って理解した翠星石だった。
最終更新:2008年03月20日 13:01