Story 845 氏
「……まったく、空気が臭いったらありゃしないわねぇ……ほぉんと、サイアクって感じぃ……」
「うゆー、目が痛いのよー」
「翠星石も髪が砂まみれですぅ」
「水が悪くて紅茶も淹れられないのだわ」
「みんな、気持ちはわかるけれど、私たちにはここでやるべきことがあって来たんだよ」
「わかってるわよぉ……うふふ、思い知らせてやるわ」
そう、ここは某大陸の大国。
ワールドツアーの最後に急遽組み込んだため、十分な周知は間に合わなかったが、
それでも金糸雀の八面六臂の働きで、相応に広い会場を押さえ、チケット完売までもっていった。
そうまでしてでも、どうしても今、ここで、コンサートを敢行せねばならなかった。
「ロックとは戦うこと、戦うことは生きることなのだから」
そして、コンサートが始まった。
熱狂する観客――しかし曲目を重ねるにつれ、その熱狂が徐々に戸惑いに変わっていく。
プログラムには載っていない曲が、立て続けに演奏されていく。
その全てが「自由」「解放」「独立」などをテーマにした歌ばかりだ。
ほとんどMCも入れずに。
それらは元々、彼女たちがまだ学生時代にアマチュアバンドだった頃、
教師とか社会などに対する反抗心から作り上げた、反逆の歌だった。
そのため、それは狭い見識で書かれた拙い――中2病テイスト満載な詞で、
あまりの恥ずかしさに、メジャーデビュー後は黒歴史として封印されていたものだ。
その封印をあえて解き放つにあたり、さすがに多少のアレンジは加えてある。
反逆の対象をあえてぼかすように。
何曲目かを歌いながら、真紅が舞台袖に目をやると、
ステージ上になだれ込もうとする黒服の集団を、
金糸雀を筆頭としたスタッフが必死に押さえ込む姿が見えた。
「でも……そろそろ限界のようね」
「ちょっと早いけどぉ……そろそろキメちゃいましょうか」
真紅は振り返り、メンバーに素早く目配せを送った。
――皆、覚悟はいいわね?
全員が強く肯く。
クライマックスに向けて、翠星石がドラムを叩き上げる。
そして、全員がマイクを掴み――一斉に叫んだ。
「私たちは反逆する!自由を抑圧するもの全てに!」
よく通る真紅の声が、コンサートホールに響き渡る。
その尋常でない迫力に、会場が静まりかえった。
その静寂の中、観客全員の目を射抜くように見つめ、メンバー全員が叫ぶ。
「We are the ROCK!! FREE TIBET!!!」
同時に、ステージは白煙につつまれ――それが晴れた時には、ステージ上には誰もいなかった。
それまでメンバーの演奏する姿を写していたスクリーンには、”どこかの戦場”の惨劇が暫く流れ
――唐突に消えた。
この時の動画は、その1時間後には動画投稿サイトに掲載され、全世界に波紋を広げたという。
最終更新:2008年03月21日 22:24