Story ID:+akP02gI0 氏(18th take)
「天使が連れてく星の河」
Lyrics ID:+akP02gI0 氏(18th take)
○月×日
デビューから三年目にして初めて参加する事になった夏の祭典『サマースラム』。
ローゼンメイデンはインディーズ時代からの馴染みのスタジオで練習を続けていた。
そんなある日―。
蒼「―ちょっと皆ストップして。」
翠「どーしたですか?」
雛「うゆ?そーせーせきどーしたの?」
紅「……水銀燈ね。」
銀「……あら、私?」
蒼「うん。水銀燈だね。今明らかに違う曲の部分弾いてたよ?」
銀「あ、あら?そうかしらぁ……ゴメンなさいねぇ。」
薔「…銀ちゃん大丈夫?」
蒼「水銀燈何かあったの?昨日と今日だけで八回もミスしてるよ?」
雛「すいぎんとうがこんなにまちがえるなんてはじめてみたのー……。」
翠「というか蒼星石、数え――『翠星石?なにかいった?』……役満がしたいです。」
「「……。」」
銀「ゴメンなさぁい……。次はちゃんと気をつけてやるわぁ。」
蒼「うんうん。もうすぐサマースラム本番なんだし、頑張って練習しよう。」
銀「了解よぉ。」
紅「……今日はもう終わりにしましょう。」
蒼「真紅、本気でいってるの?」
紅「ええ、勿論よ。水銀燈の調子も余り良くないみたいだし、無理しすぎる事も良くないわ。」
蒼「……わかった。」
紅「悪いわね蒼星石。今日の分も明日頑張りましょう。」
蒼「そうだね。明日も今日と同じ時間にここで。遅刻する場合は連絡してね。
「「了解。」」
蒼「じゃあ今日は片付けだけして解散かな。」
銀「上手くいかないわぁ……。」
紅「水銀燈。」
銀「あら、どーしたの真紅?お茶でもしていくのかしらぁ?」
紅「そうね。今日も暑かったし何か冷たいものでも食べにいきたいわ。」
銀「賛成ぃ。」
紅「じゃあ……、私と水銀燈は先に帰ってるわ。皆、また明日ね。」
翠「……にしても、最近の水銀燈はなーんかおかしいですねぇ。」
蒼「うん。今まであんなミス全くしてなかったのにね……。」
雛「すいぎんとうなにかあったのー?」
蒼「そろそろ本番なのに大丈夫かなぁ……。」
雛「そういえば、しんくとすいぎんとうはどこいったの?」
翠「なんかお茶とか冷たいものとかいってたですけど?」
蒼「いつもの喫茶店にいったんじゃない?」
翠「まぁ、きっと夏バテとかその程度ですよ!水銀燈の穴は翠星石が埋めてみせるです!」
蒼「だといいんだけど……。」
翠「蒼星石は心配しすぎです!今までなんとかなってきたし大丈夫ですよ!」
雛「ひなもがんばるの!」
そこに――
薔「…銀ちゃんがおかしいのには思い当たる事があるよ。」
蒼「薔薇水晶、それは本当?」
薔「…うん。」
翠「どんな理由ですか?」
薔「…それは――。」
からんからん――。
練習を終えた真紅と水銀燈はスタジオ近くにある喫茶店に来ていた。
この喫茶店は多種多様な甘味ものを取り扱っており、近所での評判も頗る良好だ。
銀「はぁ、生き返るわぁ……。」
紅「貴女のその服、この時期だと何回みても暑そうね……。」
銀「好きできてるんだからいいでしょ……。」
そんな話をしている間に、二人が注文したものが運ばれてくる。
紅「で、水銀燈。何かあったの?」
銀「……別になんでもないけど?」
紅「貴女は何時までたっても嘘をつくのが下手ね。」
銀「素直なだけよ。」
紅「――あれからもう七年ね。」
紅「まあ、去年までの貴女でも感慨に浸る事はあったけれど。」
銀「たまたまよ、たまたま。」
紅「水銀燈!!」
銀「そ、そんな大声出さなくてもいいじゃない……。」
紅「またあの時みたいに何も言ってくれないの?」
銀「話せばいいんでしょう、話せば……。」
紅「何年貴女と一緒にいると思っているのかしら?」
銀「――めぐのご両親から手紙がきたのよ。」
蒼「柿崎めぐ?」
薔「…うん。」
翠「それって誰なんですか?」
薔「…昔の銀ちゃんの友達。今はもういないけど。」
翠「なんでですか?」
蒼「ちょっと翠星石」
薔「…七年前に心臓の病気で亡くなったの。」
翠「そうなんですか……。」
薔「…その人のご両親と銀ちゃんはあまり仲が良くなかったの。」
私も聞いた話だけどね、と最後に付け加えて話をする薔薇水晶。
蒼「そうなんだ……。」
翠「全然知らなかったですね……。」
蒼「知らなかったとは言っても僕は水銀燈に酷い事を言っちゃったかな……。」
薔「…それは大丈夫だと思う。銀ちゃんも気にしてないよ。」
薔「…今の時点で私が二人に話せるのはここまで。」
薔「…ここから先は銀ちゃん本人から近いうちに話をしてくれると思う。」
そこで話は終わりなのかその場を離れる薔薇水晶。
残された三人はその後ろ姿を黙って見送った。
紅「手紙?」
銀「ええ。先週あたりにね。」
紅「今更なんていってきたの?」
銀「別に悪い内容じゃ無かったわぁ。ただあの時はごめんなさいねって話。」
紅「都合のいい話だわ。」
銀「そんなに怒る事ないじゃないのよぉ。」
紅「私から言わせて貰えば、何故あの時貴女が黙ってたかの方が不思議よ。」
銀「まぁねぇ。」
そういって笑いながら少し大きめの封筒を取り出す水銀燈。
その大きさから結構な量の便箋が入っているようだ。
紅「随分と長くてご丁寧な謝罪文のようね。」
銀「ええ、それと手紙の他に――。」
封筒から一枚の便箋を取り出し真紅に手渡す。
それを見た瞬間、真紅の顔色が変わる。
紅「これは?」
銀「めぐから私達に。」
紅「そんな……。」
銀「あの子が作った最初で最後の歌よ。渡すのが少し遅くなってしまったけれど。」
銀「――私達に歌ってほしいって。」
そして迎えた祭典当日。
その日はあいにくの空模様であったが全国から駆けつけた大勢のファンで、
会場はある種独特の熱気に包まれていた。
我らがローゼンメイデンは既に三曲を歌い終え、残るはあと一曲。
彼女達が披露する最後の曲はどのような曲なのか。
会場を訪れた大勢のファンが固唾を呑んで見守る中、水銀燈がマイクを持った。
銀「みんなぁ、今日はこんな雨の中来てくれて本当にありがとぉ。」
水銀燈の言葉一つで会場のボルテージは一気に跳ね上がる。
銀「次に歌う曲が今日のラストねぇ。ホント、もっと歌ってたいわぁ。」
水銀燈がマイクで喋っている間、後ろでは大急ぎでセットが作りかえられている。
どうやらかなり大規模な準備をしているようだ。恐らく次に歌う曲で使うものだろう。
銀「そろそろ準備も大丈夫なようね。」
そういって自分のギターを持つ水銀燈。
他のメンバー達もそれぞれがスタンバイを終えている。
そして後ろからの合図で現れたのは紫色の透明なグランドピアノ。
銀「これまで私達は、自分達で歌う曲は全て自分達で作ってきたわ。」
銀「でも次に歌う曲は初めて私達以外の人が作ってくれた歌。」
銀「今はもういない、私の最初の親友が作ってくれた歌よ――。」
「天使が連れてく星の河 」
Lyrics:meg Music:水銀燈・薔薇水晶
暗い空の夜 かすかに流れて行く雲
満ちて行く月に 小さな願いを
貴女は旅立ち 私は1人で今夜も
星の河の果て 貴女を待っている
人は誰でも夢を抱いて 悲しみに耐えているの
あの日翼をなくしてしまった私は いつまでも貴女を見ている
あふれる悲しみを抱いて 私の心は月夜に濡れているわ
この思いは果てしなく 遠く離れた貴女へ届けたい
あの空の向こう 何があるとも知らずに
消えて行く壊れた子の 儚い命よ
やがて天使が風を運び 私の翼も攫っていくわ
貴女と私 二人の空に浮かんだこの思い 黒い天使は見ていた
あの日の貴女の思い出 私の心に今も生きているから
強く前を向いて歩いていく いつか貴女と一つになるまで
あふれる悲しみを抱いて 私の心は月夜に濡れているわ
この思いは果てしなく 遠く離れた貴女へ届けたい
強く前を向いて歩いていく いつか貴女と一つになるまで
祭典も終わり遅めのお盆休みを取る事が出来た真紅達はめぐのお墓参りに来ていた。
そのお墓はとても綺麗に磨かれておりきちんと手入れをされている事が伺える。
翠「ここがあのめぐさんのお墓ですか?」
薔「…うん。」
雛「お供え物にうにゅーがあるの!」
紅「雛苺、お墓ではちゃんと静かにするのものだわ。」
蒼「そういえば今日は金糸雀は?」
紅「あの歌の取材を捌くのに必死みたいよ。暫く休みが無いと泣いていたわ。」
翠「まあ静かでいいんですけどねぇ。」
紅「あら、金糸雀のおかげで今静かにここにいられるのよ?」
翠「それはちゃーんとわかってますよぅ。」
翠「あれ、水銀燈はどこにいったですか?」
紅「――友人に会いにいってるわ。」
銀「ねぇめぐ。貴女には見えているかしら?」
銀「私は今も頑張ってるわよ。めぐとした約束、ちゃんと守ってるわ。」
銀「貴女が私達のために作ってくれたあの歌。」
銀「いつか一緒に歌いましょうね――。」
最終更新:2006年04月17日 10:29