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Story   845 氏
Illusut 845 氏
「今日、薔薇水晶は?」
「休むって書き置きがあったわぁ。いつもの……お姉ちゃんと曲を作る約束の日ですってぇ」
「あの子もいいかげん水くさいのですぅ。そろそろ会わせてくれたって罰は当たらないと思うです」
「うゅー、ヒナも会ってみたいのー」
「きっと、あの子にはあの子の事情があるのだわ」

薔薇水晶の、双子の姉。
彼女について、薔薇水晶以外のメンバーが知ることは少ない。

時々、薔薇水晶を介して、ローゼンメイデンに曲や詞を提供してくれていること。
にも関わらず、何故か薔薇水晶を除くメンバーの前に姿を見せようとしないこと。

誰も出会ったことのない、「7番目のローゼンメイデン」。

雪華綺晶。
それが、彼女の名前。

            Killer Queen
            ~7th doll~

最初の記憶は、母様のお腹の中。
母様の鼓動、私の鼓動、そして「彼女」の鼓動。

その時、確かに「彼女」は私の隣に居た。
この世の光を知ることなく、「彼女」の鼓動が止まってしまった、その後も。

結局、この世界に生まれてきたのは、私ひとりだけ。
母様の、そして「彼女」の命を奪って、私だけがこの世に生を受けた。

だけどそれは、ただの「体」だった。
母様は私に、命をくれた――代わりに、心を連れて逝ってしまった。

そんな私に、けれど父様は一心に愛情を注いでくれた。
長い長い時間をかけて、私――薔薇水晶を「作って」くれた。

次の記憶は、小学生の頃。
その頃まだ「作りかけ」だった私は、他の子供たちと随分違っていた、らしい。
そして子供というものは、「違う」ものに敏感だ。

だから彼らは幾たびか、私の体を酷く傷つけた。
「違うもの」を遠ざけるために。

誰かが私に投げつけた、ひとかけらの石ころ。
それが「私の左目」が見た、最後のもの。

そして、その時私は初めて「彼女」の声を聞いた。

その後のことは、あまりはっきりとは覚えていない。
ただ確かなのは、その時私に石を投げつけた誰かが、それきり学校に来なくなったこと。
その時から、皆が私の体を傷つけなくなったこと。
そして私も、ほどなく転校することになったこと。

以来、私はずっと左目に眼帯をしている。

父様は、決してこの眼帯を取ってはいけないと言う。
その時傷ついた目を、外に曝してはいけないから――と。
だけど、私は知ってる。本当の理由を。

それは、そこに「彼女」がいるから。
そして父様が「彼女」を――とても、恐れているから。

白崎――私の主治医――が何か、勝手に病名をつけていたような気がする。
だけど「彼女」は決して、「私が作り出した妄想」でも「別の人格」でもない。
「彼女」は確かに、ここに生きている。
私が傷つけられた時、全力で私を護ってくれる。
強くて優しくて無邪気で繊細で大胆で凶暴な――私の大好きな姉様。

雪華綺晶。
それが「彼女」の名前。
肉体だけで生まれてきた私とは反対に、心だけで生まれてきた、私の姉様。

そう。
この眼帯をしている限り、「彼女」は眠っている――はず。
父様はそう思っている。白崎がそう言ったから。

だから、これは私と姉様、二人だけの秘密。
私が鏡を見つめれば、そこにはいつでも姉様が居ること。
あの時からずっと姉様は、私と父様を見守っていること。
私と姉様がいつでも、どんなことでも、二人で話し合って決めていること。

例えば今日。
私は、姉様と新曲の打ち合わせをしている。
「心」である姉様が綴った詞を、「体」の私が書き留め、楽器を奏でて、曲をつけていく。
譜面台に乗せた鏡を通して。

そうして、私たちの歌は作られていく。

……とは言え。

私と姉様が話し合っている姿は、客観的には鏡を相手の、奇妙で滑稽な一人芝居にしか見えないのも確かだ。

この眼帯を、左右逆に付け替えれば、姉様にこの体を貸してあげることはできる。
けれど。

姉様はこれまで、他の人と話したことがない。
その心はとても繊細で、そして激しく、鋭い。
さながら、研ぎ澄まされた硝子の針のように。

今の姉様は――きっと周りを、そして自分自身をも、ひどく傷つけてしまうだろう。
そして私には、そんな姉様も、周りの人たちも、誰も守れない。
作り物の心しか持たない、今の私には。

だから、姉様を他のメンバーに……私の仲間たちに、会わせることはできない。今はまだ。

いつか、出会う時が来るのだろうか。
それは互いにとって、幸せなことなんだろうか。

ただ。

――ねえ、薔薇水晶?
「なに、姉様?」
――この子、可愛いね。会ってみたいな。

何故だろう。

姉様が、雛苺に興味をもったようです……。

~Ende~


  • 上:後に発売されたアルバム初回プレス特典ブックレットの1カット 。表向きは特撮による薔薇水晶の一人二役ということになっているが、ファンの間では「これこそ噂の7番目」と都市伝説的に言われているとかいないとか。


最終更新:2006年04月21日 02:53
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