Story ID:RSRJbf7N0 氏(25th take)
銀「そうね、貴女はまだ何も出来ない。ただ歌う事しか出来ない子。」
紅「そのとおりだわ・・・・・・。」
銀「でも誰だって最初はそうなのよ。だから何も恥じる事は無いの。」
銀「真紅、貴女にこれをあげるわ。」
紅「これは・・・・・・、ギター?」
水銀燈は漆黒のギターケースと、その中にある一本のギターを手渡してくれた。
ケースの中から出てきたのは年季の入ったアコースティックギター。
鳥と蝶とが彫刻された、特徴的なピックガードが私の目を引く。
楽器は素人の私からみても、かなり長い間使い込まれているように思う。
銀「どうかしら?気に入ってくれた?それならそれは貴女のもの。」
紅「いいの?このギター、随分昔から使ってきたのではなくて?」
銀「このギターは私が初めて使ったギターよ。めぐに貰ったの。」
本当になんでもないように水銀燈はそういった。
――でもそれは、私にとっては大問題なわけで。
紅「そ、そんなギター貰える訳ないでしょう!?」
銀「あら。気にしないでいいのよ。ギターは他にもあるし。」
紅「そういう問題じゃないわ!」
私は思わず声を荒げてしまった。
それもそのはず。このギターは水銀燈が今はもういない親友から貰ったもの。
即ち、形見とも言える物だ。
そんな大切なものを「はいそうですか」と簡単に貰ってしまえるわけが無い。
紅「駄目よ水銀燈。そんな大事なものなんて貰えない。貰えるわけがないわ。」
銀「だから気にする事なんてないっていってるじゃない。」
紅「でも・・・・・・。」
銀「真紅。よく聞きなさい。」
銀「最初はその子がとても重たく感じてしまうと思う。でもそこで終わっていたら何も始まらないの。」
銀「貴女はこれから夢を叶えにいくのでしょう?」
銀「この程度の重さに耐えられなければ、夢を叶えるなんて絶対に無理よ。」
銀「それに、重さに潰れてしまいそうになった時には私達がいるわ。」
紅「・・・・・・わかった。このギターは私が受け継がせてもらうわ。」
銀「受け継ぐなんてそんな大袈裟ねぇ。」
紅「私にとってはそれだけ凄い事なのよ。」
はっきりとした私の言葉を、そして意思を感じとった水銀燈は私の両手を握りこういった。
銀「ちゃんと大事にしてあげないとすぐに返してもらうわよ。」
銀「それから。この子をきちんと扱えるようになったら、まず最初に私に報告しなさい。」
銀「二人で一緒に、はじまりの一曲を作りましょう。」
銀「そして、いつか夢を叶える事が出来たのなら、それを二人で歌いましょう。」
銀「約束よ、真紅。」
それから数年後。
その日は私達にとって、大事な大事な記念の日。
きっかけは翠星石の何気ない一言。
『これですよ!!バンドです!!音楽です!!』
それがすべてのはじまり。私達にとって忘れることの出来ない第一歩。
あれから色々な事があった。
失敗だらけの初めてのライブ、真冬の寒空の下で何時間も歌い続けた事もあった。
喧嘩だって沢山したし、何度辞めてしまおうと思ったかも解らない。 」
本当に色々な事があった。
数え切れない位の困難を乗り越えた末のメジャーデビュー。
運、才能、努力、全てが巧く噛み合ってここまでくる事が出来た。
あの日から、脇目も振らずに全力で走り続けてきた。
それはこれからも変わる事はないだろう。
大歓声に迎えられ私は再びステージに立つ。
傍らにはあの日貰った一本のギターと、
銀「普段じゃ照れ臭くてこんな事絶対言えるわけないけど、皆、本当に有難う・・・・・・。」
感極まって泣き出した親友の姿。
夢は叶えられた。
私達は沢山の大切なものを犠牲にし、それ以上の大切なものを得る事が出来た。
どんな時だって私達を心の底から応援してくれる『家来』達。
一度は遠く離れてしまった幼馴染が、この日の為に作ってくれた真っ赤なこのドレス。
私が本格的に音楽を始めた時から共に過ごしてきた、鳥の囀りと名づけられたこのギター。
そして、何より掛け替えの無い『姉妹』達との出会い。
どれかひとつでも欠けてしまえば私の夢は叶う事は無かっただろう。
私はギターを手に取り、彼女の元へと歩いていく。
あの日受け継いだこのギターと、初めて二人で作ったあの曲を握り締めて。。
恐らくこの歌は今日のこの瞬間の為に作られたのだと思う。
ならば私にはもうひとつ「やるべき事」があるだろう。
紅「さあ、演くわよ水銀燈。久々に貴女と初めて作った曲を歌いたい気分だわ。」
――約束は果たされた。
最終更新:2006年05月09日 00:04