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「ギターを教えて欲しいのだわ、のり」
例のライブから数日後の土曜日、突然桜田家にやってきた真紅は唐突にそんなことを言い出したのだった。
「いいわよ、真紅ちゃん」
それをまた当たり前のように承諾するのりだった。
「(なんかズレてるような気が…)」
それを遠巻きに見て突っ込むジュン。つーかいたのか「(オイィ、作者ぁ!!!)」

「もうギターは買ったの?」
「…まだ何も。何から買っていいのかさっぱりで…」
「じゃぁ、そうねぇ…とりあえずうちに上がってって」
玄関口でずっと話すわけにはいかないと、のりは真紅を家に招き入れる。
真紅はといえばてっきりこの前のライブの影響ねとかいきなり言われても…とか真紅ちゃんがギター?
とかいろいろ突っ込まれるとばかり思っていたので幾分肩透かしを食らっていたのだった。
桜田家へ一歩踏み入れる真紅。
「あら、ジュン。いたの」
「ちょっと真紅までえぇ!!!」
ジュンの叫び声を無視して靴を脱いだ真紅であった。

                    *

「はい、これ貸してあげる」
「……これ、KUNKUNが使ってたのと違う気がするのだけど」
KUNKUNが持っていたのは赤く、fの形の穴があって板のようなのが貼り付けてあってしかもコードが延びてたはずなのに…。
「これはね、アコースティックギターって言うの。KUNKUNが使っているのはエレキギターって言って、これとは種類が違うんだけど私これしかもってないの」
「そう」
借りる身分なので文句は言えない。
この時点で真紅はアコースティックギターとエレキギターの違いもわからなかった。
無論KUNKUNが使ってたギターはグレッチのフルアコなんて知る由もなかった。
「エレキとアコギの違いくらい知っとけよ。しかしまさか真紅がギターやるとはねぇ」
突っ込み役はいた。ちなみにジュンもギターをやっているので無理矢理のりに手伝わされているのだった。
「じゃあ最初はチューニングからね。5弦…その二番目に太い弦から合わせるの。このチューナーでね」
「わかった」簡潔に答え、そーっとペグを巻く真紅。

「…あれ」
「おい真紅それ逆」「うるさい、わかってるのだわ」
ぎこちない手つきでペグを巻き上げる真紅。
なんとか音を合わせやっと2弦目にかかったとき、

バチイィン!!!!

「きゃっ」
驚いて肩をすくめ、目をぎゅっと閉じる真紅。
「あらあら、弦を巻きすぎちゃったのね。真紅ちゃん大丈夫?」
「え、ええ」
「プッ、真紅が『きゃっ』だって、お前結構ビビリなとこ…」

バキイィン!!!!

今度はまるで後の超悪役が主人公の愛犬を蹴っ飛ばすがごとく綺麗なアッパーがジュンを捕らえた。
「な、何するだぁーーー」
「うるさいっ、茶々入れるなら出てって」
「僕だって好きでいるわけじゃ」
「あらまぁ、くすくす…」
真紅とジュンのやり取りが面白くてつい止めるのを忘れてしまうのり。
結局この日はチューニングするだけでまる一日潰れてしまったのだった。

チューニングにも少々なれてきたころ、真紅は順調にのりからギターを教わっていた。
「そ、この3つはスリーコードっていってね、例えばC調だったらC、D、GでCを1として1,2,5と覚えておくと
ほかの調でも使えるから便利なの。じゃあ弾いてみて真紅ちゃん」

ジャーン、ジャーン、ジャ……ザリーン

個々では押さえられるものの、まだまだコードチェンジのタイミングが間に合わず、きれいな音が出ない真紅だった。
「……うまくいかないのだわ、のり」
「大丈夫、私も最初はそうだったから。それにね、この3つだけでも曲がうたえるのよっ♪例えばボブディランの「風に吹かれて」とかビートルズの「ラブ・ミー・ドゥ」とか。フォークやブルースはこれだけでも十分弾けるのよ」
「ふ~ん……」
「それじゃもう一回メトロノームに合わせてゆっくりやってみましょう。なるべく少ない力で押さえるといいわよ」

ジャーン、ジャーン、ザーン、ザーン

カチッ、カチッっとゆっくり鳴るメトロノームにあわせて、真紅の弾くストロークが先ほどよりは良く、しかしまだたどたどしく響いた。


「ふう…」
その日、二時間ほどの練習を終えた真紅は自宅で勉強や課題などを適当に終わらせ、風呂へと入るところだった。
一糸纏わぬ姿で浴室へと入り、シャワーを浴びる真紅。すると、
「痛っ……」
シャワーのお湯のかかった左手の指先にヒリヒリとした痛みを感じた。見ると、左指の4本の先が、すりむいたように赤くなっていた。
「(な、なに、これ)」
原因は即座にわかった。しかしギターの練習でここまでなるとは、真紅は自分でも気づかなかった。
とりあえず左手をよけるようにお湯をかけ、指先ぎりぎりを残して洗う真紅。
「(明日には治っているのかしら)」
治ってなかったらまずい、練習が出来ない。風呂から上がったら絆創膏を張っておこうか、とそんなことを考えながら無意識に浴槽へと入ったのがいけなかった。
結果、刺激を避けてたことで痛みが薄くなっていた指先は、真紅の好きな熱めの湯船にしっかり浸かり、油断した分電撃のような痛みが走ったのだった。
「っっ~~~~~~~!!!!!!!」
噛み殺した真紅の叫び声が浴室に響いたのだった。


数週間後…ローコードをいくつか弾けるようになった真紅は、のりの持ってた教則本の曲もいくつか弾けて歌えるようになってきた。
また、同時期にのりが貸してくれたオアシスの「モーニング・グローリー」を皮切りに、ロックの世界へどっぷりとはまっていくのだった。
そして、この日も練習。
今日は気分転換にというのりの提案で近所の川辺で練習することになった。
4月の温かい春風が通り抜ける中、ギターの音を響かせる少女が二人。
「のり、この曲のタブ譜がよくわからないのだわ」
「あ~これはね、シンコベーションって言ってこのつながっている部分は表拍子は空振りして裏から弾くのよ」
のりが手本を見せる。同じコードを弾いているはずなのにのりのそれは真紅のよりもずっと綺麗な響きだった。
「うぅ…のりみたいに滑らかに右手がうごかないのだわぁ」
「あせらないあせらないっ♪もっと右手の力を抜くといいのよ」
ロボットのような自分の動きに苛立ちを覚えるも、のりの柔和な笑みをみると何故かイライラもどこかへ消えてしまう。
ちなみに次の日、酷使した右手が筋肉痛の叫びを起こすことは彼女ものりも知らない。

「ねぇ、のり…ここは…」
ふと、ギターに集中していた真紅がのりの方へ少し視線を向けると、彼女の姿がなかった。
「のり…?」
一瞬彼女が消えてしまったことに不安を覚える真紅。しかしそれは一瞬のことだった。

「く~」
春の温もりが睡魔を召還したのだろうか、のりは真紅の視界から少し離れたところでいつの間にか仰向けになって寝ていた。
「……」
半ばあきれてしまって言葉も出ない真紅。ただ、あまりに気持ちよさそうなのりの寝顔をみて、なんだか妙にうらやましくて自分もギターを置いて仰向けになってみることにした。
見上げると一面の青空。当たり前のことなのに、自分の上空にはこんな広い世界が広がっていることに驚いてしまう真紅だった。
「(そういえばいつからだろう…空を見上げなくなったのは)」
最近は下を向くことばかりの日々だったような気がする。そこまで嫌なことがあったわけではない。しかし、あまりに平和で退屈な日常と、そんな中でさえ自分のやりたいことを見つけられない自分に対する苛立ちがこんな些細なことを見つけられる余裕をなくしてしまったのかもしれない。

でも、いまはある

やりたいことも、好きなものも、そして、それをわかってくれるひとも…

心のどこかで確信のようなものを抱きながら、真紅は薄れる意識に身を任せていった


「ったく姉ちゃんも真紅もなにやってんだよこんなところで」
ジュンがすっかり熟睡してる二人を見て呟いた。先ほど偶然川辺を通りかかって二人を見つけたのだった。一応ストーカーではない。
「(【一応】ってなんだよ【一応】ってぇぇ!!!!!)」
何か心で叫んだジュンは二人を起こそうと二人へ近づいて…やめた。
「ちぇっ、気持ちよさそうに寝やがって。ギター盗まれたらどうするんだ?」
しかしよく考えればこんな真昼間に堂々と大きなギターを盗む馬鹿はそうそういないのでジュンは心の中で撤回した。
ふと真紅の寝顔が目に入って一瞬どきりとしてしまうジュン。
「(な…なんでもないぞ、今のは…)」
自分に言い聞かせ、なんとなくずっとここにいるのもアレなので二人に背を向け家路へと向かうジュンだった。
「今度…フーファイターズのCD貸してやろうかな」
なんとなく、そう思った。


To Be Continued→(手書き風で)

(以下執筆継続中)


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最終更新:2006年07月12日 13:10