私は……Rozen Maiden第七メンバー……薔薇水晶……
と、ここまでがみんなが知ってる根暗で無口で何を考えてるのか分からないわたし。
だけど、本当は胸に熱いときめきと何物にも揺るがない信念を抱いているんです。
わたし、人見知りがものすごく激しくて、みんなの前ではつい恥ずかしくて口数も少なくなってしまいます。
何を考えてるのか分からないとか無表情だとかダウナー系だとか不思議ちゃんだとか『……』が多くてア○ギとかカ○ジとか○沢とか人○学園みたいだなんて言われるのはわたしだっていやなんです。
それに年頃の乙女として恋愛に興味がないわけでもありません。ですが、やっぱり銀ちゃんが一番好きです。
心の奥底まで全て見透かされそうな、魂のど真ん中を射抜かれそうなほど澄みきった紫色の瞳。
いつも絶やすことのない、余裕と蔑みを含んだ極上の笑みを浮かべる端正な顔。
脚は長いわ背は高いわスタイルは良いわ出るトコ出てるわの欲張りナイスボディ。
清々しいまでに破綻し尽くし倒錯し尽くした狂気の沙汰、超弩級サディスティックな性格。
確かな演奏力とそれに見合った圧倒的パフォーマンス。ごくまれに見せる、他人を気遣うことのできる優しい内面。
実は裏で転売屋をシメたりしているお茶目さん。年上の頼れるお姉様。どれをとってもまさにわたしの理想。
そんな完璧超人な彼女に萌えずにいられようか、否、萌えずにはいられない! 激萌え!!
……ハァ……ハァ……この話は……危険ですね、このあたりで切っておくのが得策でしょう。
ここからはわたしの私生活をお教えしちゃいます。
2006年10月7日(土)
今日から三連休!
……とはいっても、いつも忙しくて疲れがたまるので11時くらいまで寝ています。銀ちゃんもだいたいこのくらいに起きます。
起きてすぐ銀ちゃんに電話をかけます。銀ちゃん朝弱いからモーニングコール代わりに……。
その電話で誘い合わせてお昼を食べに行きます。ご飯の時間は優雅に過ごしたいのでお店選びに余念はありません。
今日はパスタが美味しいと評判のイタリアンレストラン『Duram Semolina』で食事をとることにします。
待ち合わせ場所に着きました。枯れ葉の舞う秋空の下、銀ちゃんは物憂げな顔で噴水の外側に脚を組んで座っています。
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ばらしーの銀ちゃん街角ファッションチェック!
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今日はいつものような黒一色の鴉のような格好ではありませんでした。
トップスは胸元に黒のBlackletter書体で『Rozen Maiden Groovy Tour '05』という文字の刺繍が施され、手首の部分にも同じ文字がプリントされた白い長袖Tシャツ。……って銀ちゃん、それって去年のライブツアーのグッズじゃん。
その上に薄いカーキ色のノースリーブ4ポケットベストを羽織り、クリーム色のカーゴパンツをツインホールの茶色いベルトで絞ってきつめに穿いています。
足元にはちょっとゴツい黒のシューズ。
豊かな胸に内側から持ち上げられたTシャツのロゴは横に引き伸ばされています。
胸元には翼の生えた剣のデザインのネックレスがキラキラ輝いています。
いたってカジュアルな格好ですが、ベースが良いので見栄えがします。
総合得点:150/100点
席は空いていました。……まぁ、銀ちゃんと一緒なら待ち時間も苦じゃないんだけど。
銀ちゃんはペンネ・アラビアータとロゼ、わたしはきのことたらこの和風スパゲッティとジンジャーエールを注文しました。
オリジナルブランド『Mercury』のリングが輝く白く長い指が器用にパスタをフォークに巻きつけ、綺麗な唇へと運んでいきます。
「なかなかイイお店じゃなぁい。気に入ったわぁ」
そう言って銀ちゃんが微笑みながら頭をなでてくれる。
ああ……わたしは、この瞬間のために生きてる……。
これこそが生きることの恍惚……嗚呼是人生美味礼讃……。
「美味しかったわねぇ」
「うん……」
「これからどうするぅ?」
「銀ちゃんとなら……どこでもいい……」
ゆっくりと、ひとことひとことを確かめるように、精一杯の自分の気持ちを紡いでゆく。
「もう、この子ったらぁ。……じゃあ、ライブハウスでも行かなぁい?」
「ライブハウス……?……なんで……?」
「いつもは聴かせる側でしょう? たまには聴く側に立ってみるのも悪くないでしょう?」
「うん……638m先に……ライブハウス発見……」
「じゃあ、行きましょう?」
「うん」
*
「入場は1ドリンク制500円になります」
「はぁい。私はホワイトソーダでぇ」
「……(無言で炭酸飲料を指差す)」
「……ってあなたたち……ローゼンの水銀燈さんと薔薇水晶さんじゃないですか!?」
「えぇ、そうよぉ」
「……こんにちは」
「あっ、私、薔薇乙女のときからずっとファンなんです!
ローゼン以外のバンドが目に入らないくらい大好きです!
今のサークルに入ったのもローゼンへの憧れからで、私もああなりたいと思ったからなんです!」
「お熱い声援ありがとぉ。これからも 私 だ け を見てなさぁい」
そう言いながら細めた瞳でまっすぐ少女の瞳を見つめながら、憧憬と興奮で朱が差した頬を手の甲で撫でる銀ちゃん。
その情景は鉄の扉越しに漏れてくる音の波を背に、私の目には神々しくさえ映りました。
銀ちゃんの指が離れると、少女は恍惚の表情を浮かべてその場にへたり込んでしまいました。
やっぱり銀ちゃんはすごいです。どこにいても、何をしても完璧です。わたしの心もますますヒートアップです。
「ほら、入るわよぉ」
「……うん……」
その日は土曜日ということもあり、大学の軽音サークルの定期演奏会が催されていました。
ライブハウスに入ると、ちょうど曲間のチューニングブレイクに、ステージ上のボーカルが50人前後の聴衆に向けて恥ずかしがりながらMCを披露しているところでした。
「こんにちはー、サクラダファミリーでーす」
「のりちゃーん!」
「桜田さーん!」
MCに呼応するように聴衆から野次混じりの大きな声援が。
「今日はみんなにお知らせしたいことがありまーす。えーとですねー、なんと今日はジュン君の二十歳のお誕生日なのでーす」
「おめでとー!」
「おめでとー!」
聴衆がベースの男の子の誕生日を口々に祝福しています。どうやら今日の主役はあの眼鏡の少年のようです。
彼はスタンドマイクの前にうつむき加減に立ち、恥ずかしそうにひとこと言いました。
「あ……ありがと……」
「じゃあジュン君の二十歳のお誕生日ということで乾杯しましょー! ほーらジュンくーん、ビールよー」
「あ……う、うん……」
「ほらージュン君、音頭とってー!」
のりがジュンに乾杯の音頭を促しています。
「えっと……今日はありがとうございます……二十歳になったということで……
……今日から……その……大人としての自覚を持って……」
「かんぱーい!」
「「「アハハハハ!」」」
「……こんっ……のぉ……おかずのり!! まだ僕がしゃべってる最中だろ!? なんでいきなり……」
「うふふー、いいのいいのー。大人は細かいこと気にしないのよー?」
「……くっそー……こうなりゃヤケ酒だ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ……」
「おおー……ジュン君なかなかいい飲みっぷりじゃなーい……よーし、お姉ちゃんだって……んぐ……んぐ……ぷはぁ……」
ステージの手前側の姉弟のやりとりをツマミに、ギター二人とドラムスもちびちび飲み始めました。
「あなたも面白いと思う?」
「……うん……」
「あ、ちょっとお兄さぁん? この席空いてるぅ?」
「ああ、はい……」
「そぉ? ありがとねぇ」
「どうぞ…………って……!?」
「こんにちはぁ。アルコール、摂ってるぅ?」
と、その青年はステージに一番近い席の男子学生の下へそそくさと行ってしまいました。
しばらくすると青年が帰ってきて、銀ちゃんに話しかけました。
「あっ、あのっ……Rozen Maidenの水銀燈さんですよね!?」
「あなたも知ってるのぉ? はぁ……有名すぎるのも考えものねぇ……」
「それで……もしよろしければ……トリのあとにサプライズゲストとしてご登壇いただけないでしょうか?」
「えぇ、いいわよぉ」
あ~あ、快諾しちゃった。
「ほっ、ホントですかぁ!? ありがとうございます!!」
そう言ってまたさっきの部長らしき青年のもとへ駆けていきました。
二人の会話は聞こえませんでしたが、部長(断定)も大喜びしているように見えました。
「そうと決まれば……薔薇水晶」
「……はい……」
「ライヴジャックよぉ!」
「……はい……」
*
次の日
「まったく何を考えてるかしら、水銀燈!?」
「また貴女なの、水銀燈」
「毎回毎回、本当にしょーがねー野郎です!」
「キミが言えることじゃ……」
「あんなことしちゃめーなのー!」
「別にいいじゃなぁい、オフの日に私がどこで何をしたってぇ」
「いいわけがないかしら! それに薔薇水晶まで巻き込んで……」
「はいはい、私が悪かったわぁ」
Rozen Recordsの廊下にふたつの足音が響く。
「……まったく……何が悪いっていうの?
みんな寄ってたかって私を悪者にして!
こういうのって……虫唾が走るのよ!」
「……銀ちゃんは……悪くない……」
「そうよねぇ?」
「……うん……」
「よぉし、今夜は飲むわよぉ!」
「……私は……未成年……」
「…………」
終わり
最終更新:2006年07月28日 16:42