「んー、やっぱりシブい音出してるわぁ「Wither Garden」。
あれぇ?全員50歳越えたんだっけ。ほんと底なしの創作力ねぇ」
「ほんと、今回のシングルカットも安易にバラードを出さないあたり流石なのだわ」
「そうそう、今のロックシーンときたらすぐに売れセン狙うんだからぁ・・・」
水銀燈と真紅が、1枚のCDが置かれた机を挟んでそんなことを言い合っている。
いつもどおりの火曜日の昼下がりである。
と、たまたま通りがかった翠星石が机のCDをひょい、と取り上げた。
「あ、こいつらの新譜出たですか。最近ちゃらちゃらしてばっかりでしたからねー」
「何よぉ貴方、「Wither Garden」に向かってそんな口利いちゃってぇ」
「翠星石、私たちにだって尊敬するバンドはあるわ。友達じゃああるまいs
「あ、友達ですよ?」
「「 何 ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ !!!??? 」」
*
どーん。
そんな効果音とともに現れたのは、ばかでかいお屋敷だった。
意外といえばあんまりに意外なところにそれはあった。
翠星石と蒼星石の家から徒歩12分。
「Wither Garden」の事実上の本拠地、つまり専用スタジオである。
屋敷の周りには薔薇の庭園が広がっている。
が、その薔薇はどれも枯れ果てていた。
「これが・・・Wither Garden、枯渇庭園・・・ということ、なのね」
水銀燈と真紅は、重い鉄格子のような扉の前で立ち尽くしている。
のを置き去りに、翠星石はとっとと中へ入っていってしまう。
「ままっ、待ちなさいよぉ!・・・っていうか、入っていい?のよね?これ」
「い、いいのではない、の・・・・・?ええ」
ガタガタと人形のように震えながら、恐る恐る屋敷に足を踏み入れる二人。
その震えは当然、畏怖によるものだ。
彼女らも業界人とはいえ、駆け出しのぺーぺーバンドが老舗ロックバンドのスタジオに闖入するとは。
ここで雛苺か金糸雀がいてくれたら、どんなに場が和んだことだろうか。
良くも悪くも「分をわきまえてしまっている」水銀燈と真紅は、このまたとないチャンスを前にすっかりビビっていた。
「何やっとるですか、ちゃっちゃと歩くですよ。ビビっちまったですか?」
「「び、びびび、ビビってなんかない!!!」のだわ!!!」
と、目の前にあった、これまたばかでかい扉が音を立てて開いていく―――
「・・・また来たのか。」
扉の向こうには、憂鬱そうに紅茶を傾ける初老の男性がいた。
車椅子に乗った彼が視界に入るなり、水銀燈と真紅の足が止まる。
「まーまー固いことぬかすなですぅ、・・・・茶。ミルクと砂糖入れて」
「どこまで態度がデカいんだお前は・・・」
彼と翠星石の小芝居を見つめていた水銀燈が、恐る恐る口を開いた。
「あ、あのぉ・・・一葉さん、です・・・よねぇ?」
ガッ!!と物凄い勢いで、真紅が水銀燈へガンを飛ばす。
「そうだが。・・・間違ってもこのジャリ娘の保護者ではないぞ」
「誰がジャリ娘ですか、ジジイに言われる筋合いは・・・って、真紅?水銀燈?」
(きゃー!きゃーきゃーきゃー!!待って待って待ってホントにぃ!?マジで!?一葉さんん!?)
(だわよだわよだわよぅ、本物!いやぁんお目にかかれるなんてっ)
(あぁんもう落ち着きなさいよぉ!あぁでもカッコイイぃvやっばいv)
(貴方こそ落ち着きなさい、し、失礼のないように・・・でも・・・ああっv)
「・・・・ミーハー根性丸出しですぅ」
と、そこへやたら慣れた感じの蒼星石が現れた。
「どうも、先生。お邪魔します。またウチのがやらかしてるみたいで・・・」
「慣れんとやっていけんよ、まったく」
「ちょ・・・待ちなさい、先生って何。先生って」
「先生は先生だけど・・・ああ。えーっと、どう説明したものやら」
「まずはなんで貴方たちが一葉さんとお知り合いなのかを説明しなさいよぉ」
「そうだね・・・初めて会ったのは楽器屋だった」
「蒼星石がギターを冷やかして回ってたんですけどね」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、色んな種類に触ることで経験をね・・・」
「とか言いつつ買わねーのがタチ悪いですぅ」
「・・・いやとにかく、僕が楽器屋でギターの試し弾きしてたんだよ。
そのとき弾いてたのがWither Gardenの「Dyna」だったんだけど・・・」
「私がたまたま隣で聴いていたわけだ。
そうしたらコードが間違っていたのでね、教えてやったんだ」
「んで蒼星石が、いきなり「マスターと呼ばせてください!!」とか言い出しやがって」
「ちょ!!・・・・それは言わないでって・・・・もぉ」
照れる蒼星石。和む一葉と翠星石。
必死で内容を理解しようとする真紅と水銀燈。
「マスターはやめろ、と言ったら先生になっただけだった。
さらに私がWither Gardenのメンバーだと判るや否や、スタジオまでついて来られてしまった」
「それでも一葉さんは僕のマスターですよ。尊敬してます」
「蒼星石は騙されてるですぅ、おじじにばっかりカマかけてると本業のバンドがおろそかになるですよ」
「はは、翠星石に真面目なこと言われるとは思わなかった」
ああ、なんだかこの雰囲気はいいかもしれない。
今まで遠くのほうから聞こえてきた音楽が、ぐっと近くに感じられるようだ。
真紅がそんな感情に浸っていると、思い出したように一葉が言った。
「ああそうだ、君たち。そろそろ音合わせでメンバーが来るんだが」
「!?ということはっ」
「二葉さんと柴崎さんもいらっしゃる、ってことですかぁ!?」
「うむ」
Wither Gardenは柴崎というのがドラム、二葉がボーカル、
そしてその兄の一葉がギターというスリーピースバンドだ。
ベースレスでも1つ1つの音にこだわった音楽性を売りに、何十年もの活動を続けている。
そのWither Gardenのメンバーが全員目の前に・・・。
考えただけでも鼻血で空が飛べそうである。
「私はスタジオのセットをしてくる。適当にくつろいでいてくれ」
と、一葉は地下にある専用スタジオに行ってしまった。
後には4人の少女と、まだ暖かいセイロンティーだけが残された。
(以下執筆継続中)
最終更新:2006年06月09日 22:34