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Story  放り投げ 氏
Illust ID:l3Vk8gO20 氏(34th take)
スーパー「SAIYA」。この近隣では知らない者はいないだろう。
特に青果の新鮮さと安さは注目に値する。例えばその日の朝に収穫した大根が一本百円。路地裏栽培並の安さである。
「店長、今日も忙しいですね。まるで地獄ですよ。」
バイトの子が、しかし地獄という言葉に似つかわしくない笑顔でベジータに話しかけた。
「そうだな。今日もみんなに大入り袋をはずもう。」
「やった!」
ふとベジータは腕時計を見た。
「もうすぐ19時か。これからが本当の地獄だ。」
「え?どういう意味ですか?」
「ああそうか、君はこの時間は初めてだったな。まあ、今に分かるさ。」
それは突然やって来た。


「ヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナヒナ!」
「カナカナカナカナカナカナカナカナカナ!」
「ですぅですぅですぅですぅですぅ!」
「くんくんくんくんくんくんくんくん!」
「き、来やがった。悪魔が。」
恐怖するベジータを不思議そうに見つめるバイト。
「悪魔?ただの可愛い女の子達にしかみえませんけど?」
しかし、そんな声はベジータには聞こえていない。
「今日は銀髪と眼帯とボーイッシュはいないのか。」
そう呟いたとき、彼は自分の口を呪った。口は災いの元。
「ちょっとぉ、みんな速すぎよぉ。」
「翠星石、スティック忘れてたよ。」
「…わたし…今日は帰りたくない…」
硬直。
「よりによって全員集合かよ!ああいいさ、そっちがそう来るなら…。」
「店長、あの人達、俺知ってますよ。薔薇女で、ロックやってる子達で…」
もう一人のバイトの声も全く聞いていない。そのかわり
「シャア副店長を呼んでくれないか。」

「呼んだかね店長」
「あ、あ、あれをどうにかしてくれ!」
あれ、と指さした方には相変わらず賑やかに伸びやかに雑談しつつ練り歩く薔薇乙女の面々。
キンキンキャピキャピがこちらまで届き、頭痛を催してきた。
「…これが若さか」
シャア副店長33歳。喪男歴33年。ちょっと若さが羨ましいお年頃。
「分かった、引き受けよう」

いつの間にか彼女らは3つのグループに分かれていた。
まとまっているよりは各個撃破がやりやすい。
「チャンスは最大限に生かす。それが私の主義だ」
だが、問題はどの組を速やかに退店させるか、だ。
冷食コーナーへ向かった雛苺・金糸雀ペア。
青果コーナーで物色中の翠星石・蒼星石ペア。
入り口付近でたむろしている水銀燈・真紅・薔薇水晶トリオ。
「まずは偵察からだ。」
初めに向かったのは冷食コーナー。
そこでは既に、試食のマネキンと金糸雀が、餃子を焼いている鉄板を挟んで対峙していた。
両者とも微動だにせず、只、汗と時間だけが過ぎていく。
均衡を破ったのは雛苺のこの一言だった。
「ねー、おねーさん。そろそろ取らないと焦げちゃうなのー。」
先に動いたのはマネキン。素早く紙の皿を取り出し、餃子を並べた…はずだった。
「いただきかしらー!」
金糸雀の持った割り箸が餃子に殺到!
シャアは目を瞠った。その動きは、彼には常人の三倍の速さに見えた。まさに神速。
何をどうやったのか、一瞬にして餃子は皿から消滅。金糸雀の圧勝であった。
「次はヒナの番なのー♪」
がくりと崩れるマネキンに無邪気に追い打ちを掛ける。
「ここは、色々な意味で胃に悪い」

青果へ向かうことにした。

「ねえ翠星石、このゴボウどうかな?」
「さすが蒼星石ですぅ。なかなかの掘り出し物ですよ。一応チェックするですぅ。」
『チェック、だと?まさかかじるのか?』
だが、シャアの心配は杞憂に終わった。
彼女はゴボウに付いている土を手にとって、指で潰し始めた。
「この感触…。このゴボウ、なかなか良い土で作られたですね。」
続いて解説を始める。
「この札にもかいてあるですけど、この土は山口県のものですぅ。
山口のどこかっていうとですけど、ここには書いてねーですけど、秋吉台のドリーネに間違いねーですぅ。」
シャアは舌を巻いた。産地は全くその通りだったからだ。
蛇足だが、後年彼女が、叩く農学博士と呼ばれるようになるのはまだ誰も知らない。
「なんだ、問題ないではないか。彼女らは退店させなくても良いではないか。」
そう呟いてその場を去ろうとした時だった。
「それにしてもこのBGM、チープだよね。アーティストに対する冒涜だよ」
その一言を皮切りに、自分が如何にジャンルを問わず音楽を愛し、先達を敬愛しているか延々と演説し始めた。
演説している内に熱が入ってきたのか徐々にボリュームが大きくなり、しまいには、カートに乗せられて眠っている子供が、はっと起きて泣き出すほどになった。
「ある意味、街宣車だな。次行くか」

「みんなが戻ってくるまで暇なのだわ」
あくびを抑えつつ周りを見渡してみる。
買い物カートにガチャガチャ。買い物カゴにベンチ。
特に変わった物はなさそうだと思った時、視界の端にUFOキャッチャーが。
「ねえ水銀燈。あれはもしかしたら」
「ん?あれはぁ…!!」
それはちょっと変わっていた。UFOキャッチャーなのに景品は全て箱に入っていて、中身は見えないようになっている。
ただこれだけなら真紅も水銀燈も反応しなかったに違いない。だが説明書きによれば
「運が良ければくんくん人形が貰えるのだわ!!これは是非やるべきよ!」
「真紅ぅ、私もやるわぁ!!!!」
目の色を変えて走り出す二人。
「…銀ちゃんがやるなら…わたしも…」
とてとてと追いかけた薔薇水晶が着いた時には、既に二人は百円硬貨を数枚ずつ握りしめ、向き合っていた。
「どきなさい、水銀燈。私が先に見つけたのだから、私が先にやる権利があるのだわ」
「何を言ってるのぉ?私の方が半歩先に着いたから私が先よぉ」
両者一歩も譲らない。
「あの…銀ちゃん、真紅…」
『何?』
二人からの、普段以上の殺気が込められた声に心が折れそうになりながらも、何とか次を続けた。
「わたしがコインを投げるから…表だったら銀ちゃんが先…いい?」
「それでいいわよぉ。」
「私も構わないのだわ。」
「じゃあ…投げるよ…えいっ………裏が出たね」
「では、お先に失礼するわね。」
がくりと膝を落とす水銀燈を横目に鼻歌交じりでコインを投入。
「ああ、くんくん。待っているのだわ。」
瞳をキラキラさせながら操るアームは、一発でしっかりと箱を捉えた。
そして景品取り出し口へ。
箱を取り出す手ももどかしく。開けた中身は
「梅岡ポ-ジングタオル…orz」
マッチョな梅岡がビキニパンツいっちょうでムキムキしている絵柄のタオル。
「はははは、何なのよぉこれぇ。こんなのをとるなんて、真紅は本当におばかさぁん」
「なら、あなたもしてみればいいじゃない」
「言われなくてもそうするわぁ」
獲物を捕らえようとするチーターのような顔つきで、スピーディーで正確なレバーさばきを披露する。
そして、いとも簡単に箱をキャッチ。そして気になる中身は
「梅岡フィギアって…( ゚д゚)ポカーン」
「水銀燈、無様ね。次は私がチャレンジしてみるのだわ」
「その次は私よぉ」
そんな調子で5回ほどやってみたのだが
「梅岡Tシャツ、梅岡はちまき、梅岡ティッシュ、梅岡目覚まし…。何なのよぉ、この梅岡祭りぃ_| ̄|○」
「私も似たような物だわ。ふざけてるわね。どこのゲーム会社なのだわ」
「…ラプラスだって…」
そんな様子を少し離れたところから見ていた男がいた。シャアである。
より正確に言うなら、近づくことが出来なかった。なぜなら、彼は…。
少し時間を戻す。真紅がUFOキャッチャーの存在に気づいた頃である。
シャアは初めて真紅の姿をまともに捉えた。
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薔薇女のギターの真紅見ている。さっき店長に頼まれて追い出しに行ったら見た瞬間に即決した。
可愛い、マジで。そして上手い。くんくんと書いてあるのを見ると走り出す、マジで。ちょっと 感動。
真紅は人気が無いと言われてるけど個人的には大人気と思う。
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そんなわけで、シャアは真紅に年齢差を無視して一目惚れしてしまったのである。
だが、それ以上行動するかどうか悩んでしまうところが三十三年も喪男をしている彼たる所以である。
「どうするべきか…。ララァ私を導いておくれ」
そう呟いて携帯を取り出し、人気占い師ララァの携帯サイトを開き、今日の自分の運勢をチェックする。
「新しいことを始めるには絶好の日です。自分を信じてみると良いでしょう、か」
腹は決まった。まだ景品のことでぶつぶつ言っている真紅に近づいていこうとしたが
「…くんくん人形ゲット…」
『!!!!!!』
薔薇水晶が手に入れたことで一気に緊迫ムードに。
惚れた女が空気さえ固まるような状況にいるゆえ、喪男は踏み込むことが出来ずに退散するしかなかった。

「ふぅ、やれやれだ。あの双子に目標を絞ってみるか」
いつしか時計は閉店30分前を知らせ、店内スピーカーからは、蛍の光が流れていた。
あの二人の行動パターンは聞いていた。そろそろ鮮魚コーナーにいるころだ。
そしてその読みは当たっていたが、予想外なのは店長ベジータが応対しているところだった。
「だから、この辛気くさい閉店音楽をなんとかするですよ、ヘボ兄貴」
ん?今、翠星石と言ったか、髪の長いのはなんて言った?
「僕もある意味同じ意見だよ、兄さん。もう少し個性があっても良いと思うんだ」
「どうしても蛍の光が良いなら、私にも考えがあるですぅ。思いっきりロック調に編曲してやるですから、今度からそれを流すですよ♪」
「それだけは、やめてくれぇぇぇぇ!!!」
様子からして、翠星石はベジータをからかっているとしか思えない。蒼星石はそれを真に受けているようだが。
「ふっ、仲が良い兄妹だ」
店内を一周してみたが、ヒナカナコンビは真紅たちと合流して入り口近くで双子を待っている。
そして双子はもうレジまで来ている。
「私が出る幕ではないな」
鮮魚コーナーで茫然自失となっているベジータの代わりに本来の業務の一つ、閉店作業の指示を始めた。
そして彼女らは退店し、無事閉店。ただ一点を除いては。
「翠星石が妹とは…。…毎日が本当に地獄だ」

fin


最終更新:2006年06月25日 23:16
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