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Story  ID:3oWh5hvJ0 氏(39th take)
ザー……

「……ふあ……あふ…」
雨音があたりを支配する中で、翠星石は目を覚ました。
場所は、自宅のベッド。
地方のツアーが先日やっと一区切りついて、久しぶりに自宅での休養が許されたのだ。
…にしても。
「また今日も雨ですか…」
今は六月、梅雨の真っ最中であった。
(雨は嫌いじゃないですけどぉ…こう毎日毎日続くと、さすがに嫌になってくるです…)
せっかく久々の我が家だというのに、これでは気が滅入るばかりだ。

「…ま、うだうだしてる暇があるなら、さっさと気持ちを入れ替えたほうがいいですね」
んーっ、と伸びを一回して、翠星石はベッドから勢いよく降りた。
そして部屋を出る。
隣の部屋のドアはまだ閉まったまま……蒼星石はまだ夢の中だろう。
無理に起こすのも悪いので、そのまま階段を下りて一階へ。
(今日の朝食は何にするですかねぇ……最近はご飯が続いてたから、今日はパンですね。
パンといえばサンドイッチ、それも、豪華絢爛な具をたくさん挟み込んだ翠星石スペシャル。
これしかないです!)
そうと決まればまずは食パンだ。確か冷蔵庫の隣の棚に置いてあったはずである。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌交じりでダイニングルームへと入る翠星石。
既に頭の中は美味しそうなサンドイッチのイメージで埋め尽くされている。
そして、冷蔵庫の隣、そこに置いてある食パンに手を伸ばして―――



「ふんふんふ――――――ぎゃああああああああああ!?」




―――家中に、翠星石の悲鳴が響き渡った。


「―――何っ!?どうしたの翠星石!?」
悲鳴で目を覚ましたのか、二階から蒼星石の慌てた声と、どたどたと廊下を走る音が聞こえてくる。
「待ってて、今行くから……うわあああああああ!?」
寝起きで急に走ったりしたからだろうか、蒼星石は階段を下りようとして足を踏み外したようだった。
叫び声と共に、ごろごろどかどかと階段を転げ落ちているのであろう音が、冷蔵庫の前にいる翠星石の耳にも入ってきた。

…数分後。

「――痛てて、ひどい目にあったよ…」
身体のあちこちをさすりながら、蒼星石がダイニングルームに入ってきた。
冷蔵庫の前、『何か』を抱えた状態でうずくまっている翠星石へと歩み寄る。
「ねぇ、さっきすごい叫び声がしたけど…何かあったの?」
俯く姉に声をかける蒼星石。
「……蒼星石ぃ、食パンが……サンドイッチが………」
「サンドイッチ?」
「これ、見てくださいですぅ……」
そう言って、翠星石は抱えていた『もの』を蒼星石へと差し出した。

「………うわ、これはまたひどいカビだね…」
差し出された『もの』の惨状を目の当たりにして、蒼星石も思わず顔をしかめた。
ここ数日降り続いている雨による湿気のせいだろう。
サンドイッチとなって翠星石の胃に美味しく収まるはずだった食パンは、色とりどりのカビによって完全に別の物体へと変えられていた。
「朝食をサンドイッチにしようと思って来てみたら、こんな風になってたですぅ…」
「うーん、買ってからまだ数日しか経ってないんだけどなぁ…まあ、今は梅雨だからね」
「もう、今日はサンドイッチの気分だったのに、いきなり出鼻をくじかれたです……」
納得がいかないという顔で、翠星石が言う。
「仕方ないよ、今日のところは和食に――」
「嫌です!絶対にサンドイッチです!翠星石はサンドイッチが食べたいのですぅ!」
「そんなこと言ったって……」
食パンのストックは、残念ながら翠星石が今手に持っている分で全てだ。
なので、サンドイッチを作ろうというのなら、新しい食パンをパン屋なりコンビニなりで買ってこなければならないわけだが、この雨の中、わざわざ傘を差してまで食パンを買いに行く気にはならない。
それに、自分達はこれでもそれなりに人気のあるロックバンドのメンバーである。
人目につくような行動はできるだけとらないように…と、マネージャーの金糸雀からも釘を刺されているのだ。
「………」
無言でカビだらけの食パンを見つめる翠星石。
「…やっぱり無理だよ。だから今日はご飯と味噌汁の――」




「………この食パン、焼けば何とかなるかもしれねぇです…」

食パンを睨むように見つめていた翠星石が、とんでもないことを言い出した。
「――ええっ!?それ本気で言ってるの!?」
カビの汚染が食パンの奥にまで広がっているのは、食パンの表面の様子を見ただけでも明らかだった。
それを焼いて食べるだって?何を言ってるのさ翠星石。
お腹が空きすぎて頭がおかしくなったんじゃないの?ねぇ?
……という言葉を喉の辺りまで出しかけた蒼星石だったが、何とか口にするのは我慢して、慎重に言葉を選びながら姉への説得を試みる。


「よく考えてみなよ…確かに傷みかけた食べ物は火を通して食べるのが定石だけど、その食パンはどう見てもアウトでしょ?
それに、万が一カビが見た目ほどひどくなかったとしても、ちょっと焼いたくらいでそれが大丈夫になるわけ無いよ。身体に毒だってば」

「じゃあ、証拠を見せろです」
「証拠?」
「身体に毒だっていうことを、蒼星石が実際に焼いて食べて証明したら、翠星石は諦めるです」
「ちょwwwww無茶言うなwwwwwwww」
「証明出来ないなら、翠星石が試してやるです!カリカリに焼いてトーストにすればきっと大丈夫です!!
そのトーストを使ってホットサンドイッチを作るのですぅ!!!!!!!!!11」
「うわ、ちょっと駄目だって翠星石!やめなよ!!」



ぎゃあぎゃあというわめき声が、朝の気だるさを吹き飛ばすかのように家の中で響く。
外では今もなお降り続ける雨。天気予報によれば、今週いっぱいもやっぱり雨。

……双子の薔薇乙女達に本当の休息が与えられるのは、どうやらもう少しばかり先の話になりそうだった。


最終更新:2006年08月07日 16:49