旧ユーゴスラビア マケドニア共和国スコピエ。
2010年 民族対立と度重なるテロにより内戦が勃発。
2011年 その内戦は近隣諸国を巻き込み戦火は拡大し、国連軍介入。
2014年 マケドニア紛争終結。
長らく続いた戦争のため街は瓦礫と化し、多くの戦争孤児が生まれた。
険しい山を縫うように街まで伸びる山道にも戦闘の激しさを物語る
小銃や榴弾砲のカートリッジが散乱している。
砲撃のためか道には大小さまざまな穴があき、それにタイヤを取られる度に、
古ぼけたピックアップトラックはハンドルを左右に切らなければ
ならなかった。
ガタンッと大きな振動に、まだ幼い少女は体が浮き、両手をダッシュボード
につく。
「きゃっ」
「おぉ、すまん、すまん、大丈夫かい?」
「おじいさん、この道デコボコだね」
「そうだな、ここは防衛線になっていたからね」
「パパやママもここで戦って死んだの?」
「あぁ、ワシ等を守るために勇敢に戦ったんだよ」
朽ちた軍用車両に大破した装甲車、その脇にはカラシニコフや
RPGがまだ放置されている。
それら死の残骸を幼い瞳で見つめる。
「そうじゃ、ラジオでも聴こうか?」
「ラジオ? わたし歌がいい」
カーラジオのスイッチを入れると、雑音交じりの曲が途切れがちに
流れ出す。
そのメロディーは少女の胸の奥に染み込み、広く、深く入っていくと、
心の中に懐かしい思いが描き出される。
暖かく広い父の背中。
優しい母の子守唄。
綺麗な街並みと、笑顔を見せる人々。
その美しいメロディーと力強い歌声に魅了された幼い瞳には、
もはや壊れた鉄の破片など見えていなかった。
「ねぇ、おじいさん、コレって誰の歌?」
「薔薇乙女だよ」
「薔薇乙女? どこの人? 言葉が解らないよ」
「ハハハ、薔薇乙女は日本のバンドだからね、言葉が違うんだよ」
「日本ならわたし知ってる人いるよ、水道を直してくれる人」
「あぁ、彼は日本人だったね、街に着いたら聞いてごらん、彼なら
薔薇乙女をよく知ってるよ、ギターも持っていたしね」
「ギター? うん、聞いてみる」
街を取り合い激しい戦闘が行われたため、対規模に破壊されたインフラ
の復興のため、国連は多くの専門家を首都、スコピエに派遣していた。
その中に一人の日本人青年の姿があった。
「ジュン~、ねぇジュンって日本人だよね?」
「えっ、うん、そうだよ」
ジュンは国連からインフラ工事の専門家として派遣され、毎日の
ように現場で図面と作業の進み具合を確認していた。
そこに毎朝、決まった時刻にこの少女はジュンがいる給水車から
水を分けてもらっていた為、2人はいつしか顔見知りになっていた。
「ジュンは薔薇乙女って知ってる?」
「うん、知ってるよ。 僕の国からでたバンドだからね」
「ジュンはギターで薔薇乙女できるの?」
「ま、まぁ、ヘタクソだけどね」
「わぁ~、聴かせて、聴かせて、お願いィィィ」
せがまれるジュンは頭を掻きながら近くにある作業事務所にギターを
取りに行く。
数分後、ギターとキャンディーを持って現場に戻ると、先ほどの
少女の友達と思しき少女が1人増えていた。
「薔薇乙女を聴かせてくれるの? わたしも聴きたい」
2人にキャンディーをわたしながら座り、ギターを構えるジュン。
その仕草を見つめる2人。
ジュンが弾きだすと少女達は笑顔で頬を染める。
「あっ、これはさっきおじいさんと聴いた曲だぁ」
そう言い、聴いたばかりの曲を鼻歌で歌い出す。
となりにいる少女はジュンのギターはかり見ている。
「わたし、ギターひいてみたいよ~」
「いいよ、じゃ、弾いてみる?」
しばらく教えると、その少女は簡単なコードを押さえること
が出来るようになる。
「凄いね、君は才能あるかもよ?」
ジュンの言葉に喜ぶ少女は音を出すと、もう1人が鼻歌で答える。
「凄いね、2人とも薔薇乙女みたいだよ」
「わたしとルービンは薔薇乙女みたいになれるかなぁ?」
「なろうよ、マーキュリーがギターでわたしが歌うわ」
「ん? 君達ってルービンとマーキュリーっていうの?」
「そうよ、どうしたの?」
それを聞いてジュンは手を叩き笑う、そのジュンを不思議そうな
顔で見るルービンとマーキュリー。
「笑ってゴメン、ゴメン。 君達ならきっと薔薇乙女になれるよ」
「ほんとう~?」
「あぁ、僕が保障してあげるよ」
はしゃぐ2人の笑い声は瓦礫の街を被う透き通った空を渡る
風にのって、どこまでも遠くへ飛んでいった。
そして少女は自信たっぷりの表情で言う。
「わたし、大きくなったら、マーキュリーと一緒に薔薇乙女になるわ!」
薔薇乙女、彼女達の音は国境を飛び越え、宗教、人種の壁を取り壊し、
出逢いと別れ、笑いと涙、悲しみと喜びをメロディーと唄に変えて、
幾千、幾万の人々の心と魂へと届いていく。
そう、この星を駆け巡る風に乗って。
そして、薔薇乙女の音と唄を愛する者がいる限り彼女達7人の
伝説は終わらない。
~Legend of Rozen Maiden エピローグ・継がれゆく夢 完~
Illust ID:lJhkDXyD0 氏(40th take)
最終更新:2006年06月28日 03:01