翠星石は悩んでいた。
それは二つのバンドをかけもちしていることからの悩みだった。
バンドの一つは、人気赤丸急上昇中のガールズバンド「Rozen Maiden(以下ローゼンメイデン)」
そこではドラマーとしてバンドの大黒柱として邁進している。
もう一つはそのバンド内で遊びのつもりで組んだデスメタルバンド「Death Meets Catastrophe(以下DMC)」
こちらではフロントに立ってボーカルとギターを兼任している。
こっちはこっちでひどく似合っている。
本人曰く「心外ですぅ!」
ローゼンメイデンの方に問題はない。むしろ順風満帆だ。来月には全国ツアーだって待っている。
だがしかしDMCの方が……。
気まぐれでデスメタル~な曲を作って事務所に聞かせたら、レコーディングしてみようかと言われるままにレコーディングする羽目に。
そしてそれをデビューシングルとして勝手にリリース。
それが意外と売れたから簡単に逃げられない状況にまで追い込まれたのが現状。
幸いなことと言えば、DMCでは完全なフルメイクで絶対に正体がバレないようにしている。
カツラまで用意して髪型も変えている。ちなみに翠星石はV系全盛期のようなカツラを使用している。
バレたらそこで終わり。だからこそローゼンメイデンとしての自分を完全に消し去るのだ。
“絶対バレちゃいけない”
この言葉が激しく翠星石を悩ませていたのだ。
本当はローゼン一本で行きたいのだが、事務所の社長である槐がそうは問屋が卸さないと言わんばかりに反対してくる。
「ヘイ!翠星石!なにファッキンなこと言ってんだい。今うちの事務所じゃDMCは看板バンドなんだぜ!
そう簡単に下ろせると思ってるの?甘いこと言っちゃいけないよ。ほら、今日はもう家に帰って曲書いてきなよ。
この前出したシングルみたいなギンギンにおっ勃つヤツを頼むぜ」
確実にセクハラ紛いの発言を織り交ぜながら、全く聞く耳を持たない。
ますます拗れていく問題だった。
しかもDMCはローゼンメイデンを嫌悪しているというキャラ付けまでされているのだ。
メンバー全員がローゼンのメンバーだというのに。
社長曰く「だってそっちの方がおもしろいじゃん」
面白いというだけでそんなキャラを付けられる身にもなってほしい。
ちなみに翠星石以外の二人は別に何とも思っていない。
「別に大したことじゃないじゃなぁい」
「そうね。光があれば闇があるように、バンドだって正もあれば邪もあるのだわ」
「気にしちゃ終わりだって」
「落ち着いて紅茶でも飲みなさい」
問題視すらしていないこの発言に翠星石は愕然となった。
同じバンドの仲間の悩みにもこの態度。
ある意味尊敬できる姿勢ではあるが、今はそれに同意できない。
それからも色々と悩まざるをえないことがあったが、ここでは省略する。
そして事件は起こった。
それはとある雑誌のインタヴューが発端だった。
DMCにスポットを当てたいという奇特な雑誌が事務所に取材をしに来た時にインタヴューを行った。
応じるのはボーカル・ギターである翠星石である。
「それではジェイド(翠星石のDMC内でのステージネーム)さん、今日はよろしくおねがいします」
「……よろしく」
完璧なメイクを施し、濃いサングラスで眼を見られない様にする。
バレたらいけないのだ、バレたら。
「では最初の質問なんですけど、答えやすいものからいきますね。最近はどんな音楽を聞いていますか?」
「カヒ――ーいや地獄系かな……」
「はぁ。それじゃあの、好きな食べ物は?」
「(小声で)花丸ハンバーグ」
「はぃ?ハンバーグ?」
「いや……デミグラスソースの代わりに人畜の血液です……何か問題でも」
「い、いえ!すいません……では次の質問を―――」
このように全くデスメタルらしからぬ返答をしてしまいそうになったのだ。
一時間の取材が終わり、翠星石はなんとか切り抜けたように思えた。
だが、槐はこの取材を聞き逃してはいなかった。
隣の社長室で盗聴していたのである。
「オォォォ……鋼鉄神よ……これはいかん――おい!」
槐が一声あげると後ろに控えていた壁のような男二人が近づいてきた。
「今夜、行くぞ」
二人は黙ってそれに肯いた。
その夜、翠星石は自宅で落ち込んでいた。
「もぅ本当にやめてぇですぅ……聴くのと演るのは好きでもデスメタル的な発言が出来るとは限らねぇですよぉ……社長のバカァ!ああもう……気分直しに"スクール・オブ・ロック"でも見るですぅ」
イライラし出した気持ちを落ち着けるためにテレビを点けようとした時―――ピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。
「チィッッ!誰ですか、全く……はいはーい、ちょっと待つですよー。
こんな時間にどちらさまで―――しゃ、社長?!」
「ハ~イ、翠星石♪ご機嫌いかが?」
突然のありえない来客に翠星石は混乱した。
「どどどど、どうしてぇ!?」
「とりあえずここで立ち話もなんだからさぁ、中でお話しをしようじゃないか。ね?」
「は、はい……どうぞ」
ドアを開けて社長を迎える。
その後ろにピッタリとついてくるレザールックに身にまとった巨体の二人。
「ちょ、社長!この二人はなんですか!」
「うん――ああ、彼らは僕のメタル仲間の白崎とラプラスだ。見た目は怖いかもしれないけど、案外いいヤツだよ?彼ら」
「そうなんですかぁ―――って、ちょっと待ってください!何で土足で堂々と上がりこんでるですか!?」
「知らないの。メタルにはね、他人の家には土足で踏みにじれってマノウォーばりに熱い鉄の掟があるんだよ。
僕らはそれに準拠してるだけだもんねぇ~?」
三人が小首を傾げてお互いを見合わせている姿を見て、翠星石はこう思った。
“ムゥ……殺したい”
「……あとで別途で清掃代要求するですからね」
「しかしなんだね、なんでこんなウサギ小屋に住んでるの?マニーはたくさん上げてるでしょ」
「そ、それは―――」
ピンポーン♪
再びチャイムが響く。
「は、はーい。とりあえず奥に行ってて……あまり物とか触らないで下さいです」
「ハイハイ」
奥に三人が行ったのを確認して玄関に向かった。
そしてドアを開けると―――
「こんばんは翠星石さん」
「さ、桜田さん……!」
そこにはお隣に住んでいる管理人の桜田ジュンが立っていた。
「何か騒がしいなぁって思ったら、友達が来ていたんですね」
「えぇ……まぁ」
「僕のことは気にしないでゆっくりしてもらってください」
「あ、ありがとうですぅ……」
「それじゃこれで。お休みなさい」
「は、はい!お、お休みなさい……ですぅ」
―――バタン
ドアが閉まると急に疲れがドッと出た。
「まさか……ジュン君が来るとは……計算外もいいとこですぅ」
そう、彼女がお金があるのに(社長曰く)「ウサギ小屋」に留まっているのは、彼が隣に住んでいるからなのである。
(以下執筆継続中)
最終更新:2006年07月08日 02:48