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2006年・夏
武道館の中は、まだ開演前なのに外の7月の暑さにも勝る
熱気に包まれていた。
「今日も…いっぱい…。」
「ファンがいっぱいなのは良いことですぅ、でもでも…..。」
「大丈夫だよ、姉さんきっとうまくいく、心配しないで
ほら、そんな顔してちゃ皆にまで心配させちゃうよ。」
「でもでも….さびしいですぅ。」
「ヒナもさびしいの~蒼星石はさびしくないの~?」
「そ、そりゃ…僕だって…!」
胸の中に寂しさが広がっていくのを振り払うように
小さく息を吸い込み、静かにだが力強く語り始めた。

「いいかい皆、全員が集まって薔薇乙女だって以前言ってたのを
覚えてるよね?
それは間違っていないと思う。
だけど僕はこうも思うんだ、一人一人が薔薇乙女なんだって、
そして薔薇乙女というバンドは音という引力で惹かれあっていると、
だから、今ここに居ないメンバーも皆が音を奏でるのを
忘れなければ、必ず戻ってくると思う。」
「あの子も戻ってくるですか?」
蒼星石は深く首を縦に振り、
「僕はそう信じている。」
メンバー達の顔から少しずつ、だが確実に不安や
寂しさの色が消えていった、ただ一人を除いて。
「えーい、やってやるです。」
「…私も…出来るだけの事は…やります…。」
「うい~ヒナもがんばるの~。」
三人はステージの方へと消えていく、
不安に押し潰されそうな金糸雀と蒼星石を残して。
「どうしたの?カナリア?」
心配そうに見つめる蒼星石
「カナに…カナに出来るかしら。」
「出来るよ、カナはそのために人より多く練習
してきたじゃない。」
「…でも…」

不安で小さくなっている金糸雀を優しく抱きしめる蒼星石。
「カナ不安なんだね、僕の心臓の音を聞いてごらん
僕も不安で、寂しくてどうしようもないんだ、でも
僕は戦う、それが生きるって事だから。」
金糸雀の瞳から大粒の涙が零れ落ちる
それはまるで心の中の不安を洗い流すように。
遠くで翠星石の呼ぶ声がする。
「早くしやがれです、客が待ってるですよ。」
「はは、姉さんを怒らせると後が大変だ
いこうか、カナ。」
「うん、カナも頑張るかしら。」
そこにはさっきまでとは違う金糸雀の笑顔があった。
『これでいいんだよね、真紅、水銀燈…』
蒼星石は心の中でつぶやいた。


最終更新:2006年07月11日 19:16