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アーケードを抜ける頃には二つ目の苺大福も雛苺のお腹に仕舞い込まれていた。
「真紅あそこまで競争するの~。」
雛苺は元気に走り出した。
「待ちなさい雛苺、危ないから。」 
真紅の声を聞かずに楽器屋の自動扉の方に走っていく雛苺、
楽器屋の自動扉が開き中からギターケースを持った少女が出てきた、
『『『『 ドーン 』』』
雛苺とギターケースを持った少女はぶつかり、その衝撃で苺大福は楽器屋の横の溝の中へと消えていき、少女の方もギターケースに付いていたキーホルダーが外れ真紅の足元へと転がっていった。
足元に有るキーホルダーを拾い上げる真紅、
金属製のキーホルダーには、シルクハットを被ったウサギの絵とラプラスという文字が掘り込まれている。
真紅はそのキーホルダーを少女の方に差し出す、
「大丈夫?」
少女は尻餅をついたらしく、しきりに自分のお尻を摩っている。
「・・・イタタ・・・。」
少女は真紅が差し出した手に気付くと、驚いたように顔を上げた。
少女の左目の下には小さなホクロがあった、
少女はキーホルダーを受け取ると照れくさそうに微笑み真紅に礼を言った。
「あ、ありがとう。」
「礼などいいのだわ、元々あの子が走らなければ、
こんな事には、ならなかったのだわ。」
真紅は雛苺の方を指差す、雛苺はキョロキョロと消えた苺大福を探し回っている。
「あれ~うにゅ~どこ~どこいったの~。」
「うにゅ~はどうでも良いから、早くこっちへ来て
あやまりなさい。」
「でも、うにゅ~が・・・。」
今にも泣き出しそうな雛苺。
申し訳なさそうに話しかけてくる少女、
「あの~、ごめんなさい、私が前をよく見てなかったから、
何か大切な物を無くしたんですか?」
「うにゅ~なの~」
「うにゅ~?」
少女は眉を寄せて考え込んでいる。
「なんでもないわ、ただの苺大福よ。
雛苺貴女の大切な苺大福はその溝の中にあるのだわ。」
「ただのじゃないもん、真紅のだもん。」
溝の中を覗き込む雛苺。
「あ~うにゅ~が、ぶにゅ~になってる~!!」
落下の衝撃で苺大福はこの世の物とは、思えない程の変化を遂げていた。
「え~と、ヒナイチゴちゃんにシンクちゃんでいいのかな?」
「ええそうよ、私が真紅であっちが雛苺よ、で貴女は?」
「あ、うん私は柏葉巴、自己紹介みたいでなんか変だけど。」
巴は雛苺の方へ歩み寄る。
「ごめんなさい雛苺ちゃん、貴女にとってあの苺大福は
大切なお友達にあげる物だったのね。」
巴は優しく雛苺の髪を撫でた。
「…ううん、いいの私のほうこそごめんなさい、
トモエは大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫だよ。」
クスッっと笑ってみせる巴。
「よかったの~。」
先ほどまで空の天気の様に泣き出しそうだった雛苺の顔に笑顔が戻る。
「ところで、二人は何しに来たの?」
「そうだわ、あれよ、あの募集の紙を取りに来たのだわ、
雛苺行くわよ。」
「う~ヒナもう少し巴とお話してるの。」
「そう勝手になさい、私は中で店員と話をつけてくるわ。」
店内に入っていく真紅。
「ねぇねぇ、巴は何しに来たの?」
「これかなぁ。」
そう言ってギターケースを見せる巴。
「巴ギター買ったの~。」
「ううん、ケースは綺麗だけど中身は年代ものよ。
最近この子も調子が悪くって、初めて手にしたギターだからかな?なかなか手放せなくて。
で、買い換えようかとも思ったんだけど結局修理しちゃった。」
嬉しそうに微笑む巴を見ていると、雛苺はさっきぶつかった時
にギターが壊れていないか心配になってきた。
「ギター壊れてない?」
「え、気にしなくても大丈夫だよ、これハードケースだから。
私、結構ドジだからソフトケースに入れてるとぶつけたり
落としたりしちゃうの、でもハードケースって重くって。」
「う~ハードとかソフトとかよく解らないの~。
でも、巴が力持ちなのはよく解ったの~。」
「そう言う訳じゃないんだけど…あ、そうだ。」
ポケットの中を探る巴
「はい、これ。」
巴は雛苺の手にそれを乗せる
「お友達になれたしるし、さっきぶつかった時に
ケースから外れたやつだけどね。」
「キーホルダーなの、巴ラプラスって?」
「うん、私たちのバンドの名前だよ。
そして私がラプラスのベースを担当してるの。」
「え~巴バンドやってるの~、だったら、だったらぁ
真紅をヴォーカルにして欲しいの~真紅歌はとっても
上手いの~でも学校ではチャント歌わないから皆に
馬鹿にされるの…でもヒナは知ってるの~。
だから、だから、お願いしますなの~。」
瞳に涙を滲ませながら、雛苺は頭を下げている。
「だ、だめだよこんな所で頭なんか下げちゃ。
さぁ、頭を上げて。」
雛苺はゆっくりと顔を上げる、雛苺の瞳には少し困った顔をしている巴が映った。
「ダメなのね…でも真紅は」
雛苺の言葉を遮る様に、巴が話し出す。
「雛苺ちゃんが大好きな真紅ちゃんは悪い子じゃ無いって、
大丈夫だよ貴女の気持ちはチャント伝わってるよ。
でも、ごめんなさいギターの人は探してるんだけど、
ヴォーカルの人はね。」
「ヴォーカルの人居るのね。」
呟くように答える雛苺。
「そうよ、とっても素敵な人よ、
真紅ちゃんにも負けない位、素敵な人。」
「真紅にも…負けない?」
「うん、私たちの大切な仲間…そうだ雛苺ちゃんも
仲間になってくれる人を探してみなよ。」
「え~でも真紅が~。」
「真紅ちゃんならきっと解ってくれるよ、だから諦めないで。
雛苺ちゃんが諦めたら真紅ちゃん何時までも馬鹿にされてるままだよ。」
雛苺の瞳を真っ直ぐに見つめる巴。
「う~…うん、ヒナがんばるの~。」
満面の笑みをこぼす雛苺、つられて巴も笑顔になる。
「ラプラスもまだまだ頑張らなくちゃいけ無いケド、
いつか二人が作ったバンドと同じ舞台で演奏が出来たら素敵だね。」
「うい~素敵なの~。」
店の扉が開き中から暗い表情の真紅が出てくる。
「あ、真紅ちゃんが帰って来たみたいだよ、
じゃあ私も皆と打ち合わせが有るから行くね。」
「うん、ヒナも頑張るから、巴もがんばるの~。」
雛苺と巴は笑顔で手を振った。
「待たせたわね、雛苺…あら巴は帰ったのね。」
「うん、なんか友達と打ち合わせが有るとか言ってたの~
う~と、巴もバンドやってるのよ。」
「そう…私には関係の無い事だわ。」
鉛色の空から小さな雫が落ちて来て、
雛苺の鼻先をかすめていった。

「う?..あ~真紅~雨なの~。」
「そのようね、行くわよ雛苺…ほら急いで。」
アーケードの中へと二人は駆け込んで行く。
先ほどより少し人の流れが多くなった道を二人は駅の方へと足早に歩いていく、
時折アーケードの切れ間から見えるアスファルトは瞬く間に黒くその色を変えていた。
「すごい雨なの~」
「そうね、最悪だわ」
「ところで楽器屋さんはどうだったの?」
「ええ、張り紙の方は全部回収したのだわ。」
「ふ~ん、良かったね~」
何気なく言った雛苺の言葉が、真紅の逆鱗に触れた。
「良かったですって、何も良い事なんか無いのだわ、
大体貴女が勝手な事をするから、こんな目に遭うのよ。
それにあの楽器屋の店員よ、HPにも載せてるし、理由が面白いからですって!!
しかも削除するのに時間がかかるから閉店後にしておきますって、今直ぐやれば良いのだわ。
本当に頭にくるのだわ。
そーよ、貴女と出かけると何時も良くない事が起こるのだわ。
金輪際、貴女と出かけるのはご免なのだわ。」

真紅のお説教モードはアーケードを抜け駅に着き、電車を目前にする頃ようやく終結した。

電車に乗り込んだ後、しばらくは二人とも何も話さず車窓に流れる風景に目を奪われていた。
ふと真紅が車内の吊看板に目を向けるとそこに小さく、くんくんのイラストが載っていた。
「ところで雛苺今日は何曜日?」
「へ~日曜日だよ。どうしたの~変な真紅。」
「大変だわ、私とした事が…」
「ねぇ、どう~したの~。」
「くんくんよ、くんくんなのだわ
今日はくんくんの放送日なのだわ。」
携帯の画面で時間を確かめる雛苺。
「もう終ってるね。」
「そ、そんな…!そうだわ、雛苺!!貴女ビデオに録画して無い?
いいえ、貴女の事だものしてるに決まってるのだわ。」
「してないよ。」
「い、今、貴女なんて言ったの?」
「だからしてないよ~、だってヒナ観てないもん。」
「貴女気は確かなの、くんくんよくんくんを観て無いなんて、
有り得ない事だわ。」
「ぶ~うっさいな~、観てないの。」

車窓に懐かしい風景が流れる頃、電車は静かに二人が降りる駅へと滑り込んでいった。

「しんく~駅に着いたよ~降りるのよ。」
雛苺に手を引かれ電車を降りる真紅。
「今日は色々有って楽しかったね~真紅。」
「……」
くんくんが観られなかった事が余程ショックだったらしく下を向いてうなだれている真紅。
「ね~しんく~1回観忘れたからって。」
「…今日は、解決編だったの…」
「でも、DVDが出たら観れるの~」
「…三ヶ月後ね…」
「う~元気の無い真紅なんてきらい~」
「…そう…。」
「も~真紅なんかしらない。」
怒った雛苺は真紅を置いて先に歩いていく、真紅も重い足取りでトボトボと後ろに着いていった。
改札の前まで来た時、雛苺が思い出したように真紅の方に振りかえる。

「ヒナね~今日くんくん見たよ~。」
「え、どこ、何処で観たの?」
「う~と、真紅のおしり!!」
雛苺はそれだけ言うと、改札口に切符を入れ駅の外へと走っていった。
しばらくボーとしていた真紅だったが、恥ずかしそうに頬を赤く染めると、雛苺の後を追っていった。
「あ、貴女あの事は忘れなさいって…。待ちなさい、雛苺。」
「や~の、待たないの~。」
二人が改札を出て家路に着く頃には雨も上がり、海からの蒸し暑い風が吹いていた。

 真紅・雛苺 終わり


最終更新:2006年08月06日 15:22