Story ID:LCui4lfi0 氏(48th take)
そろそろ梅雨も明けようかというある日。
「ったく、めんどくさいわねぇ・・・・・・。」
我等がローゼンメイデンのナンバーワンギタリスト(自称)である水銀燈は久しぶりのオフを満喫していた。
今ではすっかり売れっ子となった彼女達。まるまる一日のオフなど、何ヶ月ぶりだろうか。
しかし、その表情ははれやかなものではない。むしろ、はれているのは右頬だ。
「はぁ・・・・・・。」
そう、虫歯になったのだ。
「あのキーンって音がどうにも不安なのよねぇ・・・・・・。すぐに終わるといいのだけれど。」
そう思い、歯医者のドアを開けた。
如何に全てを圧倒するような超絶ギターテクニックを持っている彼女であっても、それなりに体への負担というものはある。
ギターを弾き始めてから数年後に患った肩こりには今も尚悩まされ続けている。
それでもなんとか誤魔化しつつ、日々精進に精進を重ね続けてきた。
だが、最近の悩みと言えばもっぱら虫歯であった。
物心ついた時から、1日3度の歯磨きは欠かさずに行ってきたつもりだ。
それは音楽を始めた学生時代も、長く苦しかった下積み時代も、輝かしい栄光を勝ち取った今でも変わってはいない。
しかし、それは突然訪れた。
再来月から始まる全国ツアーに向けて、練習を重ねていたある日の朝。
何の前触れもなく、右の奥歯に穴が開いていたのだ。
「な、なによこれぇ・・・・・・。私が虫歯?」
鏡の前で大口を開き、その中を覗き込むなど人生で初めての経験だった。
アーティストという職業柄もあるが、歯には十分に気を使っていたつもりだった。
虫歯だけでなく、そのなんというか焼きそばやたこ焼きなどを食べる時にも。
「この前薔薇水晶の家に行った時の歯磨きを簡単に済ませたせいかしらぁ・・・・・・。」
いくら虫歯は忘れた頃にやってくるものだとしても、そんな筈は無い。
だが、人前にでる事を生業としている人間として、虫歯があるというのは由々しき事態であった。
そんな大袈裟な、と思う人はテレビをつけてみると解るだろう。
空を翔る数多の星の数ほど存在している芸能人の、ほぼ全てが完璧に歯を整えている事に。
数年前に流行った言葉、「芸能人は歯が命」とはよく言ったものだ。
「とりあえず、困った時の蒼星石ねぇ。」
ローゼンメイデンのお助け係にして、最終兵器僕っこでもある蒼星石に相談してみると、
『ああ、それは虫歯だね。早く直したほうがいいよ?僕も昔さ・・・・・・、』
という、有難いお話を聞かせて貰えた。三十分ほど。
考えてみれば、ここ数週間のうち思い当たる節があった。
メンバー全員での練習中に、翠星石の奏でるビートがお腹ではなく歯に響いていたのも無関係とは言えないだろう。
また自身の最大の見せ場でもあるギターソロの練習中にも、何度となく刺さるような違和感を感じていた。
何にせよ、自分は虫歯になってしまったのだ。
この事実を重く受け止め、迅速に治療を行わなければならない。
『歯医者だったら、僕の家の近くの歯医者さんがお勧めだよ。水銀燈の家からもそんなに――』
それから数日後。
めでたく?オフを手に入れた水銀燈は、蒼星石から紹介された歯医者にきていた。
しかし、その顔色はどこか冴えない。
「あのキーンって音がどうにも不安なのよねぇ・・・・・・。すぐに終わるといいのだけれど。」
そう思い、歯医者のドアを開けた瞬間――。
「はぁ、まだ奥歯が痛いのだわ・・・・・・。」
よく知った彼女がいた。
最終更新:2006年07月21日 00:24