金糸雀の実家から5分たらずの場所に小さな砂浜がある。
その場所は金糸雀も知っていたので雛苺とは現地集合という
事になっていたため、その砂浜には雛苺だけがいた。
波打ち際からほんの少し離れた所に置かれ、半分ほど砂に埋もれた
テトラポットにもたれて青い海を眺める雛苺。
そこに雛苺と同じクラスの少女が3人ほどやってくる。
「あぁ~あ、最悪、雛苺がいるよ~」
「うわっ、本当だ」
「雛苺と一緒の海に入ったら私までノロマになっちゃうね~」
ニヤニヤと笑いながら、わざとに大きな声で喋りだす。
その言葉に雛苺の視線は青い海から砂浜に落ちる自分の影に変わる。
うつむき涙をためる雛苺を見てさらに大きな声を出す。
「どうする?」 「追い出す?」 「それとも違う所に行く?」
耳を両手で塞ぎたい、今すぐにでも目の前にある大好きな海の
中に逃げ込みたい。
だがそんなことをすると余計に笑われてしまう。
ただ雛苺にできるのは声に出さずに泣くだけしかなかった。
涙で自分の影すらボヤけてきた頃、雛苺を呼ぶ声が聞こえてきた。
薄紫の大胆なライクラストリングビキニパンツの上には素肌が透けて見える
ギャザースカートを身につけ、足にはデモニアのプラットホームサンダルを
履いた水銀燈が手を振っている。
そのとなりではテリークロスのホルターネックブラトップで胸を強調させ、
パンツはサイドレースアップになったローライズボーイショーツを身に付けた
翠星石がいる。
真紅は2人の後ろで、全身を大きなバスタオルで隠し、暗い表情のまま
うつむきながらトボトボと歩いてくる。
その姿を見ると雛苺に囲んでいた少女達は互いの顔を見合うと、うつむく
雛苺に小さく 「ば~か」 とだけ言うとその場を離れていった。
あっ、お姉ちゃん達がきてくれたの~・・・。
砂浜を歩いてくるジュンと真紅達の姿を見ると、雛苺はもたれていた
テトラから海に向かって走る。
今まで泣いていたのを悟られたくないため、波打ち際から胸の辺りまで
浸かると息を止めて潜ってみる。
コポッ、コポッ、プッ、プッン、シャリッ、シャリ、シュシュッ。
気持ちいいのぉ・・・。
気泡が弾ける音と波に洗われる砂の音、浅い海の中は太陽の光といろんな
音が混じってダンスをしているよう。
そのダンスを作り上げているのは人間ではなく海そのもののリズム。
寄せては返す波が奏でる自然のリズム、その中で雛苺は一瞬だけ海と
同化する。
ライトブルーに溶け込んでいく意識の中で大海原を走っていく
イルカにでもなったような感覚すら覚える。
もっと海の中に、もっと遠くへ、もっと深くへ、光の粒子が海に入ると
淡くキラメク光のカーテンのように感じられる。
それは、まるで海中に出現した真夏のオーロラのよう。
もっともっと、海の中にいたいの・・・。
息苦しさと同時に雛苺の中に広がっていたライトブルーと海が奏でて
くれたリズムが消えていく。
プハッ、はぁはぁはぁ~。
「凄いわぁ、溺れたかとおもっちゃったぁ、よく息が続くわねぇ?」
「いきなり潜ってなかなか出てこないからビックリしたよ」
雛苺が海に入って長い時間でてこないので心配したジュンと水銀燈は
急いで海に入っていたのだ。
あっ、ジュン兄ちゃんと水銀燈お姉ちゃんなの・・・。
少し心配顔をしながら笑うジュンと水銀燈を見て雛苺は今にも泣き出し
そうな笑顔を2人に向ける。
そうだ、海だけじゃなくここにはヒナの事を優しくしてくれる
人がいるの~・・・。
真上にある真夏の太陽は雛苺の肌を焦がす。
砂浜沿いにある林からはセミ時雨、遠くに見える山は深い緑で覆われている。
その山から湧き上がる入道雲。
そして、大好きな海、その海流が運んでくる潮の唄につつまれた雛苺に
とって、本当の夏休みは今、始まったばかりなのかもしれない。
Illust ID:+ZkOtLwl0 氏(55th take)
知り合ったばかりのジュンと真紅達に囲まれて、雛苺は小学校以来の
笑顔で遊ぶ。
泳ぎの得意な水銀燈と蒼星石と一緒に少し沖に出て潜ってみたりした。
海中の白い砂底に3人の影が躍る。
所々に点在する岩の周りには黒鯛とギンガメアジの稚魚が群れで
泳いでいる。
雛苺は大きく息を吸い込むと、一頭のイルカになる。
水銀燈と蒼星石も雛苺に続いて潜ると魚の群れは突然の来訪者に驚いたのか、
魚群は一瞬にして転回すると海中に差し込む太陽の光を魚体に受けて銀色に輝く。
海の中の幻影、それにしばし言葉を無くした雛苺、水銀燈、蒼星石は、やがて
水の中で体だけでなく、心も軽くなったように感じられて笑った。
その頃、金糸雀は胸から深いところは怖いようで、少し戸惑いながら慎重に
一歩、一歩と足を沖に向けていた。
それを見た翠星石は笑いながらイヤがる金糸雀の手を引っ張っていく。
2回目の波で少し水を飲んだ金糸雀は翠星石の手を振り解き、半ベソを
かきながら海からあがり小石をひらうと、指をさして笑っている翠星石に
向かって投げる。
「翠星石なんか撃沈させてやるかしらッ」
「危ねぇですぅ、石なんか投げるなですぅ!」
翠星石と金糸雀を見て 「はぁ~」 とため息をついた蒼星石は2人の
ほうに向かって泳ぎだす。
水銀燈と雛苺に手を振っているジュンに向かって泳いでいく。
「なぁ、水銀燈、雛苺。 お腹すかないかぁ~?」
「うゅ~、ヒナはちょっとお腹すいたの~」
「そうねぇ、ミッちゃんのお店に行くぅ?」
「お~い、真紅、ちょっと、お~い聞こえてるか?」
ジュンが砂浜でチョコンと座っている真紅に手を振り大声で
呼ぶと、真紅は立ち上がって周りをキョロキョロと見渡す。
水着が恥ずかしい真紅はずっと体にバスタオルを巻いていたが、
どうやらこの砂浜には自分達しかいないと解ると、ジュンの声に答える
ように、ようやく腰の辺りまで海にはいって近くまでくる。
それを見た水銀燈はニヤッと笑い、力まかせに真紅の背中を押す。
「キャッ」
寄せ波の力も加わり真紅は大きくバランスを崩すと無意識のうちに
前にいたジュンに抱きつく形となった。
突然のことなのでジュンも真紅を受け止めると2人はそのまま派手な
水しぶきを上げて倒れる。
重なり合った肌と肌、その上を波が洗っていく。
ジュンと真紅は水中で一瞬見つめあう。
波で巻き上げられた砂が海の中でフワッと舞い上がる。
ニコッ、真紅の目にジュンは優しく笑ったように見えた。
そしてジュンには真紅の小さな唇が微笑んだように見えた。
それはほんの一瞬、ほんの瞬きの刹那、真夏の悪戯。
ジュンと真紅の唇は軽く触れるように一つになった。
「ちょっと水銀燈、何をするの?」
「フフフ、ほんの冗談よぉ~」
波にヨロけながら立ち上がった真紅はジュンに背を向け、やや
厳しい表情をして水銀燈を見る。
キャー、ヤッちゃったぁ? ヤッちゃったぁ? 面白ーい・・・。
怒り気味の目を向けられながらも水銀燈は両手を口元で合わせて
やけに嬉しそうにキャッキャッとはしゃぎだす。
水銀燈と同じ位置にいた雛苺は恥ずかしそうにジュンと真紅を見ている。
角度的になにが起こったのか解らないものの翠星石は少しやるせない
顔つきでジュンと真紅を見ていた。
(以下執筆継続中)
最終更新:2006年08月01日 09:16