アットウィキロゴ
ワタシは写真週刊誌に感謝している。
芸能カメラマンになっていなければ、猟奇的盗撮者になっていたから……

私の名は「みっちゃん」。

またの名を「Docodemo Moguricom Camera-man」。
1秒間に10回「スクープ!」とシャウトしたとか、産まれると同時に両親のナイトライフを”SATSUEI”した等、伝説にはことかかない。
芸能出版業界で圧倒的人気を誇るフリーカメラマンだ。

だが家に帰ると……

ただの草笛みつ・2×歳だ……。

M:I ~Mitchan Impossible~

今、私の主なターゲットはロックバンド「RozenMaiden」。
若い女性メンバーのみで構成され、ミュージックシーンを席巻する人気バンドだ。

だがそのメンバーの私生活は、ほとんどが謎とされている。
メンバーが女性のみという性格上、当然男性絡みの――
あるいは一部で噂されるメンバー間恋愛の――スキャンダルを求め、数多のゴシップ雑誌が取材班を繰り出して、彼女たちの私生活を追っている。
私もその一人であり、そしてもっともその謎の核心に近い人間、という訳だ。

しかし驚くべき事に、彼女たちがメジャーシーンに登場してから1年あまりが経過した今でも、依然として彼女たちの自宅はおろか、主な録音スタジオすらつきとめたものはいない。
彼女たちがメジャーレーベルと契約せず、あくまでも独自レーベルからのリリースに拘り続けているためもあるが、何よりも彼女たちの専属マネージャーである、金糸雀の手腕によるところが大きい。

そう、金糸雀。

カナ。

カナーーーーーーーーーーーーーーーー!

そうよさすがは私のカナ!自他共に認めるRozenMaiden一の頭脳派!
どれほど大手の出版社が一線級の敏腕取材班を繰り出そうとも、カナの裏をかくことは不可能ッ!無理無駄無謀の三拍子!
ああんカナ超優秀だからーーーーーーーーっ!
んんんんん仕方ないかなーーーっ、こーーーんなに可愛いんだもんーっ!

あっいけない、取り乱しちゃった……。

えー、こほん。

RozenMaidenの専属敏腕マネージャー、金糸雀。
実は彼女は私の、年の離れた従妹であり、私の同居人でもある。
私がRozenMaidenに関して、他の出版社を出し抜くことができるのはそのおかげなのだ。

もちろん、同居人と言えども、プライバシーは別。
DMCの名誉に賭けて――はなはだ不本意な名誉ではあるが――カナのスケジュール帳をのぞき見たりなどは断じてしていない。
私はただ、日々カナを、その一挙一動一挙手一投足の悉くを、常に追いかけているだけ。
カナを追いかけるということは、即ちRozenMaidenを追いかけること。
そして、この私がカナを見失うなんてことはあり得ない、というだけのことだ。

ただし、家での私は、しがないOLということになっている。
「RozenMaidenを追うフリーライター・みっちゃん」の正体が私だということを、カナは知らない。

けれど。
下世話な芸能スキャンダルを追い回すのにも、実のところ疲れてきている。

本当は私、ファッションカメラマンになりたかった。
カナにも「いい感じかしらー」って言われるような写真が撮りたいのよ……。

それに私だって、これでもRozenMaidenの大ファンを自認している。
だから、彼女たちが本当に撮られたくない私生活をまで追うつもりはない。
とは言え、そんな私にも、どうしても気になることはある。
私だけじゃない、全芸能マスコミやファンはもちろん、
RozenMaidenのメンバーですら気になっていること。

それは――薔薇水晶の眼帯の謎。

カナの言によれば「、バンド結成以前、高校で初めて出会った頃から、彼女がその眼帯を外したところを見た者はいないそうだ。
寝る時はもちろん、お風呂でもプールでも海でも、雨が降ろうが雪が降ろうが、外した事はない、とか。
本人曰く「体の一部だから外れない」そうだが……。

外してみたい訳じゃない。
ただ、「外せない理由」が知りたい。聞いてみたい。
隠せば隠すほど知りたくなるのは、世の常というものだ。それはわかる。

だが……私自身は、この件を「仕事」にするつもりはない。
メンバーにすら秘密にしているくらいだ、それこそ「本当に撮られたくない私生活」に違いないから。
実際に何度か打診はあったが、全て断ってきた。

……そうしたら、どうやらあの編集長……他のライターを雇ったらしいのだ。

それは昨夜のこと。

「……ただいまーかしら……」
「おっかえり~♪ほらほら、今日はごちそう作ったのよ~♪カナの大好きな卵焼きだって――」
「……。」
あれ、元気ないね……と口にするよりも早く、カナの目に――涙が。
「フギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
 どどどどどどどうしたのカナー!?どっか痛いのー!?
 みっちゃんのせい?みっちゃんが生きてるせい?
 いやああああああ私のカナーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「ち……違うの……ただね……」
「あああああん泣いてるカナもかわいいーーーーーっ!
 じゃなくて、泣かないでカナーーーーーーーー!
 どうしたの?何があったのー!?」
「うん……実はね……このところ、ものすごくしつこいマスコミに貼り付かれてて……
 ばらばらの眼帯の秘密を暴いてやるって……」
と、カナが見せてくれた名刺には――
「フリーライター……篠原?」

聞いたことがある。
「有名人には”有名税”を支払う義務があり、マスコミはそれを徴収する代官だ」を信条とし、撮り揃えた写真を材料として、特ダネを「作り出す」男。
その特ダネは、真実と全くかけ離れたものであることも珍しくないという。
そして、奴に今回この仕事を依頼したのは、芸能誌「週刊無頼男(ブライボーイ)」。
シルクハットをかぶり、燕尾服を着た兎顔の男がトレードマークだ。
その編集長・ラプラス野間が掲げる編集方針は「下半身さえあればいい」。
以前からRozenMaidenに目をつけ、実際私も一度その仕事を受けたことはあるが……私の書いた記事が載ることはなかった。
曰く、「ファックオフ!私はそんなシャシンじゃ勃たねんだよ!!」
……( ゚д゚)、ペッ

その篠原とラプラスが、薔薇水晶を、RozenMaidenを狙っている……って?
冗談じゃない。このままにしておいたら、いかにカナの手腕をもってしても、とてもスキャンダルを抑えられないだろう。
なにせ相手は火のないところに煙を立てるどころか、油を撒いて火をつける男たちだ。
というか、カナを泣かせた時点で万死に値する。許さない。断じて許せない。
あいつらに私のシイタケをブチこんでやる!
……私のシイタケって何、とかは訊かないで欲しい。

そんなことを考えていたら、危うく携帯電話の呼び出し音を聞き逃すところだった。

”Go To DMC!Go To DMC!”

デスメタルじみた声で携帯電話が叫ぶ、いつものコール音。
このコールが私を、「草笛みつ」から「DMC・みっちゃん」に変える。
――いいでしょう、やってやろうじゃない。
この私がRozenMaidenを守ってみせる。みっちゃんの名にかけて!

                    *

今宵はRozenMaidenのライヴステージ。
とにかく、まずは彼女たちの――今回の場合は薔薇水晶の
――プライベートをつきとめなくては話にならない。
彼女たちを追うとしたら、私ならどうするかと考えると、チャンスはライヴの終了後。
メンバーが会場から出てくる、その時だ。
もちろん普通に出待ちをしていても、誰一人として捕まえられはしない。
彼女たちはいつも、誰にも知られることなく会場を後にする。
そのあまりの隠密ぶりに、楽器や舞台設備を運び出す鞄の中に隠れているのではないか……なんて説が、まことしやかに囁かれているくらいだ。

だが、この私だけは話が別だ。
会場外に入り乱れる、ファンや作業員、警備員にマスコミ陣。
その無数の人の気配の中から、私はカナを見つけることができる。
もちろん盗聴器なんかつけたりはしていない。そこらのパパラッチとは愛が違うのよ愛が。
その愛の証として、私がカナに送った香水”Pizzicato”が、
私をカナの居場所まで導いてくれる――という訳。
そして、マネージャーであるカナの居所をさえ追っていけば、
メンバーのそれもある程度掴むことができるのは自明というもの。

――いた。
前方約30m。薔薇水晶と、その後をつける篠原を発見、ターゲットロックオン。すかさず追跡開始。
薔薇水晶は特に周りを気にする風でもなく、脇目もふらずに路地を歩いていく。
ほとんど足音も立てず、滑るように。
あのヒールでよく、あんなに静かに歩けるものね。

ヒール?

ふと、妙なことに気がついた。

彼女……なんの変装もしていない。

そう、あのヒールはまさに、ステージ上で履いていたロングブーツ。
芸能人の定番、サングラスすらかけていない。
服装にしても、さすがにステージ衣装とは違うものの、フリル全開の真っ白なロリータ服。
紫を基調にしたステージ衣装より、むしろ目立つくらいだ。
髪型もほとんどいじっていない。腰まで伸びた銀髪が、綺麗なウェーヴを描いてる。
もちろん、トレードマークの眼帯だってそのままだ。
確かに若干の違いはあるものの、どう見ても薔薇水晶です。本当にありがとうございました。

……どうして、誰も騒がないんだろう?
有名人だということを抜きにしても、あれだけ目立つ服装と美貌に、誰一人反応しないなんて。
ことさら人通りを避ける風すらないのに、まるで誰にも彼女の姿が見えていないかのようだ。

「……………………。」

突然薔薇水晶が、何の前触れもなく立ち止まった。
咄嗟にそこに転がっていた段ボール箱を被り、身を隠す。

黙ったまま周囲を凝視する、金色の瞳。その前に篠原が、カメラを片手に姿を現す。

「まさか、キミの方から呼び出しが来るとは思わなかったよ、RozenMaidenの薔薇水晶サン。
 教えてくれるんだって?その眼帯のヒミツとか、水銀燈との”あのウワサ”の真相とかサ」

呼び出した?わざわざ?

「じゃあお話の通り、撮らせてもらおうか。最初はまずその眼帯から……奥の奥までね。
 わかってると思うけど、逆らったら大変なことになると思うよ?
 キミだけじゃない、キミらの行く先々全てで、俺の「眼」がキミたちを撮り続ける!
 ああ、キミらは普通に暮らしていればいい。
 素材となる画像の数さえ揃えば、あとは俺の「眼」が真実に合成……編集してやるさ。
 覚悟するんだな、RozenMaidenの全員撮り殺してやる!ギャハハハハ!」

篠原の奴が、下卑た笑みを浮かべて薔薇水晶に近づいていく。
そして無造作に、その左目の眼帯に手を伸ばす。
舌なめずりの音が聞こえるようだ。背筋に悪寒が走る。

と。

「かわいそう……」

初めて、薔薇水晶が口を開いた。奴の手が止まる。

「あなたは、かわいそう……」

奴の動きが、表情が、唐突に固まった。

「身の程を知らないのね……だったら……私が壊してあげましょう」

そう呟いたかと思うと、薔薇水晶は眼帯に手をかけて――付け替えた。左目から、右目に。

……違う。

いつもの、変化の乏しい表情が嘘のような、楽しくて仕方がない、といった感じの笑み。
いつもの、抑揚の薄いウィスパーヴォイスじゃない、とろける様な甘い声。
いつもと同じように淡々として、けれど「何か」をこらえているようで。
その左目、金色の瞳に浮かぶそれは――狂喜。

違う、薔薇水晶じゃない――この子は。

こ の 子 は 誰 ?

――少しの間、耳を塞いでいてね?草笛さん

耳元で突然囁かれた。あの声で。
これだけ離れてるのに、私にだけ聞こえるように?
なぜ、とかどうやって、とか考える間も惜しんで、両手で耳を塞ぐ。
直感が全力で警鐘を打ち鳴らしてる。

”あ れ は ヤ バ い 。”

唐突に、「彼女」が歌った。ほんのわずか、1~2フレーズ程度だったろうか。

倒れていく。
奴が。
至福の表情を浮かべて。

――幸せな夢の中で、永遠にお眠りなさい、ミスター……

塞いだはずの耳の奥で、確かにそう聞こえた。「彼女」の声が。

                    *

あれから数日、「週刊無頼男」の発売日。
だが、そこに薔薇水晶の眼帯の秘密が掲載されることはなかった。

あの後、「彼女」が何者なのか、「薔薇水晶」は――いや、「彼女」は教えてくれた。

彼女の名は雪華綺晶。薔薇水晶の、双子の姉だそうだ。
確かにその名は、RozenMaidenのアルバムで時折、「作詞協力」の肩書きで記されていた。
いつどこで入れ替わったのかはわからない――そこまでは教えてくれなかった――が、薔薇水晶が篠原につきまとわれて困っていることを聞き、一肌脱いだのだという。

彼女の歌声は、聴いた者の心を、いや「脳」をダイレクトに「揺さぶる」ことができるそうだ。
どんな人の脳でも思い通りに「揺らし」て、その心を思うまま操れるのだ、と。
そして――それ故に、RozenMaidenとしては活動しないのだと。

篠原はあの後入院した。至福の表情を浮かべたまま眠り続けている、という。
体のどこにも異常はないのに、まったく目覚める気配もないそうだ。
多分、永遠に目覚めることはないだろう。
あの時彼女が言った通り、幸せな夢の中で眠り続けるのだ。死ぬまで。

また近づいてくるものがいたら、同じ目に遭わせてやる、何度でも。
彼女はそう言った。だけど、それにも限度というものがあるだろう。
そもそもRozenMaidenを取材しようとする人間が、片っ端から植物人間になったりしたら、それはそれで別のスキャンダルを呼んでしまう。
臭い臭いは元から断たなきゃ、である。そして、それは私の専門だ。

「――という訳で。今後、RozenMaidenに対するああいった取材は無しにしてもらいますよ?
 念のため言っておきますが、それが貴方の身のためですから」
「ほう?一介のフリーライター風情が何を仰るやら」

余裕の笑みを浮かべるラプラス。そんな顔していられるのも今のうちよ。

「ここへ来る前、ちょっと地獄に寄って、あんたを埋める墓穴を掘ってきたのよ」

ラプラスの目の前に、写真をぶちまけてやる。
そこに写っているのは、出入りの探偵事務所長・勲 薫(通称くんくん)氏――もちろん♂――とラプラスの、それはそれは暑苦しい逢瀬の有様。
ちなみにラプラス攻め×くんくん受け、らしい。
もちろん正真正銘この私の目で確かめ、この手で撮ってきた真実だ。

顔色をなくしたラプラスに最後通告。

「いいこと?もしもこの先、いわれなくRozenMaidenを貶めるような取材をしてみなさい。
 このDMCが、SATSUEIするわよ?」

おわーり

最終更新:2006年07月30日 21:25