「ジュン、紅茶を煎れてきて頂戴。ジュン、ジュン…聞こえているの?
ねぇジュン!!」
「痛ぇッ!!…何するんだよ~いきなりステッキで後頭部を殴るなんて」
「私の声を無視したジュンがいけないのだわ」
「あぁ、イヤホンしてたから聞こえなかったんだよ」
「いやほん?どんな本なの?」
「ほ、本じゃないよ、コレを耳に入れて音楽を聴くんだ、ホラ付けてみろよ」
「うよぉ~、凄いの~。くんくん探偵の曲がガンガンなのぉ」
「えっ、くんくん!!ちょっと雛苺、私にも聴かせなさい」
「あぁ~ん真紅ぅ、ヒナまだ最後まで聴いてないの~」
「あぁ~くんくんの曲が私の耳に直接流れ込んでくるわ……あら?
ねぇジュン。この曲はいつのもくんくんとは少し違うようだけれど?」
「あぁ、これはくんくんの曲をロック風にアレンジしたバージョンなんだ。
さっきいろんなサイトを見ていたら発見したんだよ」
「ロック?ロックって何なの?」
真紅のいつもとは違う真剣な眼差しに少したじろぎながらロックについて解り易く
説明をしているサイトを開いて真紅と雛苺に見せた。
青い目をキラキラさせながらロックの誕生から読みふける真紅と雛苺。
その2人、いや2体の只ならぬ真剣さから僕はイヤな予感がした。
「この説明文によるとロックは練習したら私達にも演奏できるのね」
「うわぁ~い、ヒナもロックしたいのぉ~くんくん歌いたいのぉ~」
「いや、バンドを組むって言ってもお前たち人形に合う楽器なんて無いじゃないか」
「そんな…ヒナはロックバンドってヤッてみたいのぉ、のぉ、のぉ、のぉ!!」
「私もバンドをしたいのだわ、だわ、だわ、だわ、だわ!!」
「あぁ~うるさーい!!最低でもドラム、ギター、ベースがいるぞ、お前ら
2人だけならカラオケになってしまうだろー!!」
「あっ、それなら翠星石と蒼星石と金糸雀を入れたらイケそうなの~」
「そうね、それに金糸雀はバイオリンが弾けたはずだわ、同じ弦楽器だもの
ギターかベースもできるはずなのだわ」
「ん、そうか金糸雀とかいうのはバイオリンが弾けたのか。
つーか肝心の楽器はどうするんだよ?」
「nのフィールドのどこかにあるはずよ、雛苺、いますぐnのフィールドで楽器を
探してきなさい」
「はいなのぉ、了解なのぉ~!!」
なんだ、この連帯感は?いつもなら用事を言いつけられたらグズる雛苺が自分から進んで出て行ったぞ。しかし僕が感じてるイヤな予感はこんなものじゃないけど、なぁぁぁぁぁー!!
――――ガシャ~ン!!
これか、これがイヤな予感だったのか!!窓ガラスが割れる音と共に僕の頭にクリティカルヒットしたカバンから性悪人形姉妹が現れた。
「おはよーですぅ、真紅とチビ苺とチビ人間がヒマしてると思って
遊びに来てやったですぅ~」
「おいッ、毎回毎回ガラス割りやがってェー!それに僕の頭を狙って
飛んできてるだろー!!」
「ゴメンねジュン君。僕はいつも止めようって言ってるんだけど翠星石が
言う事を聞かなくて…ん、雛苺の姿が見えないけど、どーしたの?」
「下でテレビでも見てるですかぁチビ苺は?」
「雛苺はnのフィールドで探し物だわ」
「nのフィールド? そこで何を探しているの?」
「ロックバンドに必要な楽器よ」
「ロックバンドぉ?」 「楽器ですぅ~?」
「そうよ、バンドなのだわ。今から2人に説明するからよく聞いて欲しいのだわ…
それとジュン。私と翠星石、蒼星石の紅茶を煎れてきて頂戴!」
「はい、はぁい!!」
僕がいつものように紅茶を煎れて部屋に戻ると信じられない光景が広がっていた。
そんな簡単に見つかるはずはないと思っていた楽器があるではないか。
しかも翠星石だけではなく蒼星石もヤル気まんまんの顔をしている。
そして僕の知らない所で新たな事態が進行していた。
真紅達がバンド結成に向けて盛り上がっている頃、草笛みつのマンションでは…
「ねぇねぇカナぁ、そのバイオリンを弾いているの見たことがないんだけど、
カナの演奏みっちゃん聴いてみたいなぁ~」
「うぅ、それがダメなのよみっちゃん。カナはこのバイオリンもそうだけど
全ての弦楽器を弾いたら超音波で周りの物が壊れてしまうかしらぁ~」
「えぇ~、そのバイオリンって兵器だったの!? じゃ、コレなんかは大丈夫なの?」
「あぁ、カナにピッタリの大きさのピアノかしらぁ~」
「フフ、私の知り合いのドール愛好家が手作りで作ったカナサイズのピアノよぉ~、
早く弾いてみて弾いてみて」
「じゃ、弾くかしらぁ~」
~♪~~~♪~~~~~~♪♪~~♪
「きゃーーーカナぁ、凄いぃぃ~巧みにピアノを弾くカナ最高ぉぉ!!」
「うごぉぉ~み、みっちゃん、、そんなにキツク抱きしめたら中身が出ちゃうかしらぁぁぁ」
「もうカナって最高過ぎるわ、でも他のローゼンメイデンも楽器とかできるのかなぁ~?」
「そ、それよみっちゃん!!たぶん真紅達は楽器なんて芸術性のある教養なんてもってないかしらぁ。そこでカナがこのピアノを持って真紅達の前に表れる。そして美しい旋律を
奏でる、これで真紅達はこの金糸雀には頭脳だけでなく感性でも劣っていると思うはずよ~
さっそく今からカナの実力を見せつけに行ってくるかしらぁぁ~!!」
金糸雀がピアノをもって真紅達の部屋に向かおうとしている頃、めぐは窓際に座る水銀燈に歌をうたっていた。
「からたちの花が咲いたよ~♪」
「フンッ!!」
「どうしたの水銀燈?」
「その歌ばかりじゃない、もう飽きたわぁ」
「す、水銀燈……」
「ほぉんとバカの一つ覚えってよく言ったものね、何か他に歌えないのぉ?こう、
私の胸を熱くさせるような歌ぁ」
「ざわわ~ざわわ~♪ さとうきび畑は~♪」
「バッカじゃないの? 悲しくなる歌をうたってどーするのよッ!!
私は熱くなる歌が聴きたいのよぉ。フンッ、もういいわッ」
「あぁ、まって水銀燈、KOTOKOでも歌うからぁぁ~水銀燈ぉぉぉ~」
あぁ~あッ、シラけたわぁ。ほぉ~んと、この街の景色もみんなつまんない感じぃ~。
そうだわ、真紅達の家に行って軽く遊んでウサばらしでもしちゃおうかしらぁ~ウフフフフッ。
この時、まさか一度にローゼンメイデンのドール達が僕の部屋に集まるとは思ってもいなかった。そしてこの先が本当の地獄だと今の僕には知るよしもなかった。
*
あぁ、頭が痛い! なぜ頭が痛いかと?30分前に翠星石のカバンが頭を直撃した
のではなく今、僕の後ろでバンドについて口論している真紅や性悪人形だけで
頭が痛いのにそれに加えて10分ほど前に金糸雀がピアノを持って表れたことにより
バンド結成がイヤというほど現実味を帯びてきたからだ。
「あら、見損なわないで。この真紅の前の前のマスターはイギリスの
貴族だったわ。そこで宮廷音楽を学んだこともあるのだわ!!」
「へ~ん、そんなのどーせ落ちぶれた貴族ですぅ。この翠星石の前のマスターは
60年くらい前のドイツにいたですぅ。よくワーグナーを聴いていてチョビヒゲを
生やしたオッサンでしたけどぉ、みんなからハイル、ハイルって呼ばれて威厳が
あったですよッ!!そのオッサンに仕えていた音楽家に翠星石も蒼星石もいろいろ
教えてもらったですぅ」
「ろ、60年前のドイツでチョビヒゲのハイルぅぅ~おい、性悪人形、ソレっ
てまさか…あのアドルf」
「ジュン君、詮索はそこまでにしといたほうがイイよ。それに翠星石もその
話題は止そうよ、いろいろマズイからね」
「………ですぅ」
「ヒナはずっとフランスにいたのぉ、前の前のマスターはマリーアンとわぁ?
なんとかって言ってたのぉ、ヒナもそこで音楽をいろいろ聴いたの~」
洗濯のり~早く部活から帰ってきてくれ~、こいつらの話を聞いていると
リアルで呪い人形設定が確実に思えてくるよ~。
あぁ、本当に頭が痛くなってきたよ。でも考えようによればバンドをやっている
ほうが他のものを壊されないですみそうだな。
練習もnのフィールドとかいう場所でヤラしたら呪い人形に気をかけずに
自分の時間を満喫できるぞ。
「なぁ、真紅。本当にロックバンドをヤルのか?」
「もちろんよ、私はヤルと決めたらヤル人形なのだわ」
「じゃ、練習する場所とかってnのフィールドって場所だよな。
あそこなら誰にも邪魔されずに音を出せるしな」
「そうね、ジュン。それがイイのだわ」
「チビ人間にしてはイイ事に気付いたですねぇ、そうと決まればさっそく
nのフィールドに行くですよッ!!」
「じゃ、また後でね、ジュン君」
「ジュン、ヒナはお夕飯までには帰ってくるのぉ~じゃぁねジュン」
「あぁ、いってらっしゃい、いってらっしゃ~い」
さぁ~て、これでやっと自由な時間ができたよ。いつもの通販サイト
ってェェェェ、なんだよォォォ!!モニターからぁぁぁ~
「はぁ~い、元気にしてたぁ~」
「お、お前は、す、水銀燈!!」
「真紅のミーディアム。確かジュンとかって言ったわよねぇ」
「な、なんの用だよ?」
「べぇ~つに。ただヒマだから真紅と雛苺をからかいに来ただけよぉ~」
「2人ならここにはいないぞ」
「どこに行ったのぉ?正直に言いなさい」
「翠星石と蒼星石と金糸雀と一緒にnのフィールドとかいう場所に行ってるよ」
「nのフィールド?そんな所で全員そろって
アリスゲームでも始めようって
いうのぉ~この水銀燈を外してぇぇ!!」
「いや、そんな物騒なことじゃないぞ。バンドの練習をしてるだけだよ」
「バンドぉ?」
「そう、ロックバンドだよ」
「なにそのロックバンドって? 解るように説明しなさい!!」
ここはヘタに刺激しないほうがイイな、取り合えず何か音楽を聴かせてみるか。
それからさっき真紅と雛苺に見せたサイトを……
「ま、まぁこれでも聴きながらこれを読んだらロックって解ると思うけど」
「ふぅ~~ん、なかなかいい歌ねぇ……えっ?、、こ、これは!?」
なんなの、この感覚?めぐがいつも歌ってくれるメロディーとはまるで
違うこの高揚感!!これがロックなのぉ?えっ、何、私でも、こんな体の
私でも練習したらロックが演奏できるって言うのぉ?
「おい、ちょっと水銀燈さん?どうしたんですか、固まって?」
「な、なんでもないわぁ、とにかく今日はこの辺りで許してあげる。
でも次に会ったときはただでは済まさないわよぉ、じゃぁねぇ~冴えない
ミーディアム。フフフフフッ」
あれ、行ってしまったな…何しに来たんだろ? まぁイイか。でもローゼン
メイデンって変な奴ばっかだよな~。
―――バサバサバサ~
「あっ、水銀燈。帰ってきてくれたの?ウレシイわ」
「めぐぅ、ちょっと聞きたいんだけどぉ?」
「何?水銀燈の質問なら何でも答えるわよ。さぁ言って」
「貴女、ロックって歌えるぅ?」
「どうしたの、いきなりロックだなんて?」
「なんだっていいでしょ~、私の質問はロックが歌えるかどうかよぉ?」
「ふふっ、どうしたのかな今日の水銀燈は?いいわ、歌ってあげる。
からたちの花が咲いたよ~♪」
「その歌は違うでしょ!!この水銀燈をバカにしてるのぉ!!」
「解ったわ、ちゃんと歌うから羽で私の頚動脈を狙わないで」
「だったら早く歌いなさいッ」
「あれれ おかしいな このどきどきは~♪君の腕の中であふ~れ出す~♪
ポロリこぼれた涙さくらんぼ~♪もっとギュッとずっとしぃ~てて~♪」
「ほんとうにそれがロックなのぉ~?」
「そうよ水銀燈。私が水銀燈にウソを言ったことってある?」
「た、確かに今までのシンキ臭い歌とは違うわねぇ、それに…」
「それに、どうしたの水銀燈?」
「その歌を聴いていたら胸のあたりがキュンキュンしてきたわぁ~」
「ふふ、それが萌え、いや、ロックの力よ、水銀燈」
これがロックの力ぁ?こんなキュンキュンするようなことを、この水銀燈を
除け者にしてみんなで楽しもうって言うのぉ? 許せないッ!
絶対に許せないッ!! 真紅達の楽器を奪ってでも私もロックをするわぁ!!
うわぁッ、なんだ?なんだよ、今ものすごくイヤな予感がしたんだけど…
真紅達はバンドの練習をしているし、水銀燈とかいうのも帰ったのに、この
恐ろしいまでのイヤな予感は何なんだ………。
まさかこのイヤな予感が僕の想像を超えて展開されるとはこの時点では思っていなかった。
最終更新:2006年10月17日 00:54