Story 845 氏
僕は桜田ジュン。「RozenMaiden」の衣装コーディネイト担当だ。
衣装コーディネイトというのは、ただ綺麗な服を作ればいいというものじゃない。
そのデザインには、そのままバンドのコンセプトを形にすることが要求される。
だがその一方で、毎度毎度同じでもいけない。バンド自体の停滞をイメージさせかねないからだ。
「という訳で、今回のツアー向けには新しい衣装を用意した。ソロのコーナーではこれに着替えていってくれ」
*
「みんな今日もきてくれてありがとなのー!」
Illust 845 氏
まず、口火を切るのは雛苺だ。
今回のツアーコンセプト「破壊と新生」に沿って、メンバーそれぞれのイメージのあえて逆、一番遠いカラーを持ってきてみた。
「それで雛苺が黒ってわけぇ……?」
「でも、よく似合ってると思うよ。いつもの可愛らしさも殺してないし」
もっとも雛苺の場合、むしろソロコーナー用衣装としては、これこそが本来あるべき姿だった、とも言える。
「ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック
ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック
ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック
ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック
ファックファックファックファックファックファックファックファックファックファック!」
「出たぁ!黒苺さんの1秒間に10回ファック発言だ!」
「息継ぎしないなんて死ぬのが怖くないのか~!?」
小さな身体で、可愛らしい唇から迸るは、まさに戦慄の旋律。
「はぁ……あの歌い方は止めなさいと言ったのに……」
「すっかり定着しちゃったですねぇ」
つくづく、あの小さな身体のどこから、あのデス声が出てくるんだろう。
*
さて雛苺が口火を切った後、たたみかけるは水銀燈のギターソロ。
更にオーディエンスのテンションを、最高潮に引き上げて行く。
「銀様ァァァァァァ!!」
「罵ってくださァァァァい!!!」
いつもならそんな煽りが似合うところだが、フッ甘いな。
今日の水銀燈はひと味違うぜ。
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「……って、ピンク?」
「そう言えば、音もなんかちがくね?」
いつものテクニカルでアグレッシブな――それ故に、口の悪い評論家には「テクニック自慢でしかない」とも揶揄されがちな演奏ではない。
また、アンコールで時に聴かせる、アコースティックなそれでもない。
どちらかと言えば甘く、優しく、可愛らしいとさえ言える――それでいていつも以上の「毒」をも忘れないパフォーマンス。
「……銀ちゃん……かわいい……♪」
「見とれてるんじゃないです、お前も出番近いんだからとっとと着替えてくるです」
*
「じゃあねぇ……ばいばぁい……♪」
水銀燈のパフォーマンスが終わりを告げた。
いつもの締めの言葉も、いつもより少しだけ甘さを増しているように感じられる。
「さぁ、次はリーダーのベースソロだな」
「黒い雛タンに、カワイイ路線の銀様ときて、リーダーはどう来るかな?」
そろそろ、今回の趣向がオーディエンスにもわかってきたようだ。
やがてそのざわめきの中に、いつになく静かで、厳かなベースソロが流れ始める。
一瞬の静寂の後、スポットライトが当てられた、そこに居たのは――
Illust 845 氏
「リーダーキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
「レッドキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
「ちょwwwスカートwwwモエスwww」
_ ∩
( ゚∀゚)彡 スカート!スカート!
⊂彡
前の二人をしのぐ歓声。はにかみながらも、満更でもなさそうな蒼星石。
これまで蒼星石にはどこか、こういう女の子女の子したスタイルを自分から「諦めてる」感じがあったけど、これで少しは自信を持ってくれたかな?
演奏の方も、いつものウッドベースで奏でられるブルージィなものでなく、サイレントベースを駆使して、軽快なロックベースを聴かせている。
心なしか、いつもよりステージの少し前の方に立っていることに、蒼星石自身は気づいているんだろうか。
思った以上の効果に、僕も思わず頬が綻ぶ。
フッ、計画通り。
「……ジュン、その邪悪な笑顔は何?」
「ジュンは新世界の神なのー」
「???」
*
蒼星石のソロがゆったりと、その音を閉じていったかと思うと、
それに重ねて、今度はインダストリアルなフレーズが短い単位で繰り返し奏でられていく。
そのフレーズが少しずつテンポを上げていくと共に、ステージ中央に彼女が姿を現す。
Illust 845 氏
「ばらしーキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
「ちょwww生肩www」
「ばらしーwwwテラエロスwww」
「ハァ━━━━━━(*´Д`*)━━━━━━ン!!!!!」
いつものクリスタルピアノではなく、シンセサイザー。
それも、あえて電子的な音色を選び、打ち込みも多用しつつ、人間業とは思えない早弾きで、複雑な変拍子を織り交ぜた難解なフレーズを、軽々と弾きこなしていく薔薇水晶。
その非人間的とも言える演奏を、いままでになく露出を増やした艶めかしい衣装が引き立てる。
機械的なものと、人間的なものの対比が織りなす相乗効果。うん、これまた計画通り。ニヤリ。
「まぁ、ジュンもお年頃のオ・ト・コだったってことねぇ。気持ちはわかるわよぉ♪」
「ちがーーーーーーーーーーッ!」
「……まったく、本当に人間のオスは想像以上に下劣ね」
*
唐突に、薔薇水晶の演奏が終わる。まるでスイッチが切れたかのように。
続いてひときわスモークが濃く焚かれたかと思うと、その霧の中から、さながら遠雷のように、激しいドラミングが響く。
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「翠の子キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
「なんか着物っぽいのキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
_ ∩
( ゚∀゚)彡 振り袖!振り袖!
⊂彡
「おまえら待たせたですねー!
さぁ健やかにィー!のびやかにィー!ぶちかますですよーッ!
翠星石のドラムを聴きやがれーーーーーーーーっ!ですぅ!!」
いつもの要塞ドラムセットに、更に和太鼓まで加えた、パワフルなパフォーマンスが繰り広げられる。
ただ……正直に言うと、翠星石の衣装だけはちょっと不本意だったんだよな……。
「まだ拘っているの、ジュン」
「折角、蒼星石にスカートを穿かせたんだからさ……翠星石にはズボンで行きたかったんだけどなぁ」
「僕も説得してみたんだけどね。どうしてあそこまで頑なにスカートに拘るんだろう?」
「あの髪型にしても……ねぇ。ほぉんと、演奏のジャマだと思うんだけどぉ」
いや……まぁ、わかってるんだけどね。
ま、確かに、スカートを膨らませちゃった方が、目立たないもんな。
メンバー随一の、安産体型が。
*
翠星石のドラムパフォーマンスが最後のクライマックスを迎えると、
それに合わせて、ステージの一角にスポットライトが向けられた。
「ラストクル━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!」
「真紅様クル━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!?」
「真紅!真紅!真………………………………あれ?」
客席がどよめく。
ドラムが途切れた時、そこに佇むのは真紅ではなく――
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「……ばらしー?」
「ばらしーの番はさっき終わったじゃんよ」
「コスがさっきとも違う……てか眼帯逆じゃね?」
「キーボードじゃないのかー?」
オーディエンスの戸惑いと喧噪を余所に、「彼女」はおもむろにフルートを唇に当てる。
やがて流れ出すメロディの前に、次第に会場全体が静まりかえっていった。
彼女の名は雪華綺晶。薔薇水晶の姉にして、Rozenmaidenに詞や曲を提供してきた、影のメンバー。
そして――薔薇水晶の、もうひとつの姿。
最初薔薇水晶から「彼女」のことを聞いた時には、正直救急車を呼んだ方がいいんじゃないかと思った。それも黄色いやつ。
僕を含めたみんなの前で、薔薇水晶が眼帯の左右を入れ替えて――「彼女」が僕らの前に現れた、その直前までは。
「本当に、あいつをステージにあげちゃってよかったのか?」
「僕も危なっかしいとは思うけど、薔薇水晶……と、「彼女」のたっての希望だしね」
「これまでもあの子の音は私達の中にあったのだもの、あの子自身が皆の前に立つことを望んだのなら、
私達に拒む理由はないのだわ」
「だからって……」
「うや、でも自分から約束してたのなの。ぜったい歌わないって。だからきっとだいじょうぶなのよ」
「確かに……あれなら絶対歌えないわねぇ」
薔薇水晶が言うには、「雪華綺晶」の歌声は、時として非常に危険だそうだ。
聞いた人と「波長」が合ってしまうと、「効き過ぎる」とか何とか。
実際それがどういう意味なのか、それはわからない。
「ばらしーちゃんとの約束だから」とのことで、歌声を聞くことは叶わなかったから。
「彼女」が現れた途端、雰囲気も口調も、なにより声まで変わってしまったのには確かに驚いたが。
確かに、彼女の奏でるメロディは「圧倒的」だった。
翠星石のパフォーマンスによってヒートアップした心身を、冷え切った手で鷲掴みにされたような。
甘く、優しく、巧みにどこか遠くへ――二度と戻れない深淵の彼方に連れて行かれてしまうかのような、危険な魅力。
それは、そんな「音」だった。
――命だけは、助けてあげますわ。
後になって、オーディエンスはみんな、「彼女」の名前と共に、そんな言葉を思い返すのだった。
「彼女」は一言も発していないはずなのに。
*
ステージから「彼女」――雪華綺晶が姿を消しても、まだオーディエンスは静まりかえっていた。
正直、僕も身震いが止まらない。
そんな中に、どこからか響いてくる優しい音色。
Illust 845 氏
雪華綺晶が置いていった恐怖と狂気。
為す術もなく立ちつくすしかなかったオーディエンスを、金糸雀の奏でるヴァイオリンのメロディが優しく包み、癒していく。
「さすが……だね」
蒼星石が嘆息を漏らす。
いつも、
「頭脳派のカナは、ライブパフォーマンスとか疲れることはしないのよ。
あくまでも裏方に徹して、楽してズルして大もうけかしら♪」
とか何とか言ってはいるが、Rozenmaidenのメンバーみんなが知っている。
金糸雀の演奏テクニックと音楽的センスが、他のメンバーに全くひけをとるものじゃないことを。
それどころか、正しく「音楽」を学んできた知識については、メンバー以上だということを。
そして、そんな金糸雀こそが、一番疲れる仕事を一手に引き受けてくれていることを。
「はぁ……た、ただいまーかしら」
先ほどまでの張り詰めた静寂が嘘のように、熱気を取り戻したオーディエンスを背に、金糸雀がステージ袖に帰ってきた。
その金糸雀を、クラッカーの破裂音が出迎える。
「カナおっかえりぃ~!!!!!」
「み、み、みっちゃん!?さ、撮影はー……」
「もっちろんバッチリ撮りに撮りまくってるわよー!」
金糸雀の保護者、草笛みつ――通称みっちゃん。腕の立つカメラマンだ。
今度、Rozenmaidenの写真集を出すことになっている。
金糸雀が今回、ステージに立つことになったのは、他でもない彼女のたっての願いなのだ。
「はあああああん可愛いいいいーーーーっ!
夢にまで見たRozenmaidenとカナのコラボレーションー!
みっちゃん幸せっ……!」
「キャー!み、みっちゃんが倒れたかしらぁー!?」
「ちょっ……なんで翠星石の方に倒れてくるですかこのでか人間ー!
お、おもいですぅー!可及的速やかにどきやがれですぅぅぅぅーーーー!」
*
と、騒ぐメンバーの中に、スタスタと真紅が進んできた……と思うと。
「うるさい」
一喝と共に、その身を一回転。長い金髪が風を切る。
「へぶぅ!」
「キャーかしらー!」
「とにかく、みっちゃんさんを控えに運びなさい、急いで」
さらりと言うと、ギターを手にステージに向かう真紅。
他の面々は、失神したみっちゃんさんを抱えて、奥の控えに消える。
真紅は肩越しにそれを見届けると――ふと、立ち止まった。
「――ジュン」
「何だよ」
「抱っこして頂戴」
「……は?」
「してくれなければここを動かないわよ、ずっとよ」
思わず周りを見回す。
今、ここには僕と真紅の二人きり。
いつも毅然として、何事にも動じないように見える真紅。
だけど、僕は知ってる。
「……ダメなの?」
それは全部、本当の姿の裏返しで、本当は誰より、臆病で怖がり屋だってことを。
黙って、真紅を正面からそっと抱きしめる。
かつては恒例だった、真紅がステージに向かう直前の儀式。
初ライヴの時、メジャーデビューの時、初めてのTV出演の時……
「……やっぱり、相変わらず幼稚園だな」
「失礼ね!」
頭一つ低いところにある、真紅の顔を見下ろすと――澄んだ青い瞳が、僕を見つめていた。
やがてその瞼が、静かに閉じられ――
*
「二人続けてスペシャルゲストだったなぁ」
「あれが噂の第7ドール・雪華綺晶か……」
「二人目誰よ?」
「素人め、オールナイトVIPチェックしてないのか?
あれこそ薔薇乙女一の自称知性派、どじっこマネージャー金糸雀たんじゃねーか」
「カワイスwwwジャーマネだけやらしとくの惜し……」
Illust 845 氏
「真紅様キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
「大トリキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
歓声に包まれたステージ上には、いつも通り自信に満ちた、堂々たる風情の真紅。
「真紅が問うわ。薔薇の指輪に服従を誓う?誓うのなら───指輪に、キスを。」
ただ……その雰囲気がいつもより少し柔らかいように見えるのは、新しい衣装のおかげだけでもない、というのは……僕の贔屓目に過ぎるかな。
*
ちなみに、数分前のステージ袖。
「す……すごいのかしら……こんな危険な大人の世界があったなんて……」
「カナってばお子様ね、ヒナはとっくにこのスリルの味を覚えていたのよ……」
「……あ、キスした……」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!」×2
「ええい見えんですー!声を潜めて静かに観察を楽しみやがれですぅ♪」
「クスクス……みっちゃんさぁん、ちゃんと証拠写真撮ってるぅ?」
「ええもうもちろんバッチリ!やるなぁ、ジュンジュン♪」
「……つまり、このための気絶のフリだった、と……はぁ……」
おわーり
最終更新:2006年10月14日 14:52