ローゼンメイデンの中でも一際異才を放つ薔薇水晶。
彼女とローゼンメイデンはいったいどのようにして出遭ったのか?
そしてどのようにしてメンバーになったのか?その疑問を水銀燈はこう振り返る。
まだ睡眠を欲しがる体を無理やり起こしてリモコンを手にするとTVをつける。
画面からは女性アナウンサーが笑顔で芸能ニュースを報道している。
「ローゼンメイデンのニューシングルはオリコン初登場1位です。これで
彼女達が出した4枚のシングル、2枚のアルバムも全て初登場1位の快挙」
どうやら私たちが3日前に出したシングルがオリコンで1位になったのを伝えているようだ。
私はそんな番組の声を聞きながらベッドから降りると大きなあくびをしながら洗面所に向かう。
歯ブラシをくわえながらカガミに映った自分の顔をマジマジと見てみる。
はぁ~、疲れた顔ねぇ~。眼の下にクマが出来ちゃってるわぁ…
デビュー直後から絶賛の渦を巻き起こした女性だけのロックバンド、ローゼンメイデン。
そんな彼女達を取り巻くマスメディアや大勢のファン達。
秒刻みで進行するローゼンメイデンの日常に少し疲れた顔をした水銀燈は歯を磨き終わると冷たい水を両手にためて顔を洗った。
私はタオルで顔をふきながらキッチンに行き、一人暮らしには少し大き過ぎる冷蔵庫のドアを開けお気に入りのヤクルトを10本ほど一気に飲み干す。
美容と健康に乳酸菌は欠かせないためヤクルト一気飲みは毎朝の日課になっている。
もちろん一気飲みするさいのポーズは腰に手を添えるのは言うまでもない。
このポーズは乳酸菌を摂取する際にもっとも効果的なポーズであると私は信じている。
そのためなのか寝起きにみた眼の下のクマもヤクルトによって完全に消えていた。
さて、今朝はTV局での収録がまっている。そろそろ出かけないと真紅にまた小言を言われてしまう。私は急いで服を着ると始発の地下鉄に飛び乗った。
もう、最低ぇ~~って感じぃ?
どうやらマネージャーの金糸雀がスケジュールを間違って私に伝えたらしくTV局についた私は待ち時間が3時間もあることに気付いた。当然他のメンバーはまだ局に来ていない。
はじめの1時間は携帯で金糸雀に文句を言うのに使ったが残り2時間は何をしようか時間を持て余してしまう。
そう言えば確か局の近くにトロイメントって言うシャレた可愛い喫茶店があった。そこでモーニングでも食べよう。
私はTV局の裏側にあたる小さな通りを歩いて目的のトロイメントに入っていった。
「……ヘイ、らっしゃい…」
んッ? 私は自分の耳を疑った。このプチログハウス風のシャレた喫茶店で寿司屋のような掛け声を聞いたからだ。
しかもその言葉を発したのは私と年齢もさほど変わらない若い女性だったからなお更のことである。
多分まだ疲れが完全に取りきれていないのだろう。そう思った私はその女性が持ってきたモーニングのメニューに目を通す。
Aセットはトーストにコーヒー、それにスクランブルエッグとサラダ。
Bセットはクロワッサンとコーヒー、ベーコンにゆで卵。
Cセットはトーストにオレンジジュース、目玉焼きにソーセージ、それとヨーグルトが付いている。
「Cセットをお願いするわぁ」
ヨーグルトと言えば乳酸菌がたっぷり入っているはず。
私は迷わずにCセットを注文した。
「……おk…把握したw……」
へッ? 今何て言ったのこの娘? 把握したぁ?
どうやら私の聞き違いではないようだ。どうもこの子は少し変わったところがあるように思える。
しかし言い方が少し変なだけで別段変わった所など見受けられない。
それどころか私達ローゼンメイデンのメンバーの中にいても違和感がないほどの顔とスタイルをしている。
メニューを下げて奥へと消えていく彼女は私のほうを振り向くとニコッと愛らしい笑顔を見せて微笑んだ。
どうやら私は彼女を誤解していたようだ。あんな屈託のない笑顔をする少女に悪い人などいるはずもない。ただ言葉使いが変わっているだけだ。
そう思った私は週刊誌を手に取るとパラパラとページをめくっていた。
「…ヘイ、C定食お待ちッ……」
えっ、CセットじゃなくてぇC定食ぅ?
彼女の声に驚きながら私は読んでいた週刊誌を置くとテーブルに目をやった。
なんとそこにはテンプラうどんとカツカレーが置かれていた。
しかもテンプラうどんを持つ彼女の親指は第一関節まで汁に浸かっているではないか。
「…お熱いうちに…めしあがれ!」
そう言い残すと彼女は何故かテンプラうどんとカツカレーが置かれた横にケチャップを置いて奥へと消えていった……。
………何ぃ、コレぇ…?
私はテーブルの上に置かれたテンプラうどんとカツカレーを前に声を失った。
しかも横に置かれたケチャップの意味が解らない。それどころか私を一番驚かせたのはテンプラうどんに入っているエビのテンプラに刺さっている国旗である。
あのお子様ランチにお決まりのように刺さっている小さな国旗がエビのテンプラに刺さっているではないか。
私は指先でその国旗をつまみあげていると近くの座席からヒソヒソ声が聞こえてきた。
「おい、あれ、ローゼンメイデンのギターを弾いてる水銀燈じゃねぇ?」
「うわっ、本当だ。でも見ろよ朝から凄ぇ食欲だぜ?」
「なんか国旗持ってるよ…」
違うのよぉ、私はこんなの注文してないわぁ! そんな大声が出そうになるのを我慢した私は先ほどの娘が消えて行った方を睨みつける。
居た!!あの子は奥から顔を半分だけ出して私を見ていた。
私と目が会ったその娘はなぜか頬をポッと赤く染めると隠れるように顔を引っ込めた。
き、気持ち悪いわぁ~。なぁに、あの子…
他人の目と不気味な娘に私は早急にこの店を出ることにした。
幸いにもレジには先ほどの娘とは違ういたって普通っぽい子が担当していたのが救いだった。
ただお金を払う際にモーニングメニューに記載されていた金額を請求されたのが気になった。どう考えてもテンプラうどんとカツカレーで380円は安すぎる。たぶんあの娘は本当に勘違いをして料理を出したのだろう。
そう考えながら私は収録が行われるTV局に向けて歩き出した。
「……ちょっとお客人…お待ちになって…ベイベー…」
こ、怖い。私の背後からあの娘の変な声が聞こえてきた。これはヤバイ感じの新手のストーカーか?そう思った私の背中に冷たい汗が一筋落ちる。
しかしここでビビッても格好がつかない。私はこう見えても本格派ロックバンド、ローゼンメイデンのギタリスト水銀燈なのだ。だてに最凶を背中に背負ってはいない。
「なぁにぃ~?」
私はやや不機嫌な雰囲気を出しながら振り返ってみた。
するとそこにはアニメイトの袋をさげたあの娘が立っている。しかもやや緊張していると取れる表情を浮かべた娘はモジモジとしながら震える手でそのアニメイトの袋を私に差し出した。
「デビューの時から…ファンでした…これ…ぷ、プレゼントです…受け取ってください」
そう言うと私の胸にアニメイトの袋を押し付ける形でプレゼントを渡すと彼女は足早にその場を去っていった。どうやら私は考えすぎていたようだ。
彼女はただ私のファンだったようで、あのテンプラうどんもカツカレーも彼女なりのサービスだったようだ。
不機嫌な態度で接した自分に少しだけ反省しながら私は局に戻るとまだ時間に余裕があるためローゼンメイデン用に与えられている控え室で横になることにした。
私は用意されているお茶を飲みながら先ほどの娘がくれた袋の中身をテーブルに広げてみた。驚愕、唖然、そんな表現が私を襲う。
なに、なんなのコレ?
袋の中には爪楊枝、マイナスドライバー、シャープペンシルの芯、餃子の大将のギョウザ割引券、何の変哲もない電卓、テッシュに包まれたかっぱえびせんが3個、そしてCD-Rと手紙が入っていた。
私は震える手でその手紙を読んでみた。
拝啓、水銀燈お姉様へ
いつもTVやラジオでお姉様の活躍を見ています。
私はいつもカッコイイお姉様に憧れて味噌ラーメンやモツ鍋を想像しています。
私はいつもラー油は3滴入れるのですがお姉様はプリンは好きですか?
私はスニーカーよりブーツのほうが好きです。
なんだか難しい政治の話を書いて申し訳ありません。
これは私が10分前から大切にしていた宝物です。
どうかお姉様が事故などに会わないようにとプレゼントします。
それと同封のCDは私が作ってみたオリジナル曲です。
まだまだローゼンメイデンのようなカッコイイ曲は作れませんが
どうか聴いてみてほしいです。
最後にジェット気流のような目薬の願いをこめて 薔薇水晶より
……?????? なに?手紙の意味が解らないわぁ~~!!
私は手紙を放り投げるようにテーブルに置くと何か恐ろしいものから逃げるように控え室の壁に背中を押し付けていた。 つづく
最終更新:2006年11月17日 00:04