アットウィキロゴ
Story  ID:89JHlyHYO 氏(109th take)
ブーン…ブーン…

「もぅ…何よぉ……朝っぱらから……」

携帯の着信。私はベッドから起き上がり、寝ぼけ眼で電話に出た。

「もしもしぃ?…」

『もしもし。おはようかしら。やっと起きたかしら』


相手はRozen Maidenマネージャー金糸雀。

『今日は今から取材があるかしら』

「分かってるわよぉ…」

『早く支度しておくかしら。時間までに迎えが行くから、ちゃんと遅刻しないで来るかしら』

「はいはぁい…」


金糸雀もマメねぇ…
仕事だから仕方ないけど。

私は電話を切ると、シャワーを浴びる。
一気に目が覚めた。

朝食は摂る気にならない…

しかし、これだけは欠かせないわぁ。

そう……ヤクルト!
私は毎日飲んでいる。

「ごく…ごく……ぷはぁ…!」

やっぱり朝一の乳酸菌はイイわぁ!




支度を終え、迎えの車に乗り込む。
そういえば、今日は私と雛苺という珍しい組み合わせでの取材。

今日は“パンピーなローゼンメイデン"っていうコンセプトらしい。
なかなか目の付け所が違うというか……

企画を考えたのは向こうの雑誌のライターさん。
インディーズの頃から私達に注目してくれていて、付き合いも長い。ローゼンのことをよく理解してくれている…
信頼して仕事が出来る相手。
ちょっと変な人だけどぉ…

現場に着くと、雛苺がすでに待っていた。

「おはよう。雛苺ぉ」

私は少し気怠そうに言った。

「おはよーなのー!水銀燈!」

「朝から元気ねぇ……」


と、ここで私はある異変に気付いた。
いつもなら、もう一人口やかましくて元気なのが出迎えるはずよぉ?
でも、いない……

「あらぁ?そういえばぁ、金糸雀はぁ?」

「それがまだ来てないみたいなのよー」

そんなのありぃ?


「あの子……私にあれだけ言っておきながら自分が遅れてるのぉ?………」


来たらどんな辱めにあわせてやろうかしらぁ……

撮影のため、メイクを始める。衣裳はいつものような暑苦しいのじゃなくて、私服に近い感じだった。


そして、メイクを終えても金糸雀は一向に来る気配が無い。

流石に心配になって雛苺が直に電話したけど、それにも出なかった。

雛苺はさらにスタジオにいる真紅にも電話したが、そこにもいないらしい…


本当に何かあったのかしらぁ……
と、思慮を巡らせていると


「ぐっもーにん!!エビバディー!!」


………っ!

「………っ!」


スタジオ中に響く聞き覚えのある男の声。
私達はその声を聞いた瞬間、絶句した……
今までの思考が停止してしまった。


その声の主は……

「Oh!ヒナちゃん!銀ちゃん!逢いたかったyoー!」

我がRozen Maidenが所属する事務所“N'sレーベル"社長、槐社長その人だった…

これは悪夢だわぁ…


社長は私達の姿を見つけるや否や、まず雛苺に抱きついてきた。

「Oh!ヒナちゃん!銀ちゃん!逢いたかったyoー!」


次に私を抱きしめようと視線をこちらに移してきたので、私は思い切り殺意を込めて見つめ返してあげた。
やったら、ただじゃおかないからぁ……!

すると、私の念が通じたのか抱きしめては来なかった。
その代わり、無駄に爽やかなアイドル張りのウィンクを返してきた。

なんなんだ……


「なんで社長がここにいるのぉ?……」



聞けば社長は日々忙しい金糸雀に休みを与えて代わりに自分がマネージャーとしてやってきたと言った…

金糸雀ぁ……帰ったら折檻だけじゃすまないわよぉ……!

突然の社長の登場で、現場は異様な緊張感に包まれた。


そんな中、撮影は順調に進んでいき……


「はい!OKでーす!」

「お疲れ様でした~」


ここですんなり終わるはずだった…


「今日はいつもと違う感じで面白いのー」

「そうねぇ。雛苺とペアっていうのも新鮮だし、衣装もラフな感じだしぃ」


私は一服しようと煙草を取り出し火を点けた。


「おいおい、これで終わりかい?どうせなら、もっとDangerousなことをしようyo!」

「そう言われましても……」(スタッフ)


何やら社長とスタッフの困った声が聞こえる。

頼むから大人しくしてて頂戴よぉ……

「ちょっと社長、何がしたいのよぉ?困ってるじゃなあい皆」

私は煙を吐きながら社長に言った。


「なんでも、今回のコンセプトは“パンピーなローゼンメイデン"というじゃないか」

「はい、そうですけど…」(スタッフ)

「だったらもっと、庶民的な画が欲しいと思わないかい?!」

「はぁ……」(スタッフ)


「あのぉ、この人無視しちゃっていいわよぉ?次、いきましょう……」

「Wait!銀ちゃん。待ってくれ……」


なんで一回英語で言ったのぉ…?


「なんなのぉ?…いい加減にしなさいよ、社長」


「そうだ!!いいIdeaを思いついたyo!」

社長は手をポンと付いて声をあげた。


「……な、何よぉ……?」

恐る恐る私は訊いた。
現場にいた皆の視線が社長に集中する。



そして、次の瞬間私達は思いも寄らぬ言葉を耳にした……

私達は取材を終え、なんとか無事にスタジオに帰ってこれた。


…え?あの後社長が何を言ったかって?

そんなことは忘れなさい!
あれは私の記憶から消したのよ。
あってはならないのぉ。
私の歴史から無かったことにするのよぉ…


なんで私があんなこと………
あぁ、思い出しただけでも寒気がするわぁ…


だから皆も忘れなさい。これ以上私を疲れさせたくないのならぁ…分かったぁ?



「ただいまなの~……」

「お疲れ様ぁ……」

私と雛苺は荷物を手に下げていた。社長が最後に大量のヤクルトと苺大福をくれた。
言っとくけど、これだけで今日のフォローになってると思ったら大間違いよ、社長。

「銀ちゃん……おかえり」

ばらすぃーがまず私の所へ歩いてきた。


「ただいまぁ……」

「あ!トランプしてるのよー」

「トランプぅ?…」

私は眉をしかめ雛苺の指差すテーブルの上に視線を向けた。

そこには私のくんくんトランプが、いかにも今ゲームが終わったという感じに山札と手札が置かれ、
それを翠星石が崩して混ぜようとしていた。

「……あなた達……」


いい度胸ねぇ…
私があんなに辛い仕事をしてきたっていうのに、あなた達は呑気にトランプ~?

見ればそこには、私をあんな目にあわせた原因の一人、金糸雀の姿もしっかりと在った。


まさか…あなたまで遊んでるなんてぇ……

さあて、どんなお仕置きをしてあげようかしらぁ……
私は金糸雀に歩み寄ろうとした。


しかし、私は動きを止められた。

「銀ちゃん……こっち来て…」

ばらすぃ。
ばらすぃーが私の服の裾を引っ張ってくる。

「え?ちょっとぉ…待ってよ、ばらすぃー…」

「来て……」

なんて強い力なのぉ…!
私の意志を無視して、無理矢理ばらすぃーが私を連れて来た場所は、ピアノの置いてある彼女専用の部屋だった。


「どうしたのぉ?…」

私は疲れきった声で訊いた。

「曲が…出来たの……聴いて欲しい……」

突然ねぇ……
まぁこの子の場合いつも突然だから慣れてるけど…


「…分かったわぁ……」

私は溜息をつきつつ側にある椅子に腰掛けた。

ばらすぃーもピアノの前に座り、曲を弾く態勢に入った。

演奏が始まる。


私は目を閉じ音に集中した。



~♪~~♪~~♪

何?……この旋律…

身体が徐々に光に包まれていく浮遊感…
ゆったりとしっかりと音が波紋の様に心に響き渡っていく…

~♪~~♪~~♪

すでに私はさっきまでの怒りや疲れをすっかり忘れ去っていた…

~♪~~♪~~♪

ばらすぃーの指が奏でるそれは、正に癒しのメロディだった。

演奏終了。


気付けば私は目から涙を零していた…

「銀ちゃん……」

彼女は私の顔を見て、少し驚いているよう。

「……凄いわぁ…」

パチパチパチ…
私は手を叩く。


感動した……

この私をここまで癒やせるばらすぃーは凄い…
本当に凄い…!

私の中に溜まっていた汚いものが一気に浄化された気がする。

私は涙を拭って言った。

「この曲、私が詩を書いてもいいかしらぁ?」

「うん……銀ちゃんに…書いて欲しい…」

「ありがとう…好きよぉ、ばらすぃー」

私はばらすぃーを引き寄せて、その白い頬に軽く…

「ちゅっ……」

口付けた。

「銀ちゃん……大胆……」


ありがとう…ばらすぃー



その後、気分を良くした私はトランプに参加した。
金糸雀は不思議そうに私の顔色を伺っていたけど気にしない。
ばらすぃーに感謝しときなさぁい金糸雀。

最終的に真紅や衣装合わせで来ていたJUMも加わってローゼントランプ大会となってしまい、仕事そっちのけで盛り上がった。


ま、こういうのも悪くないわねぇ…ふふふ


その夜…

私とばらすぃーはスタジオに残り未だトランプをしていた。
していたって言うより、してもらっている…

そう、何故か今日はどうやってもばらすぃーに勝てない……

一体どういうことぉ?
この私が負けたまま帰るわけにはいかないわぁ…!


「銀ちゃん……まだやるの?……」


諦めて、というような表情でばらすぃーは言う。

「当たり前よぉ!このまま負けて終われないわぁ……もう一回よぉ」

勝負しているのはスピード。
そう他のゲームならまだしも、速さで人に負けるなんて許されないのよぉ……



「あぁ!また負けたわぁ……もう一回よ!!」


今度こそぉ…!

スパスパスパっ!(←カードを置いていく音)


イケる!…これなら勝てるわぁ!


スパスパスパっ!


2!…3!…2!…1!…13!


「やっと勝ったわぁ!!」


私は思い切り我が勝利を喜んだ。

ばらすぃーは、一体なんで?というはてな顔をしていた。


水銀燈をナメないでちょうだあい…

「うふふふ…これでスッキリして帰れるわぁ」

ふと時計を見ると日付が変わっていた。


「あらぁ……もうてっぺん過ぎてたのねぇ…」


満足した私はスタジオを出て、ばらすぃーと別れ帰途に着いた。

そして、シャワーを浴び気持ち良く眠りに就いたのだった。







翌日……

“今日は負ける気がしないわぁ"

朝起きた時、なんとなくそう思った……


最終更新:2006年11月29日 17:36