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翠星石はまっすぐにこちらを見ている。視線をそらすことはない。
蒼星石も翠星石の瞳を見据え、答えの言葉を待つ。
本気の問いには、本気で答える。
その信頼を、姉妹の間で違えたことは無い。
やがて妹の問いに答えるべく、翠星石は口を開いた。
「本気です」
きっぱりと、言う。
迷いの無い翠星石の言葉に、蒼星石はさらなる問いを重ねる。
「何故、バンドなの?」
さっきも同じことを訊いた。
だが今は問いの持つ意味が違う。
蒼星石の問いかけに対し、やはり翠星石も先ほどとは違う言葉で応える。

「昨日のお昼休み・・・・・・私が言ったこと、覚えてますか、蒼星石?」
忘れるはずがない。頷くと翠星石は話を続ける。
「私は・・・・・・最近そのことばかり考えていたです。
 自分の将来とか、そういう話もありますけど、そのもっと手前というか。
 近く。そう、もっと近くに、自分が触れなければいけない何かがあるような気がしていたのです。
 それが何なのかはわからなかったです。今でもまだわからんですけど、
 音楽の話は、私にとってその『とっかかり』のようなものなのです。
 少なくとも、無関係じゃない何か。
 趣味とか興味で終わらせてしまうのは簡単ですけど、私にとって、
 『つながっている』と思えることはそんなに多くないのです」
翠星石は一旦言葉を切り、おもむろに傍らの『ROCK ON』を手にとって見つめる。
「今日、帰ってきてから音楽を聴いていて思ったです。
 ここには何かがあるです。
 私の胸を打つ音楽があって。そこにはきっと何かが。
 私は・・・・・・それを聴いているだけではないはずだと、感じたのです。
 それが何なのかを自分は確かめるべきなのだと、そう思ったのです。
 彼女のインタビューは、そういう風に私が思っていることを、うまく言葉にしてくれているようで・・・・・・」
「それで、自分も『やってみるべきだ』と感じたんだね?」
「そうです。その通りです」

しばしの沈黙。
翠星石はうつむいて床を見ている。
その様子は自分の言葉に揺らいでいるようにも見える。
改めて言葉にすると不確かになるもの。
その所在を自分の中に確かめようとしているのかも知れない。
だが蒼星石には確かに伝わった。
翠星石の気持ち。
翠星石が感じたこと。
そしてそれを理解したならば、自分の答えは決まっている。
昨日の晩に。あるいはとっくの昔に。
すると沈黙を否定の意志と受け取ったのか、翠星石が不安げに口を開く。
「あの、確かにさっきは調子に乗って色々と話が飛躍したかもしれないです。
 まして経験なんてないですし、実際何から始めたものか。始めたってうまくいくかどうかもわからないし、ないない尽くしの前途多難、果てはニートかフリーター・・・・・・」
「やろう」
「そう、やるです。けれども私には・・・・・・え?」
きょとん、とこちらを見つめる翠星石。 。
蒼星石はもう一度、確かな決意を込めて、言う。
「やろう翠星石。何ができるかわからないけど、君が望むなら」

今度は聞こえたのだろう。翠星石はしばらく瞬きもせずに蒼星石を見つめていたが、
やがてその表情に花が咲いたような笑みが浮かぶ。
「ほ、ほんとですか蒼星石!一緒に、やってくれるのですか!?」
「もちろん。翠星石が本気だってことはわかったよ。だったら僕にも手伝わせて欲しい。
 僕にしたって何もわからないようなものだけど、それでもわずかなりと君の力になりたいと思う」
「その・・・・・・私楽器なんてやったことないですよ?」
「僕だって無いよ・・・・・・ってフォローになってないね。今から始めたっていいじゃないか」
「メンバーどころか、何をやるのかもまだわからないです・・・・・・?」
「とりあえずみんなに話してみようよ。真紅なんてピアノとかけっこう弾けたと思うけど」
「またすぐに飽きたり、みんなを困らせたりするかもです・・・・・・」
「そんなことない・・・・・・とは言い切れないけど、もっと自分の選んだことに自信を持とうよ。それともきみの想いはそんなものなの?」
「いえ、決してそんなことは・・・・・・!」
「なら、いいじゃない。始める前から色々なことを心配してたら、きりがないよ」
「ほんとに、ほんとに、いいんですか・・・・・・?」
「もちろんだよ、って、僕だってどの程度力になれるかわからないんだから、そんなに期待されても困るんだけど・・・・・・」

そういったやりとりのあと、翠星石はしばらく「あぅ・・・・・・」とか「にゅぅ・・・・・・」とかよくわからない声を出しながら口をぱくぱくと動かしていた。どうも言いたいことが言葉にならないらしい。両手をばたばたと身体の前で動かしている。
すると感情を持あましたのか、翠星石はベッドから飛び上がるようにして蒼星石の首に抱きついてきた。
「うわっ、危ないよ翠星石!」
危うく椅子ごと後ろにこけそうになる。
だが翠星石は気にした様子もない。
「蒼星石~~!!ありがとです~~!!やはり持つべきものは双子の妹ですぅぅぅぅ!!!」
言いながらうりうりうりうり、と頬をすりつけてくる。
「翠星石、や、くすぐったいよ」
制止の声にもやめる様子はない。
ま、いっか。
何はともあれ、今後の行動はある程度決まってきた。
結果はどうなるかわからないけど。
(これで良かったんだよね・・・・・・)

そう。この選択は翠星石のためだけではない。
蒼星石もまた、姉を通して何かとつながる可能性を選んだのだ。
これは翠星石だけでなく、自分にとっても何かを見つけるチャンスなのかもしれない。
蒼星石には、翠星石ほどの切実な感覚。強く何かを求める気持ちは、今はまだ無い。
だからこそ、自分からそれを探ってみようと思う。
何もしないことには、何も始まらないのだ。
(それに――)
結局。
自分がこの姉を放っておけるはずがない。
一人でやらせたら、何をしでかすかわからないのだから。
(全く、困った姉さんだよ、君は・・・・・・)
そこまで考えたところで、蒼星石は徐々に自分に抱きつく翠星石の姿が霞んでいくことに気づいた。
(あれ・・・・・・?)
どうやら翠星石の肩と腕で首ががっちりとホールドされていたらしい。
呼吸が止まっていたのだった。
そのことにようやく気づいたらしい翠星石が、驚愕の表情でこちらの肩を揺さぶり始めた。
蒼・・・・・・!・・・・・・石!!・・・・・・しっかり・・・・・・るです・・・・・・・星・・・・・・!!
翠星石が何か言っている。しかしはっきりと聞き取ることができない。
落ちてゆく意識の中で、最後に蒼星石が見たのは光の中からこっちを呼ぶ和樹くんの姿だった。

10分後、意識を取り戻した蒼星石は和樹くんから翠星石へ30項目に渡る伝言を記憶していた。
「『もっとやさしく』、ってどういうことですかぁぁぁぁぁぁ!!
 まるで私が蒼星石をひどい目にあわせてるみたいですぅぅぅぅぅぅ!!」
「控えめに言って僕以外にはやらない方がいいのは確かだと痛い痛いそうそうこういうこととか」

夜更けまで騒々しいふたり(騒々しいのは主に片方だが)。
その傍ら、開きっぱなしの『ROCK ON』今月号の特集、
『ANT PLAN』のヴォーカル、トレジャー・マップへのインタビュー記事。
その最後の一文にはこうあった。

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――では音楽を志す全ての人に何かメッセージを一言。

T「とりあえずやってみることだよ――



~始まりは翠星石 無責任発言大風呂敷~ 了



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最終更新:2006年12月07日 17:35