Story ID:xFLpI34EO 氏(124th take)
あるイベントにバンド演奏で参加する事になった。そのイベントというのは、真紅達の地元の音楽祭の様なもので、出演料は無料。こいつぁいいやと参加を申し出たはいいが、出演層を見て、真紅達は愕然とした。
「…若者のにおいがしないですぅ…」
リハーサルを終えた時点で気付いた。
若手がいない。
若年層からの出演は現役女子高生バンド、ローゼンメイデンだけ。
後は、なんというか、お父さんの匂いがするというか、なんか、ところどころに天国への階段を昇ってしまいそうな方々の姿まで見える。
「こんな客層の前で演るのは初めてなのだわ」
リハーサルを終え、控え室に戻り、真紅が言った。
「こんなオジジやオババ達相手にいつも通りやってたんじゃ太刀打ちできんですぅ!セットリストを大幅に変更するですぅ!」
いつもローゼンメイデンが相手にしているのは、やはり同年代の若者が多い。となると、曲は自然に、流行も手伝って、耳障りのいいパンクナンバーになる。
だがそれは年代が高ければ高いほど通用しにくくなる。
リハーサルで、ハードロックバンド一組とフュージョンバンド一組が目に付いた。
このバンドの前でパンクナンバーを披露して、
「まだまだ若いな」
とか思われるのが我慢ならない高二病全開な真紅以下7名。
「さんせぇい。練習してたけど今まで出来なかった曲をやりましょうよぉ」
水銀燈が翠星石の後に続く。
「いいわ。私たちの実力を見せつけてやるのだわ」
「LOST IN HOLLYWOOOOOOD!!!!」
半端ない。
イベントが始まり、それがローゼンメイデンの最初の感想だった。
おっちゃんバンドを甘く見ていた。
熟練の技、とでも言うのだろうか。
「やっぱりスゴいね…」
一組目のハードロックバンドを見終え、蒼星石が誰にともなく言った。
「やっぱり経験値が違うわよねぇ」
あの水銀燈ですら認める上手さ。おっちゃんバンドの実力とはそれほどのものなのだ。
「ボヤボヤしてられないのだわ!次は私たちの番よ!みんな、セットリストは頭に入ってる?」
入ってる。少々無理はあるが、やってみる価値は十分にあるセットリストはバッチリ頭に入ってる。
「ここでリーダーからメンバーに激励ですぅ!」
急にフられて焦る蒼星石。
「えっ…?あ、えー、諸君、私はロックが大s(ry」
「翠星石達の実力を見せつけてやるですぅ!」
大演説を途中で切られヘコむ蒼星石。
それを笑う水銀燈と薔薇水晶。
へんに意気込んでる真紅、雛苺、翠星石。
セットリストの変更に、成功を祈る金糸雀。
蒼星石はふと、このバンドはずっと一緒なんじゃないだろうか、そんな気がした。
「~♪~♪」
静寂が支配するステージを、水銀燈が切り裂いた。
誰もが聴いた事のあるイントロで。
不倫の歌でありながら、有名すぎるラブソング。
「layla!!」
真紅の声が響き渡る。会場にいる誰もが予想しなかっただろう。まさか女子高生のバンドがデレク&ザドミノスをコピーするなど。
だがローゼンメイデンはまだ予想を裏切る。
二曲目。
「I went down to the crossroads~♪」
CREAMの歴史的名演、crossroads。
本家の倍の人数での演奏ならではのゴージャスなアレンジ。
会場からは「おぉ」っと歓声があがる。
三曲目
ロックファンの間では常識とまで言われるギターリフを奏でる水銀燈。
「BURRRRRRN!!!!」
真紅と雛苺の見事なハーモニー。
そして誰もが薔薇水晶と水銀燈に、ジョン・ロードとリッチー・ブラックモアの影を見た。
「君ギター上手いねぇ、よっぽど練習してるでしょー」
「あらぁ、そうでもないわよぉ♪」
「君達みたいな若い子がよくあんな曲知ってたねぇ」
「なかなか渋いベース弾くじゃないか」
イベント終了後、おじさま連中にやたら声をかけられるローゼンメイデン御一行。
メンバーは終始笑顔だ。
そんな光景を見て、蒼星石は思った。
どんなセットリストでも出来る、安心して弾けるバンド。
出来ればずっと一緒にいたい。
ううん、ずっと一緒に演っていける、と。
最終更新:2007年01月13日 04:50