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Story  ID:BQNEWtNU0 氏(4th take)

扇情的、かつどこか攻撃的な水銀燈のギター。
心の葛藤を紡ぎ出す、真紅と雛苺のヴォーカル。
蒼星石のベースが控えめに、しかし確りと全ての音を纏め、流れを導くように翠星石のドラムスが加速してゆく。
クライマックスに向け、徐々に曲は盛り上がる。
薔薇水晶のキーボードが、最後の一音を紡いだ。




「おつかれさまーなのー!」

まだまだ元気が有り余っている、そんな風情の雛苺。
ぽふん、と音を立てて椅子に座り、紅茶のボトルを手に取った。
備え付けの紙コップにを人数分取り、注いでゆく。

「お疲れ様。雛苺、いい加減ガラガラ声はどうにかならないの?」

こちらは真紅。先日の一件以来事あるごとにデスヴォーカルを試す雛苺に、少々疲れ気味なようだ。
決してふざけてやっているわけではないので、余計に性質が悪い。

「うぃー?真紅、ダメなのー?」
「前に言ったでしょう?喉を壊すから止めたほうがいい、って」

頬に人差し指を添え、首を傾げる。
雛苺のそんな仕草は、一部の男性ファンに熱狂的に支持されているのだがそれは別の話。

「…………は○みつキンカンのど飴……ある」

いつの間に取り出したのか、飴のパッケージを手に薔薇水晶。
蜂蜜は喉にいいのだが、喉飴を食べ過ぎるのもどうかと思う。

「あらぁ、いいじゃないのぉ。私達のバンドに足りないのは破壊衝動よぉ?」
「それなら水銀燈がやればいいです。チビ苺がやっても迫力ないです。」
「迫力っていうより、イメージが違いすぎるから…雛苺は、そういう破壊的なのは合わないよ」

ふふふふ、と笑う水銀燈に0.1秒で突っ込む翠星石と蒼星石。
最早この光景は日常であり、ジョークなのか本気なのか解らない水銀燈の物言いにも的確に反応する。

「水銀燈がやると洒落にならないかしらー!!」
「あらぁ…金糸雀、それはどぉいう意味ぃ?」
「ひえー!水銀燈が怒ったかしらー!!」
「金糸雀と水銀燈、仲良しなのー!ヒナもヒナもー!!」

ギロリと金糸雀を睨む水銀燈と、自分で言っておいて萎縮する金糸雀。
そして何を勘違いしたのか雛苺はコップを置いて二人に特攻する。
これもまた日常風景で、音楽における真剣な議論以外は常に曖昧になるのだ。

「ところで」

紅茶を飲んでいた真紅が口を開いた。赤を基調にした服が白い肌に良く映えている。

「翠星石、テンポを落としたときのタムの音色にばらつきがあるわ。苦手なのは解っているけど、私達はプロなのだから」

スローバラードを演奏する時の弱点が翠星石のドラミングだった。
これとは逆に、雛苺はハイテンポな曲が苦手である。
ツインヴォーカルとは違いドラムスは一人であり、カバーするには本人の技量を上げる他なかった。
見かねた蒼星石が「スローバラードの時だけ代わろうか」と提案したが、蒼星石愛用のべースではネックが太すぎて翠星石の指が届かず、結局流れてしまった。
なんだかんだで、それぞれのパートは代えが効かないのである。

「う、うー。正論には返す言葉もねぇです。どうしたら上手くできるようになるですかねえ…」

珍しく素直に答える翠星石。
普段は屁理屈上等な受け答えをするのだが、メンバーの共通点として「音楽に関する事」に関しては必ず真摯に向き合うというものがある。
翠星石も指摘された弱点は自覚しており、またそれ故に悩みの種でもあった。

「翠星石は不器用よねぇ。いっつもプレイが激しいだけで、優しくできないなんて。ふふふ、ほぉんと不器用」

水銀燈の薄く嘲るような笑いは、癖というよりももっと根本的なものである。
なにしろメディアの取材で「笑顔下さい」と言われてもこの笑いが浮かぶのだ。
それゆえに雛苺とはまた別の方面で大人気なのだが、これもまた別の話。

「う、うるせぇです水銀燈!水銀燈だって、ソロで失敗してたじゃないですか!翠星石はまるっとお見通しですよ!」

びし!と人差し指を突きつけて反撃した。
滅多に失敗しない水銀燈なのだが、今回は珍しくコードをミスしていた。
それを指摘され、笑みが消える。

「翠星石に言われるとは思わなかったわぁ。ナマイキねぇ……」

ギスギス。
そんな擬音語があたりを飛び交っている。
罵りあいの予感を感じ、蒼星石が大きな溜息をついた。

「二人ともやめなよ。不毛な事したってなんにもならないよ?」

二人の間に割って入り、仲裁する。
これもまた日常の風景であり、トラブルはほぼ蒼星石は解決するといっても過言ではない。ある意味、一番の苦労人だ。
二人ともこのあたりが解っているのか、それとも元々それほどやる気がなかったのか、あっさりと引き下がった。
「やれやれ…」と座っていた椅子に戻り腰掛ける。
薔薇水晶が無言で蒼星石の頭を撫でた。彼女なりに労っているのだろう。
ありがとう、と蒼星石が微笑むと、控え室の扉が開き───

「皆!次のツアーの予定が決まったかしらー!!」

何時の間にか居なくなっていた金糸雀が、資料の束を持ってやってきた。
さあ、また忙しくなりそうだ……


     end.


最終更新:2006年04月06日 23:36