Story ID:zy0PffDLO 氏(4th take)
「うーん…」
ひたすら弦を弾く。
「なーんかぁ…ちがうのよねぇ…」
このメロディラインは自分でも納得はいくのだが、なかなかそれが“自分の思い描く音”ではない。
頭の中の思い描いている音はまるで出なくて、とうとうスランプ到来かどうしようかと考えていたその時
「曲の調子はどう?水銀燈」
真紅がやってきた。
「ああ……サイッッアクよぉ」
「やっぱり」
「な、なによぉ」
「メロディがその思い通りにいかないんでしょう?」
「なんで……わかったのよ」
「顔に書いてあるもの」
真紅はにや、と口角を上げる。
「………そぉ」
「顔に出やすいのね」
「………(#^ω^)」
ともかく、何としてでも“思い描く音”を探し出さなければ。
水銀燈は再び作業に向かう。楽譜に音を書いては消し、書いては消しの作業を幾度か繰り返した。やはり音がなかなか決まらない。
ちなみに真紅のGtパートは既に出来上がっている。水銀燈が悩んでいるのは彼女自身のGtパートだ。Voパート一つとGtパート二つを合わせるのはなかなか水銀燈にとっては困難である。
しかし彼女はひらめいた
「真紅ぅ、貴方のGtパートをMDに録音してもらいたいんだけどぉ」
「いいけど…いきなり貴方がそんな……何故?」
「私独りでは真紅のパートと自分のパートを同時進行なんてできないのよぉ。だから貴方の力を貸してほしいの。録音だけでいいのよぉ、お願い」
真紅は少し考えたあと、「これもバンド活動の為よ。もちろん協力させてもらうわ」と言ってにっこり笑った。
(真紅ったらやけに素直ねぇ…どうしたのかしら)
水銀燈も笑った。
翌朝、真紅はMDを水銀燈に渡した。
「はい、録音したわよ」
「早いわね、ありがと。なんとか頑張るわぁ」
「水銀燈……あまり無理しては駄目よ」
「ヘーキよぉ!今日帰ったら早速調整するわ」
「頑張るのね」
真紅は内心水銀燈を尊敬していた。いつも彼女は自分にお願いなんかしないのに、バンド活動のために自分に録音を頼んでくれた。
私はまだ必要とされている存在なのか、と妙な安心感。
やはり彼女がそれほどまでにバンド活動を大切に思ってくれているんだと思うと、胸が熱くなった。
(私も頑張らないとね)
次の日、水銀燈は学校を休んだ。
「すいぎんとう…お休みなの…」
「どうしたのかしらー?」
真紅はこっそり水銀燈に電話をかけてみるが……出ない。直感だが、休む理由がすぐにわかってしまった。
(ひょっとしたらあの娘……)
真紅は静かに席を立つ。
「……私、帰るわ」
鞄をとり、教科書を鞄に突っ込みながら皆に告げた。
「うゆ!?どうしたのしんくー」
「真紅?君、一体…」
「購買部にジュース買いについてきてくれるんじゃなかっ
「翠星石、ごめんなさい。行けそうにないみたいなのだわ。じゃあ」
「ちょ、真紅ぅ!!」
走りながら真紅は腕時計を見た。今はまだ一時間目で、帰るには余りにも早すぎる。
翠星石に申し訳ないとか、勝手に学校を早退して先生にバレたらどうなるのだろうとか、色々考えたがやめた。
(今の私にできることは、一秒でも早くあの娘のもとへ着くことね)
真紅は走った。
他のことは、全てが終わってから考えよう。
ひとり居間で、真紅のGtパートが入ったMDをかけながら何度もギターを掻き鳴らす。
━━━…思い通りにいかない。
「なんでできないのよぉ……」
水銀燈は意外と几帳面な性格で、こういった問題には真剣に取り組む━━特に“音楽に関してのズレ”には相当厳しいようだ。
「あ"~~もう嫌……」
完璧を求めたいんだ。
完璧じゃないと駄目なんだ。
ピーンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「…こんな時に……ただでさえイライラしてるのにぃ」
受信料なんか払わないんだから、と付け足して荒々しくドアを開けた。
しかしドアの前に居る人物を見て、水銀燈は驚きに目を見開く。
「ごきげんよう、水銀燈」
真紅がいた。
「真紅……どうして此処に…」
「水銀燈、その目の下のクマはなぁに?綺麗なお顔が台無しよ」
真紅はそう言いながら「お邪魔するわよ」と玄関をあがっていく。
「どうせろくに寝ずにギターしてたんでしょう」
「ち、ちがうわよぉ」
「その指のタコは何かしら?」
真紅は水銀燈の手をとる。水銀燈の手にはタコができていて、おまけにピックの跡までついていた。余程頑張っていたんだろう。
一方その水銀燈は少し頬を膨らませている。
「んもぅ…紅茶いれてくるから」
「アイスでお願い」
「アイスとか珍し………」
水銀燈は気付いた。
真紅の頬は微かに色づいていて、少し呼吸が乱れている。まさか、彼女は自分のために走ってきた?まさか。
(貴方ったら本当に……おばかさぁん…)
「…アイスね、わかったわぁ」
「あら?やけに素直じゃない」
「お黙りなさぁい」
「あらあら怖いこと」
こんな憎まれ口を叩いているのに、二人は何故か笑顔。喧嘩するほど仲が(・∀・)イイ!とはまさにこのことだろう。
水銀燈のいれてくれた紅茶(冷)を飲み終わり、一段落ついたところでギターにとりかかる。
「なぁんか…この音じゃ駄目なのよねぇ」
「これで十分じゃないの?」
「駄目!駄目なのよぉ!」
「はいはいしょうがないわね、付き合うわ」
「…ありがと」
ギターを手にとり、再び水銀燈はそれを弾く(正確には掻き鳴らす)
真紅は「付き合う」といってもギターは学校に置いてきてしまったし、することも特になかったので、その様子をずっと見ていた。
強いて言えば暇。
水銀燈が手を動かす度に、銀色の髪が揺れる。
「う~ん……何か違うのよぉ…」
彼女はさっきからずっとそんな独り言を呟いている。呟いて首を傾げては、またギターに向かう。
真紅は頬杖をつきながらその様子を見る。付き合うわと言ったものの、やっぱり暇過ぎる。
「♪Please don't say yet...」
暇を持て余し、軽くその歌を口ずさんだ瞬間
「!!!」
水銀燈が突然顔をあげた。
「真紅…もう一度お願い!!」
「ど、どうしたのよ!?」
「わかるの!あの音がわかるかもしれないのよぉ!!」
水銀燈は大変興奮した様子で叫んだ。真紅はそんな水銀燈に焦りつつも、こほん、と咳払いをして歌い始めた。
「♪Please don't say yet…」
「あ!わかったわぁぁ!!」
水銀燈の紅い瞳が輝く。
「私としたことが今まで忘れてたわぁ!ボーカルの音が無かったから閃けなかったのよぉ…そりゃあ出来るわけなかったわよねぇ!」
自分で勝手に納得し、水銀燈から真紅に興奮が伝わってくる。
「真紅、もう今日はとことんやるわよぉ!!」
「…私の喉を潰すつもり?」
笑いながら真紅は言った。
何度もギターを弾いて、何度も歌った。
水銀燈の“思い描く音”を探しながら。
そしてその瞬間はやって来た
「♪The word like a cantrip……!」
「!!」
二人で顔を見合わせた。
「……真紅、もう一回今の」
水銀燈はギターを構える。真紅は、また咳払い。
「……♪The word like a cantrip……」
「………!」
「………?」
「………っ!!」
水銀燈は何故か口を抑えて首を上下に振る━━━OKのサインだ。
「………この音、ね?」
「そうよ…そう、この音よぉ!!やっと…やっと…!」
水銀燈の瞳は潤み、真紅の青い瞳をとらえる。
「ずっと思い描いてて…でもずっと表現できなく…って……」
「水銀燈、泣くのは早いわ」
「え?」
「確かにズレが今直ったわよね。でも、またズレが見つかったの」
真剣な眼差しで真紅は語る。真紅の言うには、一つのズレが更に大きなズレを呼び、それを直さなければ最高の曲は作られないとのことだ。
「確かに…まだズレてるわよねぇ」
「でも今の私達ならすぐに直せそうよ。頑張りましょ」
それから何時間経っただろうか。
メロディラインのズレは完璧に治すことができた。真紅の後ろで水銀燈はぐったりしている。
しかし真紅にはまだ気になる事があった。
「歌詞」
「え?」
「このメロディにこの歌詞は合わないのよ」
「今度は詞がズレてるのねぇ」
真紅は歌詞作りに取り組んだ。一方水銀燈は後ろで“思い描いていたのが叶ったメロディ”を気に入ったのか、ずっと奏でている。
「あれぇ?英詞じゃないのぉ?」
後ろから水銀燈が声をかけてきた。おそらく水銀燈の位置から見えたのだろう。
「この歌は日本語の方が合ってるのだわ、英詞じゃ伝えにくいし」
「作詞って大変よねぇ……」
日本語の歌詞を書くのはあまり無いことなのに、メロディに合わせて面白いように言葉が溢れてきた。真紅はただひたすらに文字を繋いでいった。
気がつけばもう日は暮れていて、月が二人の体を柔らかく照らす。
一人は作詞を終わり、机に突っ伏して背中を小さく上下させている。手には鉛筆が握られたまま。
もう一人はギターを抱えたまま上を向いて、足を組んで寝息を立てている。
やり遂げる事のできた喜び━━それは共に苦労した二人にしかわからない達成感だった。
「う………ん……?」
日の光が眩しい。
水銀燈の部屋?横たわりながら腕時計を見ると、朝の7:30ジャスト。
何か暖かい重みを感じて、見ると毛布がかけられている。一体誰が?
なんとなく後ろを見ると、水銀燈がギターを抱えてゆっくりと寝息をたてていた。
というか首が痛い。あのまま自分も寝てしまったのだろうか?
そう考えていると、何人かの足音が近づいてくるのがわかって慌てて目を閉じた。
「うゆー…真紅と水銀燈、まだ起きないのー…」
「きっと疲れてるんだよ、寝かしてあげようよ」
「メグが部屋に入れてくれて良かったですぅ」
「あ、今真紅の眉毛がちょっと動いたのかしら!」
「真紅……銀ちゃん……乙…」
バンドのメンバー達の声。心配してくれていたのかと、ちょっと顔がにやけそうになった。なんで居るんだとは思ったけれど。
しかし起きるのも面倒臭いので狸寝入りして過ごす。
誰かが私と水銀燈の頭を優しく撫でてくれた。
「お疲れさま、真紅ちゃん、水銀燈。ゆっくり休んでね」
この声、確か水銀燈と一緒に暮らしてるあの……ああ、眠い。確か今日は休日、今は休む事だけ考えよう。
そうだ、水銀燈
起きたら私の書いた詞を見て頂戴
最後までちゃんと書けたのよ?
始めは英詞だったけど、今は日本語詞で
始めはラブソングだったのが、今は友情ソングなのだわ
それも━━━ロックをする女の子達を描いた友情ソングよ
end
最終更新:2006年04月06日 23:37