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Story  ID:gzJJR1LP0 氏(5th take)
翠星石のドラムソロが疾走している。
パワフルに、そして複雑に─音階を奏でるようなその音色を背にして、オーディエンスへ向け真紅が叫ぶ。

「貴方達!もう9時を3分も回ってしまったわ…夜は眠りの時間よ。
楽しい時間はこれでお終い、あとは夢で私達と会いましょう!」

ドラムソロに蒼星石のベースが乗り、続いて水銀燈のギター、薔薇水晶のキーボード…徐々に、曲を織り成して行く。

「私達からの感謝を込めて、貴方達にこの曲を贈るわ!
私達のライヴに来てくれてありがとう!また来てもいいのだわ!」

アンコールに応える、最後の1曲が始まった。


     -After the [[WAR]]~喜びと、安らぎと~-


「お疲れ様かしらー!」

楽屋へと引き上げてきたメンバーを向かえたのは、両手いっぱいにスポーツドリンクを抱えた金糸雀であった。
ライヴでの消耗は物凄く、特に水分は500mlのボトルをステージに持ち込んでいても決して足りるものではない。
それぞれ1本づつ受け取り、頬に当てて涼む者、ボトルを早速空けて呷る者─様々である。
熱気とプレイにより汗だくの彼女ら。アンダーシャツはもとより下着までびっしょりであり、一刻も早く着替えたい。
幸い今日のライヴハウスは楽屋にシャワーが備え付けてあり、水分補給もそこそこにメンバーは次々と汗を流すのだった。

「あらぁ蒼星石ぃ、ちょっと胸大きくなったんじゃなぁい?」
「そういう水銀燈だってそうじゃないか。これ以上大きくしてどうするのさ」
「きぃー!そのでっかい胸を少し分けるですよ!!」
「………何?薔薇水晶」
「…………私達、小さくても…いいもん」
「達ってなによ達って…」
「ちょっとぉ、雛苺…触らないでよぉ」
「水銀燈のお胸、おっきいのー!」
「ちょっ…やめなさいぃ…」

シャワー室では、こんなファンが聴いたら卒倒ものの会話すら交されていた。
それをBGMに金糸雀は、「ふふふふ、今日の売上も絶好調かしらー」などとほくそ笑む。
ライヴを行う度にファンの数は増え、最早中程度以上のライヴハウスじゃなければ入りきらない程であった。
またグッズもほぼ毎回完売であり、メンバーそれぞれのソロ写真を使ったTシャツ(2500円)などは開場前に売り切れてしまう始末。
場所代他諸々の経費を引いても、充分過ぎるほどの黒字だ。
それでも7人で割ったならば取り分はかなり減るのだが、彼女達は儲けよりもライヴでの半ば麻薬じみた興奮と、そして何より音楽そのものを楽しんでいる為それほど気にはしていない。
極端な話、経費さえペイできれば問題ないとさえ考えていた。

「まったくぅ、ひどい目にあったわぁ…」
「えへへ、水銀燈のお胸おっきくて柔らかいのー」
「ふぅ、さっぱりした…ライヴは楽しいけど、汗でべったりになるのがなぁ」
「金糸雀はまた金勘定ですか。まったく卑しいですねえ」
「う、うるさいのかしら!これも立派なマネージャーの仕事、経費やらなにやらを計上してるのは誰だと思っているのかしら!?」
「そうね。これも大事な仕事だわ」
「………どうだった?赤字?」

シャワールームから6人が戻る。
コスチュームとさほど変わらない派手さの私服に着替え、再びスポーツドリンクを手にスツールへ腰掛けた。

「ばっちり黒字かしら。次はもうちょっと大きい会場を借りられるかしらー」

にやり、と笑って金糸雀はメンバーを見渡した。
ライヴの盛況具合から予測はできていたが、こうも黒字続きだとそら恐ろしくすらある。

「今日も入れない人が出たようだし…一体、どこまで会場を大きくすればいいのかしらね」

ふー、と息をつく真紅。
ある意味でこれは贅沢な悩みなのだが、会場の規模が大きくなるほど確保が難しくなる。
それによるライヴ回数の減少が真紅は嫌だった。

「かと言って、これ以上回数増やすのも難しいよね」
「そうです。曲作る暇も無くなっちまうですよ」

そんな会話を交していると、控え室のドアがノックされた。

「はいはーいかしらー」

ぽてぱたと金糸雀がドアへと小走りに向かい、開ける。
二言三言言葉を交してから「ちょっと待つかしら」と振り返り…

「蒼星石、水銀燈。二人に渡すものがあるって言ってるかしら」
「え、僕達?」
「あらあらあらぁ。差し入れぇ?」

なんだろう、と顔を見合わせる二人。
残りの四人はやや不機嫌そうだ。「何故この二人だけ」とでも言いたそうな風情。
そんな事はお構いなしに二人は待ち人─といってもすぐ傍なのだが─の元へと向かった。

楽屋を出てすぐ、入口の脇に女性…年の頃は二人とさほど変わらないであろう彼女達が立っていた。
どうやら待ち人はこの二人らしい。
一人は蒼星石に良く似た髪形で、もう一人は水銀燈に良く似た髪形をしている。
誰のファンなのか、知っている人が見れば一目だろう。

「えっと…僕たちに用事、っていうのは君たちかい?」
「は、はいっ!今日のライヴ、とっても良かったですっ!」

蒼星石の問いに、ショートカットの女性が答える。
背は蒼星石よりやや低め。
体型は──敢えて述べるのはやめておく事としよう。
問いに答え、視線が合った瞬間に彼女は俯いてしまった。

「あらぁ、ありがとぉ。貴方達オーディエンスが居てくれるからライヴが出来るのよぉ」
「そ、そんな…勿体無いお言葉です……」

今度はロングヘアの女性だ。
こちらは常に俯き加減で、上目遣い。
どうやらまるで正反対のようだ。友人同士だろうか。
見立てどおり、どうやら二人は蒼星石と水銀燈のファンらしい。

「それでぇ…渡すものって、何かしらぁ?カミソリレターだけは勘弁よぉ」

うふふふふ、と悪戯っぽく笑う水銀燈。
その言葉にファンだという二人はがばっと顔を上げて、喰らいつかんとする勢いで。

「そ、そんな事ないですっ!そんな事する奴が居るなんて信じられませんよ!」
「あの…そんな事、あったんですか…?」
「じょ、冗談冗談。ないよ、安心して。もう!水銀燈がそんな事言うから本気にしちゃったじゃないか!」

本気で信じてしまった二人に、蒼星石が慌ててフォローをする。
彼女達は純でまっすぐなのだろう。二人と一緒に居るという事実に正常な判断ができない程舞い上がっている様子だった。

「ごめんねぇ。ちょぉっと意地悪したかっただけぇ…」

妖しい笑みを浮かべる水銀燈。
ロングヘアの女性はそれを見て耳まで赤く染めていた。
手提げ袋を下げたまま、もじもじと落ち着かない。

「え、ええと…これ、受け取ってください!」

唐突に、ショートカットの女性が蒼星石へ包みを差し出した。30cm立方のそれは、見た目よりもはるかに軽い様子である。
受け取った蒼星石は「ありがとう、見てもいい?」と尋ね、女性はこくりと頷く。
早速開いた包みからは──

「うわぁ、帽子だ」

黒地に青いラインの入ったシルクハット様の帽子であった。
早速被ってみてもいい?と言うが早いか被る蒼星石。
青を基調とした服装と相まって、良く映えている。

「あらぁ、いいわねぇ…よく似合ってるじゃなぁい?」
「えへへ、そうかな…ありがとう、大切にするよ!」

にっこり笑顔でショートカットの女性の手を取り、ぶんぶんと少々乱暴な握手。
憧れている相手に喜んで貰えた事で緊張の糸が切れてしまったのか、されるがままだ。

「あ、あの…私も、これ…」

と、そんな二人を他所にこちらは紙袋を水銀燈に差し出している。
良く見るとそれは包装用の袋であり、手提げ袋の中身はこれだった事は容易に察することが出来た。
当初は少々警戒していたが、蒼星石に渡された物を見たことで不安が消え、水銀燈は素直に袋を受け取った。
やはり「開けてもいぃ?」と尋ね、袋を開くと、こちらはヘッドドレスであった。

「あらぁ…」

黒を基調とした布にフリルが縫い付けられ、また薔薇の飾りが中央についている。
水銀燈の舞台衣装は黒が多い為、それに合わせて作られたのだろう。

「これ、貴女の手作りぃ?」
「…そ、そうです…いかがですか?」
「とっても素敵…今度のライヴから、使わせてもらうわねぇ」

女性の頬に手を添えて微笑む水銀燈。渡せたことで安心したのか、あるいは水銀燈に触れられたことで感極まってしまったのか、へたり込んでしまった。
あらあらぁ、大丈夫ぅ?と声を掛けるが、放心したまま動かない。異変に気付いた蒼星石もしゃがみ込んで様子を見ている。
二人はやはり友人同士らしく、「ああ…まただ…この子、緊張しすぎるとこうなっちゃうんです」と肩を貸す形で立たせながら水銀燈と蒼星石に説明した。

「この子の事もあるんで、これで失礼しますね…またライヴ見に来ます!」
「うん、ありがとう!帽子大切にするよ!」
「その子にお礼言っておいてねぇ?次のライヴで必ず使うからぁ」

ショートカットの女性はぺこりと一礼すると、半ば引きずるような形で歩いて行った。
ドリンクの差し入れは珍しくないが、衣裳の差し入れは初めてである。
蒼星石と水銀燈は、顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。ここまでしてくれるファンが居るというのは嬉しい事だ。

「水銀燈のそれ、きっと良く似合うよ」
「貴女のもねぇ?」
「次のライヴが楽しみだね」
「そうねぇ…ふふっ、これにあわせて普段着をコーディネイトするのもいいかもぉ」
「あ、そのアイディアもらった!」
「あらぁ、貴女はそのままでも良く似合うじゃない?」
「そ、そうかな?」
「そうよぉ」

ライヴとはまた違ったハイテンションのまま、楽屋へと二人は戻る。

─この後、残りの四人からこのプレゼントを思い切り羨ましがられ、打ち上げの費用は二人が持つ事になったとか。


最終更新:2006年04月06日 23:38