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Story  ID:kR8g9urv0 氏(8th take)
バンドにおけるポジションは不可変な物。
サポートアクトという形での補充は可能だが、本来の音を出すにはオリジナルメンバーである事が第一条件だ。
しかし、たまにはこういう事もあるようで───

     -Metamorphose~気分転換~-

「ポジションを変える…ですって?」

翠星石の提案に対し、真紅は眉根を寄せて返答した。
他のメンバーもその提案の意味を掴みきれず、視線は翠星石へと集まっている。

レコーディングやインタビュー、そして練習にライヴ……多忙な彼女達。
そんな日々の中、今日は数少ない完全なOFFであった。
彼女達は例えOFFであってもメンバー全員が集まる事は珍しくなく、今日も行きつけの喫茶店で気だるくアンニュイな午後の一時を楽しんでいた。
そんな中での出来事である。

「そうです。…と言っても、ずーっと変える訳じゃないですよ」

香りを楽しむようにティカップを手にしている翠星石。
カモミールティの香りには身体をリラックスさせる効果があるというが、彼女の場合はそのような事など考えず、単に好みの香りだからという理由でカモミールティを注文する事が多い。

「………どういう事か、解らない。説明して…」

表情を変えず、淡々と薔薇水晶が問う。
翠星石曰く、「ただ他の楽器も触ってみたいだけ」という事らしかった。
しかしそれは誰しもが思っていた事であり──好奇心が旺盛なのも彼女達の特徴だ──せっかくなのでその提案に乗ってみよう、という事になった。

「私はぁ…ヴォーカルも時々やるしぃ…そうねぇ、ベースをどこまで奏でられるかをやってみたいわぁ」
「じゃあ僕はドラムスかな」
「やーなのー!叩くのはヒナがやりたいのー!」
「そう…じゃあ雛苺に譲るよ」
「やったのー!蒼星石大好き!」
「貴女達、ちょっと騒ぎすぎよ」
「………私…歌ってみたい…」
「翠星石はギターなんぞをやってみたいですね」
「ちょっとぉ、私のギター壊しちゃやぁよ?」
「解ってるですよ。ちゃんと自前のギターを用意するです。第一水銀燈のギターはネックが太くて持てんですよ」
「ならいいわぁ」
「じゃあ僕はキーボ…」
「そうね…じゃあ私はキーボードを」
「あぅ……」
「あら蒼星石。貴女もキーボードをやりたいの?」
「やってみたいけど…でも真紅がやりたいならいいよ」
「そう、悪いわね。じゃあ貴女は自動的に私のポジションかしら」
「え゙」
「それはいいです。蒼星石の歌声聴かせるですよ」
「………賛成」
「悪くはないわねぇ」
「え、いや、その…」
「カナも何かやってみたいかしら!」
「ダメよぉ。金糸雀、触っただけで機材壊れるしぃ」
「そ、そんな事はないかしら!!あれはたまたま…」
「…その割に、一度機材全滅させかけたよね」
「……うぅぅぅううぅぅうぅぅ」

話し合いの末、Vo.薔薇水晶・Vo&Gt.蒼星石・Gt.翠星石・B.水銀燈・Kb.真紅・Dm.雛苺ということになった。

明けて、翌日。
6人は──金糸雀は、反論できずにマネージャーの仕事を普通に行う事となったのだ──練習用のスタジオに集まっていた。
翠星石は蒼星石のギターを借り、ドラムセットを除いたその他の機材はそれぞれで使いまわす事となった。
持ち運ぶ訳には行かないので、ドラムセットのみ備え付けの物を使う事になっている。

「…と言っても。皆、自分のパート以外の譜面覚えてる?」

蒼星石は至極尤もな疑問をそれぞれに投げかけた。
勿論ある程度は把握しているだろうが、「把握している」事と「演奏できる」事は違う。
几帳面な性格の蒼星石は、全パートの譜面を頭に叩き込んでるが、他のメンバーについては解らない。
当然の事であった。

「……私は、いつも聴いてるから歌える…」

ぐっ、とサムズアップする薔薇水晶。
普段から自分たちの曲を聴いている、というのは初耳だった。

「私もベースラインはソロの練習で使ってるから覚えてるわぁ」

簡単にラインを奏でながら水銀燈も応える。
他の三人は「完全に覚えていないまでもある程度の流れで補完することは可能」という事であった。
「どうせ本番じゃなくて遊びですし、気楽にやるですよ」という翠星石の言葉に「それもそうか」と納得し、まずは簡単に慣らす為にそれぞれ自由に奏でる事になった。
曲がりなりにも「音楽で飯を食っている」集団である。勝手が違ってもどうにかなるであろう、とその時は全員が思っていた。

……が。

「翠星石、その持ち方じゃ弾きにくくない?ほら、僕と同じように─」
「う、煩いです!翠星石はこの持ち方で行くったら行くのです!」
「雛苺ぉ、バスに足が届かないならスツール下げたらぁ?ほぉんと、お馬鹿さぁん」
「うー、うー……でも下げると届かないのー…」
「………真紅…本当に、ピアノ習ってたの……?」
「し、仕方ないじゃない!ピアノとは勝手が違うのだわ!」

現実はそう上手くは行かないもの。
蒼星石と水銀燈は元のポジションのせいか少しの練習である程度の形にする事は可能であった。また薔薇水晶も歌をそつなくこなしている。
だが残りの3名はあまりにあまりであった。
サイズの足りていない雛苺、そもそもの基礎ができていない翠星石、ピアノを習っていたはずが複雑なキーワークをこなせない真紅。
大材小用、驥服塩車…そんな言葉があるが、彼女達の場合はそれ以前の問題である。

「キィー!こんな事やってられんです!一番初めに言い出したのはどこのどいつですか!!」
「…言い出したのは君じゃないか翠星石……」

癇癪を起こす翠星石と、溜息をついて宥める蒼星石。
結局短気の翠星石が真っ先に投げ出してしまい、この試みは失敗に終わったのであった。


─その後、ひっそりとキーボードを練習する真紅や牛乳を大量に飲む雛苺、ギターの教本を人知れず購入する翠星石の姿が目撃されたが、誰もそれに突っ込むことはしなかったとか。


最終更新:2006年04月06日 23:39