「蒼星石……ちょっと話があるらいふぅ」
「……それはもう流行らないよ……で、話ってなんだい?」
いつもの放課後の部室、ドラムのセットをする中、翠星石は神妙な面持ちで蒼星石を見る
まあ翠星石が真面目な顔の時はトラブルの前兆……
大事になる前に僕が止めないと……
「実は翠星石は今日……チョコを持ってきたんです……けど」
そこまで言うと翠星石はセットの手を止め、顔を赤らめ俯いてしまった
ああ……そういえば今日はバレンタインか……
「ふんふん……だから今日はいつもより凄く早起きしたんだね」
「…………です」
翠星石はますます顔を赤らめてうずくまる
まあ……誰に渡すかは……ね
「一応聞くけど……誰に渡すんだい?」
「ままままぁ!ぎぎぎ義理チョコを一つだけなんですけど!……ジュンに……」
「ふふ……そうだね、ジュン君も喜ぶと思うよ」
「ぅぅ……ま、まあ本題に移るです!」
……あれ?
これが本題じゃないの?
「実は今回のチョコはロックの魂を吹き込んだんです……」
………え?
何を言ってるのか分からない、といった顔の蒼星石をよそに、翠星石は話を続ける
「ロックの魂に従ってですね……翠星石のチョコは甘さに反抗してみたんですぅ」
………
「本来の甘さとのギャップに生まれる愛……実にロックですぅ……」
恍惚の翠星石と困惑の蒼星石
……ちょっとだけ嫌な予感が漂ってきた
「……ギャップ?」
蒼星石は姉の言動に戸惑いながらも、とりあえず話を掘り下げる
「そう、ギャップ……その秘密はこれですぅ!!」
翠星石はそう声を張り上げ、制服のポケットから一つの瓶を取り出した
「……!こ、これは…」
「ふ……ご存知、暴君ハバネロタバスコですぅ」
「まさか……君は……」
よく考えてみたら彼女はスコーン以外の料理はからっきし、チョコなんかもってのほかだった
「まあまあ蒼星石……翠星石だってチョコにハバネロはあんまり合わない事くらいわかるですぅ……そこでですね」
嫌な予感が確信に変わる
「試作品を味見してもらうことにしたですぅ」
「……誰に?」
ハバネロチョコなんて食べさせられたら……
考えるだけで僕の背中に冷や汗が走る
「安心するですぅ、大事な妹をそんな危険な目にあわせる訳ないですぅ」
怯える蒼星石に向かってニコニコと微笑む翠星石
………
「そこでですね、この暴君チョコをチビ苺と、暴君ピルクルを水銀燈のやつにですね……」
「ま、待った!!」
蒼星石は鞄から危険物を取り出す翠星石を必死で止める
水銀燈はおろか、雛苺にハバネロなんて食べさせたら何が起きるか分からない
中辛のカレーで発狂した雛苺の事だ、デス声で翠星石に殴りかかる可能性さえある
「なんですか?蒼星石」
「僕は……僕は止めた方がいいと……」
「大丈夫ですぅ、蒼星石は黙ってさえいてくれればいいですから」
流石に今回は洒落にならない
語尾革命の時は実害は無かったから放っといたけど、今回は雛苺の命がかかっている
「とにかく!僕は反対だよ、いくらなんでもメンバーを犠牲にするのは……」
「ふ……ふふふふふふ」
……?
何だろう?
姉を説得しようとする蒼星石を前に、翠星石は不適な笑みを浮かべる
「さすが私の自慢の妹、メンバーを第一に考えるその姿勢、翠星石は感動したです」
「じゃあ翠星石……」
「だが……ですぅ」
翠星石は完全にドラムのセットを止め、ポケットから取り出した携帯を片手に、蒼星石に近づいた
「蒼星石……これを見るです」
……何だろう?
蒼星石は出された携帯の画面をゆっくりと覗き込んだ
「………!!!」
14:【僕っ娘】2月15日までに1000まで行ったら妹のはだけたパジャマ姿うp【妹】
「翠星石……いつの間に……」
……いや、落ち着くんだ
僕は朝起きた時しっかりパジャマを着ていたし、ここ最近写真を撮られたことは無い
つまり……これは単なる脅し……
「翠星石……僕はこんな手には………」
「賢い蒼星石なら……翠星石がただチョコを作るためだけに早起きした……なんて考えてないですよね」
翠星石は片手で蒼星石の手を掴みながら、携帯のデータフォルダを開ける
「…そ…そんな……」
データフォルダの中にははだけたパジャマ姿の自分と、内緒で購入したくんくんのパンツがありありと写されていた
「賢い蒼星石なら……どうするですか?」
どうするもこうするもない
もうスレは983まで加速している
(……ごめん…みんな…)
あろうことか自分を人質に捕られた蒼星石はゆっくりと頷く事しか出来なかった
「あ―!―翠星石と蒼星石――!今日は早いの~」
「あらぁ、ホント珍しいわねぇ~」
不幸なやり取りが終わった直後、ホームルームを終えた不幸な二人が部室へやって来た
「チビ苺、今日はバレンタインですから翠星石がおいしいチョコをくれてやるですぅ」
「もちろん水銀燈にもバレンタインピルクルがあるです、喜んで受け取るですぅ」
………
「珍しいの~!翠星石がプレゼントをくれるなんて珍しいの~!」
「フフ……そうねぇ……折角だから受け取ってあげるわぁ」
はしゃぐ雛苺に喜ぶ水銀燈
――黙る蒼星石
「ささ、早く食べるですぅ」
翠星石に促されるままチョコを頬張る雛苺
ピルクルを一気飲みする水銀燈
――祈る蒼星石
「う……う……うにゅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
「………ゲホッ……翠星……石…グッ……」
……こうなることは分かっていた
雛苺と水銀燈はそのまま床にパタリと倒れ込んでしまった
「……どうするの、翠星石」
「……おかしいですね、こんなハズでは」
倒れた二人に首を傾げる翠星石
一気に静まり返った部室の空気を壊したのはドアの開く音だった
「さぁ、みんな今日も頑張って……ひ、雛苺!!」
「……真紅」
ホームルームを終え、部室に来た真紅は、血相を変えて倒れた雛苺に駆け寄る
「あぁ……どうしたの雛苺」
「綺麗な顔してるだろ……死んでるんだぜ、それ……ですぅ」
「そ、そんな……?…こ……これは!」
真紅は倒れた雛苺の指先、チョコで書かれたダイイングメッセージを見つけた
――はんにんは、すい
「すい……すい……水銀燈…ッ……よくも雛苺を…」
湧き上がる復讐の炎に駆られる真紅、なぜ翠星石の可能性は無いのだろうか
「蒼星石!水銀燈はドコ!?私の108式ピックが今こそ!」
まさに鬼の形相、あまりの迫力に蒼星石は言葉を失い、静かに倒れた水銀燈に指を指すことしか出来なかった
「水銀燈……よくも雛苺を………し、死んでる」
愕然、といった表情の真紅
犯人は水銀燈じゃない……だとしたら、誰
謎に包まれる部室、真紅は静かに倒れた水銀燈のうにゅーに手を伸ばした
「ッ……パットが無い……けしからん事なのだわ……」
……何をしているのだろうか
「翠星石!!犯人は見なかったの!?」
真紅は立ち上がりざま、今度は翠星石に詰め寄る
「さっき金糸雀が向こうに走っていったです」
「……ッ…あの…卵おでこ……」
真紅はそこまで言うと風のように走り、部室を後にした
「……蒼星石…」
「……なに…」
あまりの惨劇に力無く顔を向ける蒼星石
雛苺と水銀燈はおろか、真紅と……金糸雀まで巻き込んでしまった
「このチョコは渡さないことにしたです……」
「……それがいいよ」
残された二人は思い思いに肩を落とし、放課後の部室を後にした
「……翠星石…あの写メ……」
「ああ、アレはカツラを被った翠星石です」
………え?
ニコッと笑う翠星石、夕焼け空に映える彼女はちょっとだけ綺麗に見えた
*
「…ん……ちゃん……銀ちゃん!……」
「…あら…ばらし―……」
あれ?私はどうして床に……?
確か……ピルクルを……翠星石…ッ!!
まだ喉がキリキリする、外は真っ暗で隣には綺麗な顔の雛苺
「あの……今日は……バレンタイン……」
顔を赤らめモジモジする薔薇水晶
一方、水銀燈はとりあえず自分の鞄から安全なピルクルを取り出して喉を休める
「……こ……これ…う………受け取って…!…」
赤い顔を隠すように俯く薔薇水晶、突き出した手の中には綺麗に包装されたチョコが握られていた
「あらぁ……ありがとう、ばらし―」
俯く薔薇水晶の頬を撫で、水銀燈は優しく微笑みかける
「…これは……カカオの栽培から…初めて…………カカオ99.9%の……で…でも……わ…私…の……愛情は……100……%……で………」
「ふふ……そうねぇ~じゃあ一緒に食べましょぅ」
「………うん!」
満月の下、二人分に分けたピルクルと二人分に分けたチョコ
そして――辺りには響き渡る悲鳴
「カナは知らないかしら―――!!!」
fin
最終更新:2007年02月15日 01:13