Story  ID:wdmjKcD20 氏(128th take)
プレートには「ローゼンメイデン様控室」と書いてある。書いてある。書いてある。
三回確認したから間違いなくこの部屋は「ローゼンメイデン様控室」なのだろう。
息を大きく吸い、ドアに手をかけ、押し開ける。

「朝!それは始まり!朝!それは太陽の祝福!朝!それは金糸雀の象徴!
 世界へ羽ばたくローゼンメイデンの親鳥こと金糸雀、ただいま参上かしらー!!」
「金糸雀、お黙りなさい。せっかくの紅茶が不味くなるのだわ」
「よく来たな帰れです」
「今日も金糸雀は頭悪そうなのよ」

な、な、な、なんちゅー言い草かしら!

「な、な、な、なんちゅー言い草かしら!」
「考えが口に出てるよ、金糸雀」

はっ!慌てるな!策士は慌てない!そう、ドイツ軍人のように!

「今日はライブの差し入れを持ってきたかしら!」
「今日も差し入れ持ってきたなの?」
「誰も食わないって言ってるのに毎回毎回……ちっとは学習したらどうです」

うぬぬ、言わせておけば。
しかし!ジャーマネたるもの、いかに拒絶されようともアーチストを全力でサポートしなければならないかしら!

「まぁまぁそう言わずに。一口だけでも食べた方がいいかしら!」
「そんなクソ甘いもの喰えないわよ。まともな卵焼き作って出直しなさぁい」

水銀燈ったら可哀想。この卵焼きの良さが分からないなんて、人生の九割九部九厘九毛九糸九忽損してるかしら。

「水銀燈ったら可哀想」
「人を哀れむ前に自分の舌を悲しんだら?馬鹿舌さぁん」

また口が勝手に動いてしまったかしら!ポルター!?ポルターガイストなのかしら!?

「ってポルターガイストはどうでもいいかしら!
 この卵焼きに含まれている砂糖蛋白質その他もろもろは多量のエネルギーとなり
 ライブで消耗される体力もばっちりきっかりしっかり補ってくれるのかしら!
 さあ食え!馬のように噛み締めろ!鹿のように!」
「ば金糸雀はたまーに叫びだしやがるですヒソヒソ……」
「しかも大抵卵焼き絡みヒソヒソ……」
「好きなものを馬鹿にされたら怒るのは当然なのよヒソヒソ」
「そんなものかなぁヒソヒソ……」

双子と雛苺がなんか言ってるけどよく聞き取れないかしら。
全く、内緒話は人前でしちゃ駄目って習わなかったのかしら。ぷんぷん。

「……かなりー……頂戴……」

ほぁっ!!

「そう言ってくれるのはばらばらだけかしら!しっかり味わって食べてどうぞプリーズ!」
「ありがとう……」

ああ、ようやくカナの努力が認められたかしら……。

「みっちゃん、天国で見てくれてるかしら……?」
「ちょっと蒼星石、みっちゃんさんはまだ生きているのではないのヒソヒソ?」
「生きてるよ、昨日も八百屋さんで会ったしヒソヒソ……」

黄色い黄色い卵焼き……今日のは特に上手く焼けたかしら。
卵は朝一でスーパーから買ってきた新鮮卵、砂糖は沖縄産サトウキビから抽出した砂糖。
水は深海からくみ上げ塩分を抜き、塩はモンゴルの岩塩。
お出汁は昆布鰹節煮干から取り出した日本伝統の出汁。
その完璧な卵焼きは薄桃色の唇の奥に隠された真珠色の歯に触れ……触れ……。

「さっせないかしらあああぁぁぁ!!」

キャッチ!アアアアアアンド!イイイイイッティンンンンング!!

「はふぁ~……」

し、あ、わ、せ……。

「結局この子は何しに来たのよぉヒソヒソ?」
「放っておきなさい、それよりそろそろ時間なのだわヒソヒソ」
「今日は何演奏するのよヒソヒソ?」
「んなもんライブ中に考えればいいですヒソヒソ」
「ほんとこのバンドって無計画だよねヒソヒソ」
「……私の、卵焼き……くすん」

おいひ~……し、あ、わ、せ……。

「っは!?」

気がつけば
  誰そ彼過ぎて
     誰も居らず 
              金糸雀、心の一句。
……。
…………。
………………。

「ま、またやってしまったかしら……」

でも!カナは!いつか完璧なマネージャー!そう、マネージャーマスターに!
なりたいな!ならなくちゃ!絶対なってやるかしら!!
……………………。
……差し当たって、まずは卵焼きを我慢するところから始めようかしら……。




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最終更新:2007年02月19日 01:13