Story ID:MOZcOUVu0 氏(10th take)
Illust ID:MOZcOUVu0 氏(10th take)
「人形でも人間でも同じ、――――――」
男「そろそろ閉店ですよ」
その好々爺―――と表現するのが最も適切であろう、眼鏡をかけた店員―――は優しく話し掛けてきた。
時計を見れば午後11:00。夏とはいえ、外はすっかり闇に濡れていた。
バンドの練習が終わったのが・・・・・・8:00ごろか。3時間も一体の人形に見惚れていたとは。
蒼「あ。ごめんなさい、ほんとによく出来ているから・・・・・・」
言われて、店員は皺だらけの顔をほころばせた。
店員「嬉しいことを言ってくれますね。頑張って造った甲斐もあるってもんです」
ポツン。
蒼「『頑張って造った』って・・・・・・もしかして?」
ポツポツン。
店員「ええ。私の娘、もとい作品です。ちなみに私はこの店の店長です。店員は私一人ですけどね。
・・・・・・時にお嬢さん」
ポツポツポツン。
蒼「はい?あ、閉店時間でしたっけ。すぐに帰りますね」
ポツン。ポツポツポツン。
店長「傘はお持ちですかな?」
ザー。
疲れているのだろうか。
この頃夜更かしをしているからか。
生まれつき間が抜けていたのかもしれない。
いずれにしろ現状は変わらない。
蒼「ごめんなさい、閉店するのに雨宿りさせてもらって・・・・・・」
まさかスタジオに傘を忘れてくるとは。
店長「いやいや、天気予報の話だと通り雨だそうですし・・・・・・三十分もしないうちに止むでしょう」
そうは言っても迷惑でない訳がないだろう。
蒼「本当にごめんなさい」
あー、恥ずかしい、格好悪い。今鏡を見れば、きっと耳まで真っ赤だろう。
店長「そんなに謝らないで下さい。困ったときは、ってやつです」
言われて少し気が楽になったものの、やはり申し訳ない気持ちが胸に広がる。
蒼「あの!その、何か・・・・・・手伝えることとかありません、か・・・・・・?え、と、雨宿りの、お礼に」
店長は一瞬、言葉が通じなかったかのように動きを止め、すぐに笑顔を顔全体に映した。
店長「そうですねぇ・・・・・・じゃあ、ちょっとこっちに来て下さい」
そう言うと、店員は店の奥―――――どうやら居住区らしい―――――に足を進めた。
首、腕、胴、足―――――埃っぽいその部屋には、体の各部位が垂れ下がっていた。
蒼「ここは・・・・・・?」
店長「作業部屋です。ここは娘たちが生まれる場所だから片付けようとは思ってるんですが・・・・・・」
どうみても散乱している。足の踏み場もぎりぎりあるかないか、といったところである。
お礼、手伝い、散らかった部屋―――――つまり。
蒼「つまり、部屋の片付けを手伝えばいいんですね?」
店員「いえ、片付けはいつでも出来ます」
翠星石もいつもそんなことを言っている気がする。が、彼女の部屋が片付いている所を見たことは一度もない。
蒼「では何をすれば?」
店長「かんそうを聞かせてもらいたいのです」
・・・・・・間奏?ソロのベースでよければ。でも何の曲の間奏?
いや、乾燥?湿度は・・・・・・32%といったところか、かなり乾燥している。
もしかして・・・・・・感想?何の?というか何故僕?ああ、手伝うって言ったからか。
店長「この娘を見てください・・・・・・どう、思います・・・・・・?」
どこかで聞いたことのあるようなないようなフレーズだ。
しかし おもいだすな と そうせいせきの ほんのうが さけんだ!
気を取り直して人形を観察する。
蒼「触ってもいいですか?」
店長「ええ、好きなだけ」
最初に思ったのは
蒼「髪の毛は?」
つるつるぴかぴか。
店長「人形の髪は『ウィッグ』っていって、かつらみたいなものなんです。私は基本的に服を作った後につけてますね」
ほかに思うこと・・・・・・・・・・・・幸せそう、だなぁ・・・・・・・・・・・・
蒼「・・・・・・僕はバンドをやってるんです、ポジションはベースを。全然上達しないけど・・・・・・幸せです。
でも・・・・・・もしも、もしも人形として生まれてたら、音楽の楽しさを知らないまま生きていたら!
・・・・・・・・・・・・僕は、幸せになっていたでしょうか?幸せになれていたでしょうか?」
沈黙。
店長「・・・・・・人形でも人間でも同じ、幸せになるために生まれてくる。と、私は思うんです。
きっと幸せになっちゃいけない人間はいないし、幸せになれない人形もいないと思うんです。
だから多分、今と同じ位苦労して、今と同じ位、幸せになっているはずです」
再び沈黙。
店長「雨、止んだみたいですね」
窓を見る。空も涙を流すのに飽きたらしい。真っ黒に晴れていた。
蒼「雨宿りさせてもらった上に、ちゃんと手伝えなくて・・・・・・本当にすいません!」
あー、やっぱり恥ずかしい、格好悪い。今鏡を見れば、きっと耳まで真っ赤で目も赤いだろう。
店長「だからそんなに謝らないで下さい。もう一度言いますが、困ったときは、ってやつです。
それにちゃんと手伝ってくれたじゃないですか。謝られる理由なんてありません」
・・・・・・恐らく、あると言ったところで『ありません』とだけ返されるのだろう。お礼を言って帰るべきだな、うん。
蒼「じゃあ・・・・・・えと、ありがとうございました!」
店長「はい、どういたしまして。気をつけてお帰り下さい。今後とも、是非当店を御贔屓に」
翠「どうしたでぇすかぁ?そんなにニヤニヤしてぇ?何かイイコトでもあったでぇすかぁ?蒼のだぁんなぁ」
どうして肘で突っつくのだろうか。
蒼「・・・・・・フフ、何でもないよ」
最終更新:2006年05月11日 02:58